目が覚めたら能力者になってた件   作:千草流

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6.自己犠牲というのは究極の自己中であると沢山の主人公たちが物語っている

 火事が起きた時、普通はどんな行動に出るだろうか。火事の規模にもよるがまず初めに行うのは消火であることに間違いはないだろう。方法はなんだっていい、水をぶっかけてもいいがこれは時と場合により更に被害を増す可能性が高いので止めたほうがいいだろう。やはり最も一般的な方法としては、火が起こる元である酸素の供給を絶つことではないだろうか。一般的な赤いボンベの消火器の消火の仕組みを見てもそれは分かる。あれは泡状の物や粉状の物で火から酸素を絶っている。

 

 つまり火事の時は慌てず騒がず、冷静に消火器に手を伸ばすのが正解である。正解の筈なのである。

 

「無駄だ!その程度で魔女狩りの王(イノケンティウス)の炎を消すことなんて出来ない! だからやめろ、その消火器を降ろせ、魔女狩りの王(イノケンティウス)から外れた泡がさっきから僕の顔面に掛かってるのが分からないのか!? やめろっていってるだろ!」

 

 目の前で放火魔(仮)がなんか叫んでるけどそれどころじゃない。まさか消火器先輩を持ってしても消せない火が存在するとは予想外だった。一先ずはあの火を出している張本人である放火魔(仮)を妨害しているおかげか、放火魔(仮)改め中二病(仮)の出した物らしい魔女狩りの王(イノケンティウス)(笑)はそれ以上範囲を広げることはない。

 

 その意味は必ず殺す(キリッ)だってお。

 

 これはもう笑うしかない。いや目の前になんかヤバそうな炎の塊が迫ってるのは確かに怖いよ。俺の隣にいるミサカなんかもうほんとにヤバい、不思議クール電波妹系キャラはどこへいったのか、しゃがみこんで頭抱えて震えてる。ただミサカには悪いんだけど魔女狩りの王(イノケンティウス)はないだろと、放火魔(仮)もきっとこの街に住んでる能力者なんだと思うけどさ、そのネーミングセンスはない。確かに介旅君の量子変速と書いてシンクロトロンと読む能力名もちょっとカッコつけてる感じがあるけどさ、こっちはなんていったらいいのか学名?とでも言える感じだしたぶん能力に相応しい名前なんだと思うよ?

 

 対して魔女狩りの王(イノケンティウス)は特に意味なくカッコつけてる感じがもうね、炎系の能力が使えるなら普通にパイロキネシスじゃ満足できなかったのだろうか。放火魔(仮)も見た感じ介旅君と同い年か少し上ぐらいの年齢なんだろうからさ、もうそういった過去は黒歴史として心の奥底に封じ込めるべきじゃあないかね。それで夜寝る前に布団の中でふと思い出して叫びたくなるとこまでがテンプレでいいだろ。

 

 

 あ、そんなこと考えてたら消火器の泡の出が悪くなってきた気がする。これはマズイ……

 

「ぺっ、ちょっと口にはいったじゃないか。まあいい、どうやら燃料切れのようだね、なら大人しく死にゆくがいい! 祈りは捧げてあげるよ!」

 

「お前みたいな変人に祈られたくないよ! それよりお前のほうこそ自分の心配をした方がいいんじゃないのか?」

 

「なんだと?」

 

「まさかその異能が自分だけの専売特許だとでも思っているんじゃあないだろうな。だとしたらあまりにもバカらしくて笑えてくるぞ」

 

 嘘です。さっきまでは確かに馬鹿らしくて笑えていたけど、今はなんか恐怖で笑いしか出ない感じ。消火器先輩が役に立たなくなった今、冷静に目の前の炎の塊が怖い。どのくらい怖いかっていうと、となりのミサカと同じようにブルブル震えたいくらい怖い。まるで自分も異能者のように言ってみるけど、異能者なのは介旅君であって俺ではない。ハッタリもいい加減にしろといいたくなる。

 

「まさか貴様、魔術師!? この街に僕ら以外の魔術師が入っているなんて報告は受けていないぞ! 禁書目録(インデックス)が狙いか!? だとしたら容赦は出来ないぞ魔術師!」

 

 オーマイガッ、俺の台詞の何が琴線に触れたのは分からないけど、どうやら火に油を注ぐ結果になってしまったようだ。まさにその言葉の通りに目の前の炎の火力も増したような気がする。というか今度は魔術師か、妄想も大概にしないと将来痛い目を見るのは自分だということが放火魔(仮)にはいまいち理解できていないらしい。若さ故の過ちというやつか。

 

「やれ!魔女狩りの王(イノケンティウス)ッ!!」

 

 まさか介旅君に憑依してからこんな短期間の間に二度目の生命の危機に陥るとか、俺の魂的な物と一緒に死神でも憑依してるんじゃないだろうな。というか熱い!熱いよイノケンティウスさん! 出来ればもうちょっと離れてくれたら嬉しいんですけど、と思ってもイノケンティウスは段々と近づいてくるわけでこりゃあもうダメなんじゃあないだろうか。ここまで絶望的だといっそ清々しいくらいに冷静になってくる。介旅君すまない、ほんとにすまない。土下座したくらいで許されることじゃあないだろうけど君の身体の命はここまでのようだ。

 

 どうしようもないこの状況だが、ふと隣で震えるミサカの姿に気が付いた。ミサカはもともとは介旅君の部屋に転がり込んできた赤の他人で、助けを求めてきたのも向こうだ。でもこんな状況に陥っているのは間違いなく俺のせいだ。だったら、ミサカをここで死なすわけにはいかない。ミサカにはきっとまだ見ぬ家族だっているはずだ。それは介旅君にも言えることだが、時すでに遅しなので介旅君には諦めてもらうほかない、すまない、もし出来るなら俺の元の身体でもなんでもプレゼントしてあげよう、すまない。だからさ介旅君、死ぬ前にちょっとだけカッコつけさせてくれ。

 

 狭い通路では、俺も隣にいるミサカも間違いなく炎の塊に呑み込まれてしまう。だが俺が前に出れば、この身で炎を受け止めてみせるなんて言えないが、俺が先に死ぬことで放火魔(仮)が満足してくれれば。ミサカに到達するよりも前に放火魔(仮)は魔女狩りの王(イノケンティウス)とやらを消してくれるはずだ。あとはその隙をついて俺とミサカと放火魔(仮)の他にいるもう一人の人物にミサカを連れて逃げてもらえばいい。

 

 だから……

 

「あとは頼んだ、上条君」

 

 少ない言葉だが、上条君ならきっと理解してくれるだろうと信じて、俺は足を踏み出す。

 

 炎が迫る。

 

 一歩、感じる熱が増える。

 

 止まらない。

 

 二歩、肌が焼け焦げているように錯覚する。

 

 止まらない。

 

 三歩、死が見えた。

 

 

―――キイン

 

 

 と、その音で俺はふと我に返った。目の前にはあり得ないくらい頼もしい背中が見える。上条君だ、上条君が素手で炎の塊を受け止めている。

 

 やっぱり上条君はヒーローだったようだ。というか冷静に考えると超恥ずかしい、さっきまでの俺はいったいどこの二次創作の自己犠牲上等偽善主人公だと言いたい。死が見えた(キリッ)じゃあねえよ、また一つ黒歴史が増えたじゃあないか。死んでる場合じゃあないだろ俺。介旅君すまない、さっきは絶望の中で冷静になったとか考えてたけどあれ間違いだ。テンパってただけだったみたいだ。

 

 兎に角、無事生きていることを喜ぼう。

 

 上条君が素手で炎の塊を抑えつているけど大きな火傷を負っているようには見えない。やっぱり上条君は奇跡を起こせる聖人であったか。上条君ならきっと水の上を歩いたり出来るに違いない。

 

 これは勝ったな。安心して後ろを振り返るといつの間にか震えを止めたミサカがこっちを安心した目で見ていた。なんか勘違いしてそうだけど、この場で一番活躍しているのは上条君だからね? 俺なんもしてないからね? さっきまでのはただのハッタリでテンパってただけであることを説明しとかねばならない。万が一、俺と上条君を同列に扱われるようなことになっては堪らないからな。

 

 

 

―――end

 

start―――

 

 

 

 ミサカの目に映るのは明確な死であった。実際に目の前にあるのは巨大な炎の塊であるが、ミサカはそれを通じて濃密な死を感じていた。全ての生命が息絶える灼熱の炎。何人たりとも抗うことは叶わない。

 

 ミサカの本能が危険を感知した、逃げろと、生きろと、脳内で警鐘を鳴らす。しかし彼女の身体が動くことはない。理性が死に対して何も感じようとしなかった。彼女の知識には死が恐ろしい物であるという記述は存在しえなかった。誰もそれを教えてくれなかった。だが、彼女の本能は確かに死から遠ざかろうしている。

 

 この理性と本能の対立が、彼女をその場に縫いとめていた。本来、死ぬための実験動物として生まれた彼女に、死という現象はただの生物学的な現象としてしかインプットされていなかった。ただ彼女が記憶を失う少し前に、死という感情を経験した。そして生きたいという感情も経験した。だが彼女の中からその経験は失われてしまっている。その筈なのに、ただ知識だけで行動に起こせば、目の前の死に何ら感慨を覚える筈はないのに、彼女は死を恐れていた。理性が死ねと囁く、失われた筈の経験が死にたくないと囁く。ミサカはどうしていいか分からずに思わず頭を抱えた。

 

 彼女はその場に座り込み、頭を抱えたまま、理屈の合わない恐怖に震える。轟轟と燃え滾る炎の熱が、彼女の肌を刺激する。その熱は死そのものだ。死が近づいてくるにも関わらず彼女は未だ動けない。

 

 誰かが何かを話している、それも彼女の耳には明瞭には届かない。雑音の一つでしかない。何も感じられない、熱も音も、全ては死に上書きされていた。

 

 彼女にとって、死に震えていたその時間は那由多の時間にも感じられた。無限ではない、終わりはやって来た。目の前の死の気配が少しだけ薄らいだように彼女は感じた。それは間違いではない、彼女が死として感じ取っていた熱量が、彼女の前に障害物が出来たことで確かに僅かに薄まったのだ。

 

 そに事に気が付いて、彼女はいつの間にか伏せていた顔を上げる。そこには背中があった。半ば冗談半分で彼女がお兄様と呼んでいたその人物の背中があった。

 

 ミサカのお兄様、介旅は臆することなく、まるで解けた靴紐を結びなおすかのような当たり前の行動を取る様子で、炎に向かって歩みを進めていた。

 

 どうして?

 

 彼女は考える。知識はそれを可笑しなことだとは考えていない、本能が、知識と理性を抑え込み、駄目だと叫ぶ。何故彼は死を恐れないのか、何故彼は自分なんかを庇うようにして前に出ているのか、自分にそんな価値は無いのだと知識が訴えてくる、死んではいけないと本能が訴えてくる。

 

 またもや知識と本能がせめぎ合い、彼女は硬直した。

 

 動け、動くな、動け、動くな。死ね、死ぬな、死ね、死ぬな。

 

 自然と、知識は介旅を助けて自分が死のうする。対して本能は、介旅を犠牲にしてでも生きたいとする。

 

 介旅が死に近づいていく、何故? 答えは出ない。彼女には自分が死ぬか、自分が生きるかの二つしか存在しなかった。そこに彼女の意志は存在しない。もし彼女が真っ当な人間であったならば、誰かを生かす、その答えに辿り着けていたかもしれない。彼女にはその答えを出す事はまだ出来なかった。

 

 やがて、介旅に迫っていた死が、死すらも上回る幻想に打ち消されている様子を見て、彼女は安心した。死ななくてよかったと。

 

 彼女自身の意志が芽生えた、知識から基づく理論ではなく、本能によってもたらされる生存欲求でもない。人間という存在が持つ確固たる意志だ。それが人間を人間足ら占めている物であることを彼女は未だ理解出来ない。

 

 ただ、介旅が生きていたこと、それを喜んでいた。魔術師と勘違いされ、上条が超絶凄い聖人であると勘違いしているような介旅には、ミサカのそんな心境はこれっぽちも理解するこはできていなかったが。それでも彼女は介旅が生きているという事実を喜んだ。




 なんか原作キャラのイメージがいまいちつかめなくなってきたから、『とある魔術の禁書目録たん』で復習してきた。ミサカ妹のイメージが更に分からなくなった。
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