――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は微おかん属性。


義昭様といっしょ

 契約社員から正社員になること数日、本当に休みをくれたらしく久々にのんびりと過ごしている。具体的には琥白号の世話や義昭様の護衛という名の遊び相手になったりしている。琥白号と義昭様に癒される日々である。

 ヨシテル様に許可を頂き、義昭様と遠乗りに出た際には琥白号はのびのびと走り、義昭様は流れていく景色や途中の村での人々の営みを見て大変楽しそうだった。

 その様子を見ながら遠乗りに出て正解だったな、などと思いながら手綱をしっかりと握り琥白号に進路を伝える。それなりの距離を走り、太陽も高い位置に来ている。そしてきっちりと整えられた体内時計が昼食の時間だと教えてくれる。そろそろどこか昼食を摂るのに丁度良い日陰を探そう。

 琥白号の走る速さを緩め、周囲を見回すと少し大きな樹があり、その木陰が昼食を取るには良い場所に思えた。

 

「義昭様、あの木陰で昼食にしましょう」

 

「わかりました。……あの、琥白号の御飯もありますか?」

 

「ええ、牧草を用意してあります。義昭様が琥白号に食べさせてみますか?」

 

 琥白号のためにと素敵忍術で持って来ている牧草だが、普段こういうことをあまりしない義昭様には良い体験になるかもしれない。そう考えて提案するとパァッと明るい表情になって嬉しそうな反応が返ってきた。

 

「良いんですか!私はこういうのやったことないから興味があったんです!」

 

「それなら丁度良かったです。では琥白号には義昭様が食事をあげてください。琥白号は意外と量を食べるので驚かないでくださいね」

 

 そんなことを言いながら目的の木陰の傍で琥白号から降り、義昭様を琥白号から降ろす。

 そうして琥白号の為の牧草を素敵忍術で取り出すと義昭様はその量に驚いたようだった。

 

「琥白号は、こんなに食べるんですか?」

 

 ちょっとした山のようになっている牧草に目を丸くしながら、それでも楽しそうに牧草を一掴み持っていた。

 それを見て琥白号は少し鼻を鳴らしながら義昭様の持っている牧草へと意識を向けている。

 

「琥白号はヨシテル様の愛馬ですから、他の馬よりも鍛え抜かれています。それによって食べる量も多いんです。ほら、義昭様が牧草をくれるのを今か今かと待っていますよ」

 

「そうなんですか……琥白号、御飯ですよ」

 

 言いながら義昭様が琥白号の鼻先に牧草を差し出すと、美味しそうにそれを食べ始めた。

 

「わぁ……見てください結城!琥白号が美味しそうに食べてますよ!」

 

 そうしてはしゃいでいる義昭様の姿は歳相応の姿だった。普段は大人しく落ち着きのある振る舞いをしているがやはり子供は子供。こうしている姿の方が見ていて好ましい。

 

「良かったですね、義昭様」

 

「はい!もう少し食べさせてあげても良いですか?」

 

「どうぞ。ただ、義昭様も食事を取らないといけませんから程ほどにお願いしますよ」

 

「わかりました。それじゃ……これだけ、食べさせてあげましょう」

 

 言いながら義昭様はその小さな両手一杯に牧草を持った。牧草の山から見れば僅かな量でしかないが、義昭様が持つととても沢山持っているように見える。まぁ、琥白号としてはそう大した量にはなっていないが。

 それでもそれをゆっくり与えている義昭様は琥白号が食べる姿に大喜びだ。

 

「義昭様、そろそろよろしいですか」

 

「あ、はい!お待たせしました」

 

 手に持っていた牧草を全て食べさせ終えた義昭様が、昼食の準備が完了した木陰の中に入り、座れるようにと用意しておいた茣蓙に腰を降ろした。

 昼食はミツヒデの用意したおにぎりと俺の作ったおかずが入っている重箱である。

 

「なんだか豪勢ですね。このおにぎりは……ミツヒデが作ったものでしょうか。それで此方の重箱は……もしかして結城ですか?」

 

「ええ……ミツヒデ様に頼んでおにぎりを作ってもらったので、他は自分が用意しようと思いまして」

 

 まぁ、本当はミツヒデ様が義昭様の昼食は私に用意させて欲しい!と言ったので任せた結果がおにぎりだけだったのだが。そしてとりあえずミツヒデ様は凹ませておいた。

 育ち盛りの義昭様におにぎりだけ、というのはどういうつもりなのか。こういう場合は栄養に気を使って色々用意するべきではないのか。というか自分で用意するって言ったんだからそれくらい気にしろよ、と軽く叱っておいた。

 その結果、私はなんということを……!とか言いながら部屋の隅で蹲って後悔していたので放って来たが……たぶん、今も蹲っているのだろう。

 ミツヒデ様はヨシテル様と義昭様のことになると行動が極端になるのでこの予想で間違いないはずだ。

 

「そうだったんですね。ありがとうございます、結城」

 

「いえ。戻ったらミツヒデ様にもお礼を言ってあげてください。絶対に喜びますので」

 

 具体的には蹲っているのが元通りになるくらい喜ぶはずだ。

 

「ええ、勿論です。では、そろそろ……いただきます」

 

 そうして食事を取る義昭様を少しだけ眺めて景色へと目を向ける。

 戦乱の世の中ではこうした景色の先には必ず戦火の証となる煙が上がっていたが、今は何処にも上がっていない。ここに来るまでに村で見た人々の姿、今見ている景色、それらはとても穏やかなもので平和そのものだ。

 これはヨシテル様が成した、天下統一によって齎されたものだと思うと感慨深いものがある。

 

「……結城?どうかしましたか?」

 

 そうしている俺をいぶかしんだ義昭様が食事の手を止めて此方を見ていた。

 

「いえ、平和なものだと思いまして。見てください。この景色を」

 

 言った通りに義昭様は目を景色へと向ける。

 

「何処にも戦火の煙は昇っていません。何処からも悲鳴は聞こえません。何処からも剣戟の音は響いてきません」

 

「確かにそうですね。これが姉上と結城が成した、戦乱の世の終結。その結果なんですね……」

 

「ええ、そうで――って、違います違います。ヨシテル様が成した。です。俺じゃないです」

 

 俺はただ松永様へのトドメを邪魔してユウサイ様改めカシン様をボコるのを手伝って、雇われだったとはいえヨシテル様の忍として協力をしただけだ。

 どう考えてもヨシテル様がやったことで俺はちょっとサポートしただけだ。

 

「いえ、違いません。結城がいなければ姉上はきっと道を違えていました。……姉上はあれで心の弱い方なんです。誰かが支えてあげないと簡単に折れてしまうような、それくらい弱いんです」

 

「義昭様がそれに気づいているのに驚きですけど、頑張って強い自分を演じていたヨシテル様がちょっと不憫に思えるんでそれヨシテル様には内緒ですよ?」

 

「はい、それは大丈夫です。姉上は強い方。そういうことにしておきますから」

 

 義昭様がなんだか強かになっている。まったく、どこの捻くれた忍の仕業なんだ。どう考えても俺だ。

 

「とりあえずそれは置いておいて。そうした姉上を傍で支えてきたのはミツヒデや私ではなく結城なのですよ。

 だからこれを成したのは姉上だけではなく、結城もなのです。

 というわけで……そういう事実をちゃんと受け止めてください。じゃないと姉上に言いますよ?

 結城は自身を過小評価しすぎる、って」

 

 なにそれ絶対面倒なことになる。特に最近のヨシテル様は俺に対して遠慮とかなくなってきているし、やめてください。仕方ないので受け止めておくのでやめてください。

 

「もう少し素直に受け止めてほしいのですけど……まぁ、今回はこれくらいにしておきます」

 

 あぁ……本当に強かになってしまった……これは成長と取るべきかどうするべきか。

 これから先、政治の世界へも踏み入れることを考えれば強かなのは悪いことではないが、幼少からこれでは……末恐ろしい方だ、義昭様……!

 

「ごちそうさまでした……さて、結城。片付けましょうか」

 

 気づけば義昭様は食事を終えていた。少しシリアスな雰囲気だったのに何故こんなにブレイクされているのだろうか。義昭様のせいなのか俺のせいなのか。多分俺のせいだ。

 なんてふざけたことを考えながら片づけをする。義昭様も手伝ってくれたおかげですぐに終わった。

 

「わぁ……すごいですね!琥白号は本当にあの牧草の山を食べきってますよ!」

 

 性根は優しく素直ではあるが、ああいうことに関しては強かなのか。

 これが俗に言うピュアブラックとでも言うのだろうか。

 

「まぁ……琥白号は本当に良く食べますからね……義昭様、少し食休みを挟んだら二条御所に戻りましょう。

 あまり遅くなってはヨシテル様が心配しますからね」

 

「はい。ですが、もう少しだけ琥白号と遊んでからでも良いでしょうか。戻ると、その……剣術や勉学で忙しくてこういうこともあまり出来ませんから……」

 

 確かに、今の義昭様は少し忙しい身だ。本来ならばすぐにでも戻って勉学に勤しむべきなのだろう。そんなものは関係ないとばかりに連れ出した俺の言えたことではないが。

 まぁ、義昭様は剣術の稽古や勉学を嫌っているわけではない。必要なことだと理解して進んで行うようにしている。だがそれでも、他の子供たちが楽しそうに遊んでいる姿を遠くから羨ましそうに見ていることもあった。

 だからこそこうして連れ出したわけだが……折角だからもう少し色々体験してもらおうか。

 

 馬櫛を取り出して琥白号に近寄る。そうすると義昭様は何をするのか興味があるように見てくる。

 

「義昭様。折角ですし琥白号の毛づくろいをしてあげましょう。手順に沿ってやると色々と大変なのですが……今回は省略して、鬣や体の毛づくろいだけとしましょう」

 

「私がやっても良いんですか?その、初めてですし琥白号が嫌がるのでは……」

 

「大丈夫ですよ、そう難しいことではありませんから」

 

 言いながら琥白号の鬣へと櫛を通す。鬣が絡まっていると引っかかった場合に琥白号が痛がるので丁寧にゆっくりと。そうして数回繰り返すと目に見えて琥白号の表情が変わり、気持ち良さそうにしている。

 

「なんだか気持ち良さそうにしてますね……」

 

「こうして丁寧に、ゆっくりと。優しく櫛を通すのが基本です。引っかかってしまうと可哀想ですからね」

 

 納得したように数回頷いた義昭様に櫛を渡してそっと背中を押す。そして緊張している義昭様の手を取って一緒に琥白号の毛づくろいを行う。数度櫛を通すと義昭様も感覚を掴んだのか自分で手を動かし、琥白号への毛づくろいを続けている。

 

「気持ち良さそうではありますが、結城のときとはなんだか違いますね」

 

 確かに先ほどとは少し違う。やはりこれは慣れの差ということだろうか。

 櫛はないがそっと琥白号の頭を撫でてやる。これだけでも随分と気持ち良さそうにしている琥白号は本当に可愛い。これはヨシテル様も犬派猫派の争いに馬派として参戦してしまうのも納得の可愛さだ。

 

「……結城」

 

「なんですか、義昭様」

 

 櫛を通しながらその様子を見ていた義昭様に名前を呼ばれて、琥白号を撫でる手を止める。

 

「撫でてください」

 

「はい?」

 

「だから、撫でてください」

 

 義昭様を撫でろ、と。そういうことだろうか。不敬とか言われないか少し不安である。いや、義昭様が言うわけないのだが。とりあえず何もしないというのはダメだと思い義昭様の頭をゆっくりと撫でる。

 ヨシテル様と同じ金糸の髪は柔らかく、サラサラとしていて撫で心地が良い。先日のヨシテル様はそれを堪能する雰囲気ではなかったのであまり意識していなかったが、こうしてみるとやはり姉弟ということだろうか。

 しかし、影になっていて義昭様がどんな表情をしているのかわからないのが怖い。いや、怖くない怖くない。義昭様はとても素直で優しい方。怖いわけがない。

 

「……なるほど、これは落ち着きますし気持ち良いですね……」

 

 どうやらお気に召したらしい。人の頭を撫でるなんてことはヨシテル様が初めてで、今回が二度目だから変に緊張してしまう。

 

「姉上の機嫌が良かったのはこういうことだったんですね」

 

 こういうこと?まさかヨシテル様は俺が頭を撫でたことを義昭様に言ったのか。いや、普通なら言わないはず。あんな弱さを見せていた姿に繋がることを、義昭様に明かすだろうか。いや絶対に明かさない。

 

「姉上は結城に撫でられたことを嬉しそうに話してくれましたよ。それと、傍で支えてくれると言ってくれたとも」

 

 明かさないと思っていたのにヨシテル様は何を暴露しているのだろうか、帰ったらお説教が必要かもしれない。いや、絶対に必要だ。

 義昭様だから大丈夫だがもしこれがミツヒデ様だった場合一体どんな反応をされるか……あの人はヨシテル様と義昭様に関することになると本当に面倒な人になるから残念だ。

 

「結城が相手なら姉上のことも安心して任せられます。これから先も、姉上のことをよろしくお願いします。

 それと、たまにで良いのでこうして私を連れ出して、いろんなことを教えてください。あと、撫でてください」

 

「あ、はい。わかりました。ヨシテル様の忍としてこの先もヨシテル様の力となるように尽力し、支えていくことを誓います。あと、撫でるのと連れ出してあれこれ教えるのは構いませんがそのうち忍術とかになりますよ?」

 

「少し分かってないみたいですけど、今はそれでも良いです。それと忍術は姉上に内緒でお願いしますね」

 

 分かっていない、というのはどういうことか理解出来ないが、忍術を内緒にする。というのはなんとなく分かる。危険なものは教える気はないがそれでもヨシテル様は心配するだろうからだ。

 

「さて……それではそろそろ戻りましょう。今日はとても良い日ですから戻ってからの勉学を頑張れそうです」

 

 義昭様は自身で何か納得して、戻る気になったらしい。まぁ、義昭様が良いのなら別に構わないが……

 とりあえず、次はいつ連れ出すか、そして何処に行くかを考えながら二条御所へと戻ることとしよう。

 それと戻ったらヨシテル様に説教。これ重要。絶対に説教してやる。




義昭様が子供らしく笑っている姿が見たい。そして頭撫でたい。
足利姉弟が大好きです。はい、とても大好きです。
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