トーカが家出をしてから2年の月日が流れていた。トーカ=ゾルディック7歳の冬。
今現在のトーカは、天空闘技場にいた。
「さぁはじまりました!注目の一戦!やはり見所はこの雰囲気には場違いなあの少女でしょう!弱冠7歳にしてこの200階クラスで既に7勝をあげており黒星は1つもついておりません!トーカ=ゾルディックです!」
やかましい実況や歓声をうとましく思いながらもトーカは眼前の敵を見据えた。
「対するはこちらも優良物件!この200階クラスで8勝1敗とその全てをKO勝利で納めているイケメン!ユーリ=ユナイテッドです!」
「両者準備いいか?」
「いつでも」
「いいですわ」
お互いの目に油断の文字はない。審判が開始の合図を宣言し終わった瞬間、審判がリングから退く前に両者の足元の地面が爆ぜ、中央で衝突した。
先に弾き飛ばされたのはユーリであった。
「俺が押し負けるとはな」
「余裕ね。最初から全力で来れば私相手に1ポイントぐらいは取れたかもしれないのに」
「はは。随分な自信だな!」
ユーリの足元の地面が再び爆ぜる。だがトーカにはユーリの姿がはっきりと見えていた。ユーリの進行方向、スピードに蹴りを合わせるとユーリはそれを手で防ぐ。
「流石はゾルディック家のお嬢さんだ。カウンターを合わせてくるなんて、な!」
ユーリは蹴りを振り払い、トーカの片足を掬うように蹴りを放つ。パシン、とトーカの身体が崩れるがトーカは崩れを利用して空で身体を捻り、踵落としを放つ。
「っ!?器用な!」
それすらもユーリには防がれたが、ユーリの攻撃の出だしを潰せたトーカは手を使い、パンと弾けるように後ろへ跳んだ。
「だが俺の勝ちだな」
「そんな!?」
ユーリの声は、トーカの後ろから聞こえた。
トーカの首めがけて放たれた手刀をトーカはしゃがんで回避し右足を軸に回転。後ろへ回しげりを放つ。
「おいおい。どこみてんだ?」
聞こえてきたユーリの声は再びトーカの背後から。考える間もなくそこから飛び退くと数瞬遅れてパンチがリングのタイルを叩き割った。
「めんどくさい能力ね。相手の死角に回り込む能力かしら?」
「さぁ、どうかな?」
「まぁいいわ。死角に移動しようが距離を操作しようが2度もその能力を見てしまったもの。私にはもう通じないわ」
「なら試してやる、よ!?」
ユーリの能力は最初にトーカが言った通り相手の死角に回り込む能力。知っていれば対策出来そうだがその実、このユーリの能力にはタイムラグが存在しないため、まず能力のかかりがわからない。故に事前に対策を取ることは出来ない。
気づけば背後にいる。故にユーリは全ての戦いを背後からの一撃で仕留めているのだ。
単純だが厄介な能力。しかし、トーカはニヤリと笑みを浮かべる。
「生憎だけどあなたレベルの使い手なら家出の際に何十人か倒してきたわ」
ユーリは能力を発動していた。確かにトーカの後ろに回り込んだはずだった。だが!対策不可能のはずの死角移動能力は発動しなかった。
「あなたならツボネにも遠く及ばないわ」
目を閉じたトーカを前にユーリは自らの能力が破られたことを知った。
「僅か数回で俺の念の弱点を見つけるとはな。だが目を閉じた状態でどうやって俺の位置を探るつもりだ?」
念能力の中にはオーラを広げ、相手の位置を探る"円"と呼ばれる応用技が存在する。だがこの円は長時間の使用には向いていない。何故なら長時間使用するならオーラを広範囲に伸ばしなおかつその状態を維持するほどのオーラ量が必要になる。だがそれは索敵の場合のみである。こと戦闘に関して言えば円を発動しながら念での攻防を表す"流"を行うのはほぼ不可能に近い。それをユーリは知っているからこそ、弱点を知られても平然としていられるのだ。
「確かに。円を使えばあなたの位置は把握できても攻撃に回せるオーラは少なくなる。使わないなら位置がわからない」
だがユーリは一向に焦らないトーカを不思議に思った。そして聞こえてくるのは、かつてトーカがツボネと対峙した時に見せたあの独特な呼吸音!
「ところで、"波紋"というものを知っているかしら?」
トーカが迷いもなく、ユーリの元へと駆ける。凝を行ってもトーカが円を行っているようにはユーリには見えなかった。
トーカが肉薄してからの下段蹴り。それをユーリが受けようと身体が下がった時に下段蹴りを止め、回転しながら上段回し蹴りを放つ。
ズドン!と突き刺さるような音と共に、ガードしたはずのユーリは大きく吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
ユーリが体制を立て直すと、眼前には大きな石のタイルが迫ってきていた。
「こんなものっ!」
「気を取られ過ぎね」
「!?」
ユーリがタイルを破壊しようとした瞬間、トーカはユーリの背後に現れた。
「喰らいなさい!"山吹色の波紋疾走"!!」
拳打の嵐は不可避のユーリの身体に突き刺さり、向かってきていたタイルすら粉々に砕きながらユーリを場外へ大きく吹き飛ばした。
「ふっ。やれやれね」
決め台詞のように言葉を吐くトーカの両腕は確かに山吹色の輝きを放っていた。
分かりにくいと思うので捕捉。
ユーリの念は相手の死角へと移動する能力ですが誓約として既に相手の死角にいる場合は発動できない、というのがありました。トーカが目を閉じたことにより周囲全てがトーカの死角となったので既にトーカの死角にいたユーリの念は発動しなかった訳です。