深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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※今話から登場するキャラは半オリキャラとなっています。ご注意ください。


ACT.05

 『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』を手に入れてからの私の生活はとても充実していた。

 まず朝起きたら幼稚園へ向かう。ここで他の子供達と遊戯に勤しむ。子供は元気の塊だ。よく走り回り、よく食べる。私もそれに合わせて走り回る。これで体に運動させて、少しずつ慣らして行こうと思ったからだ。とはいえ、悪魔なので身体能力は人以上、どちらかと言えば加減を覚える意味合いが強い。

 そういえば、転んで泣きじゃくる子供や、喧嘩が起きたら間に割って入るといった事をしていたらいつの間にかまとめ役みたいな扱いになっていた。いや、だって子供の泣き声は見ていて胸に来るし、喧嘩は良くないし、虐めなんてもっと良くないと思うしね、うん。

 そんな慌ただしい幼稚園での生活を終えたら送迎バスで帰宅。アジュカ様のお宅で従者にご飯を作ってもらい、アジュカ様と食べる。ここを拠点だとは言っていたが、本当にここにいる事が多いみたいでお兄様との違いを感じる。本当に仕事してるの? この魔王様。

 そして夕食が終われば私に宛がわれた部屋で、私は日課となった訓練を始める。『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』を撫でて深呼吸をする。そして目を閉じて意識を集中させながら、意志を込めて告げる。

 

「――Boost」

『Boost』

 

 お義姉様の声が当てられた『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』が声を発する。もう慣れて気にもしなくなった痛み。今となっては意識を切り替えるスイッチ代わりにも使っている程だ。

 体を巡る魔力を意識しながら深呼吸。全身に行き渡らせるイメージをしながら、今度は体内に溜まった魔力を己の体の中で流動させていく。まずは全身に広がった魔力を改めて己の腹に集めていく。じわじわと腹部に集まった魔力を今度は全身に循環させるように解いていく。

 深呼吸をしながら私は幾度もこの魔力の動きを繰り返す。これを無意識に行えるまで反復し、体に覚えさせていく。

 私は元来、魔力がない。故に魔力の感覚というのはとても新鮮で、そして未知のものだった。そして体外に放出されたら霧散して消える。長く魔力を留めようと思うなら、体に魔力を貯めておけるようにしなければならない。

 私の魔力は借り物であり、限られている。故に魔力の微細な扱いが必要だと感じたのだ。最小限のリソースで最大限の効果を。元来、魔力が持たない私が目指すとするならそうであるべきだと思う。

 付与された魔力が消えるまで私はこれを繰り返す。時間も計っていて、最初は3分だった継続時間が少しずつ、本当に少しずつ長くなっているのだ。

 

『Empty』

「……ッ……!」

 

 体の中から魔力が霧散していく。思わず眉を歪めるも、すぐに深呼吸をして息を整える。

 

「Boost!」

『Boost』

 

 再度、体に魔力を装填する。先程の感覚を忘れないように今度は体外に魔力を集めていく。広げた掌に虹色の光が集まっていく。魔力を集めて大きくなろうとする光。

 

「ま、だ……だっ!」

 

 それを大きくならないように圧縮していく。私の時限式の魔力では出力に頼れない。ならば、一発を確実に。故に圧縮する。体に覚えさせた流れを維持しつつも、体外に放出した魔力を散らさぬように1点に集めていく。

 

『Empty』

「くぅ、ゥ―――ッ!!」

 

 体内の魔力が無くなれば今度は圧縮に意識を傾ける。力を込めすぎてた手が震える。それでも意識を途切れさせぬように集中する。集め、固め、散らさず、回し、絡め取り、―――!

 ぱぁん、と弾けた。その衝撃に私は思わず尻餅をついた。集めていた魔力が勢いよく霧散したのだ。尻餅をついた影響で、そのまま倒れ込みながら息を整える。

 

「……ダメ、だ」

 

 魔力が圧縮しきれない。私の望む形にならない。魔力の操作にはイメージが必要だと言うけど、確かにその通りだと思う。

 魔力はイメージに酷く左右される。元々、魔力を持ち得ていなかった私は魔力の扱いに酷く困り果てていた。水のような、それでいて霧のような、掴めそうで掴めない。様々なイメージを考えてみたけど、目標の形まで至らない。

 

「……自己流だと限界かなぁ」

 

 そもそも固めて一発を確実に当てれればと思っていたが、雀の涙のような魔力では意味がないんじゃないか、と思うようにもなってきた。

 よいしょ、と体を起こして、服の汚れを払って私は自室を後にした。

 

 

 * * *

 

 

「で、俺の所に来たって訳か」

「自分が才能がないのはわかってるんですけど、何をどうすれば良いかわからなかったので、それだったら聞いても良さそうなアジュカ様に聞くのが手っ取り早いかなって思ったんで」

 

 アジュカは片手間に仕事を片付けつつ、リアスの話を聞いていた。リアスに『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』を与えてから3日程度だ。送られてきたデータは拝見しているが、顎を手で撫でつつアジュカは区切りのついた仕事から意識へと向ける。

 

「1回の魔力の持続時間の向上と、外部に放出した魔力の圧縮ねぇ」

「私は1回の魔力に限りがあるので、元あるものは余計に消費したくないんですよ」

「まぁ、わかるが。どれ、見せてみろ」

 

 リアスから『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』を外して、内部データを管理者権限で確認する。普段、リアスはユーザー権限で使用しているだけに過ぎず、リアスに欺瞞されている情報が隠される事なくアジュカの前に表示される。

 

(回数を重ねるごとに持続時間が延びてるのは……こりゃ、触媒の増幅そのものの効率が向上されているな。ただ血を与えるのではなく、リアスの意識が乗る事で効果が跳ね上がってるのか?)

 

 ただ血肉を与えただけの時よりも効果が上がっている、という事はリアスの意志が介在する事によって効果に変動があるようだ。

 ただ、アジュカが注目したのはどちらかと言えば圧縮の方だった。リアスが言うには魔力を集めようとしたら、一定のラインを超えると弾けて消えてしまうので圧縮が足りないんじゃないかと言っていたが。

 

(逆だ。魔力が圧縮されすぎて、自壊した勢いで弾けてるんだな、これ)

 

 これが生来の魔力であれば起きない現象なのだろうが、リアスの魔力は借り物の魔力だ。それ故に魔力が持つ限界値を理解していないようだ。

 魔力には性質がある。特性を持つ程の魔力でなくても方向性というのは存在するのだ。リアスのやっている事は確かに聞けば納得するが、込められている魔力に見合うか、と言えばそうではない。

 そもそもリアスの考えはわかるが、リアスが圧縮した所で、加減と限界値がわからなければ圧縮しても弾けるだけなのは当然の事だ。平時ならともかく、荒事になった時の暴発の危険性は大きい。

 

(やれやれ、魔力の注入は1回までと限定しておいて良かったぜ)

 

 無制限に注入した魔力で圧縮を行っていたら尻餅をつく程度で終わっていたかどうか。場合によっては弾けた影響で自爆し、自滅する可能性すらあった事にアジュカは頭を掻く。やはり本人の自覚がないまま力のコントロールを覚えさせるのは至難だ。

 リアスのやっている事はちぐはぐになってしまうのだ。魔力の扱いを学びつつ、圧縮させて一発を効率化させる。リアスの考えとしては間違っていないだろう。ただ、リアスが知らない所で、魔力は持続時間と同時に力そのものも強化されつつある。

 そんな魔力を圧縮しつづけようだなんて、限界値の感じられないリアスにやらせるべき方法ではない。

 

「リアス、圧縮は止めろ。お前じゃ無理だ」

「無理、ですか」

「魔力を効率的に扱おうとするコントロールの訓練は良い。持続時間も延びるのもお前にとっては有益だろう。だが圧縮はダメだ。魔力の感覚が掴みきれないお前じゃ逆立ちしたって身につかん」

「そうですか……」

 

 しょんぼり、と肩を落としてしまい、落ち込む姿は年相応に見える。どうしたものか、とアジュカは思う。アジュカとて、リアスからの相談が来る事は読めていた。そのように仕向けて状況を作ったのも事実ではあるが。

 

「……まぁ、そう焦るな。とにかく流動と維持の方に頑張ってみろ。お前は魔力を扱う事から始めたんだから、効果的なもの、なんて考えるな」

「はい……」

「そうだ、リアス。夕食を食べたらお前にお使いを頼みたいんだ」

「お使い、ですか?」

「あぁ。―――グレモリーの娘として、会っておいた方が良い奴がいるからな」

 

 

 * * *

 

 

 とん、とステップを踏むように光を放つ魔法陣の上に立つ。私はどこか昂揚した気持ちを隠しきれずに足下の魔法陣を見つめる。

 そう、これは転移用の魔法陣だ。私はこれからアジュカ様の言いつけで、この付近一帯の管理をしている“悪魔”との面会に向かうのだ。

 アジュカ様は別荘は隠れ家ではあるものの、公に喧伝されないのであれば隠す事でもない、とは言っていた。その伝言も含め、この地で暮らしていくなら顔合わせはしておいた方が良いだろう、との事でアジュカ様にセッティングされた場だ。

 今までグレモリー家で教育されてきた事を活かせるチャンス、そして魔力を使っての初めての転移だ。気分が高揚してしまうのも仕様がないと思う。

 

「――Boost」

『Boost』

 

 『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』から魔力を付与させて意識を集中させる。すると魔法陣の輝きが強くなり、私の体を浮遊感が包み込んだ。

 そして世界が段々とはっきりしていくような感覚。光が薄れていくのを感じつつ、ゆっくりと瞳を開く。蝋燭の明かりで照らされた室内。そこに一人の少女が立っていた。

 

「――初めまして」

 

 それは気品ある佇まいで、優雅に一礼をする。その仕草に思わず見惚れる程に手慣れていて、私はただ目を奪われていた。

 

「お初にお目にかかります。私は―――クレーリア・ベリアル。グレモリーの縁の地をお預かりさせて頂いてる者でございます。以後、お見知りおきを」

 

 ベリアル家。それは元72柱にも数えられていた純血悪魔の名門の一族だ。

 そして、この人がこの一帯を管理しているクレーリア・ベリアルという名の女性。

 そう、この土地の、将来は、リアス・グレモリーが収める筈であろう、土地で。

 ノイズが、走る。思い出さなきゃいけない事があって、けど何故か思い出すな、とも言われているようで。

 

(―――ぁ)

 

 パズルのピースが、嵌るように。

 あぁ、そうだ。思い出した。思い出してしまった。この人は。

 ……この人は、“原作”では死んでしまっている人だ。

 

「……? リアス様?」

「……ぁ」

 

 呼びかけられて、私は思わず息を漏らした。そうだ、挨拶しないと。

 けど、体は動かない。唇が震えて、足に力が入らなくなりそうになる。

 落ち着け、と自分に言い聞かせて愛想笑いを浮かべる。

 

「……初めまして。リアス・グレモリーと申します。お会い出来て光栄です」

 

 うまく、挨拶出来ただろうか。恐る恐る顔を覗き込む。

 すると訝しげな顔を浮かべているクレーリア様と目が合った。暫し、私の顔を覗き込んでいたようだったが、ふぅ、と溜息を吐いて。

 

「……うん、よし。堅苦しい挨拶は止めましょう。緊張しなくて良いのよ?」

「は、はぁ……」

「私はクレーリア・ベリアル! クレーリアで良いわ。私もリアスって呼んで良いかしら?」

「……え、えっと」

 

 急にテンションが切り替わったように明るく振る舞われる。人好きのしそうな気安さだ。きっとたくさん友人がいるんだろうなぁ、などと思ってしまう。思わず気が削がれて、肩の力を抜いてしまう。

 

「気にしなくて良いのよ、子供なんだから。貴方のこと、少しは知ってるから」

「……そうなんですか?」

「あー……まぁ、隠してもアレだし言うけど、あまり良くない噂でね?」

「あぁ、私が眠り姫とか、お兄様の残り滓とか、グレモリーの無能とか、そんな感じですか?」

「……そうね」

「その点でしたらあまりお気になさらず。事実ですので。ですからむしろクレーリア様が私に気を使う必要はございません。あ、ただ実家の方には口を慎んでいただければ、とは思いますが……」

「あー……いや、うん。なんというか、うーん。相手にし難い子なのねぇ、貴方は」

「……申し訳ありません」

「別に、謝って欲しい訳じゃなくて……あー、そう! 最初からこうすれば良かったのね!」

 

 意を決したようにクレーリア様が私の手を取る。それは握手だ。クレーリア様の柔らかい手が私の手を包み込むように握っている。思わず、目をぱちくりとする。

 

「握手! これで私達はお友達よ。よろしくね、リアス」

 

 華が咲くような笑みが広がる。あぁ、なんて、なんでこんな明るく、綺麗で、美しい微笑みなんだろう。目を奪われてしまっていた。ただ、彼女の勢いに、彼女の笑みに。

 思う。きっと私は生涯、彼女の笑みを忘れないだろうと。だってあんまりにも綺麗に笑うものだから。本当に、本当に綺麗な心の底からの笑みを見たから。

 

 

 * * *

 

 

「いやぁ、吃驚したのよ! だって突然、アジュカ様からお手紙が届いたんだもの! そしたらリアスが来るって! もー、魔王様からのお手紙に、土地でお世話になってるグレモリー家のご息女が来るって事で混乱したのよ!」

「た、大変だったんですね」

「大変も大変! ようやく準備が整って来てみたら、逆に萎縮させちゃったみたいだし……ごめんね? リアス」

「いえ、そんな……」

「あ、別に私相手に敬語じゃなくても良いわよ? 私、オンとオフはしっかり分ける方だから」

「は、はぁ……」

 

 マ、マシンガントーク過ぎる。ぺらぺらと言葉が出て行くなぁ、と思いながら私はクレーリア様を見る。

 灰色の髪に灰色の瞳、光の当たり具合だと銀色にもなるんだろうなぁ、と思う。体型は引っ込む所は引っ込んでて、出る所は出るといった女性らしい体型だ。

 どことなく、なんだろう。“リアス・グレモリー”を彷彿させてしまうイメージがあるのは考えすぎかな。髪の色も、性格も、ちょっと違う気がするし。

 ……正直、どう接すれば良いかわからない。この人は、原作でも大きなターニングポイントを担っている人だからだ。いっそ知らなければ、とかつて思った苦い思いが胸に広がっていく。

 この人は将来、エクソシストの男性と出会い、そして恋に落ちてしまう。それが粛正の対象となり、悲恋を迎えてしまう悲劇の女性。そんな未来を私は可能性として知っている。

 一方的に知るが故に、困っていた。この人は近い将来、死んでしまうんじゃないかと。

 

「クレーリア様、そろそろ……」

 

 喋り続けるクレーリア様に曖昧な相槌を返していると、クレーリア様と同じぐらいの年齢の女性が声をかけてきた。するとクレーリア様は時計を見て、あっ、と声を漏らした。

 

「そうね、そろそろ時間ね。顔合わせも済んだし、良しとしましょうか。リアス?」

「はい……?」

「また気軽に遊びに来てね。私からアジュカ様の所にお邪魔するなんて畏れ多いけど、リアスから来てくれるなら一向に構わないから」

 

 ねっ! と念押しされて、私は言われるがままに頷いてしまった。

 それから転移魔法陣を再び起動させて、私はアジュカ様の家へと戻ってきた。

 暫し、ぼんやりと立ち尽くす。何をする訳でもなく立ち尽くしていると、物音がした。

 

「よ、帰ってきたか。どうだった? ベリアル家のお嬢さんは」

「……」

「……リアス?」

 

 声をかけてきたアジュカ様に振り返る。すると、アジュカ様がぎょっとした顔で私を見た。何だろう、私、そんな変な顔をしていたのかな。

 

「リアス、お前……」

「はい……?」

「……リアス。今日はもう寝ろ。明日は幼稚園も休みで良い」

「え?」

「―――死人みたいな顔してるぞ」

 

 ……あぁ、そんな顔、してたんだ。

 クレーリア様にも、こんな顔を見せちゃってたのかな。それだったら、謝らないと。

 

「……アジュカ様」

「何だ? 良いから、さっさと休んで―――」

 

 

 

「―――これから死ぬかもしれない相手と、どうお話すれば良かったんでしょうね」

 

 

 

 沈黙が、場を支配した。アジュカ様は何も言わないで立ち尽くしてる。私は、ただ、ぼんやりしていて……。

 

「……寝ろ。いいから、寝ろ。リアス」

 

 そうですね。寝ないと。明日には元に戻らなきゃ。ちゃんと、ちゃんと考えないと。

 ―――何を? 私は、何もわからないまま、ただ、ベッドの中に入り込んで、そのまま一瞬にして眠りに落ちた。

 

 

 * * *

 

 

 リアスに宛がわれた私室の扉を開く。ベッドの上には身を投げ出すようにして眠っているリアスの姿がある。ベッドの縁に腰かけ、リアスの頭を撫でながらアジュカは溜息を吐く。

 帰ってきた時のリアスの顔は、それはもう酷い顔だった。生気が抜けきった、放心した者のような。光が濁り、それでも笑みだけを浮かべようとしている痛々しさ。そして……―――。

 

「……リアス、さっきの言葉の意味は何だ?」

 

 返る事がない質問。別に答えを求めている訳じゃない。けど、だが、それでもアジュカは言葉にしなければならなかった。

 

 

 

「お前、未来でも見たのか? それとも―――見えているのか? お前は、何を秘めている? 何を見てるんだ……?」

 

 

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