今後トーカはこういった念以外の技による強化を多分に含んでいきます。今回はその第2弾です。(1弾は波紋)
真っ先に動いたのは当然トーカだった。何せ周り全てが自分の敵である。椅子から飛び退くとトーカが座っていた場所には無数の念が込められた針と、トーカがシルバに向かって投げたナイフが突き刺さった。一瞬で穴だらけになった椅子には一瞥もくれず、トーカはその場を後にした。
「ミルキ、トーカの場所は?」
言われるまでもない、ミルキがパソコンのエンターキーを押すと、トーカの位置がパソコン内に記された。
そしてミルキはそれを見るなり、叫んだ。
「父さん、後ろだぁ!」
シルバが振り向くと同時にシルバの太い首に鋭い蹴りが突き刺さり、シルバを吹き飛ばした。
「姉ちゃん!?ど、どうやって」
「これが私の発」
"黒色暗幕"。トーカの最も良く使う発であり、その利便性は念能力者との戦いにおいて最大限効果を発揮する。それを利用しての完全な不意打ちではあるが、シルバは何事もなく起き上がってくる。
「加減したとはいえ、人間である以上そこをやられると空気が脳にいかなくて数分は気絶するはずなのだけれど」
冷や汗を垂らしながら、じりじりと後退するトーカ。トンと壁に背が着くと同時にイルミが飛びかかってくる。遅れて右からゼノが来る。時間差による攻撃、それに対してトーカはトンと地面を踏むのと壁に後ろ手で拳を当てた。
バゴォ!という音と共に、地面のタイルが吹き飛び粉微塵になってイルミとゼノの目眩ましになり、トーカの後ろの壁も粉となる。脱出経路を得たトーカはそのまま身を翻して、庭の森林地帯へと落下する。
「ぐっ」
「むっ!?」
イルミとゼノは追撃を止め、足を止めざるを得なくなった。
「あいつはどこでこんな変な技ばかり覚えてくるんだ?」
シルバが掴んだ砂はサラサラと地面に流れていき、誰が見てもこれがタイルだったとは信じないだろう。壁にしてもそうである。皆が壁に目を向けると、そこには円状にくり貫かれたような穴が空いており、地面には砂と化した元壁があった。
「で、ミルキ?トーカの場所は?」
シルバは頭の中を切り替え、索敵をしているミルキへ呼び掛ける。
「どうやらミケに乗って移動しているみたいだね」
ミルキのパソコンにはミケの肩に乗ってどこかを目指しているように見えるトーカが映っていた。
「さて、このワガママ娘どうしてやろうか」
シルバの口元にはニヤリと嬉しそうな笑みがあった。
時間は少し飛び、場面はトーカへと映る。
ミケに乗って移動し、森林の中の開けた場所へと来たトーカはミケから飛び降りる。
「行っていいですわ」
ミケを操っていた波紋を切ると、ミケは瞬時にその場を後にした。ミケは感じていたのだ。自分より遥かに強い存在が向かってきていることを。
「あら、まずはあなたなのね?」
太い木の枝を蹴り上げ、トーカの前に躍り出たのは恰幅の良すぎる使用人。ツボネ、そしてツボネ率いる直属の部隊が5人。奇しくも、トーカが初めて家出を決行したときと同じ構図であった。
「何やら見た光景ね」
「あの頃と同じと思われぬことですお嬢様」
ツボネの言葉から確かな自信を感じ取ったトーカは、あのときと同じく波紋の呼吸を行う。練り上げられる量も質も大きく育った山吹色の気は、辺りに拡がり草花を揺らした。
ん? とトーカが気付いた時には直属部隊の二人が消えていた。索敵を行おうとした瞬間ツボネが突っ込んでくる。
「あははははっ!チームプレーで戦うつもり!?」
トーカは可笑しそうに笑う。ツボネは怪訝に思いながらも既にトーカの背後を取っている二人に目配せをしてから左のボディブローを放つ。ツボネの算段ではこの一撃を回避、もしくは受けて硬直するトーカに背後の二人が襲う。万が一避けられたとて自分の背後の二人が決める。
「少々痛いかもしれませんが我慢してくだされ!」
トーカはツボネの攻撃をひらりとかわすように左に避けた。これまでにない、ベストなタイミングでトーカの背後へ回っていた二人が奇襲を仕掛ける。
「甘い!」
背後から襲っていた二人が何かに吹き飛ばされた。吹き飛びながら二人が見たのは、異常に伸びたツボネの腕だった。まるで千切れるギリギリまで伸ばしたかのような腕には幽かに山吹色の気が流れていた。
流石の事態にツボネも第三の矢として控えていた二人も度肝を抜かれていた。トーカはツボネの肩を踏み台に1度跳躍し、二人目掛けて上から襲いかかる。
太陽を背にした跳躍撃に、二人はトーカをまともに見ることも出来ず接近を許し、一人はシルバにしたように頸動脈へ蹴りを叩き込み、もう一人は頭を手で固定し、膝をぶちこむ。
「あと3人よ」
あ、間違えた。直後にトーカは訂正した。
「あとはあなただけよ。ツボネ」
ツボネがその言葉に疑問を覚える前にガンっ!という音とともに吹き飛ばした背後の二人が小さくウッと呻いたのを聞いた。振り返ると、二人の頭の上にはトーカがいつのまにか脱ぎ捨てたローファーの踵部分が乗っていた。
ツボネは凝を行い、その部分に念が込められていることを理解すると、パッと向き直り目の前まで飛んできていた蹴りを両手をクロスしてガードする。
バキィ!という骨にまで異常が達しているかのような音を響かせるが、攻撃したトーカもそれを受けたツボネも少々ノックバックする程度で済んでいた。
「随分と悪戯好きでございますね。手癖足癖の悪さは相変わらずのようで」
「ツボネこそ。外してあげた関節をいつのまに治したのかしら?」
トーカの指摘通り先程まで、2倍ほど伸びていたツボネの腕は今は既に元の長さを取り戻していた。
「昔は私もやんちゃをいたしておりまして、こういったことは慣れております」
「へぇー。じゃあ第2ラウンドね?」
「次こそは勝たせていただきます」
仕切り直し、という風に二人は両の手を構えた。