HAHAHA、実に爽快な気分だ。
聞いてくれよマイク、実はついさっき銀行強盗にあってな。なんと拳銃を持った犯人に人質にされちまったのさ、笑えるだろ?
それでどうなったかって? そりゃあここにこうして無事でいる姿を見れば分かるだろ? 俺がこりゃ駄目だと思った時にな、颯爽と現れた巨乳で美人なお姉さんがあっと言う間犯人を捕まえたのさ。 え、俺がなんかしたんじゃないかって? おいおいマイク、人が笑える話をしてる時に、そんな愉快なジョークを挟まないでくれよ。 俺みたいな奴が強盗に立ち向かえるわけない、そうだろ?
と、あまりにも気分がいいもんだからいつの間にか脳内でアメリカンなコメディ劇場が発生してたみたいだ。誰だよマイクって。
まあそんなことはどうでもいいな、いやぁそれにしても凄い清々しい逮捕劇だったな。人質の俺を傷つけることなく瞬時に犯人を無力化して逮捕とか、どんなアクション映画だよ。しかも逮捕してた、あーなんだっけか・・・・・・ああ、そうだアンチスキルだ。アンチスキルのお姉さんも美人だったし、実は本当に映画の撮影でしたって言われても信じれたな。
というかお姉さんになんか褒められたんだけど俺なんにもしてないし、人質に捕られてむしろ足手まといだった思うんだけど。まあ話が長くなりそうだったから適当にはぐらかして逃げてきた。
よし、気分一新。まずは当初の予定通り、この体の持ち主である介旅君のロールプレイをするとしよう。
「そうと決まれば携帯電話召喚、電話帳オープン」
さてさて、介旅君の交友関係はどんなもんだろうか。友達一杯リア充君だったらロールプレイ難しいなあ。介旅君にへ悪いけどあんまり友達が沢山いませんようにっと。
「まずはあ行該当無し、か行無し、おうふっ、思った以上に少ないな・・・。 気を取り直してさ行いくぜ!さ、し・・・、一件発見! 実家! ・・・うん、まあ介旅君一人暮らしみたいだしね、実家の番号は必須だよね」
さ行はそれだけ、そこからも連絡先は殆ど無く学校への連絡先と父、母、の合計4つだけ。
くっ、介旅君、君ってやつはなんて孤高な存在なんだ! 目から汗が出てくるじゃないか! 俺だって友達は少ないけど一桁はいたのに、それなのにっ! 世界は、なんて残酷なんだ! すまない介旅君ッ!! 俺にはどうすることも出来ないッ! 例え俺がッ…この体でッ……友達を作って上げたとしてもッ! それは君の友達じゃないッ…!
「おいおい…大丈夫か?」
俺はなんて無力なんだッ! 何が憑依だッ、何がオリ主だッ! 一人の少年も救えない俺にこんなッ…こんな二次創作の主人公のような役割なんて勤まるはずがない!
「えっと、もしもーし大丈夫なんですか?」
涙が止まらない、なんて惨め、なんて情けない。もしも、この世界に神様なんてモノがいるならこんな平凡な男に憑依体験なんてつまらないことさせるなよ。 そんなことよりも一人の人間に救いでも与えてみろよ。
「あー、肩触れますよー、驚かないでくださいねー」
ッ!! 誰だッ!
「うお、びっくりした。 急に振り向くなよな」
誰だこのツンツンヘヤ―は? ウニか、ウニなのかその髪型は? 受け狙いなのか? 悲しみに沈んだ俺をその髪型でおちょくろうっていう魂胆かっ! ってそんな訳ないか。 でもほんとに誰だこいつ、いきなり気安く肩を叩いてきて話しかけくるなんて…
「あーっと、大丈夫か?」
はっ! そうかこの気安いフレンドリーな感じッ! こいつは…介旅君の友達かッ! そうか、そうだったのか君は孤独では無かったのか…すまない介旅君、勝手に君に失礼な事を考えてしまっていた。 もし体を返す時に君に会うことが出来たなら、全力を持って謝罪しよう。
「ああ、大丈夫、俺は大丈夫だから…」
「いやそういわれても大丈夫そうに見えないですけどぉ!」
そうか、携帯を片手に往来で涙を流していた俺を心配してくれていたのか。こいつ、良いやつだなあ。介旅君、友達なんて少なくてもいいんだ、たった一人でも自分の事を心配くれる友がいるのならそれ以上に嬉しいことはないんだ。今それがよく分かったよ、ありがとう介旅君、君のおかげで俺は人として一歩成長出来たような気がするよ。
「もしかしてなんか聞いちゃいけないような事だったか? だとしたら悪かった」
「いや、いいんだ。 もう終わってしまったことだから…」
涙を拭いながら目の前の少年の少年に、介旅君に友達がいないなんて問題は解決した、いやむしろ初めからそんな問題は無かったことを伝える。
「ッ! そうか…悪かった」
なんか驚いた顔してるけど納得してくれたみたいだ。そういえばこの少年の名前が分からない。これでは気安く名前も呼べない。非常にまずい、このままでは介旅君と彼の友情に傷が入ってしまうかもしれない。なんとかさりげなく名前を聞きださねば。
「まああれだ、俺なんかに言われたくないかもしれないけど人生いろいろあるからな。 なんなら上条さんも力になっちゃいますよ」
自分で言ってくれました。というか上条って、どっかで聞いたことがあるような…ああそうだ、いま現在俺が憑依して存在している世界、もともと俺がいたところじゃあライトノベルだったかアニメだったかの世界なんだよな、確かその物語の主人公も似たような名前だったきがする。俺自身はアニメもライトノベルも見てないから友人に聞いた話だが、確か主人公の名前は神浄乃討魔とかいってたかな? いったいどこの二次創作の最強系オリ主だよと思うが、普通に考えたらカミジョウってそこまで珍しくはないかな。でも、この世界の主人公と同じ名字なんて凄い偶然だなあ。
――end
start――
多くの学生にとって待ち遠しいと感じられる夏休みが目前に迫ったある日の夕方、ここ学園都市の一生徒である上条当麻は浮足だっていた。その理由は明日から夏休みだから、ではない。彼はあまり学校の成績が良くなかった、そのおかげで夏休みも学校に補習を受けに行く必要があったので、夏休みと聞いてもそこまで嬉しいとは思えていなかった。
では彼が鼻歌交じりに帰宅している理由はなんなのか、それを説明するにはまず彼の特異体質から説明していく必要がある。
簡単に言うと、彼は不幸なのだ。彼が生まれたその時から彼は不幸だった、一日一回はほぼ必ずなんらかの不幸な事態に会っていた。幼少期はその不幸体質の為に厄病神のように扱われることもあり、何度も心が折れそうになっていた。それでも彼は今ここで楽しそうに過ごすことが出来ている。それは単に両親の愛故だろう。彼に心無い言葉を浴びせかける者達から彼を守り、彼の不幸に巻き込まれた者達に彼に代わって頭を下げた。そんな両親のおかげであった。
そして今日、珍しい事に彼の身に不幸と呼べるようなことは何一つ起こっていなかった。それ故に彼は喜んでいた。
「ん…?」
そんな彼の視界に道端に立ち止まり、携帯を握りしめ涙を流す男が映った。往来には他にも沢山の人がいたが、多くの人達は全く気が付いてないという風にその男の隣を素通りするか、嫌悪感の籠った目で一瞥して去っていくだけだった。そんな彼らを責めることは出来ない、その男に何があったか気にならない訳ではない、なにか困った事になっているのかもしれない。だが、道端で泣きわめく男は、現実的に言って異常なのだ。人は厄介事を避けるもの、故に内心では少しばかり心配しても、皆その男を避けた。
だが、上条は違った。不幸の悲しみを身に染みて知っていた彼は、その男を見て自分が不幸でなかった分、他の誰かが不幸になるのかもしれないと、科学の街に住んでいながら非科学的な思考を妄想した。流石に自分のせいで彼に不幸が舞い降りたと本気で思っていた訳ではない、ただ特異体質である自分が不幸でないのに、他の誰かが不幸になるということに耐えられなかった。
「おいおい…大丈夫か?」
上条が声を掛けるが、男は視線を上げない。他人の声に気が付けない程の悲しみがあったのかと上条は考え、もう一度声を掛けた。
「えっと、もしもーし大丈夫なんですか?」
二度目の声にも彼は顔を上げなかった。普通なら心配して声を掛けたとしても二回も無視されれば誰だって気分はよくないだろう。だが上条はお人善しであった。声で駄目なら直接触れて見れば流石に気が付くだろうと彼の肩をそっと叩いた。
「あー、肩触れますよー、驚かないでくださいねー」
後ろから触れた上条に対して、男は勢いよくグルんと首を回し振り返った。
「うお、びっくりした。 急に振り向くなよな」
上条は口ではお道化た調子で驚いた風に言ったが、内心ではその男の瞳に呑み込まれていた。まるでこの世界全てに絶望しているような、底の見えない闇のような感覚に陥れられていた。
涙を流しながら、大丈夫だという男の様子に上条は納得出来なかった。まるでこのまま自分の命を絶ってしまいそうなその男を放っておけなかった。
「もしかしてなんか聞いちゃいけないような事だったか? だとしたら悪かった」
「いや、いいんだ。 もう終わってしまったことだから…」
男の終わってしまったという言葉と握られた携帯から、上条は男の親しい者の訃報があったのだと推測した。それはあまり他人が軽く口を出していい話ではないだろうと、上条は謝罪の言葉を口にする。だけれども、このままにしておけばもっと悲しい事になると、男の親しかった誰かもきっとそんな事は望んでいなかった筈だと、上条は再び道化を演じる。
「まああれだ、俺なんかに言われたくないかもしれないけど人生いろいろあるからな。 なんなら上条さんも力になっちゃいますよ」
これが学園都市の天災、上条当麻と、介旅初矢に憑依した男との出会いであった。天災と憑依が交差したここから物語は始まる。
介旅君に友達がいないなんて現実がそげぶしちゃいましょうねー