「……ぁー」
目が覚めて、私は呻き声を上げる。
グレートレッドと夢で会話してから数日が経過しているが、どうにもグレートレッドの言葉が脳裏から離れずに考えているのだけども、堂々巡りになっている。
「何者にもなれない私、何者でもない事を選んだ私、か」
自分で口にしてみれば、尚響くその言葉。私が私という意識を捨てていれば、或いはリアスのようになれていたのかもしれない。私が私じゃなければ。けれど現実は私は私のままで。
私は私でいる事を止められるのか、と問われればきっと出来ない。きっと何度でも私は同じ選択をするのだろうと思う。
「リアスになろうと思えばなれた……うん、そうだと思う。だって私が私である事を止めればリアスになれた。私はそうしなかった。じゃあ、そうしなかった私の願いの源泉って何? ……それがわからないと、私は進めないのかな」
はぁ、と溜息を吐く。グレートレッドの言う事はきっと正しい。嘘偽りがないだろう。そもそもグレートレッドに嘘を吐く理由も、必要性もない。なら、私が何者でもない事を選んだのも、願いの源泉とやらからも目を背けているのも事実だろうと思う。
けど、じゃあ何から目に背けているのかと言われればさっぱりわからない。私が私自身に目を背けている事。それは確かにあるんだろうけど、じゃあそれは何なのかまったく自覚がない。考えても心当たりが浮かばない。
「……んー、ダメだ。考えるの止めよう、切り替え切り替え」
今日も1日が始まる。足を止めてばかりではいられない。考える事は後でも出来るんだから。そうして私はベッドから出て、身支度を調えるのであった。
* * *
さて、本日のグレモリー邸での私のスケジュールですが、今日はお客様をお迎えする予定です。ご来訪されるお客様はクレーリアさんだ。最初は私がベリアル家に来訪する予定だったけども、年齢を考えてクレーリアさんがグレモリー家に訪ねる事になったのだ。
何でもクレーリアさんは土地を借りてる手前、自分からもご挨拶したいとの事で。本当に悪魔にしては性格が良い方だと思う。正直、変わり者として扱われても不思議には思わない。
「こんにちは、リアス」
「いらっしゃいませ、クレーリアさん」
一礼をして挨拶、するとクレーリアさんは私を抱きかかえてその場でくるくる回り出す。
「リアスのお洋服、可愛いー!」
「あの、クレーリアさん、目が、目が」
「あら、ごめんなさい」
くるくると回られて目を回していると、ぽす、と胸に抱き留められる。本当に陽気というか、明るいというか……。ウチの家族に近しいものを感じる。きっと仲良く出来るだろうなぁ。
そう思っているとお父様とお母様も顔を見せて、流石に最初からフレンドリーな様子は成りを潜めていたけども、しっかりと挨拶してた。優秀な悪魔はオンとオフで差が生まれるものなのかと非常に悩む。
両親への挨拶もそこそこに、クレーリアさんを私の自室へと招く。友達をこうして自室に招くというのはちょっとドキドキする。クレーリアさんは私の部屋を見渡して、ぽつりと呟く。
「……なんか女の子らしくない」
「うぐぅ」
「本ばっかりだし、本の虫? いや、でも内容も絵本とかじゃなくて参考書とかだし……本当リアスって変な子よねぇ」
返す言葉もなく、私は呻き声を上げる。確かに私の部屋に女の子らしい要素はない。精々お兄様が贈ってくれたテディベアや抱き枕ぐらいだろうか。それ以外は本で埋め尽くされている部屋なのは間違いない。
それも参考書の類だったりするから、確かに女の子らしくはないし、年相応ではないとは思う。思わず誤魔化すように苦笑を浮かべる。
「まぁ、だからお土産はこれなんだけどね」
「お土産?」
「えぇ、今日は一緒にこれを見ようと思って」
「何ですか?」
「――レーディングゲーム。気になるでしょ?」
レーディングゲームとは、悪魔の間で花形とも言われているゲーム。
先の大戦。それは悪魔、天使、堕天使が三つ巴になった大きな戦があった。それによってどの勢力も多くの命を失い、勝者もいないままに戦争は終わりを告げた。
これにより生まれたのが『
それがチェスを摸している事から生まれたのが、同じくチェスを元にしたゲーム、即ちレーディングゲームという事である。悪魔が数を減らさずに眷属への実戦経験を積ませる事が出来る。その開発者がアジュカ様である。まぁ、本人は作った後、管理してるだけと言っているけど。
今やレーディングゲームの成績は悪魔の爵位や名声に大きく関わっている。悪魔業界はわかりやすい力社会、力を示す事の出来るレーディングゲームはまたとない機会な訳で。
クレーリア様が持ってきてくれたのは、そんなレーディングゲームの映像記録だった。気にならない筈がない。そしてクレーリアさんが持ってきてくれた映像の内容を見て、同時に納得もした。
―――“ディハウザー・ベリアル”。その人のレーディングゲームの映像記録だ。
クレーリアさんの従兄弟で、レーディングゲームのランキングのトップだ。
異名は『
食い入るように見つめてしまった。そこにいたのは力の権化。ディハウザー様の力は現魔王にも匹敵すると言われている。私がいずれ並び、競い合う相手の一人でもあると言える。
まったく太刀打ち出来る気がしない。映像からでもわかる迫力、その力の偉大さ。そして単純な力だけじゃない。戦略もある。そして何よりも自信がある。絶対に負けないという気迫とも言うのか。
震える。心が震える。体が竦む、いずれ挑まなければならないだろう相手。その高みに私は震えてしまっていた。怖いのは当然だ、勝てる要素が今の私には見あたらない。だけど、それでも―――。
「リアス、リアス? もう、聞いてる?」
「ふぇぁ!?」
「もう! 聞いてないし! 無視する子はこうよ?」
「いひゃひゃひゃ!? いふぁい、いふぁいでふ!!」
いたたたた!? 思いっきり頬が抓られた。痛い、痛い!
私が痛がっているとすぐに手を離された。むすっ、とした不機嫌そうな顔で私を見るクレーリア様がいる。う、うぅ、映像に集中しすぎてまったく何も聞いてなかった。
「そこまで集中してくれるなら持ってきて良かったけど、流石に熱中しすぎ。ちょっと休憩しましょ?」
「ふぁい……」
映像の再生が停止され、私は改めてクレーリア様と向き直る。すると、いつの間にか新しいお茶が用意されていた事に気付く。
「グレイフィア様が煎れて行ってくださったのよ。気付いてなかったの?」
「…………まったく」
「やれやれ……私も人の事は言えないけど、リアスも筋金入りよ」
肩を竦めてみせるクレーリアさんに返す言葉がない。誤魔化すように新しく煎れて貰ったお茶へと口をつける。
「……ねぇ、リアス」
「はい?」
「リアスはさ、魔力がないって本当?」
声を潜めるようにして、真剣な眼差しでクレーリアさんは私に問いかけてきた。声を潜めているのは、それが聞いて良い内容なのか躊躇ったからのようにも思える。
私は、少し困ったような顔をしているのだと思う。どう答えたものか、と思いつつ間を置く。少し悩んでから私は口を開いた。
「えぇ。悪魔としては落第ですね」
「そう、なんだ……」
「感じてはいたんじゃないですか?」
「だからって、本人に聞くのとは違うわよ」
左右に首を振りながらクレーリア様は言う。そして、ねぇ、と言葉を続けた。
「リアスは、レーティングゲームが好き?」
「好き、と言われると……ゲームそのものが好きと言われるとちょっとまだわからないです」
「じゃあ、レーティングゲームを食い入るように見てたのは何で?」
その問いかけに、私は悩むように声を唸らせる。どう言おうかな……。
「いつか、そこに立つ必要がありますから」
「……そっか」
クレーリアさんが私の返答に口を閉ざす。互いに何も言わないまま、時間が流れていく。そんな空気の重さを感じて喉が渇く。お茶で喉を潤して一息。
……踏み込む? と私は一瞬考えてしまった。クレーリアさんがそもそも殺される原因となったのは聖職者の男性と愛し合ってしまった、という理由とはもう1つ別に理由がある。それは彼女が“王の駒”の存在に勘づいてしまったから。
“王の駒”は表向き、製造する事が出来ないという事になっている。だが、その真実は別だ。王の駒は実在する。だけど、その危険性から闇に葬られた。
“
『戦車』は力と耐久力を。『騎士』は素早さを。『僧侶』は魔力の底上げを。『女王』はその全てを強化する。
『兵士』は特になんの効果もないけど、敵陣に切り込む事でプロモーションを果たし、どの駒の特性も得られる。
じゃあ『王』とは何か、と言えば簡単。純粋な使用者の強化だ。それも莫大なまでの力を与える程に。それ故に危険視され、存在は語られる事は無かった。
そのほとんどが上層部に流れている、というのはアジュカ様にも伺っている。“原作知識”の事を話した際に確認として聞いておいた。いくつかは回収出来たものの、生産された数の分だけは回収出来ていないらしい。
そしてレーティングゲームのトップランカー達。純粋にその実力のみで辿り着いた者もいるが、多くの者が『王の駒』を使用しているという事実も。言ってしまえば八百長試合だ。不正の、上層部の思惑のままに回り続ける。その闇は余りにも深くて濃い。
……けど、私は知っている。
『―――それでも、と。あの舞台に立ちたいと、望んだ思いを俺は知ってる。俺が生み出したゲームで、だ。例え俺が必要以上に関わるな、と遠ざけられたとしても。悪魔の社会を欺き続ける闇があろうとも。俺が生み出したものでそう言ってくれる奴がいるなら、俺は最後までレーティングゲームと付き合い続けるさ。あのゲームは、悪魔にとっての希望になったんだ。それがどんな形でも、な』
アジュカ様の言葉を、覚えている。
全てを知り、干渉する事を許されず、しかし見守り続けよう、と。普段は見せない真摯な表情で告げたアジュカ様の気持ちを私は推し量れない。
どんな思いでアジュカ様がレーティングゲームを作ったのかはわからない。必要な事だった。そして悪魔にとっての花形となり、希望となった。
その裏で蠢く陰謀も、思惑も。アジュカ様は向き合い続けている。そこで起きた全てを目にして、受け止めながら。わかりはしない。その思いを理解するなんて、きっと私には無理だ。
それに力を求めて、その場に立ちたいという気持ちもわかる。それは憧れだ。憧れを形にしたいという願いだ。執着と言い換えても良い。そんな気持ちもわかる。
だからといって不正を肯定出来るか、と言われればそうではないけど。不正に手を出してしまう気持ちはわかる。私だって、そうするかもしれないから。力が欲しいから。それが誤った力でも、力が無いと何も訴えられない。
力だけで訴えるのも間違いなんだけどね。それはただの暴力でしかない。暴力による支配はただの圧制だ。それは私の望むものじゃない。
どうしようか、と思う。そもそもクレーリアさんが“王の駒”について探るようになったのはディハウザー様へのゴシップ記事が気に入らなかったが為に踏み込んでしまい、深淵に触れてしまった。
この人の愛は深いし、何より明快だ。後ろめたい事を良しとはしない。そして素直で、正直だ。こうして並べ立てると本当に悪魔とは思えない。けど、だからこそ彼女はクレーリア・ベリアルなのだと思う。身内への誹謗中傷を許せぬ程に、優しく強かで……。
死ぬには惜しい人だと思う。死んで欲しくないと思う。何が正解なんだろう。どうすれば良いんだろう。未来はもうわからない。自分で考え、決めなければならない。選択の重さに私は汗ばんだ手で拳をぎゅっ、と握った。
悩んで、悩んで、悩んだ末に私は伝えたい言葉を纏めて、クレーリアさんを呼んだ。
「クレーリアさん」
「ん? 何?」
「私は、ディハウザー様は本物だと思います」
私の言葉に、きょとんと目を丸くするクレーリアさん。けど、私は止まらずに言葉を続ける。
「私はディハウザー様がレーディングゲームでナンバーワンだと思います。結果だけじゃなくて、そうなる理由がある。そう感じた。だから、あの人は『
そう、私は。
「今は弱くて、何も届かないけど、いつか、いつか―――」
脳裏に過ぎるのは、たくさんのイメージ。
力を倍増し、赤き鎧を纏って王道たる“赤龍帝”。
力を統べ、自らの力へ変える覇王たる“白龍皇”。
愚直にも自分を鍛え抜いた、貫禄たる“獅子王”。
他にも色んなヴィジョンが浮かぶ。誰もが強かった。誰もが美しかった。誰にも憧れる程に私の心は震えていて、そして、私には力が許されている。それなら―――。
「――あの人に、並びたい」
映像で私を魅せてくれたディハウザー様も、その一人だ。だからこそ心が叫ぶ。憧れる、と。羨ましい、と。素晴らしい、と。美しい、と。私も、そうなれたら良いと。
「……魔力もないリアスちゃんが?」
「えぇ」
「強いのよ? とんでもない、吃驚するぐらいに」
「わかってます」
「それでも?」
「挑みます。そして、絶対に勝ちたい」
真っ直ぐに、クレーリアさんから視線を逸らさずに見つめて。
「どんな事を言われたって構わない。馬鹿にされても良い。笑われたって構わない。それでも思うように在り続ける事は止められそうにないんです。だって、憧れてしまったんですから。それが私にとって本当で良い。誰が何と言おうと、それだけは絶対に嘘じゃない。譲れない私の気持ちだから」
胸に手を抑えて、私は言い切る。……そこまで言い切って、はっ、となる。結局、何言ってるかわからないぞ!?
「ご、ごめんなさい! 急に変な事を言って!」
あぁ、その、違うんです! 本当はクレーリアさんはディハウザー様の下らない噂話とか気にしないで、ただ応援していれば良いとか、変な事を調べないで死なないで欲しいとか、そう思っただけなんです! 全然言えてないじゃん! 私の馬鹿!!
「――ぷっ、あはっ、あっはっはっはっ!」
私が自己嫌悪で頭を抱えていると、クレーリアさんが心底可笑しそうに笑い始めた。笑いすぎてお腹を抱えている。あぁ、涙まで浮かんでる……。
「あー……久しぶりにたくさん笑ったわ。お腹痛い」
「う、うぅ……」
「リアスは本当に変な子ね。最初会った時もそう。私を見て、凄い死にそうな顔をしてたのに、次に会ったらコロッ、と態度変わってて、今も凄い事を真剣な顔で言うんだもの」
目元の涙を拭いながらクレーリアさんは笑う。心底おかしそうに。まるで微笑ましいものを見るかのように。
「だから、本当なんだな、って信じられる」
「……ん?」
「リアスはいつも一生懸命で、嘘なんて吐けないんだな、って。これで騙されてたらリアスは女優さんね。お手上げよ」
「あの……?」
「そう。ディハウザー・ベリアルは強いのよ。レーディングゲームでナンバーワンの……最強の『
それは心底自慢するように、嬉しそうに。ディハウザー様の事を語るクレーリアさんがいて。私は思わず目を奪われた。私は、私は、何故だろう。その姿を……―――。
―――……“美しい”と思った。どうしようもなく、狂おしい程に。
あぁ、あぁ、やっぱり。やっぱり、死ぬべきじゃないよ、クレーリアさん。だから、ね。上手く言えなくて、もどかしいんだけど。届いて欲しいんだ。叶って欲しいんだ。
「それでも、私はディハウザー様を倒します」
「ふふふ、壁は大きいわよ?」
―――貴方に生きて、私がディハウザー様に挑む姿を見て欲しいって、そう思ったの。
* * *
―――強くなりたい。
何も強さとして誇れるものを持たない私だけど。
憧れている姿がある。鮮烈にまで焼き付いて、心が震えて、涙が出て、そこに辿り着けたらどれだけ満たされるんだろう、どれだけ幸せなんだろうと思える場所がある。
―――強くなりたい。
思いだけが膨れあがっていく。体が追い付かない。心も追い付かない。ただ願いだけが膨れあがっていく。まるで泡のよう。いつか破けて、割れてしまうんだろうな。
―――強くなりたい。
無くしたくないな、この思い。憧れたこの思いを消したくない。譲りたくない。私もなりたい。認められたい。そこに、立って、一緒に。
―――強く、なりたい。
心臓の鼓動が聞こえる。思いを収めた胸の奥で高鳴っている。
憧れていた。どこまでも憧れて、なれないと諦めて、何度も挫けて、泣いて、惨めに泣き縋って、自分には与えられていないものだったんだと何度も諦めて。私はどこにも辿り着けない。この想いは届く事はないんだって。
『どこまでも行けるさ』
声が聞こえる。赤い、赤い、赤い、大きな影の貴方。
何にもなれない私。何者でもない私。誰かの影、無形の夢。
私は、願いという我だ。願ってここにいる。誰かになりたいんじゃなくて、誰かに憧れる続ける私で選んだ、憧れた形を得なかった私。
なれた筈なんだ。だって強いんだもの。夢なんだもの。自由になる筈だ。なんでも、なんでも。それを信じられるなら、何にだって。
『願いの源泉』
「私の、願いはどこから」
『答えはお前の中に』
「私は、知っている」
『目を開け』
「私は」
『向き合え』
「私の」
『――……見ろ』
視界が開く。
赤い、赤い、赤い、大きな影。龍の神様、私の神様。私の夢、私を見る夢。
広がる。視界が広がる。たゆたう世界は広がって、私は見た。
蛍のような、星屑のような、七色に漂う光。言葉では言い表せぬ『
「―――綺麗」
『美しいか?』
「とても、綺麗」
『泣きたくなる程にか?』
「このまま、何も見えなくなっても良い」
『これは何だ?』
「わからない」
『目を背けるな。理解を拒むな。受け入れろ。目にして、感じた全てがその名だ』
「……これは、夢?」
『―――ようやく、ようやくだな』
赤い影が、笑った。
『我は夢幻より生まれし力、夢現を漂うあり得ざるがあり得る矛盾が体現。そこいて、そこに在らず。我とはお前であり、お前とは我であり、互いの夢を見る』
「私は、夢……? 誰の夢?」
『お前は、お前が望んだ夢。同時に我という夢の映し鏡。逆もまた然り』
「この光景も、夢?」
『夢だ』
「私も、夢?」
『お前も、夢だ』
「私は、こんなに綺麗じゃない」
『囚われるな、解き放てば良い。お前の憧れは、お前の願いは、お前の夢は―――我を通して、お前に見せている全てだ』
七色に光る幻想風景。あまりにも美しくて、涙を流してしまいそうな。これが、私?
『―――黙示録の赤い竜とは、何か知っているか?』
「え?」
美しいその光景を眺めていた私は、唐突に投げかけられた問いかけに戸惑いの声を漏らす。
『我は正確には生命ではない。夢が現を侵蝕し、現れたソレを黙示録の赤い龍と呼んだ。我は龍にあって龍にあらず。我は力、力は龍が象徴すべきものであり、力が龍という形を取った。我の発端は龍にあらず、力にあり』
「あなたは、力?」
『然り。我は龍であって龍ではない、しかし龍としてある認識、概念、そうであれと望まれたもの。我にとって認識こそが世界』
「あなたを、あなたとして見る。故にあなたはあなた」
『そう。では、再度聞こう。黙示録の赤い龍とは、何か知っているか?』
「……知らない」
『ならば知れ。黙示録の赤き龍、真なる赤龍神帝たる我が象徴するソレを』
唐突に、脳裏に流れ込むイメージ。
それは数多の者達の一生であった。7人の皇帝が治めた、とある国の歴史。
「これ、って」
『我は、認識より生まれた。黙示録の赤き龍が象徴するのは―――』
「――ローマ?」
『そして同時に象徴するものがある』
「サタン……?」
『そうだ。我は龍神でありながら、かつて在りしローマの象徴であり、サタンともされた。しかし、今となっては膨れあがった夢幻の塊。生まれはローマの象徴であり、サタンの象徴でもあり。キリスト教……つまりは、神の敵対者でもあったが故に我は龍としてあるのかもしれぬ。神の敵対者、邪悪の象徴。それは龍である。……今となっては些末事でしかないが。遠き過去、発端は発端でしかない』
「今の貴方は何者なの?」
『夢幻。泡のように生まれ出でて、終わらぬ泡沫。その認識で良い』
ただ、私は語る言葉に耳を傾ける。
『重要なのは、我が象る象徴はお前にも当て嵌められるという事だ。我が夢』
「……私は、サタンで、ローマで、龍?」
『しかし、何者でもない。あくまでお前の器は“空の器”。魂は“無形の夢”。それ故に我を鏡として映し出すお前の幻想風景』
「これが、この光景? この光景には、象徴があるの? 一体なんの象徴?」
『“シルクロード”』
「シルクロード……?」
『全ての道は通じている。お前の憧れは星だ。手の届かぬ光り輝く星。お前は星に照らされた形無き影。しかし星を生み出したのはお前自身。その道もまた然り、故に矛盾循環。名付けるなら―――“
その言葉を、胸に刻まなければならない気がした。
『―――
「イメージ……」
『お前の力は形は世界の縮小図、お前だけの
「わからないよ、私の世界なんて」
『道標はあるだろう? お前の頭上にはいつだって星が瞬いている。お前が照らした願いの光を受けて』
「私が輝いてるの?」
『美しいか? この夢は』
「……うん」
『この輝きがお前の思いだ。忘れるな、空の器に無形の影たる魂。されど、お前の起源は―――“
私は、光?
『世界の始まりも、また光だ。お前自身が光であれ』
「……輝けるかな?」
『今は何も知らぬ。お前は愚者だ。しかし、愚者は逆さにすれば賢者となり、やがて世界を知るだろう。故に象徴を持て。意識しろ。無形では、無色のままでは在るだけだ』
……ふと、光が閉ざされていく。赤い影、赤い貴方が私を包み込むように覆い隠してしまう。
『少し、刺激が過ぎたか。今は眠れ。意識せぬ夢は泡沫、お前の顕在意識には根付かない』
「……ねむい……つかれた……おはなし、ながい……」
『あぁ、あぁ、眠れ。だが、忘れてくれるなよ。この輝きと共に我等はある。見せてくれ。魅せてくれ。共に……―――』
* * *
――……目が覚めて、呆ける。
素敵な夢を見た気がした。でも、まったく覚えていない。
涙を拭いながら思う。どんな夢を見ていたんだろう。そういえば、グレートレッドが私と繋がってるなら、グレートレッドなら私の夢も見てるのかな。
今度、グレートレッドに聞けば教えてくれるかな……? そんな事を思いつつ、私はベッドから起きた。今日も1日が始まるから。