深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.04

「はい、今日から皆さんのお友達になるリアス・グレモリーちゃんです。皆、仲良くしてあげてね」

「リアス・グレモリーです。よろしく」

 

 にっこり愛想笑い。すると外人さんだー! などと子供達が騒ぎ出す。あぁ、わかっていたけど純粋な子供って凄い元気で力強いよね、なんて思わず遠い目をしてしまう。

 遂に始まってしまった私の幼稚園生活初日。先生に案内されて紹介された同年代の子供達は案の定、私に興味津々なようだった。やめて、視線が痛い、視線が熱い、視線が重い!

 それから質問攻めだ。どこから来たのか、外国語喋ってとか、髪触らせてとか、えぇい! 鬱陶しい! わらわらと群がって来るな! しかも髪引っ張った奴いるだろ! 子供だから加減が利かないんだとしても痛いもんは痛いんだよ! 教育的指導をしてやる!

 まぁ、そんなこんなで子供達に振り回されつつ、げっそりする私。こ、子供怖い……! 無邪気さが憎い! そして私を幼稚園に放り込んだあの魔王が憎い! ふつふつと燃えたぎる心に引きつった笑みが浮かびそうだった。

 とにかく子供とは元気一杯だ。子供の輪に加わって思う。鬼ごっこにかくれんぼ、童心を思い出すような遊びの数々に懐かしさを覚えつつ、まぁ、困った事ばかりではなかったよ。上手くやっていく自信はないけどね!

 そして閉園の時間が迫り、私は送迎バスに乗って帰宅する。まったくもって生活していける自信が無かった。ふふふ、これも全部あの魔王が悪いんだ……!!

 

「くたばれぇ! 鬼畜魔王ォ!!」

「おっと、危ない危ない」

 

 帰宅して、アジュカ様の顔を見るなり、私は全力で鞄を投げつけてやる。すると笑みを浮かべたまま軽く受け止められた。ぐぐぐ、むかつく!

 

「どうだった? 幼稚園は」

「子供って怖いですね……」

「ははは、リアスも子供だろうに。良い機会だから普通の子供らしさも一緒に身につけて来い。皆喜ぶだろうよ」

「無理、無理です……あー、もう、書斎に引き籠もって本を読んでたい……」

「引きこもりは感心しないぞ? さて、夕食を食べて、本格的に君の代価について支払って行こうじゃないか」

「本当ですか!?」

 

 脱力していた体を起こしてアジュカ様を見る。すると微笑ましそうにぽふぽふと頭を撫でられた。ぐ、ぐぬぬ! 恥ずかしい! だけどそれが目的でここに来たんだ! それだけで今日の疲れは吹き飛ぶ程だった。

 ちなみにアジュカ様の自宅なんだけども、自宅兼アジュカ様が『趣味』で作っているゲームの職場でもある。なので結構大きいのだけど、どこか庶民的というか、魔王の別荘にしたって、こう……普通というか。私はこの方が落ち着くんだけどね。

 アジュカ様との夕食は、アジュカ様のゲームの製作関係に携わりながらアジュカ様の従者を務めている方が食事を作ってくれた。同席しないのは立場もあるのだけど、仕事もあるかららしい。そういえばお兄様が趣味にかまけてばかりだ、ってアジュカ様の事を言ってたっけ。大丈夫なのかな、本当……。

 

「さて、リアス。大前提だが、お前には魔力が感知されない」

 

 夕食を食べ終え、場所を移した部屋で私とアジュカ様は向き合っている。そこで切り出された最初の話題に私は頷く。

 

「悪魔の中には生まれつき魔力が低い子もいる。だが、ない、というのはゼロではない、というのは前提として覚えて欲しい」

「はぁ……ないとは判定されつつも、皆無ではないと?」

「あぁ。例えば一般的に使用されてる悪魔の転移魔法陣。あれは転移者の魔力に反応して起動するが、魔力の必要量が足りなければ発動しないという事例もある。そういう奴は悪魔として失格の烙印を押されるんだがな、これは子供とか、稀な例な奴しかいない」

 

 そういえば“原作”でも一誠が最初の頃は魔力が子供以下で転移が出来なかったとか、そんなお話があったような……。

 

「で、リアス」

「はい」

「お前の魔力が無い、ってのは……完全にゼロだ」

「完全にない、って事ですか?」

「あぁ、欠片たりともな」

「それって……今後、私は悪魔としての活動が出来ないんじゃ……?」

 

 冥界にいた頃に悪魔の仕事については学んでいる。人間との契約を取る為に召喚に応じたり、魔法使いに雇われたりと。どちらにしたって転移用魔法陣は便利だし、使えて当たり前の筈。私が使えないとなると、その仕事に影響が出ると思うんだけど……。

 

「まぁ、そうだな。今のままじゃな」

「……方法はあるんですか?」

「あぁ、こっちでもお前の体の事について色々と調べてみた訳だ。サーゼクスの所の『僧侶(ビショップ)』がお前の血液と髪を基に調べた訳だが……ここからは現時点での推論だから、確実にそうであるという保証はないと思って聞け」

 

 思わず体に力を込める。私には魔力はない。けど、それがどうにか出来る手段があるなら、と思う気持ちが止められない。緊張しつつも、アジュカ様の言葉を聞き逃さないように意識を集中させていく。

 

「これはなんでお前に魔力が欠片も宿ってないのか、って話にもなるんだが……お前は突然変異みたいなものだ」

「突然変異?」

「あぁ。お前は厳密に『悪魔』ってカテゴライズして良いのかわからん生き物なんだよ」

 

 は? なにそれ、どういう事ですか。

 

「勿論、悪魔の性質は残してるが……悪魔でありながら別の要素が組み込まれたせいで悪魔とは言い難い体質を有したのがお前な訳だ。サーゼクスから聞いたが、お前、前世の意識があるんだって?」

「え、と。……前世というか、別の意識というか、私もよくわかってないんですけど」

 

 よくわかっていない、というのは半分嘘で、半分本当。私の前世は“ハイスクールD×D”という世界を創作物として知っていた誰か。

 けど、よくよく考えてみれば“私”ってどういう人なのか、そういった自身の証明と言える記憶は思い出せない。あまり深く考えていると気持ち悪くなってきたので首を左右に振って意識を切り替える。

 

「お前、マグレガーに面白そうな話してたそうじゃないか。魂と肉体のバランスによって特性という魔力が生まれるんじゃないか、って。お前の論で言うなら、お前は魂と肉体のバランスがぐっちゃぐちゃな所為で変異した悪魔、変異種と言っても良いのかもしれないな」

 

 わ、私の体、そこまで本来のものと違ってるの!? それは消滅の魔力どころか、魔力そのものがゼロになってるって言われても仕方がないような気が……。

 

「推測の域を出ないが、お前は肉体と魂が噛み合っていない。それを噛み合わせる為の齟齬の修正に3年の眠りが必要だった。そして最低限の齟齬の解消が出来たからお前は目覚めた。恐らく年を重ねる事によってお前自身はどんどん変質していくだろうよ」

「……悪魔じゃなくなるんですか?」

「かもな。お前の肉体は常に魂の影響に晒され続けてる。その変質の方向によってはお前は悪魔の性質を失うかもしれない」

 

 ……それは、少しショックだった。

 悪魔じゃなくなるという事は、この血肉を与えてくれたお父様とお母様、お兄様との繋がりを消してしまうように感じてしまったから。思わず胸を掴むようにして押さえる。

 

「さて、話を戻すぞ。言った通り、お前は悪魔とは言いがたい存在に変質しつつある。だが同時に悪魔である事も事実なんだよ」

「……えーと?」

「俺風に言わせて貰えば、お前はハードとソフトの規格が一致してなくて、ソフト側からハードを変異し、一致させる事で“何か”になろうとしている。だがハードそのものは悪魔がベースだ。ハードの規格に合わせた追加のソフトがあればお前に魔力を宿す事は不可能じゃない」

「ほ、本当ですか!?」

「おぉ、これで伝わるか。まぁ、お前が変異種だからって言う、お前だけの特性みたいなものだ。他者に適用出来る汎用的なものではないが……」

 

 そう言ってアジュカ様が机の上に何かを置いた。

 ……私は“それ”を二度見した。そしてその上で目を擦り、そして凝視する。

 

「……アジュカ様」

「何だ?」

「これが、その、私に魔力を宿す為の物なんですか?」

「あぁ、そうだ」

「どっからどう見ても魔法少女の変身アイテムみたいな外観なんですけど!?」

 

 赤を基調とした、金色の装飾と中央を宝石で彩られたブレスレット。とても可愛らしいデザインだが、冥界の休日の朝の番組で放映されてる魔法少女の変身アイテムのようにしか見えない。いや、むしろそのものだ!

 

「あぁ、デザインはセラフォルーとサーゼクスが考えた」

「魔王が揃って何してるんですか!?」

「まぁ、聞け。元々、お前程ではなくても魔力に乏しい者……例えば転生悪魔などに見られる事例だが、魔力が足りなくて魔法陣を使えませんでした、って言うのも困るだろ? それで改善の研究自体はされてたんだが、条件が厳しくてな」

「条件が厳しい?」

「自分に合致する魔力に近しいものでなければ、直接肉体に付与する場合は拒絶反応が起こすんだよ。特性の魔力を持つ家系であれば、それがなおに顕著だった。魔力ってのはそれ程に繊細なもので、自身の魔力を他者に移すというのは非常に難しい」

「魔力って実体のない血液みたいなものだからじゃないですか?」

「リアス、お前なかなか面白い発想をするな。確かにそうだ。魔力っていうのは本人固有のものだ。他者に移すなんて、そもそもが難しいって訳だ。それが出来れば元72柱のお家断絶なんかも無かったかもしれんな」

 

 かつての大戦前に存在していたという純血悪魔の72の家系。グレモリーもバアルもその1つだ。だけど、その中には断絶した家系も多いとはお義姉様との授業で知っていた。

 

「代替え案として魔力を封入して必要な分を貯めておく、というのも出来ない訳じゃないがコストが莫大にかかる訳だ。はっきり言って流通させられるようなもんじゃない。そもそも封入するのが主や、自分よりも血の近しい力のある血縁になるってのもハードルでな。何が起きるかわかるな?」

「……なんとなくは」

 

 ただでさえ悪魔は貴族社会。中には強制的に転生悪魔にされて隷属を強要され、はぐれ悪魔となるという実例がある。私にだって想像ぐらい出来ない訳じゃない。それは悪魔業界じゃ必要とされないよね……。

 

「つまり今まで魔力不足で悩む症例はあっても、改善には莫大なコストと悪魔の文化的には無用となり、研究そのものが廃れた訳だ。俺も多少なりとも関わってたしな」

「でも、じゃあそれがどうして私に? 私は変異体だって言うなら尚更、そんなものが使えないんじゃ……」

「逆だ、逆。お前だから活かせるんだよ」

「私だから?」

「そうだな。体が器だとするなら、お前の器は空な訳だ。だから魔力を注ぎ込めば、その量だけは魔力を得られる筈だ」

「でも拒絶反応を起こすから廃れたんですよね? その、変異体である私だから大丈夫って話なんですか?」

「そういうもんみたいだぜ? まぁ、詳しい事はマグレガーが中心になって解明してくれるだろう。こいつはそのデータを研究機関に送信する役割をしてるって訳だ。お前のバイタルデータの管理もしてくれるぞ」

「でも、デザインが」

「文句ならサーゼクスとセラフォルーに言ってくれ。俺は要望通りの形状で作成しただけだ」

 

 あのお兄様、今度顔を合わせたら覚えてろ。あとセラフォルー様もだ。

 

「このブレスレットに込められた魔力はジオティクス様の魔力が込められている」

「お父様の?」

「あぁ、幾ら血縁と言ってもサーゼクスやヴェネラナ様の魔力を封入する訳にもいかなくてな。バアルの消滅の特性持ちだしな」

「あぁ……だからお父様の魔力を?」

「そういう事だ。どれ、試しにやってみるか」

「……つけなきゃダメですか」

「ダメだ」

「他のデザインは」

「無い」

「今度作って欲しいって言ったら」

「どれだけ金がつぎ込まれたと思う? これ」

「もうっ! もうっ! どんだけ馬鹿なんですか魔王様達って! あんまりだぁ!!」

「ははは、諦めて身につけろ」

 

 渋る私の腕を取ってアジュカ様が腕にブレスレットをつける。最初は腕にぶかぶかだったのが、私の腕に嵌められた瞬間に縮まりフィットする。

 う、うぅ……何が悲しくてこんな変身アイテムみたいなものを腕につけないといけないの……怨んでやる、怨んでやるぞ……!

 

「で、だ。使い方はお前の音声で反応するようにしてある」

「音声!?」

「もうちょっと研究が進めばお前の意志で伝達だけで起動する仕組みも出来そうかもしれんが、それにしたってデータが必要だし、安全装置の意味も込めてるからな」

「……そ、それで、何を言えば良いんですか?」

「ブースト、って言ってみろ」

「え? ……ブースト?」

「んー、そんな曖昧な意志じゃ反応しないぞ? あぁ、声量が必要じゃなくて、意志を乗せろって言ってるんだ。お前のバイタルデータで計ってる部分もあるからな」

「……Boost!」

 

 意を決して叫ぶ。するとブレスレットの内側、つまり肌に密着している部分に痛みが走る。まるで小さな針、注射を刺された時ような痛みが走り、顔を歪める。

 

『Boost』

 

 するとブレスレットから音声が聞こえたけど……あれ!? お義姉様の声!? 本当、あのお兄様何やってんの! いつか絶対ぶん殴る!

 私が思わぬ事に憤慨していると、ふと、気付く。体の中を何かが巡るような感覚。血管を巡り、まるで私の体が満たされていく感覚。視界が変わる、感覚が変わる、感じる世界が違う。思わず手を握り、ゆっくりと開く。

 

「どうだ?」

「……感じる、これが、そうなのかよくわからないけど。私の体に巡る何か、固めたり、形にして……こう?」

 

 掌に流れる何かを集中させる意識をする。すると塊が生まれた。それは虹色に移り変わる光のような、けれど光ではない。どちらかといえば流体? うぅ、うまく形容出来ない。何コレ!?

 

『Empty』

「え? あ……消えた……」

 

 ふと、ぐっと体を巡っていた体が無くなってしまった。掌に生まれた七色のソレも萎んでいくように溶けて消えた。エンプティって言ってたから、空になったって事?

 その様を見ていたアジュカ様がいつの間にかバインダーを手にして、何かメモを取ってるし。

 

「1回分じゃこんなもんか。多分体外に魔力を放出したからだな。リアス、もう1回使ってみろ」

「……Boost!」

『Boost』

 

 ちくり、とした痛みが腕に走った後、再び私の体の中で巡る形容したがい何か。うぅ、これが魔力なのかな。なんというか、異物感が凄い。慣れないと気持ち悪くなって目眩がしそう。体がざわつくというか、凄く落ち着かない。頭がクラクラしてくる。

 

「そのままでいろ。時間を計るから。まぁ、その間に説明しようか」

「お願いします……」

「さっきからチクチクしてると思うが、お前の体内に直接魔力を注入する為のものだ。出来る限り痛みが少ないようにしているが、それに関しては慣れろ。注射だと思っておけ。で、これなんだが『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』って知ってるか?」

「……『神器(セイクリッド・ギア)』」

 

 『神器(セイクリッド・ギア)』。それは聖書の神が生み出した所持者に不思議な力を与えるシステム。人間にしか発現できず、悪魔がそれを狙って力ある神器持ちを悪魔に転生させるなんて事も起きてるって教えて貰ったけど。

 

「それは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』をイメージして作り上げた。お前に魔力を付与する事が出来て、一定時間魔力を維持し続ける。さっきみたいにお前が体外に魔力を出せばその限りではないがな」

「成る程……」

 

 機能とかは違うけど、動きとしては確かに似てるかも。

 ……というか、なんというかこれ、一誠みたい! ブースト、とかそのまんまだし。偶然なのかな、だとすると、なんというか変な気持ちになる。

 

「それを使ってる間だったら魔法陣も使えるようになるだろ。ただ、あくまで魔力を付与するだけでお前が魔力を使って戦ったり、って出来るようになる訳じゃないのは理解しろ。良いな? これでようやくお前は子供以下を脱却しただけに過ぎないからな」

「はい!」

 

 アジュカ様の忠言に私は勢いよく返答する。それでも、それでも一歩前進だ! 0じゃなくて1になった! 他の皆が100とか1000でも、0と1じゃ全然違う! 私は嬉しくて笑みを浮かべるのが止まらなかった。

 すると、またエンプティ、という音声と共に魔力が切れる。体外に出さなかったらだいたい3分ぐらいの持続時間らしい。1回で3分か……。

 

「これ、何回まで魔力を注入出来るんです?」

「パラメーター、って言えばパラメーターが表示されるぞ」

「……Parameter」

 

 私が呼びかけるように言ってみると、宝石部分から立体映像が出てきた。おぉ、凄い! あ、確かに残量とか書いてる。他にも何か計測してるメーターとかがあるけど、正直よくわからない。ちんぷんかんぷんだ……。

 

「お前が見るのは残量くらいだろうし、まだそれは試作段階だからな。あと、言っておくがそのブレスレットの開発にはグレモリーが多額の出費と、文字通りジオティクス様が身を削って完成したものだからな?」

「え?」

「注入する魔力はジオティクス様の魔力だと言っただろ? あの人が血を提供して、それを加工してるんだ。だからそのお前の魔力はジオティクス様の血そのものと思え」

 

 ぽん、と頭を撫でられる。私は思わずブレスレットへと視線を向けて、抱きしめるように胸元に持っていって逆の手を添える。目が熱くなって、涙がこぼれ落ちてくる。

 

「お父様……」

 

 愛されてる。本当に、本当に愛されてる。こんなに遠く離れても形を変えて私を見守ってくれてる。嬉しくて、涙が止まらないよ。

 身を削って、お金までたくさん払ってくれて、こんなどうしようもない体なのに娘として育ってくれる。あぁ、本当に、本当に私は、私は幸せものだ。だからこそ、強くなりたい。もっと、もっと色んな事が出来るようになりたい、なりたいんだよ。

 何度誓っても足りないよ、何度も誓っても届かないよ。私はいつになったらこの恩を返しきれるだろうか。一生かけてもきっと足りない。それが、嬉しいんだ。幸せだ。私は、幸せだ。

 

 

 * * * 

 

 

「……ふむ。まぁ、上手く“騙されて”くれたな」

 

 リアスがいなくなった部屋でアジュカは呟く。彼が操る端末にはリアスに渡したブレスレットから送信されたデータが表示されている。

 尚、あの腕輪の名称は元になった『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』から肖って『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』と名付けられている。

 

「血の一滴程度で3分は最低限の魔力を確保してるな。……しかし、バイタルに乱れがあるな? これは拒絶反応……、いや? 魔力酔いかね。慣れない異物を体に取り込んだからか。慣れていけば問題も無くなるだろうな」

 

 リアスにはジオティクスが血を提供している、とは言ったが、これは本当であり、そして嘘でもある。確かにジオティクスから血を提供して貰っているが、それは微々たるものだ。人間界で言うなら献血した程度のものだ。

 そしてリアスが取り込んだのは、その血の1滴程度の分だ。本来であれば欠片程度の魔力は体内に入り込み、リアスの力と結びつく事で3分も持続する魔力となった。

 確かに加工にかなりの金がかけられているのは事実だが、ジオティクス自身への負担は微々たるものだ。敢えて語らない事でリアスの思考を誘導した事は認める。ただ、悪いとは一切思っていないアジュカであるが。

 

「凄いな……」

 

 ほぅ、と感嘆の息を吐いた。リアスはジオティクスから提供された魔力の欠片を己の魔力にするまで増幅が出来る。これがリアスの内側に秘められている『α』の可能性か、と。

 どこまでいける? 『α』はどこまで効果を及ぼせるものなのか、限界はあるのか。リアスはどこまで操りきれるのか。そして、一体どのような形が生まれるのか。

 

「年甲斐もなく興奮してるな、俺は」

 

 いつかリアスに真実を語る日が来るだろう。そしてリアスが己の力を自覚する時が来る。その果てにリアスはどこまで高みに昇ってくるのだろうか。

 自分やサーゼクスの実力に届きうる可能性を秘めていると、サーゼクスの『僧侶(ビショップ)』は語った。

 自分とサーゼクスに続いて、あの子が並ぶ。その光景を想像し、なんとなくおかしくなってアジュカはくつくつと目元を隠しながら笑った。

 

「見せてみろよ、リアス。お前の“未知”を。全部、俺が解明してやるよ。お前が力を望むなら俺が作ってやるよ。それをどんな風にお前は昇華してくれるんだ? なぁ、リアス」

 

 

 

 ―――お前は、俺をどこまで楽しませてくれるんだ?

 

 

 

 

 

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