深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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※2章の後、3章が始まるまでの間に起きた閑話です。


Chapter:魔法少女☆リーアたん

「暑いな……」

「暑いですね……」

「まぁ、日本はそれでもマシな方だがな……」

「そういうもんですか……」

 

 アジュカ様がラフな格好でソファーで寛ぎ、私もその隣に座ってスイカを囓る。最初は寝転がったままスイカを囓ろうとしていたアジュカ様を見つけた時は、魔王がなんてだらしない! と怒鳴ってしまう程だった。本当、オフだからってしっかりしてください魔王様……。

 日本の季節は夏。余談だけども、私の誕生日は日本で言う春の季節だ。誕生日を迎えて少ししてから人間界での生活が始まり、春から夏に変わるのはあっという間だった気がする。その間に起きた大きな出来事が印象深いのもあったけど。

 私はかの“真なる赤龍神帝(グレートレッド)”と魂が繋がっている事が判明してからというもの、多分変わったのだと思う。どう変わったのかは実は私が自覚してないんだけども、周りからは明るくなっただの、焦りが消えただの言われるようになった。

 色々と自分が抱えていたものをぶちまけたから、ではあると思うんだけども。自覚のない変化の事を口にされても、正直首を傾げる事しか出来ない。皆が安心してくれるなら何よりだとは思うけど、釈然としない。

 

「もうすぐ幼稚園も夏休みだったか。冥界に帰るんだったっけか?」

「えぇ。元から帰るつもりでしたけど、帰ってこいって言われてますから。後は、クレーリアさんのお誘いでベリアル家にお邪魔したり、シトリー家にもお誘い頂いてますね」

「クレーリアとは上手くいってるのか?」

「お茶会するぐらいには」

 

 そう、あれから私はクレーリアさんとしっかりと関係を持った。とはいえ茶飲み仲間程度だけど。

 クレーリアさんは確かにこれから死ぬ運命に巻き込まれるのかもしれない。けど、だったら私が変える。変えて酷い事になるなら、その度、そんな運命を変えていくしかない。いつまでもうじうじしてられない。

 不安が無くなった訳じゃないけど、私は他人に頼るという事を改めて覚えた。お兄様然り、お義姉様然り、両親然り、アジュカ様然り。

 もう、私は自分がリアスじゃないから、なんて考えるのは止めた。そんな子は私の胸の中に、私の憧れの中にしかいない。いつまでもいない人と自分を比べても仕方ないし、憧れは憧れだ。いつか実現して、その先に進んで行けば良いんだ。

 皆、私のこの思いを後押ししてくれた。なら、足踏みは出来ない。その為に私は私の周りのものともっと向き合っていかなきゃいけない、と思う。

 

「クレーリアさんはこう、いい人ですね。ただ、ちょっと夢見がちな乙女な所があるというか。あぁ、確かに悲劇の愛に殉じてしまいそうだなぁ、なんて」

「おぉ、猪突猛進自虐娘が何か言ってるな」

「はいはい、猪突猛進で自虐ばっかりしてるうじうじ娘で悪かったですね。グーダラ魔王様」

「これでも仕事はしてるぞ」

「この前、お兄様から私経由で催促をされたのはどちらの魔王様でしたっけ?」

「……暑いなー」

「……そうですね」

 

 惚けた振りをして見せるアジュカ様に溜息を吐いて、スイカにかぶりつく。うん、甘くてみずみずしい。

 

 

 * * *

 

 

 変わったな、とアジュカはリアスを見て思う。

 リアスがグレートレッドと繋がっている事が判明したあの事件からというもの、当初は落ち込んだ様子も見せていたリアスだったが、気が付けばいつもの調子に戻っていた。いや、以前よりも落ち着きを見せるようになったとアジュカは思う。

 まず焦りが見えなくなった。何かにいつも追い詰められて、焦燥に焦がされていた雰囲気を纏っていたが今は成りを潜めている。前から真っ直ぐだった視線は、その視線の熱をそのままに落ち着きを秘めるようになった。

 サーゼクスやグレイフィア、両親といった身近な相手には呆れたような態度を取ったり、今までは良い子で取り繕うとしていた仮面が剥がれて自然体になったと思う。だが子供らしさが無くなった、と言えばそうでもなく遠慮がなくなったと言うのが正しいだろうか。

 その変化をグレモリー家の者達は好意的に受け入れている。無意識の面もあるだろうが、リアスは少しずつその姿勢を変化させている。今まではどこか踏み入らせようとしない壁のようなものを感じていたが、最早、その壁は感じない。

 それがリアスの“前世”、リアスだけが持っていた知識、情報、認識そのものだったんだろう。アジュカにとってはくだらないと断じた意識だったが、リアスにとって良い変化の切っ掛けとなったのならば構わない。それは自分も望む所なのだから。

 

「それにしても、お前も本当に落ち着いてられるよな。前は力が欲しい、力が欲しいって目がぎらぎらしてたのによ」

「研鑽して磨かれる力なら幾らでも磨きますけど、私の力はそういうものじゃないでしょ。使い方を間違えれば容易く世界を壊す。それこそ、お兄様やアジュカ様のように」

 

 リアスは次元の挟間にいるグレートレッドと魂が繋がっている存在だ。そしてその影響で血肉が変質し、リアスの心臓はグレートレッド曰く“グレートレッドの架空心臓”の触媒であり、リアスの血肉は無色の力を受け止め、留めておく為の空の器。

 リアスだけでは何の力も発する事も出来ないが、そこに別の力を混ぜる事で爆発的に力を増す事が出来る。確かに仕組みだけでいえば無尽蔵の強化を行う事が出来るが問題があった。

 それだけの強化を行ってもリアス自身にまったく才能がなかった事だ。折角の力も扱えなければ意味がない。素人に刀を持たせれば確かに脅威。だが達人が刀を持てばあっさり負ける。つまりその程度でしかない。

 

「いっそ前戦に出ないで後方に下がってしまうってのもあるがなぁ」

「研究職とか、後衛職ですか? 向いてませんよ、私には」

「猪突猛進自虐娘だしな……」

「いい加減怒りますよ?」

「否定しない癖に」

「だからって怒らない理由はありません。女の子に猪なんて止めて下さい」

「じゃあ、魔法少女」

 

 ぴくっ、とリアスの肩が上がる。まるで油が切れた人形のように首をこちらに向けて、完全に感情が消えた表情でアジュカを見る。口から零れた声はただ低く、感情が篭もっていなかった。

 

「殺します。そして私も死ぬ」

「セラフォルーはあれだけ乗り気なのになぁ」

「断固拒否します」

 

 頑なまでに拒否の姿勢を見せるリアスにアジュカは思わず笑いを零してしまう。

 ここまでリアスが魔法少女に対して頑なな姿勢を見せるのは、少し前に起きた出来事が原因である。

 

 

 * * *

 

 

「セラフォルー様が私に用事?」

「あぁ。この後、サーゼクス達とこっちに来るそうだ」

 

 それはリアスが幼稚園から帰宅してアジュカと共に食事を終えた後、アジュカからそう切り出したのだ。

 リアスが暴走し、グレートレッドの因子の存在が確認された後、いつもの生活に戻ってそう間も置かなかった頃だ。リアスは心当たりが無くて首を傾げているばかりだし、アジュカは含み笑いを隠しきれなかった。

 

「……なんか凄く嫌な予感がするんですけど」

「気のせいだ、多分な。あぁ、それからちょっと“悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”を貸せ。ちょっと調整入れておかないといけなくてな」

「はぁ……」

 

 それから1時間ほど時間を置いて、転移魔法陣が輝きを発しながら展開されてセラフォルー、サーゼクス、グレイフィアと続いて現れる。度々顔を出すけど、本当にお仕事大丈夫なのかと不安になるリアスだった。

 

「リーアースーちゃーん! お久しぶり!」

「この前もあった気がしますけど」

 

 セラフォルーはリアスを見るなり抱き上げ、そのまま頬をすり寄せる。リアスは抵抗らしい抵抗を見せず、どこか諦めた様子でセラフォルーの頬ずりを受ける。抵抗しても無駄なのはよくわかってるからだ。

 そうしている間にもサーゼクスやグレイフィアにも代わる代わる抱きしめられて、漸く床に下ろされた所で『悪魔の手(デモン・ヴェアリ)』を手にしたアジュカがリアスに声をかける。

 

「ほら、リアス。返すぞ」

「はい」

「実は、セラフォルーの発案でな。新しい機能を組み込んでみたんだ」

「新しい機能?」

「そう! そうなのよ、リアスちゃん! 貴方は、貴方は私の希望! 私の夢なのよ!」

「ひぃっ!?」

 

 アジュカの説明に首を傾げ、訝しげな顔を浮かべるリアス。だが、それはもの凄い剣幕と今にも涎を垂らしてしまいそうな程に息が荒いセラフォルーに詰め寄られて即座に引きつる。

 リアスの手を握り、リアスの手に収まっていた“悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”を装着させながら、熱っぽくセラフォルーはリアスに語りかける。

 

「リアスちゃん、これから私に続いて復唱してね?」

「あ、あの、セラフォルー様、こわ、はなれ……!」

「リピートアフタミー!!」

「イエスマム!!」

 

 はぁ、はぁ、と目が爛々と輝いて魔力まで揺らめき始めたセラフォルーにリアスは完全に萎縮してしまい、震えるように声を荒らげて返答する。突然の事態に助けを求めるようにアジュカやサーゼクス、グレイフィアへと視線を向けるリアスだが。

 そこにいたのは満面の笑顔で手を振っているアジュカと、隙のない姿勢でカメラを構えているサーゼクス、そして申し訳なさそうに目を逸らしているものの、カメラを手に持っているグレイフィアの姿があった。

 リアスの脳裏に警鐘が響き渡る。不味い、何が不味いかよくわからないけど、このままでは自分にとって良くない事が起きる、と。

 

「じゃあ、行くよ! リアスちゃん!」

「ひ、ひゃい」

「マジカル☆チェンジ!」

「はい?」

「リピートアフタミー!!」

「ひぃっ!? ま、マジカル、チェン、ジ……?」

「もっと大きく! 可愛らしく! 思いを込めて!!」

「マ、マジカル☆チェンジィ!!」

『Magical Change』

「へ?」

 

 “悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”が聞いた事のない音声を発して、リアスは光に包まれた。

 リアスが光に包まれたタイミングでセラフォルーは一歩離れ、まるでこれから起きる事が楽しみだと言わんばかりに手を握り合わせ、その瞬間を待つ。

 光が収まり、リアスが姿を現す。 その格好は、フリルでふんだんに飾った紅のドレス。キラキラと輝く装飾を身につけ、満面の笑顔を浮かべ、ウィンク1つ! 片手でピースをし、目に当てる。もう片方の手にはいつの間にか握られていた魔法少女が持つようなステッキ! 足は少し大きく開いて内股気味に! ポーズを決めたリアスの口から飛び出たのは、普段の彼女の声を3割増しほどに明るくした声で!

 

「魔法少女リーアたん☆、ただいま参上☆! 冥界の平和を守っちゃうぞ☆!」

 

 

 ―――ぱきん、と。リアスは、心の中でそんな音が鳴った気がした。

 

 

「あぁ、完璧……私の見立てに間違いはなかった……! マジカル☆レヴィアたんの後継者は貴方よ、リーアたん……!」

「おぉ……我ながらここまで仕事をするとは……」

「リーアァアアア! リーアたぁあああん! うぉぉおお、うぉおおおお!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、リーア、ごめんなさい、でも似合ってるわ、ごめんなさい……」

 

 感涙の涙を流し、魔法少女と思わしきキャラクターがプリントされたハンカチで涙を拭う。アジュカは腹を押さえてぷるぷるして、笑いを堪えている。サーゼクスが素早い動きでカメラのシャッターを切り、グレイフィアが目を逸らしながらカメラを回してる。

 

「えー?☆ なんですかー、これー☆ あれれ?☆ 口調までおかしいなー?☆」

「説明しましょう! リアスちゃん! いえ、魔法少女リーアたん!」

 

 満面の笑顔のまま、リアスは明るい口調のまま疑問を零す。そんなリアスに輝かしいまでの笑みを浮かべたセラフォルーが両手を広げる。

 

「リーアたん、貴方の力はかの“『真なる赤龍神帝(グレートレッド)』”の因子による、無色の力! そして力ある触媒と合わせる事で最大限に力を引き出す事が出来るわ! 私はそこに目を付けたわ! グレートレッドはそもそも夢幻から生まれたとされ、夢の力そのものと言っても過言じゃないの! つまり、貴方は夢の担い手! つまり、魔法少女の素質を備えていたのよ!!」

 

 熱弁だった。情熱を、愛情を、夢を、理想を、セラフォルーは感情を込めて叫ぶ!

 

「そしてアジュカちゃんが作成した“悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”に機能を加えたの! リーアたんが纏っているのはこの私、セラフォルー・レヴィアタンが持てる技術を全て注ぎ込んだ魔法少女装束! リーアたんの無色の力と合わさる事で、理想の魔法少女を体現する事が出来る!! そう、つまり貴方は! 私の理想の魔法少女!! これで冥界の平和も安泰ね! 次期レヴィアタンはリーアたん、貴方よ!!」

 

 満面の笑顔で、歯を煌めかせる程にセラフォルーは微笑んでいた。

 

「あははは☆」

 

 リアスは、いや、リーアたんは笑った。ただ笑った。満面の笑顔で。華が咲くような笑顔で。

 そして、手に持ったステッキを振り上げた。両手でしっかりと握り―――セラフォルーへと振り下ろした。

 咄嗟に飛び退いたセラフォルーがいた地点をステッキがえぐり取る。ぱらぱら、と破片が落ちる音を立てながらリーアたんは笑みを浮かべたまま、飛び退いたセラフォルーを見た。

 

「リ、リーアたん!? ど、どうしたの!? ……はっ!? まさか、私が思念を込めすぎたせいでリーアたんの思考にすら影響が!? 至高の魔法少女は一人で良いって訳ね! それでも、それでも私も魔法少女を志す一人! そう簡単には負けない……!」

「リーア・マジカル・ラブスター・ビーム☆」

「うきゃぁあああああああああああ!?」

 

 ポーズを取ったリーアたんが持つステッキから極太のビームが放たれ、それに飲み込まれたセラフォルーが吹き飛ばされ、その場に崩れ落ちる。

 倒れたセラフォルーを変わらぬ笑顔のまま見下ろしていたリーアたんはぐるり、と首を回し、未だにシャッターを押し続けるサーゼクスと、カメラを回しているグレイフィアを見た。

 

「リ……リーア……?」

「……あははは☆ あははははは☆ あははははははは☆ あははははははははははははははははははははははははは☆」」

「あぁ、やっぱり無理矢理止めておくべきだった……! ごめんなさい、リーア……! でも、似合ってると思うの……!」

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは☆」

 

 リーアたんから膨大とも言える魔力、いや、魔力とも言えない力、魔法少女パワーとでも言うべきか。キラキラと輝くエフェクトを身に纏いながらリーアたんはステッキをサーゼクスとグレイフィアへと向けた。

 サーゼクスは流石に不味いと感じたのか、一歩後退ろうとして、グレイフィアは後悔するように目を閉じて、これから自分に訪れるのであろう運命を受け入れた。

 瞬間、その空間が光に包まれた。ちゃっかり退避し、空間を隔離するように結界を展開しながら見物していたアジュカは腹を押さえて全力で爆笑していた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「いや、魔王二人に最強の『女王』もぶっ飛ばせるなら魔法少女でも良くね?」

「い・や・で・す! お兄様め……! 一体どこに私のあの時の画像を隠し持ってるのかしら……セラフォルー様もまだ諦めてないみたいだし……!!」

「たまにやってやれば良いじゃないか、魔法少女リーアたん」

「絶対に嫌です!!」

 

 

 * * *

 

 

「ふふふ……あの時は失敗したけど、私は諦めないんだからね、リーアたん……!!」

「またお姉様がおかしくなってる……グレモリーの子、可哀想……」

 

 

 どこかの純血悪魔の名門家系。そのお屋敷で、まだ出会っていない後の友人に憐れまれているなど、リアスはこの時は露ほども知らなかったのである。

 

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