「なん……だと……!?」
自分でもビックリ本日二度目のなんだとである。もっとも一度目の上条君の妹事件よりかは驚き加減は低めだったがそれでも驚きであることに変わりはない。もっとも、妹の件は俺の誤解であったわけだが、今回のことは結構真面目な案件だ。
俺の部屋、もとい介旅君の部屋のベランダに干されていた謎の少女は記憶喪失だそうだ。なんだそれはと一瞬だけ呆けた、お前は二次創作に出てくる身分を誤魔化す主人公か何かなのかと。だが生憎と彼女はマジの記憶喪失であるらしい。取り合えず彼女と呼び続けるのも何だかなあと思ったのでこれからはミサカと、彼女が一人称として使っている物を使用する。ただ何となく人名っぽいそれが本当にミサカの名前なのかは分からないが、一先ずは呼び名が無いと会話もし難い。
「ミサカには先ほど目覚めた以前の経験というものが存在しません、とミサカは説明します。 ただ知識は脳にインプットされているのでミサカの脳は所謂記憶喪失、エピソード記憶が欠如している状態であると、ミサカは推測します」
とは彼女自身の言である。エピソード記憶とはなんぞやと問い詰めたいところではあるが、詳しく聞くと難しい話になりそうなのでやっぱり止めておく。つまりは記憶喪失であることが分かるならばそれでいい。
兎にも角にもそれを聞いて、病院に連絡しようと思った俺はふと思った。
もし病院に連れて行くとして、俺は一体どういったポジションになるのか。自分の部屋のベランダに干されていましたと説明したところで信じてもらえるかは微妙な所である。むしろ俺とミサカの間の関係性を疑われてしまうのではないだろうか。もしもだ、俺がミサカに何らかの形で乱暴な事を行おうとしてそのショックでミサカは記憶を失ってしまったと、そんな風に疑われてしまったらどうなるか。世間は確実にミサカを擁護するのではないだろうか、そしてそこからマスコミに話が広がり俺はいつの間にかロリコンの汚名を着せられ、証拠不十分にも関わらず逮捕に繋がってしまうのではないだろうか。
そうならない可能性の方が高いの間違いないことかもしれないが、現代では痴漢などでは圧倒的に男性が不利な風潮がある。一概に無いとは言い切れないのが恐ろしいところだ。そうなってしまえば俺は介旅君に身体を返す時に何と言えばいいのだろうか。
冤罪の罪で捕まっちゃった、ごめんねテヘペロ。とでも言えと? 無い、これではあまりにも介旅に申し訳なさ過ぎて首を吊りたくなってしまう。
「おーけー、おーけー、ビークールだ俺」
そうならない為に何かいい案を考える必要があった。そこで思いついたのがこれまた上条君を頼ることだった。介旅君の心の友(ソウルフレンドとも言う)である上条君に病院まで着いてきてもらおう。一人より二人である、俺一人では怪しさ満点で信じてもらえずとも、聖人にも勝る上条君の言葉もあればきっとお医者さんもお巡りさんも納得してくれる筈である。上条君マジヒーロー。
そうなれば話は早い、シスターが妹では無く修道女であったことの誤解を解いた俺は上条君にその案を打診した。
『分かった、だけどこれから補習で学校にいかなくちゃならないから終わるまで待ってもらってもいいか?』
あなたが神か。まさかの即答である。
『いや、こっちから頼んでるんだからいつでもいいよ。取り合えず終わるころに上条君の家まで行ってそこから病院に行くってことでいいかな?』
『ああ、それでいいぞ。じゃあ終わったらまた連絡する』
これでこの件は解決したも同然だろう。なんたって神に等しい上条君の助けがあるのだ、今なら誰にも負ける気がしない。上条イズヒーローである。
「と、いうわけで上条君と合流するまで暫し待機だ。電波ゴーグル少女もといミサカ(仮)よ」
「ミサカカッコカリカッコトジル、とは随分と変わった名付け方ではないでしょうか、とミサカは知識の中にある一般常識をドヤ顔で披露します」
と彼女は顔色を全く変えることなく言い切る。
「どこら辺がドヤ顔なのかは分からんが、それなら取り合えずは勝手だがミサカと呼ばしてもらうぞ」
「それで構いません、自分の誰かも分からない現状の呼び名としては妥当であると、ミサカは納得します。それと、あなたの事は何と呼べばいいでしょうか、とミサカは名前の交換を要求します」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は……まあ介旅初矢だ。好きに呼んでくれ」
少しだけ自分の名前で悩んだが、身体が介旅君である以上は介旅君の名前を名乗るのだ正しいだろう。それにもし介旅君にこの身体を返すことが出来た時に別の名前で呼ばれることがあれば、介旅君に迷惑だろう。
「それでは……初矢お兄様と呼称することにします、とミサカはどこかその呼び方にしっくりしたものを感じます」
「なん……だと……!?」
お兄様……だと……!? 爆弾発言ってレベルじゃあないぞ! どうしてそうなった!?
「おーけーおーけー、本日二度目だがビークールだ俺。さてミサカ、一体どういった経緯でお兄様になったか懇切丁寧に説明してくれはしませんかね?というかその呼び方だと社会的に危ない気がするんで出来ればやめてほしいですおねしゃす!」
「先ほど、シスターやお兄様と呟いていたお兄様を見ていて、その言葉が何故かしっくり来たので自分は誰かの妹であったと推測したためです、とミサカは要求通りにお兄様に懇切丁寧に説明します」
「なん……だと……!?」
本日四度目のなんだとである、便利だなこの言葉。
それはともかくとしてだ、まさか俺の妄想が垂れ流しになっていたとは、一生の不覚である。ミサカが誰かの妹であったかもしれないとか重要そうな発言もあったが、そんなことよりも俺の妹妄想が漏れていたことが恥ずかしすぎてヤバい、なんかもうヤバいを越えてやびゃい。
「分かったお前が誰かの妹であったかもしれなくて俺の妹妄想を聞いていたことはよおく分かった、分かったから俺の発言の事は忘れてもう一度新しく俺の呼び名を考えてみようじゃなあないか、な?」
「だめ…でしょうかお兄様…、とミサカは知識の片隅にあった上目遣いと呼ばれるものを試してみます」
「大丈夫だ、問題ない」
気が付けば俺はそうそう応えていた。上目遣いには勝てなかったよ。もしこれが漫画の世界であったなら俺はたった二コマで堕ちていただろうよ。
仕方ないだろ? ミサカがどこの誰かは分からないが、容姿端麗であることは俺でも分かる。それに加えて記憶喪失という庇護欲を誘う属性に、少し変わっているが丁寧な口調、そこにお兄様呼びプラス上目遣いだ。少しばかり表情が死んでいるのが人によってはマイナスポイントになるかもしれないが、俺にとってはそれすらもプラスである。これは堕ちる(真顔)
念のため釈明しておくが、ミサカに対して性的な欲求を覚えたわけではない。あくまでも妹を愛でる兄の心境である。断じて俺はロリコンだとかシスコンだとかではない。
「やりました、とミサカは拳を上げ喜びを表現してみます」
介旅君すまない、もし君がこの身体に戻った時にロリコンの汚名を着せられてしまうかもしれない。だがそうならないように、その時までには必ずその汚名は返上してみせる。
「それでお兄様、上条とは一体誰のことでしょうか、とミサカは話を戻します」
やっぱり無理かもしれない、お兄様は俺の夢だったんだ。すまない介旅君、すまない。もしもの時は土下座でもなんでもするから、今だけはこの幸せに浸らせてくれ。
―――end
start―――
電話口の向こうから微かに漏れる声を上条は聞いていた。
『分かっ……妹……、俺の……事は…忘れて………新しく……』
電話から口を話して会話している為にその音は途切れ途切れにしか聞こえてこなかったが、上条は電話の向こうの人物、介旅の発言を注意深く拾っていた。そこから聞こえてきた幾つかの単語を拾い集め上条は推測する、介旅は謎の電波少女などと呼んでいたが向こうの声を聞く限りその少女は介旅の妹ではないかと。
『だ……お兄様……、…は………す」
恐らく妹の物である声も上条の耳は捉えていた。介旅は恐らく電話が既に切れていると思って妹と会話しているのだと、上条は考えた。先ほどまでは電波ゴーグル少女よ呼んでいた者を妹と呼んでいるのだ。恐らく他人には知られてはいけない事情があるなのだと上条は考えた。盗み聞きをしているようで罰が悪かったが、上条はその会話が気になってしまっていた。
上条の推測では向こうの会話は次のようになっていた。
『分かっていなかったのか妹よ、俺の事は忘れて新しい人生を歩めといったはずだ』
『駄目ですお兄様、私はお兄様の事を忘れたくないんです』
まるで少女漫画のワンシーンのような現実にはあり得そうもない一コマだが、介旅にはきっと何か特別な事情があるのではないかと勘ぐってしまっていた上条にはそう考えられた。そうなると記憶喪失というのも本当の事ではないだろう。何故わざわざ記憶喪失などとと嘘をつくのか、上条には分からなかったが、それでもきっと二人の間には悲しい何かあるのだと考えた上条は思わず歯を食いしばった。
自分は不幸であったつもりだった。でも世の中には自分の何倍も不幸な人達がいる。上条はそのことを分かっていた、分かっていたつもりになっていた。だが実際に目の前にそういった人たちが現れると、そんな儚い幻想はあっさりと壊された。自分では想像もつかないような不幸、それを感じ取って上条は惨めな敗北感を味わった。
だが、上条は決して下を向かない。不幸を知る上条はそれの悲しさを知っている。だから前を向く、そんな理不尽な不幸は認めないとばかりに拳を握り閉める。
介旅とその妹の間にどんな関係があるのか、上条は知らない。だけど遠まわしに助けを求めてきたということはそれを解消したいと彼らが思っていることは間違いないのだ。一先ずはなんで記憶喪失などと言っているのか知る必要があった。もしかしたら本当に記憶に欠如がありその事が原因で何かの不幸が起きているのかもしれない。幸いにしてこれから上条が向かう学校にいる担任は脳に詳しい。その人に記憶喪失とはどういったものか聞いてみようと上条は考えた。
そして未だに会話が漏れ聞こえてくる携帯電話の通話を切り、学校へと上条は向かった。
かなり無理矢理な勘違いな気がするが細かいことは気にしない。
前回に引き続いて妹ネタだが、作者はシスコンでもロリコンでもないので悪しからず。