やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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「それじゃいこっか」

「うん」

 

 放課後になり、予定通り碧と塾に向かう。

 先輩に会える。実際には一昨日会ったばかりだけど……それでもやっぱり先輩に会えるのは嬉しくて。

 自然と歩くペースが速くなって、いつの間にか碧がわたしのあとについてくる形になっている。

 

「いろは、比企谷先生に早く会いたいのはわかるけど、もう少しゆっくり歩こうよ」

「な、何言ってんの!? わたしはただ、早めについて書類とかいろいろ済ませたいだけだから!」

「あーはいはい、照れてるいろは可愛いぞうっ」

「もうーっ!」

「あははっ」

 

 調子狂うなぁ……。なんでこんなに動揺しちゃうんだろわたし。

 それもこれも先輩が悪いんだ。……さすがにこれは理不尽すぎるよね。というか碧がからかってくるのが悪い。全部碧のせい!

 

「もう知りません。わたしは先に行きます。じゃあね」

「あ、ちょっと待ってよいろは!」

 

 たたたっという足音が聞こえ、碧が横に並ぶ。

 ふんっ、何も見えないし何も聞こえないもん。

 

「怒っちゃった? ごめんてばー」

「…………」

「ねー? いろはさーん」

「…………」

 

 歩きながら両手を合わせて謝罪をする碧をスルー。

 無視無視。碧は少し反省して?

 

「今度、お勧めのケーキ屋で奢るから、ね?」

「……どこの?」

 

 つい返事をしちゃったけど、これは、うん。なんていうか、碧から美味しいケーキ屋さんの情報を得ることで、いつか来る先輩とのデートに利用するためというか。別に、ケーキが好きで反射的に反応してしまったわけじゃないから。

 

「ほら、最近できた駅前の。あそこのモンブランがすっごい美味しくてね。いろはにも食べて欲しいなー。許してくれるなら奢っちゃうんだけどなー」

「……許す」

 

 碧があまりにも必死に謝るので今日のところはこれくらいで許してあげることにした。

 さすがにこれ以上無視し続けるのは可哀想だし? わたしもそこまで鬼じゃないから。

 決してモンブランに釣られたわけじゃないし。

 例えモンブランに釣られたんだとしても、それはわたしが試食しておくことで、本当に美味しければ先輩攻略時に役に立つ可能性があるからで。ほら、先輩って甘いもの好きだし。

 

「いろは、やっさしー! ……ちょろいな」

「でしょ、そうでしょう。最後なにか言った?」

「ううん、なにも。気にしないで」

「そう……?」

 

 ボソッとなにか言われた気がしたんだけど……。気のせいなのかな。

 

「そうそう、疲れてるんだよいろは。まったり向かおう?」

「う、うん……」

 

 碧に肩を掴まれて、強制的に歩くスピードを緩められる。

 にしても、なんでこんなに碧は楽しそうなんだろ……?

 そんな疑問を抱きつつ、わたしたちはゆっくり塾へと向かった。

 

 

   *   *   *

 

 

 序盤歩くペースが早かったおかげか、予定よりも早く塾につくことができた。

 一旦碧と別れ、受付で入会の手続きを済ませる。

 これでわたしも今日から正式にこの塾の一員なわけで。本格的に勉強を頑張って必ず先輩と同じ大学に……!

 

「ねぇ、あなた」

「はいっ?」

 

 心の中で気合を入れていると、後ろから声をかけられる。

 碧と先輩以外、ここには知り合いがいないのでまさか声をかけられるとは思ってなくて、素っ頓狂な返しをしちゃった気がする。

 振り返って声の主を見ると、この前わたしを睨んできたえっと、誰だっけ? ……ああそうそう三崎さん? たぶん、そんな名前だったような気がする。

 ……なんの用だろう? まさか、初日から因縁付けてきて追い返そうとか……? 残念、わたしそういうの慣れっこなんでー、女子高生一人ごとき、軽くあしらっちゃいますよっと。

 こういうの慣れっこってなんか嫌だな……自分で言ってて悲しくなってきちゃったんだけど。

 

 けど、三崎さんはわたしが振り返ってもそれ以降何も言わなくて、わたしの方が我慢できずに口を開く。

 

「えっと……なんですか?」

「……話、あるんだけど」

「それは、どういう……?」

「いいから、ちょっと来て」

「え、えっ……?」

 

 状況が読めずに困惑していると、三崎さんがわたしの腕をとって塾の外にでる。

 いや、待って本当なに……? 次は先輩の授業なんだから早く済ませたいんですけど。

 

「あなた、比企谷先生のこと好きなの?」

 

 おっと。これはまたド直球な質問ですね。

 

 わたしを無理矢理駐輪場まで連れてきた三崎さんは、いきなりドストレートの質問をぶつけてきて。

 

「えっと……好きっていうのは、likeですか? loveですか?」

「そ、そんなの決まってるでしょ! ら、らぶ、のほうよ!」

「そうですねえ……loveですね。間違いなく」

「――っ!? わ、私だって、比企谷先生のこと好きなんだから!」

 

 それはなんとなくというか、初見で大体わかってましたけど……。

 

「で、話はそれだけですか? もうすぐ授業ありますし、もう戻りたいんですけど……」

「ま、まだ終わってないから! いきなり来たあなたなんかに、私、負けないから!」

「はぁ……」

 

 いきなりって……、こっちからすればあなたの方がぽっとでなんですけど……。

 わたしがどれだけ先輩のことを好きなのか。

 一度教えてあげなくちゃならないみたいだ。

 ただ……、こう面と向かって宣戦布告的なことをされるのは不思議と悪い気分はしなくて。

 それはきっと、別に好きでもない男に好かれたりした時に、影でこそこそ言われたりするより全然辛くなくて。

 わたしもこの子みたいに、あの二人に正面から宣戦布告できたら楽だったんだろうな、と思うから。

 

「いいですよ、わたしもあなたに負けるつもりはありません。正々堂々勝負しましょう」

 

 まずはこの子に正面から打ち勝つことにした。




急で申し訳ありませんが、明日はお休みさせていただきます。
短編でいろいろと思い浮かんだのをまとめたいと思いますので。



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