へい皆ご機嫌かい? ちなみに俺は全くこれっぽっちもご機嫌じゃない…
まあ俺の気分はどうでもいい、そんなことより皆は
ただ、実際はもっとなんでもありのとんでも能力の事を言うんだ。なんでそんな事知ってるかって? そりゃあお前、俺が今現在超能力者らしいからだ。おっと、勘違いしないで欲しいが超能力者っていってもピンキリでそれぞれ使える力ってのは違ってるらしいんだ。だから俺は皆が想像したようなスプーン曲げたり、透視したりできる素敵な能力じゃあないから、間違ってもエッチなことはしていない。
ところで俺がさっきから自分の事なのにらしいらしいとばっかり言ってるのには訳があるんだ。
いや、訳があるというか訳が分からないというか……って、さっきから俺はいったい誰に向かって語り掛けてんだろうなぁ……
よし、というわけで脳内一人芝居は終了。観念して現実に目を向けてみよう。
俺イン銀行、シャッターイズクローズ、覆面男キャッチ俺、最後に拳銃タッチマイヘッド。
ふう、やれやれだ、状況は把握した。これで冷静に対処が……出来るわけねええええええ! え、何なんなの、なんでちょっと銀行来ただけで強盗いんの? というかなんで俺を人質にとったのこの強盗さん!? 治安悪いとか聞いたことあったけど真昼間から銀行強盗とかどこの世紀末だよ。ここは本当に日本かよ!
「おい、金はまだか! 早くしねえとこいつの頭ぶっ飛ばすぞ!」
銀行員さああああん、早く早くお金用意したげてハリーアップ! このままじゃ俺の頭から真っ赤な花が咲いちゃう! とりあえず強盗の死角から手招きっぽく早くして催促してるけどそろそろ限界だから、ばれたらパァンしちゃうから!
「おい! そんな小銭持ってきてねえで早く札持ってこい! そんなんで時間稼ごうすんじゃねえ!」
おいこら銀行員! なにやってんの!? 強盗のマニュアルとかないのかよこの銀行!? こういう時は大人しく金を渡して命大事にが基本だろうがああああ!
あれ、拳銃の感触が消えたぞ? これはチャンスか今なら逃げ出せるか? と思った俺は実に浅はかだと言わざるを得ない。
「いい加減にしねえと次はこいつの頭の番だからな!」
とか言いつつ小銭が集めらていた袋に向かって強盗さんがパァンと一発。盛大に弾け飛ぶ小銭達、というか中身全部一円玉じゃねえか、せめて五百円玉くらいいれとけ! どんだけ守銭奴なんだよこの銀行!
ああ、それにしてもこの調子じゃあ俺の頭が目の前で弾け跳んだ袋と同じ結末を迎えるのにそう時間は掛からないだろうなあ。死ぬの怖えなあ…でもそれよりもこの体の持ち主に申し訳ないだろ。あ、今更だけど俺この体の持ち主ちゃいます、あれだ俗に言う憑依ってやつだ。
目が覚めたら何故か知らない天井で、鏡を見るとどこの誰かも分からないフェイスがこっちを見てた。すわ、これで俺も二次創作の主人公かと喜びそうになったが、普通に考えてみるとまず俺が憑依したと思われる体の本来の持ち主に申し訳ないって気持ちになったんだよなあ。とりあえず、本来の持ち主にこの体が返せるかどうか探す必要もあった。もし返せた時に知り合いとかとややこしい事態にならないように本来の持ち主のロールプレイをしようと思って、なんか本来の持ち主の事が分かるもんがないかと探してたら、なんとびっくり、よくわからん身体検査表みたいな紙切れに超能力がどうとか大真面目に書いてあるんだよ。
まじかこれ? 最初はそう疑問に思ったんだけど、暫くいろいろ部屋を調べてみたらこの街が学園都市って言う名前だと知ったんだよ。それを聞いてピンときた。確か友人が学園都市で科学が魔術で超能力でとかアニメかなんかの話をしていたのを。
つまり、ここはアニメの世界だったのだ! 普通なら考えられないような発想だろうが憑依なんて経験している俺には今更な出来事だった。つまり、この体の持ち主はマジもんの超能力者である訳だった。
いろいろと困惑しながらも、財布が空っぽなの発見してとりあえず暫くはこの体と付き合っていく必要があるから、その間の資金として財布に入ってたカードで金を下ろそうと思ったんだ。
しかし、俺、もといこの体の命も風前の灯のようだ。あ、でもあれだ、目が覚めた時に『知らない天井だ』が咄嗟に出来てしまった俺にはあんまり悔いは無いきがする。思わずその瞬間を思い出して口元が緩む、ってこれじゃあ本来の持ち主に失礼だな。そういえばその本来の持ち主さんの名前が財布の中に入っていた学生証に記載されてたな。あーっと、確か、介、介旅初矢君だったかな。すまない介旅君、君にこの体を返すことは出来そうにない。
嗚呼、最後に見る景色が飛び散る一円玉達かあ、なんかキラキラして奇麗だけど所詮一円、貧乏くさい気がする……ってあれ? なんか一円玉が萎んでいってない? いやたぶん気のせいか、もういい目を瞑って大人しく最後の時を待とうかな。
グッバイ現世!
と思ったところで、俺の後ろで何かがボンッと爆発したような音が。
気になって目を開けてみるといつの間にか強盗の拘束が解かれていた、後ろを見ると強盗が倒れている。そしてこれまたいつの間に開いたのか入口のシャッターが開いていた。
「動くなッ!アンチスキルだ! 大人しく手を頭の後ろに……ってもう伸びてるみたいじゃん…」
なんか重装備した巨乳のお姉さんがいた。もしかして俺、助かった?
――end
start――
「チッ! そんなに金が大事じゃん!?」
装甲車のような重厚な外観の車の中にあるディスプレイに映像が映っていた。映像では覆面姿の男が拳銃を片手に何やら怒鳴り散らしている姿が映し出されていた。そんなディスプレイと幾つかの計器やコンピューターの明かりだけの薄暗い車内で、黄泉川愛穂は苛立ちの声を上げた。
銀行強盗事件、それが発生したのが二十分程前である。学園都市の治安維持組織である
一つに、正面入り口のシャッターが降ろされ、中の様子が正確に確認出来ないこと。
もう一つ、犯人が人質をとっていること。
言うまでもなく、犯人を不用意に刺激すれば人質の命はない。しかし、強盗犯が人質をとることは想定の範囲内であり、それに対処するためのマニュアルも存在している。ここで問題となるのはシャッターが降りてしまっていることだった。
本来この銀行の緊急時のシャッターは犯人を逃がさない為の物ではなく、外部からの攻撃から内部を守るためのものである。営業時間中に押し入ってきた強盗を閉じ込めてしまえば客と従業員に被害が及ぶ可能性があるからだ。だが、実際にはシャッターは閉まっており内部で客と従業員が危険に晒される事になってしまってる。
黄泉川の苛立ちの理由はそこにあった。まるで客や従業員の命よりも強盗に金を持ち去られる事を恐れているような銀行の態度にその苛立ちを隠すことはできなかった。
なんとか外部から侵入することの出来た監視カメラの映像から大まかな状況は把握することは出来たが、人質がいる以上はアンチスキルも慎重にならざるを得なかった。
「ん? なんじゃんこいつ?」
苛立ちを抑えきれない様子の黄泉川の視界が、監視カメラの映像から不審な動きを捉えた。人質である学生が犯人の死角となってる側の手を動かしていた。犯人に捕まってる事からぎこちない格好ではあったが、手を後ろに伸ばし手のひらを外側に向けているように黄泉川には見えた。あまり鮮明ではない監視カメラの映像からは、人質である学生が銀行員を急かすために手を動かしていることは見て取れなかった。
「これは・・・ハンドシグナル? ただの学生が何でそんなもんを知ってるじゃん?」
その手の動きを黄泉川はハンドシグナル、手信号だと判断した。手を伸ばし手のひらを外側に向けるその信号の意味は、待て、軍隊などではよく使われる物であった。
「これは誰に・・・、銀行員に向けて送る意味はない、金の用意を遅らせることは犯人を刺激するだじゃん。」
なら一体誰に向けてのメッセージなのか、と黄泉川が考え始めたところで映像の中の人質と黄泉川は目線があった。
「まさか私らに向けてじゃん? 何か策があるのか、もしかしたら高位の能力者? 子供に任せたくはないけど、こっちも八方塞がりじゃん、少しだけ様子を見させてもらうじゃん」
何か人質の側にこの場を攻略できる策があるのでは?と考えた黄泉川は少しだけ待つことにした。本来は教師でもある彼女が、自分の受け持つ生徒達と同年代程の子供に任せるのは、教師として、大人として彼女の矜持を揺るがすものだったが、突入し犯人を刺激し人質が殺害されてしまう結果に陥るよりはもっと最善の可能性があると、子供を信じることにしたのだった。
いつでもシステムに強制介入し、シャッターを開く用意は出来ていた。それに合わせ、黄泉川を含めた警備員達も万全の体制を整えていた。
痺れを切らした犯人が人質とは別方向に発砲する。それを見て、限界だ、と突入を決意した黄泉川は犯人の発砲により飛び散った硬貨の雨の中で人質の学生が笑うのを確かに捉えた。
「ッ!!!突入ッ!!」
拳銃を突きつけられた中で、笑う人質など異常と呼べる。黄泉川はそれが自分達に向けての合図だと理解し、慌てて車から飛び降り突入の合図を出す。
勢いよく開くシャッターの向こうでは、犯人の頭上で飛び散っていた一円玉が異常を見せていた。急激に渦巻くような圧縮されていくそれらは点になる程に圧縮された途端、音を立て破裂した。
一つ一つを威力は小さいが幾つものその一円玉の爆弾は犯人の手から拳銃を落とさせ、顔の目の前で爆発したものは犯人の聴覚と視覚を強く刺激した。それにより立っていられなくなった犯人が倒れ伏す。
そこには一円玉の雨の中で瞑っていた瞳をゆっくり開く人質だった学生のみが立っていた
そして犯人はアンチスキルに捕縛された。
黄泉川としては功労者である人質であった学生に労いの言葉と、危険な事を仕出かしたことの説教を行いたいと思っていたが、件の学生は自分は何もしていないの一点張りで、彼が能力を使った証拠の記録などは残っていなかったのでうやむやのままに逃げられてしまった。
「あれ? 黄泉川先生なんの資料ですか?」
「ああ、アンチスキルの関係の資料じゃん」
後日、彼女の勤務する学校の職員室で銀行強盗事件の時の資料を広げていた黄泉川に同僚の教師が声を掛けていた。
「ちょっと面白い奴を見つけたじゃん。 銀行強盗を1人で制圧したからてっきり高位の能力者かと思ったら、なんとレベル2だったじゃん」
「へえ~凄いですね、何か変わった能力だったんですか?」
「まあ、珍しい能力ではあったじゃん。でもとてもじゃないけどレベル2じゃ戦闘には使えないじゃん。
でもあいつはそれを使った、自分の出来ることを理解して、それを最大限に生かせる方法を模索していたように見えた、これはきっと鍛えればいいとこまで行きそうに思えるじゃん」
そんな会話がされていることを、介旅初矢に憑依した人物が知る由もなく。別の場所で大きくくしゃみを一つしていた。
というわけでとある世界でも屈指の脇役である介旅初矢さんに憑依しますた。
量子変速なんてロマン溢れる能力を持ってる彼を活用しないなんてことがあるだろうか、いやない