やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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今日は前編みたいな話です


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 日曜日。

 わたしは、ある理由で朝早くから碧と図書館に来ていた。

 

「ねーねー、なんで勉強するのにわざわざ図書館なのよ?」

「しーっ。静かにして。気づかれちゃうから」

 

 そう、今日は何を隠そう先輩と三崎さんが一緒に勉強する日。

 独自ルートから今日ここで先輩たちが勉強会をするのを知って、こっそり着いてきてみたわけで。

 

「気づかれるって誰に? ……あっ……そういうことね」

 

 碧が離れた席に座っている先輩と三崎さんの姿に気づく。

 二人を見たあと、一瞬にやっとした気がしたけど、そこは今回は大目に見ておくとしよう。

 あ、まだニヤニヤしてる。

 えいっと右手で碧の頭に軽いチョップを入れてからちいさな声で話す。

 

「そういうことです。だから静かにお願い」

「はいはい。てかあんた、これストー――」

「ち・が・い・ま・す!」

 

 べ、別に先輩たちがどんな勉強するか気になっただけで。

 それに、先輩が女子高生と二人きりになって何するか心配というか。

 ほ、ほら、最近は教師とかの生徒に対する性的犯罪が増えてるし!

 まぁ先輩にそんな度胸があるとはまったく思えないけど……。

 それでもね、一応ね? 万が一っていうこともあるし。先輩にそんな気がなくても、三崎さんから襲いにかかるってこともあるわけで。

 

「これはね碧。その、あれよあれ」

「どれよ?」

「と、とにかく、これは必要なことなの。別にやましい気持ちがあってやってるわけじゃないから」

「そんな、サングラスにマスク姿の格好で言われてもまったく説得力ないけどね? あと帽子も取って。暑苦しいから」

「はい……」

 

 渋々わたしは、碧に言われたとおりに変装セットを外して、隣の椅子の上に置く。

 せっかく準備したのに……。

 

「とりあえず、あんたもせっかく図書館に来たんだし、勉強しなよ」

「う、うん」

「あとはあたしが見とくから。なんかあったら教えるよ」

「わかった……ちゃんと見ててね」

 

 しばらく見張っていても、二人に何かありそうな気配はなさそうだった。

 まぁ図書館だしそうだよね。

 それからは碧に言われた通り、わたしも自分の勉強に集中することにした。

 わからないところとかは、碧に聞いたり、図書館の本で調べたりとわりと充実した勉強時間で、気づくといつの間にかお昼になっていた。

 

「あ、いろは」

「何?」

「先生たち動くみたいだよ」

 

 碧の言葉で先輩の方を見ると、荷物をまとめ終えて外にでるところだった。

 

「わたしたちも追うよ!」

「え、これどうするの?」

「えーっと、じゃあ碧片付けお願い! わたし先輩追うから。あとでメールして!」

「はぁ……、わかったわよ。いってらっしゃい」

「ありがと碧! 愛してるからっ!」

 

 荷物を碧に任せ、最低限の持ち物だけ持ってわたしは先輩たちのあとを追う。

 歩きながら変装セットを装備しなおして、図書館の外に出たところで二人が何か話してるのが聞こえる。

 

「あ、あの……お昼どうしますか……?」

「んー……、そうだなぁ」

「よければ、近くに私のオススメのお店があるんですけど」

「あーじゃあそこでいいぞ。あんま遠くてもあれだし」

「はいっ」

 

 どうやらお昼のお店が決まったみたい。

 それにしても三崎さん本当に嬉しそうだなぁ……。先輩は相変わらずだけど。

 そのまま二人の後を電柱や看板、壁を上手く利用し、まるで名探偵のような動きで二人を尾行していく。

 二人で並んで歩く姿はあまり見たくないけど、これも仕方ない。

 それにしても、やっぱり先輩は先輩だなぁと思う。

 歩く速度は三崎さんに合わせてるみたいだし、さり気なく車道側を歩くところとか。こういう地味な気遣いっていうのはやっぱり女性にとっては嬉しいことで……これ絶対三崎さんのポイント上げちゃってるなぁ。

 

「今日はその、本当にありがとうございます」

「ん? ああ、まあ気にしなくていいぞ。別に休日とか暇だし」

「そうなんですね……」

 

 っと、もう会話終了ですか?

 三崎さん、先輩相手に自分から会話切っちゃ話し続かないよ?

 ただでさえめんどくさがりなんだから。

 

 それから二人が会話することなく、淡々と歩いていくだけだった。

 その間もわたしは二人に気づかれることなく尾行を続けた。

 もしかしてわたし、こっちの才能があるのかな? 

 そんなふうに自分の隠された才能を感じながら尾行を続けていると、二人がお洒落なレストランの前で立ち止まった。

 

「こ、ここがそうです」

「へぇー、立派なとこだな」

「最近できたんですよ。それじゃいきましょ」

 

 最近できたのに行き着けっていうのは……? というツッコミはやめておいた方がいいかな。

 とりあえず碧に位置情報をメールしてっと。

 

 

「いろはー!」

「あ、碧。ここ、ここ」

 

 先輩たちが店内に入ってから数分後に碧がやってきた。

 二人で店内に入り、先輩たちに気づかれないように近くの席に座る。

 

「結構良さげなところね」

「そうなんだよねー。たぶん前もって調べておいたんじゃないかな?」

「先生が?」

「そんなわけないでしょ。三崎さんがだよ」

 

 先輩がそこまで要領いいはずないんですよ碧さん?

 

「じゃあとりあえず注文しよっか」

「うん、だけど碧」

「ん、なぁに?」

「もうちょっと声抑えてね? 碧の声結構大きいんだから」

「そんなに大きいかな……? まぁわかったよ」

 

 一応碧に一言注意して、店員さんを呼ぶ。

 二人とも同じクリームパスタを注文して、食後にフルーツパフェを頼む。

 待っている間、先輩たちを観察しながら尾行中の話を碧に報告することにした。

 

 

 

 




明日は後編投稿予定でする

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