この素晴らしい世界にアンチ・スカルガール兵を! 作:真庭猟犬
「ギャアアアアアアアア!!!??? なんですかアレなんですかアレェェェェッ!!??」
ねるみんの絶叫が煩いがそれを気にせず走る。屋敷の探索もとい元凶潰しのために移動をしていた俺達だが、3Fに着いた直後に異常なまでに大きな鐘の音が響いた。鐘の音が途切れた頃には屋敷の廊下が下水道(色合いが緑かつ黴臭い)になり、目の前に巨大な口があったので逃げることにしたのだ。ちなみにねるみんは俺が背負っている。
「センカ! あれはいったい何なの!?」
「グリーディーワームだ! このエリアのボスか中ボスのどっちかだろうが、あんな大きさは実際始めてだ!」
追いかけてくる(這いずってくる)グリーディーワームの大きさは直径が3M。下水道自体は広さと高さは3Mを越えているが、その広さがグリーディーワームの大きさによる一種の恐怖に拍車を掛けていた。
「とにかく初級魔法でも中級魔法でもいい! あの口内に攻撃を与え続けろ! この先が行き止まりならほぼ死ぬぞ!」
「わかったわ!」
「わかったです。出でよ! 火の精霊イフリート!」
『オオオオッ!』
二人に指示を出すと即行動をしてくれた。俺も俺でスキルの応用で銃を取り出して撃ちまくっている。グリーディワームは攻撃を与え続けると口とその近くの部分を左右に振るだけで手ごたえがあまり感じられない。
「チッ、やっぱしぶといな」
「まずいです! ここから約1km先は行き止まりです!」
「マジか! …マリー」
「なに?」
「何でもいい、音がこのフロア全体に響く魔法はあるか?」
「音だけなら【エコー・ボム】があるわ。けど、何故音なの?」
「説明は後だ。もしかしたらこの状況から逃げれるかもしれないんだ」
「……、その言葉に賭けるわ」
「ありがとな。ビースト・エンチャント・バット!」
「エコー・ボム!」
動物の特徴を一定時間の間だけ対象となった者が使用できるエンチャントを付与し、マリーが発動した魔法によって生み出された音の反響を受信する。音に意識を集中すると、後方の一部の音だけが音程が違うのに気付いた。
「ッ、抜け道を見つけた。走るぞ!」
攻撃をした直後に一気に走る。元々動きがそんなに速くないクリーチャーなので、距離と時間はある程度稼げた。【ビースト・エンチャント・サーペント】と【スキルアップ・エンチャント】、【アナライズ・エンチャント】で目を特殊なサーモグラフィにして抜け道を見つけたが―――
「チッ、やっぱ罅すら入ってないか…!」
「ど、どうするんですか!?」
「壊すしかないわね」
「そういう、こと!」
ねるみんを下ろした後、抜け道を塞いでいる壁を拳でぶん殴る。エンチャントを付与しているが、殴った右手を左右に振るほどに痛い。
「つぅ…、堅っ。どんだけ頑丈なんだ?」
「早くしなさい! あいつが迫ってきてるわ!」
「センカさん。この壁って金属ですか?」
「? ああ。目に付与させたエンチャントで分かったんだが…」
「一か八か、出でよ氷獣フィレクア!」
ねるみんが召喚したのは真っ白な狼。だが、大きさは狼を3倍にしたもので爪や毛の一部は氷となっている。
「あの壁に向かって交互にスキルを発動するです!」
ねるみんの指示で召喚された二体が炎と吹雪を壁に放った。アニメや漫画で使われた金属を脆くさせるアレを再現しているようだ。紅魔族は今までに転生した日本人の影響を受けているからその知識を覚えていたんだろう。
「急がないとマズイわ! どんどん近づいてきてる!」
「ひえっ」
「交代だ! ヘカトンケイルラッシュ!!」
ねるみんを後ろにやり、両の拳で壁を連打する。ある程度脆くなってるとはいえ、やはりまだ硬いし、痛い。手の痛覚が麻痺してきた頃には皮膚が裂けて出血しているのが僅かな間に見ることができたが、それを無視して連打を続ける。
「これで、どうだ!」
もう開くのもままならない右手に無理矢理体重を乗せて壁を殴ると、殴った場所を中心とした穴が開いた。大きさは一番身長が高いマリーが立ったままでも通れそうだ。
「よし、逃げるぞ!」
気付けば後10mまでに距離を縮められていたため急いで穴を通る。通り抜けた先は今までの赤黒い部屋ではなく、やや古ぼけた洋室だった。
「……脱出成功だな」
「ええ」
「ですね」
床に座り、息を吐く。疲労感はあるが、両手には疲労どころか痛覚を含めた感覚全てが感じられなかった。マリーは冷や汗をハンカチで拭い、ねるみんはゼーゼーと疲労による荒い呼吸をしている。俺も俺で今から行う拷問染みた治療をしなければならない。……できればやりたくないが。
「センカさん。何しようとしてるんですか?」
「両手の回復だ。さすがにこのままじゃこの先生き残れるか不安だし、なにより攻撃手段が限られるからな」
「それならちょうどいい盟友がいますので、彼女に頼むのです」
そう言ってねるみんは聞いたことのない言葉で詠唱を始めた。召喚術は二回しか見ていないが、本来はこういった詠唱が必要なのか?
「彼女が行っているのは異世界で国の象徴とされる召喚獣の力の一端を使う術よ。今使おうとしているのはラファエルね」
「その召喚獣の名と国は心当たりがあるんだが…」
昔にサービス終了したゲームの世界がここと召喚術で繋がってるって想像できなかった。マリーは俺の言葉に下水道でのやりとりを思い出したのか、少しジト目で俺を見ていた。
「またあなたの過去話関連なの?」
「言っておくが、召喚獣と国自体は俺がいた世界の娯楽の一つの設定だからな。それに俺が知っているのは容姿や国の住人とかの設定だけだ」
「フル・ヒール!」
ジト目のマリーに言葉を返した後、詠唱が終わったのかねるみんが治癒魔法を発動した。ボロボロだった両手は元に戻り、両手を握ったり開いたりしても痛みが襲ってくることもなく、感覚が戻っていた。
「サンキューねるみん。おかげで助かった」
「それはどうもです。しかし、毎度毎度召喚獣の力の一端は結構魔力を持っていかれるです」
ねるみんは「うあー」と上を向きながら情けない声を出す。原作のゲームでは召喚者はバトル中に1体かつ1回しか召喚できていないが、この世界だと短時間で上級か中級魔法を数回発動させるのに匹敵するのか?
「…しっかし、この部屋は何か奇妙だな。クリーチャー共の気配はないし、部屋自体は若干埃臭いがゲームで言う所のセーフポイントっぽいな」
「ゲーム、ですか?」
「コンピュータゲームっつう機械で処理される娯楽だな。それもこの件が終わった後に説明するさ」
「まあ、いいですが」
『おやおや。生きている人間がこの部屋へ来るなんて珍しい事がありますね』
「え゛…」
「誰だ」
「返答しだいでは、分かってるわね?」
突然の第三者の声にねるみんは固まり、俺とマリーは敵意と殺気を出しながら構えた。
『敵意と殺意をむき出しにしないでください。私は一部屋分の広さの守りの結界を張る以外は何もできない地縛霊ですよ』
声の主は霊体となった細身の成人男性だった。見た目は20代後半だろう。この世界に長い間閉じ込められていただろうか、俺達の殺気を受けても苦笑で済ましている。
「で、その地縛霊が何の用だ?」
『純粋に生きている人間と話がしたいだけですよ。あ、その目で嘘かどうか確かめながら聞くのは止めてください。私はクリーチャーが入らないように結界を張るしかできなくなってますから』
「余り時間は割けたくないんだがな。こっちは元凶をぶっ潰すために移動と殲滅を行ってるんだ」
『なんと。あの者達の成れの果てを潰す、と』
「あなたの被害者側かしら?」
『都合のいい駒扱いされていたものですよ。私は』
「……まず聞かなきゃならないことができたな」
この地縛霊、何かしらの情報を抱えてる筈だ。記憶している情報を聞き出す必要がありそうだ。俺の視線の意図に気付いたらしい地縛霊はやれやれと首を左右に振った。
『いいでしょう。少しでも生前の罪滅ぼしになるならば幾らでも話します』
「じゃあ、まずは―――」
この屋敷と所有していた組織を聴かせてもらうぞ。
廃屋の地上部分は次回終了予定です。
あくまで地上ですが。