やはり一色いろはは先輩と同じ大学に通いたい。   作:さくたろう

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 三崎さんと先輩が図書館で勉強をしてから一週間が経った日曜日の朝。

 今日はやっと、わたしが先輩に勉強を見てもらえる日だ。

 

「あ、もうこんな時間だ……」

 

 部屋の時計を見ると、先輩との待ち合わせの時間までそんなに余裕がなくて。

 眠気を堪えて洗面所に顔を洗いに向かう。

 今日は気合入れないとね――

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「どうしたのいろは!?」

 

 わたしの悲鳴にお母さんが慌ててやってくる。

 

「お、お母さん……な、なんでもないの、ごめん」

「そ、そうなの? あら、いろは、その顔……」

「やっぱりひどい……?」

「かなりね……」

 

 そう、わたしが悲鳴をあげたのは鏡に映った自分をみたせい。

 最近、毎日のように遅くまで勉強をしていたせいか、顔をみると目元に見事すぎるくらいのクマができてて……。

 せっかく先輩と会えるっていうのになんでこうなっちゃうかなぁ……。

 こんな顔先輩に見られたくないよ……。

 仕方ない……こうなったら……。

 

 

   *   *   *

 

 

「おまたせしましたっ先輩!」

 

 既に待っていた先輩に明るく声をかける。

 なんとか待ち合わせの十分前に到着できてよかったぁ。

 

「おう、意外と早かったな――って誰?」

「わたしですよわたし!」

「何? ワタシワタシ詐欺かなんかなの?」

「違いますよー、一色いろはです!」

「悪い、知らない人だわ」

「それはひどくないですか!?」

「俺の知り合いにお前みたいなギャルっぽいやついないんだけど……」

 

 先輩がわたしの服装を見ながら若干引き気味にそう告げる。

 うう……だからこの格好はしたくなかったのにー!

 目元のクマを隠すため、わたしはサングラスをつけることにしたんだけど。

 あまりにも立派すぎるクマを隠すためには、少し大きめのサングラスをするしかなくて……。

 そうすると、今度はいつもみたいな服装だとサングラスが完全に浮いちゃうから仕方なく、ね……。

 

「どうみても、これから勉強するやつの格好には見えないんですがそれは」

「先輩、人は外見で判断してはいけないんですよ? わたし、勉強する気しかないですから!」

「説得力ないなホント……」

「小さいこと一々気にしないでください! そんなんじゃモテませんよ!」

「はぁ……。わかったわかった。んじゃとりあえず行くか」

「わかればいいんですわかれば。じゃ、行きましょー!」

 

 ふふ、どうやら上手く誤魔化せたようですね。

 と、どうにか服装の件を納得させて、わたしたちは図書館に向かった。

 

 

 

 待ち合わせ場所から数分歩くと、先週先輩たちが勉強するのに利用していた図書館が見えてくる。

 図書館なんて普段はまったく来ないのに週一ペースで来るなんて、わたし受験生なんだなぁ。

 先輩を先頭に図書館の中に入る。

 中はクーラーが効いてるおかげでひんやりとしていて勉強にはもってこいの環境だ。

 

「ん~~、涼しいですね」

「あんま大きい声出すなよ」

「はーい。あ、そこ空いてますよ」

 

 奥の方の席が空いていたので、二人で一緒に座る。

 

 

 

「んで、なんの勉強するんだ?」

「それはもちろん、現文ですかね」

「ああ、まぁそれなら見てやれるな」

「はい、よろしくですっ」

 

 

 それから一時間くらいたったかな? 先輩とみっちり現文を勉強していると、先輩がチラチラとわたしの顔を覗うようになってきて。

 

「どうしたんですか先輩? もしかしてわたしに見惚れてたとか?」

「ちげーよ。なんでお前勉強中もサングラスかけてるの? 気になっちゃうんだけど」

「あ、そっちですか……」

 

 まぁたしかに、図書館でサングラスなんてしてる人がいたら、わたしも多少なりときにするかもしれませんが。

 でも今はそこには触れてもらいたくないわけで。

 

「そ、それより、ここがわからないんですけど!」

「だから大きい声出すなっつうの……。ここは――」

 

 あぶないあぶない。

 勉強の話題に変えたおかげで、サングラスに対する興味はなんとかなくせたみたいだ。

 それからはなんとかサングラスについては語ることなく、順調に時間は過ぎていって。

 

「そろそろ昼にするか」

「そーですね。結構ガッツリやりましたもね」

「だな。それにしても一色も結構現文できるんだな」

「塾の先生が優秀なおかげですよ、きっと」

「……褒めても昼は奢らないぞ」

「ちっ……」

「おい」

 

 なーんて。実際、先輩の教え方はホント上手ですよ。

 先輩のおかげで教えてもらったところはほぼ理解できてきたし。

 毎日勉強頑張ってるのもあるけど、やっぱり先輩の存在は大きい。

 

「冗談ですよ冗談。先輩のお財布事情が厳しいのはわかってますんで」

「お前の言い方冗談に聞こえないから怖いんだけど」

「そういうこと言うと、ホントに奢ってもらいますよ?」

「悪かったよ。んで、何食うんだ?」

「そうですねー。ラーメンでいいですよ」

「え、いいの?」

「はい、久しぶりに食べたいなって」

「ほう、一色もラーメンの良さに気づき始めたのか。俺は嬉しいぞ」

「そういうのはいいですから……。美味しいところ連れてってくださいね?」

「おう、任せろ。んじゃ準備していくとするか」

 

 ラーメンの話題が出たとたん、目に見えるくらい機嫌がよくなる先輩。

 ホント、先輩ってラーメン好きなんだなぁ。……手作りラーメンとかわたしが作ったら美味しいって言ってくれたりするのかな……?

 

「ほら、一色、早く行くぞ」

「あ、はい、待ってくださいよー」

 

 いつの間にか片付けを済ませてた先輩に追いつくように、急いで図書館を出る仕度を済ませ、駆け足で先輩のもとに向かった。

 




明日は出張なので、もしかしたら投稿できないかもしれません。
その時はまた明後日よろしくです(`・ω・´)

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