深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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第3章 躍動の夢
ACT.01


 ――何者でもない私は、何になれるのかな?

 

 

 * * *

 

 

 噴水や手入れされた花壇や植木で彩られた美しい景観。ここはグレモリー本邸の中庭。私はそこでお父様とお母様とお茶を楽しんでいた。話題は主に私の人間界での出来事を面白おかしく両親に伝えていた。

 

「アジュカ様ったら普段はだらしなくて……オフとはいえ、魔王様なんだから、もっとしっかりして欲しいと思います。あんな姿見せたらどう思われるか」

「ははは、アジュカ殿もリーアには気を許しているんだよ」

「それは良いんですけど……」

 

 はぁ、と溜息を吐く。思い出すのは人間界では保護者の立場にあるといっても良い魔王様。普段から何を考えているかわからない方だったけど、一緒に暮らしてみて思ったのはもっとよくわからなくて、かなり適当だった。

 好きな事以外には興味がないんだろうな、と思う。オタク、って奴かな。一応、魔王だから身だしなみとか従者にはやらせてるけど、普段はかなりだらしない。寝転がってお菓子を食べたりしないで欲しい。掃除が大変だから。

 今、私は幼稚園の夏休みを利用してグレモリー家に帰ってきていた。そこで両親とこうしてお茶会をしたりするのが主な時間の過ごし方だ。

 

「本当、アジュカくんには感謝しかないわね」

「お母様?」

 

 ティーカップを置いて、お母様が微笑みながら私に言う。それは本当のほっ、とした様子で。

 

「貴方がこんなにも笑ってるんだもの。色々と悩んで、遠回りしたわね。私達」

「……お母様が悪い訳じゃないですよ」

「えぇ、わかってるわ。でも、どうしたら良いかもわかってなかった。ようやく親子になれた気がするの、私達」

「大袈裟です。私は、私はずっとお母様をお慕いしております。今までも、そしてこれからも」

「ありがとう。本当、私は幸せよ。本当に……」

 

 お母様は口元に手を添えて、穏やかに笑う。そんなお母様の微笑みを見て私も嬉しく思う。私はどれだけこの笑顔を曇らせたかわからない。それでも、手遅れになったり、取り返しのつかない事にならなかったのは周りに私を助けて、頼れる存在がいてくれたからだ。

 お兄様やお義姉様、アジュカ様、そして根気よく堪えてくれた両親。他にもいっぱい、いっぱい恩を受けた相手はいる。恩返しがしたいと思う。その為に何が出来るのか探していかなきゃいけない。強くそう思い直す。

 

「しかし、先の事を考えればリーア。お前はどうするつもりだ?」

「お父様? その、どうするつもりとは?」

「お前は強くなる、グレモリーの後継者になりたいとは口にしているがな。お前は女の身で、将来は婿も迎え入れなければならんだろう?」

「……ぁー」

「本来なら先の話で、お前にするのは早いかもしれんがな。先の事を考えて貰わなければな。それこそグレモリーを継ぐと言うのであればな」

「そうですよねぇ……」

 

 私、まだ4歳だけど……。でも、“原作”の事も含めて考えていかなきゃいけないとは思う。強くなる、グレモリーの当主として認められるようになりたい、というの勿論あるけど、悪魔の生は長い訳で。

 “原作”で起きた出来事が始まるのが、私の予想が合っていれば10年と少しぐらい。激動の時代とはなると思うけど、乗り切ればその先がある。それこそ結婚だったり、子供を産んだりしなきゃいけない、とは思うんだけど。

 

「……婚約とか実感が沸かないですね」

「精神が成熟しているとはいえ、お前はまだ子供……いや、成熟しているといっても女としてはまだまだだからな」

「アンバランスな娘で気苦労をかけます」

「そう思うなら少しはお淑やかになってくれると私もありがたいのだがな」

「ははは……」

 

 お父様のお言葉には思わず頬を掻いてしまう。……女として、かぁ。

 

「アジュカ様にときめいた事はありますけど……」

「ほう」

「立場とか考えると難しいですし、もう一人のお兄さんですね」

「ふむ」

「サイラオーグとはあれから会ってませんし……バアルの当主になるって言ってましたし、婿に来て貰うのも申し訳ないですよねぇ」

「ほぅ」

「人間界の男の子も、やっぱり子供ですし、恋愛の対象にはならないですかね……」

「成る程」

 

 こう考えると私の交友関係がなぁ。お兄様の眷属であるマグレガーは先生って感じがするし。アジュカ様は不覚にもときめいた事もあるけど、立場を考えると無理。サイラオーグもいい人だし、“原作”を考えると好ましい人ではあるけど、立場を考えると無理かな。

 グレモリー家は純血悪魔の家系。その純血を絶やさない為に、と考えているお上の方達の事を考えるとねぇ。自由な恋愛は難しそうかなぁ。そもそも恋したいとかいう気持ちは、別にそんなに無いわけで。想像が付かないなぁ……。

 

「リーア。こちらにいる間、社交界に出るつもりはないか?」

「え? 社交界ですか?」

「貴方……流石に気が早いんじゃ?」

「リーアはもっと交友関係を広げた方が良いかとは思うのだがな。それに今のリーアなら“無能”などとも言われまい。将来を見越せば関係の幅を拡げるのは良いと思うぞ?」

「それはわかりますけど……」

 

 社交界、貴族の付き合いって自信がない。腹の読み合いとか出来る自信がないし。アジュカ様にも言われたけど猪突猛進な面があるのは認めるし。かと思えばうじうじしてるとも言われるし、うーん……。

 

 

 * * *

 

 

「え? 私とサーゼクスの馴れ初め?」

「お父様が私の事、気にしてたみたいなの。将来はグレモリーの当主になるなら婿を選ばないとって。でも私、恋愛とかよくわからないし」

 

 私はオフのお義姉様を狙って話を聞いてみる事にした。お義姉様とお兄様の恋愛は劇になる程に有名だって聞いたし。参考になるかな、って。

 お義姉様はきょとん、としていた。私がこんな話をするのって確かに意外だったかもしれない。普段は何かしら強くなる事ばっかり考えていた訳だし。……改めて考えると傍目から見て危うい子だったんだろうなぁ、私。

 

「……そうねぇ、色々と大変だったわ」

「大変だとは聞いてたけど」

「それこそ立場があったもの、お互いにね。それでもあの人と一緒になれた事を後悔はしてないわ」

「……そっか」

 

 ぽすん、と背を向けてお義姉様に体を預けるように力を抜く。すると背後から腕を回されて抱きしめられる。目を閉じて息を吐いて抱いてくれるお義姉様の感触に身を委ねる。

 恋愛は、わからない。誰かを好きになっても、愛しても。恋なんて出来るんだろか、私。そもそも下手に恋をしたら婚約とか結婚とか面倒な事にならないかな……。

 

「リーア、貴方は余計な事で悩みすぎね」

「……そう?」

「貴方が考えている事を当ててあげましょうか? 恋愛出来るかわからないから損得勘定で考えてるでしょ?」

「……そんなにわかりやすいかなぁ」

「これでも貴方の姉よ。貴方のこと、見てきたからなんとなくわかるわよ。あぁ、また余計な事を考えてるんだろうな、って」

 

 頬を撫でられて、指で髪を絡め取られる。お義姉様の手の感触がくすぐったくて、それ以上に暖かくて、優しくてリラックスしてしまう。

 

「恋なんて、しろって言っても出来るものじゃないし、するものじゃないわ」

「そうだよね……婚約者に恋が出来たら楽だと思うんだよね。お互い、納得出来て、面倒がないと良いなぁ……」

「……貴方の知る“物語”だったら眷属の子と恋仲だったのよね?」

「ん? あぁ、うん。私も出会えるかどうかわからないけど。とてもスケベな子で、でも強くて直向きで、真っ直ぐな人だったよ。私も好きだと思ってる。今でもね」

 

 私の“原作”の知識については兄様達には在る程度、話してある。兄様曰く、情報が断片過ぎて確証として動くのは危うい、とは言ってたけど。実際にその通りになる可能性が高くても、確証を得られないと動きようもない、って。

 それで迷惑をかけたかな、と思ったけど、参考にしたり予防策を考えたり出来るから無駄じゃない、むしろ無駄にはしないとは言ってくれた。本来の“リアス”の眷属になる子についても探してくれるらしいし。

 その子達が私の眷属になるかどうか、それはわからないけど。でも、助けたいと思う。助けられる命なら。私には何も出来ないけど、それなら頼れる相手にお願いしてみる。どこまで手を尽くせるかはわからない、とは言われたけど、それだけで十分気が楽になった。

 

「“イッセー”かぁ……。物語の登場人物として好きでも、実際に会った事もない人に恋は出来ないかなぁ」

「ならお義父様が交友関係を広げてみなさい、と言うのも一理あるのよね」

「うーん、でも社交界とか自信ないよ……」

「貴方のマナーの覚えは私が教えてあげたのだから、胸を張りなさい。堂々としていた方がつけ込まれないものよ」

「腹の探り合いとか出来る気がしないよー……」

「グレモリーの当主になるんだったら、それも課題ね」

「お義姉様の意地悪」

 

 覚えなきゃいけない事も、やらなきゃいけない事もたくさんある。強くなる事だって必要だし、悪魔として、グレモリーの次期当主として生きていくなら貴族としての生き方も身につけなきゃいけない。

 少しずつ、焦らずに身につけて行こう。お義姉様の手を撫でられながら私はそう思った。社交界の事については前向きに考えてみよう。いつまでもグレモリーの汚点として扱われるのも嫌だしね!

 

「社交界、出てみようかな」

「良いんじゃないかしら」

「いい加減、お兄様が妹の事でいびられるのも、妹としては癪だしね」

「そうね。……だからといって、やり過ぎたらダメよ?」

「はーい」

 

 

 * * *

 

 

「それで、まさかすぐに社交界の出席が決まるとは思わなかったですよね? お父様、実は私の帰省のタイミングで企んでいたでしょう?」

「後はお前の返答待ちだったのだがな。はっはっはっ!」

「まったくもう……」

 

 ドレスで着飾った私はお父様の隣を付いて歩き回りながら会場を見渡す。豪奢に飾られた会場に彩り鮮やかな料理が並べられている。談笑している方々の会話を拾ってみると、やはり政治の話だったり、世間話だったりだ。

 一応、人間界にいる間も冥界の情報はアジュカ様に聞いたりして話題事態には困らなさそうだけど、問題は振る舞いだ。お義姉様から地獄のような扱きを受けたし、太鼓判は押されてるから大丈夫だとは信じたいけど……。

 

「おぉ、これはグレモリー卿ではありませんか」

 

 ふと、お父様に声をかけてくる男性の方に目が向く。黒髪の利発そうな男性だ。お父様も親しげに挨拶を交わす。

 

「これはシトリー卿、ご機嫌よう」

「シトリー卿? と言うことは、セラフォルー様の?」

「あぁ、リアス。その通りだ。シトリー卿、こちらが私の娘のリアスだ。リアス、挨拶なさい」

「はい、お父様。お初にお目にかかります、リアス・グレモリーと申します。以後、よしなに」

「おぉ、君が……。娘が君の話もしていたよ。その、迷惑をかけたね」

「あぁ……セラフォルー様からお伺いしてましたか」

 

 苦笑を浮かべて頭を掻いて申し訳なさそうにするシトリー卿に私は忌々しい記憶が掘り返されそうになって笑顔が引きつった。なんとか堪えた私の精神力を褒めて欲しい。

 やっぱり親の目から見てもセラフォルー様ってあれなのか。なんというか、苦労してそうな人だなぁ、と思ってしまった。いけない、いけない。

 

「セラフォルー様ともこれからも良いお付き合いをさせていただければと思います。趣味は……無理に押し付けられなければ」

「それは有り難い。娘の趣味については私もとやかくは言うつもりもない、分別は弁えてはいる内はね」

「はい。私も決してセラフォルー様を疎んでいる訳ではございませんので」

「ほぉ……?」

 

 シトリー卿が私を興味深げに視線を向けてくる。モノクルがよく似合っている人だと思う。そのモノクルの先の瞳で私を見つめた後、笑みを浮かべてお父様に向き直る。

 

「ふむ。グレモリー卿、とても出来た子ですな。些か、出席するにはお早いかと思いましたが、しっかりしている。ウチの下の娘にも見習わせたいぐらいですな」

「はっはっはっ、ソーナ嬢も卿に似て利発な子だと噂を耳にしておりますよ。リアスは親の贔屓目もありますが、しっかりしているのでね。良い経験になればと思って連れてきたのですよ」

 

 お父様に頭を撫でられる。そうしている間にお父様とシトリー卿は世間話に入った。お互いの領地の事や、政治の事、お互いの息子と娘の事。それからレーディングゲームの事などとか。

 私は気になる事以外は聞き役に徹していた。下手なことを喋ってボロを出すのは嫌だしね。喋ってくれる分には色んな事を知れるし。そう思いつつ、小腹が空いたのでお父様の服の手を引く。

 

「お父様、少しお腹が空いたのでお食事を取って参りますわ」

「む? あぁ、すまない。つい話に夢中になってな」

「いえ、お父様はこのままご歓談くださいませ。私一人でも大丈夫ですわ。給仕の方にお願いしますので」

「そうか。では、失礼のないようにな」

「はい」

 

 私はお父様とシトリー卿に一礼をしてから2人の傍を離れる。そのまま少し歩いて周囲を見渡す。確かに私ぐらいの年齢の子は見あたらない。いてももっと上、10歳ぐらいとかそれぐらいだろうか。

 周囲を観察しながら給仕の方に声をかける。するとちょっと戸惑ったような反応をされたけれども、まぁそうかもね。気にせずに小腹が空いたので食事を小皿に取って貰い、それを手に食事を取れそうな場所を探す。壁の隅とかで良いかな。

 

「ん……美味しい」

 

 流石、貴族の社交界。食べるものまで一級品だ。ここまで上品だとちょっと気を張っちゃうんだけどね。人間界の食べ物はその点、なんか落ち着いて食べられるんだよね。食事はゆっくり落ち着いて、リラックスして食べたいよねぇ。

 食べ終わり、お皿を給仕の人に片付けて貰おうと歩いている時だった。ふと会場に視線を送りながら歩いていると一人の青年と目があった。第一印象は野性的な青年。目が合ったので、お皿を片手に持っているけども、一礼をしておく。

 

「……その紅髪、グレモリー家の娘か」

 

 一礼をすると彼の方から声をかけてきた。身長があっちの方があるからなんだけど、なんというか威圧的な気を感じる。いや、ガンつけられても怖くないんだけどね? お義姉様とか、アジュカ様とかの方が何万倍も怖いし、うん。

 

「はい。リアス・グレモリーと申します。手が塞がっているので簡易な一礼となりますが、お許し下さい」

「ふん、別に一礼が気にくわなかった訳じゃない。お前ほど小さい子供が歩いているのが気になっただけだ。親はどうした?」

「ご歓談の途中に小腹が空いてしまいまして」

「そうか。……あぁ、そうだ。名乗りが遅れたな」

 

 髪を掻き上げるように手で撫でながら、青年は不敵な笑みを浮かべて名乗る。

 

「俺はライザー・フェニックス。フェニックス家の三男だ」

 

 ……ライザー!? ライザー・フェニックスって、“原作”でリアスの婚約者! 思わず目を見開いて驚いてしまう。おぉう、まさかここで出会うとは……。

 

「……貴方様が、ライザー・フェニックス様」

「あぁ。まぁ、覚えておけ」

「はい。ご丁寧にどうも」

 

 思わず興味深げに見てしまう。フェニックス家といえば、大戦が終わってレーディングゲームが盛んになった頃から台頭してきた、所謂成り上がりと言う奴で。その特性は不死。どんなに怪我を負っても再生出来るというチート。

 その分、精神的に打たれ弱いというか、そんな印象はある。実際原作だったら一誠に負けて引き籠もったりしたような……。

 

「……なんだ、さっきから。落ち着かんな」

「あ、いえ。すいません、不躾に……」

「ふん」

 

 あー、うん。機嫌悪くさせちゃった? これはさっさと離れた方が良いかな……。

 

「ご無礼、大変失礼しました。それでは私はこれで……」

「待て」

「はい?」

「……ウロウロされても気が散って叶わん。さっさと親の所に戻れ。本来であればお前の年齢だと社交界は早すぎる。礼儀の良さは評価するが、些か目に余る」

 

 ……えーと?

 

「……ご心配頂き、痛み入ります」

「ならさっさと戻れ。その食器は給仕に渡しておいてやる。俺の周りをウロチョロするな」

 

 ライザーが私の持っていた皿を奪い取って背を向けて行ってしまう。それを私は少し唖然としながら見送る。

 うーん、けどやっぱり年齢と見た目がネックかぁ。うろちょろしてたら気が散る、と言われたらここからはお父様から離れないでいた方が良いかな。そう考えつつ、私はお父様の下へ戻る為に歩を進めた。

 

 

 * * *

 

 

 お父様の下に戻ると、シトリー卿とは別の方々と喋っているお父様を見つけた。お父様が私に気付く前にお父様と会話していたと悪魔が私に視線を向ける。

 ……なんか嫌な気配を感じた気がする。その視線というか、なんというか気配というか。気のせいかと思いつつ、お父様の方に歩み寄ると、お父様も私に気付いたのか手を引いてくれる。

 

「おやおや、グレモリー卿。もうこの年で社交界デビューですか。些か、気が早いのでは?」

「ご配慮、痛み入ります。若輩の身は承知ですが、あまりお気になさらずにお願いいたします」

 

 あ、これ皮肉かな……。まぁ、それでも私の対応は変わらないんだけど。相手が礼を失したからって私まで無礼になってはいけない。今度は両手でドレスの端を持ち上げて一礼をする。

 すると少し訝しげな目で見られた。舐めるような目付きというか、侮ってる気配というのかな。なんか凄いわかっちゃうなぁ。あー、やだやだ。さっき食べた美味しい食事の名残が一気に無くなった気がした。

 

「礼儀は確かに弁えているようですな。これは失礼しました、過ぎた心配事でしたな」

「お心遣いだけ受け取っておきましょう。それに私の娘はこの年で社交界に出せるとグレイフィアからも太鼓判を押されております自慢の娘です。どうかそのようにお扱いください」

「ほぉ? かのルシファー様の『女王』にですか。それはさぞ鼻が高い事でしょうなぁ」

 

 はっはっはっ、と笑い合うお父様とお相手様。でも楽しそうじゃない笑いが空々しい。本当、社交界って疲れる場なんだなぁ、と思う。

 

「そういえば、リアス様はお体は大丈夫なのですかな? なんでも病を患っていたとか」

「えぇ、この通りでございます」

「そうですか。では、やはり“魔力もない劣等児”というのは根も葉もないやっかみの噂だったという事ですかな? グレモリー卿も大変ですなぁ」

 

 ……かちん、と来たけど我慢、我慢。

 

「リアス様が3年も眠られていたというのは有名な話題でしてな。グレモリー卿もさぞ、心を痛められたとか。心中、お察しいたしますよ」

 

 それは否定出来ない所だから私も黙るしか出来ない。多分、こっちの腹を探ろうとしているんだけど、別に痛い腹なんてないからなぁ。知られて困る事はあるけど。だから当たり障り無く、当たり障り無く。

 ここでしっかりと振る舞っておけば噂も多少は消えるだろうし。目立ちすぎない程度には対応させて貰おう。お父様とお兄様の心労も減らしたいしね。

 

「確かに父や母にはご迷惑をおかけしました。それ故に私は一心に学ばせて頂き、こうしてこのような場に出席しても問題ないとグレイフィアからも太鼓判を押されましたので。よろしければ、これからもこのリアス・グレモリーをよろしくお願いいたします」

 

 ―――私は、何言われても、負けてなんかやらないんだから。どんな酷い噂立てられたって全部潰してやる。

 

 

 * * *

 

 

 リアスが笑みの裏に激情を秘めつつも、表向き穏やかに対応している。そんな光景を、遠巻きに目にしている者がいた。

 

「ライザー? 何を見ているんだ」

「……父上」

 

 声をかけられたその者、ライザーは声をかけてきた自分の父親、フェニックス卿へと視線を向ける。手に持ったワインを口に含み、飲み干して一息を吐きながらライザーは不愉快だと言うように肩を竦めた。

 

「グレモリーの娘ですよ」

「あぁ、グレモリー卿の。まさかあの年でこの場に連れてくるとはな。見る限り、見事な振る舞いだ。今まで揶揄されていた事が余程腹に据えかねていたのだろうな、グレモリー卿は。今も見てみろ、あの誇らしげな顔を」

「確かに見事な礼儀ですがね。レイヴェルとあまり変わらない年でしょう? やはり場に不釣り合いでは? 気が散って酒が不味くなる」

 

 ふん、とライザーは鼻を鳴らす。そんなライザーの様子にフェニックス卿は肩を揺らす。

 

「グレモリー卿は余程、リアス嬢の事を揶揄されるのがお気に召さなかったようだからな。しかし、社交場に出すとは余程の自信と見た。これでは魔力がない、というのも真実かどうか」

「あぁ、それは真実だと思いますよ。アレには魔力の気配を欠片も感じない。……しかし」

「む? しかし……どうした、ライザー」

「……いえ、何でも」

 

 ライザーは首を左右に振って、一度だけリアスの方へと視線を向けた。そう、確かにリアスに魔力の気配は感じなかった。

 グレモリーの第二子であるリアスが魔力を持たずに生まれ、魔王となったサーゼクスの絞り滓と言われている事はライザーも耳に挟んでいた。だからこそ、リアスを見た時は疑問に思ったものだ。何故いるのか、と。

 実際に話してみて、礼儀も年の割にはしっかりしていた。連れて来て今までの噂を払拭したくなる気持ちもわかる程だった。

 

(……眼だ。あの娘、落ち着かねぇ目付きしやがって)

 

 理由は自分でもよくわからない。自分を見上げてくるリアスの眼が落ち着かなかったのだ。興味を持っていたのはわかる。だが、その奧で何を考えているのかがさっぱり読めない眼だった。少なくとも思うのは、子供がするような眼ではなかった。

 今もそうだ。穏やかに振る舞いつつも、その瞳の奧にうっすらと見える。周囲に向ける敵意にも似た熱を込めた視線。生意気で、気味の悪いガキだ、とライザーはリアスの事を評価した。眉を歪めて新たな酒を手に取り、一口煽るように呑む。

 

「……あぁ、やっぱり不味いな」

 

 

 

 

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