今日の身だしなみは自分でも入念な程だと思える。いつぞや社交界に参加した時よりも身だしなみに気を使っているかもしれない。
自分で選んだこれだと思う服を身に纏い、姿見の前で確認。自己採点、良し。鏡の前で意気込みをして私は自室を後にする。
今日はグレモリー邸を出てのお出かけである。その行く先となれば私の気合いも入ってしまうというもの。
今日の私の行く先は――シトリー家、つまりセラフォルー様のご実家だ。以前からセラフォルー様から訪問のお誘いはあったのだが、こうして叶う事が実現したのである。
シトリー家にお邪魔するという事は、つまりは“あの子”、“原作”ではリアスの親友でもあったソーナ・シトリーとも出会えるという事だ。不思議と心が踊った。私はもうあのリアスとは違うが、元々似たような境遇・立場の子なのだ。是非とも仲良くしたいと意気込んでしまうのも仕方ないだろう。
逸る気持ちに足が早足となる。今日は私を送り迎えをしてくれるのはお義姉様だ。既に用意を調えて私を待っていたお義姉様に向けて、私は手を振りながら駆け寄った。
「グレイフィア、お待たせ」
「お待ちしておりました。リアス様」
「それじゃあ行きましょうか」
そうして私達は、グレイフィアの転送魔法陣によってグレモリー邸から出立する。
転送による形容しがたい感覚に身を任せていると、肌に触れる空気が慣れたものから新鮮な未知の感じる気配に変わる。
目を開くと、そこにはグレモリー家と比べても遜色ない程の豪邸が聳え立っていた。見慣れたとはいえ、本当に悪魔の住まう住居って大きいよね。いや、権力を示すのにも必要なのはわかるんだけどねぇ。
「リアス・グレモリー様ですね。お待ちしておりました」
声をかけられたので振り向くと、そこには執事の格好をした壮年の男性が立っていた。シトリー家の扉を背に見事な一礼をしてくれる。私も倣うようにして一礼。後ろではお義姉様でも一礼する気配を感じる。
「リアス・グレモリーと申します。本日のお招き、心よりの感謝を」
「セラフォルー様がお待ちでございます。どうぞ、こちらへ」
執事の案内を受けて私はシトリー邸の中を進んでいく。主の趣味が反映されているのか、グレモリー家と異なる趣の内装に思わず目を取られてしまう。
そうして案内されたのは客間と思わしき部屋。執事が扉を開いて、中へと通されると見知った顔が飛び込んできた。
「リーアちゃん! お久しぶり!」
「ぐぇっ!?」
体に浮遊感が襲い、そのまま持ち上げられてぐるぐる回転される。またこのパターン!?
「ふふふ、今日は心行くまで魔法少女について語り合うじゃない、リーアちゃん……はぁ……はぁ……っ!」
「目が……目が危険です……! セラフォルー様……!! いいから離して……!!」
キスされるんじゃないか、というぐらいに私を抱きしめて顔を近づけて来るのはセラフォルー様その人。この人、会う度に悪化してるんじゃないの!? 私に何を見出したか知らないけど、私は魔法少女なんてやーらーなーいー!! あんな思いはもう嫌だー!!
「お姉様! お客人の前で恥ずかしい真似をしないでください!!」
と、セラフォルー様の背後から女の子の声が聞こえた。なんとか視線を向けてみれば、そこには可愛らしい黒髪の女の子がいた。どことなくセラフォルー様と似た面影を感じる。おぉ、まさかこの子が……!
私を抱きしめていたセラフォルー様は一瞬硬直し、すぐさま私を下ろして一歩離れた。あはははー、と誤魔化すように笑って視線を逸らして誤魔化しているけれども、セラフォルー様。そろそろ私の背後のお義姉様がヤバイ気配を出しているのに気付いてね?
「もう……。申し訳ありません、こんな姉で……」
「いえ、そんなご丁重に……」
「私はソーナ・シトリーと申します。お姉様からお話はお伺いしております」
「リアス・グレモリーです。こちらもセラフォルー様から聞いていましたわ。可愛い妹がいるのだと」
はぁー、やっぱりこの子がソーナなんだ。凄い、この頃からでもはきはきと喋ってしっかりしているし。優等生、って感じがもう出ているのがわかる。でも生真面目で、セラフォルー様には振り回されてしまうんだろうな、とも感じてしまった。
私は笑みを浮かべてソーナに手を差し出した。差し出された手を見たソーナも手を出して、私達は握手を交わした。
「私の事、リーアで良いわ。同い年だし、堅苦しいのはここまでにしましょう?」
「……わかりました、リーア。私もソーナと呼んでください」
「えぇ。会えて嬉しいわ、ソーナ」
本当に嬉しい。原作補正も勿論あるけど、同じぐらいの年の見た目でこうもはきはきと喋ってくれる子というのはそうそうにいない。幼稚園の子達と比べるのはどうかと思うけど、なんというか気心が知れて楽だなぁって。
するとソーナがちょっと戸惑ったような様子で顔を背けたけども、あれれ? う、うーん。初対面だから出来るだけ好印象でお付き合いしたいんだけども……。
「むーっ……わかってても、わかっててもリーアちゃんばっかりずーるーいー!」
「へ?」
「ソーナちゃんは私の妹なんだからね! そこんとこ弁えてね、リーアちゃん!」
「はぁ……?」
つまり、どういう事? 首を傾げていると、セラフォルー様の耳をお義姉様が勢いよく掴んで、うわ、捻った!? 捻ったよ、お義姉様!?
「セラフォルー様、少々お話をよろしいでしょうか?」
「いたたたっ!? ぐ、グレイフィアちゃん、耳が、耳が千切れ! 引っ張らないでー! いーたーいー!!」
「リアス様。ソーナ様と暫くご歓談ください。私はセラフォルー様と少し“お話”があるので」
「あ、はい」
思わず察した。お義姉様に耳を引っ張られたまま退室していくセラフォルー様を見送って私は渇いた笑いを零しつつ、ほっ、と息を吐いた。嫌いではないけれど、あの人は特に苦手。ちょっと心構えの時間が欲しい。
「本当に、お恥ずかしい姉でごめんなさい……」
すると、ソーナまで縮こまってしまった。むぅ、これはいけない。
「セラフォルー様はあれで良いのよ。とても明るくて、魅力的な女性だわ。趣味にまで口は出さないけれども、分別を弁えてくれればね」
「……リーアは優しいですね」
「そうかしら? 自分だと、よくわからないけど」
くすっ、と笑って私はソーナに手を差し出した。
「お友達になりましょ、ソーナ。まずは……何から話しましょうか?」
* * *
ソーナ・シトリーは伝聞でリアス・グレモリーの話をよく聞いていた。
主に姉が語るリアス・グレモリーの事であったが、他にも伝え聞く話は多い。曰く、グレモリーの眠り姫、サーゼクスの絞り滓、魔力を持たぬ劣等児。どれも酷い噂話ばかりであった。
一方で、姉が語るリアスは芯の強い、されど運命に翻弄されてしまった、けどそれでも負けずに前を向いている強い子だと聞いていた。……他にも聞き流したくなるような評価があったのはとりあえず棚に上げて置くとして。
ソーナ・シトリーにとってのリアス・グレモリーの第一印象は大人びた子だった。喋り方から振る舞いまで、大人のようにしっかりとしていて、礼儀正しく、それでいて姉達とも対等に付き合うかのように振る舞っている。
ソーナにとってその姿は、とても同い年とは思えなかった。容姿の美しさもさる事ながら、その仕草の節々にも自分を気遣うような雰囲気を感じる。リアスの暖かみのある真摯な態度にすっかりソーナは飲まれていた。
「そう、ソーナも本を読むのが好きなの。どんな本を読むの?」
「図鑑とか……」
「良いわねぇ。生き物の事を調べると、自分との違いとかわかって。知らない事があるとどんどん知りたくなって、それが楽しいのよ」
「リーアも本を読むの?」
「えぇ、読むわ。お義姉様からは本の虫、って言われた事もあるぐらいよ。ウチの書庫にある本も全部読んじゃって……」
「書庫の本全部!?」
ソーナの驚いた様子に、少し誇らしげにリアスは微笑む。
それも絵本といったものではなく、参考書といったものを読んでいると告げるとソーナは更に目を丸くするしかない。魔力の才能の代わりに頭脳が優れているのではないか、と思うほどだ。
それをソーナが告げると、リアスは罰が悪そうな顔をして指で頬を掻く。
「いや、身内から私、才能がないって言われてるから……」
「才能が、ない……?」
「魔力も、頭が良い訳じゃなくて、特別に優れた所って無いんだよね」
だから頑張るしかないんだ、って微笑むリアスにソーナはただ圧倒されていた。
才能がないから、その分頑張る。その頑張った分、書庫の本を読み尽くしてしまったという行動力に圧倒されるしかない。自分が出来るか? と言われれば、きっと出来ないと思う程までに。
才能がない、とリアスは笑って言う。その表情にソーナは姉のセラフォルーが言っていた言葉を思い出す。運命に翻弄されながらも、前を向いている子なのだと。
リアスの瞳に淀みはない。ただ真っ直ぐに視線を向けていて、陰りが見えない。ただ、ただ凄いと思わされるばかりだった。
「ソーナは凄いね」
「え?」
「同年代の子とこんな風にお話したの、初めてだから。ソーナは頭の良い子なんだね」
「そ、そんな……」
「私、要領が悪いみたいだから、ソーナみたいに頭が良い友達がいると助かるかもな。お互い、魔王の妹同士だから仲良く出来たら……なんて」
そうしてはにかむリアスにソーナは視線を直視する事が出来ずに顔を背けてしまった。まるで眩しいものを見てしまったかのようだった。実際、リアスの笑みは眩しさを感じる程だった。
そうしていると、ぐったりした様子のセラフォルーとグレイフィアが部屋に戻ってくる。戻ってくるなり、セラフォルーはソーナへと抱きつく。
「うわーん、ソーナちゃん! グレイフィアちゃんが酷いよー! 慰めてー!」
「わ、わぁ! お、お姉様……!」
「ははは……」
えぐえぐ、と泣きながら顔を擦りつけてくるセラフォルーにどういう反応を返せば良いか困るソーナに、そんな光景を見てリアスが少し困ったように微笑みながら見守る。
リアスにとって初となるシトリー邸の訪問は中々に愉快な様相を呈するのであった。
* * *
「……ん」
目が覚めて目を開ける。目を擦って体を起こすと、隣で寝息を聞いた。私の隣にはソーナが寝ていた。そうだ、今日はシトリー邸にお泊まりしていたんだった。それでソーナが眠るまで話をしていたのは覚えているけれども……。
慣れない寝床だったからかな。目が覚めちゃったなぁ。 ちょっとトイレにも行きたいし……慣れない屋敷だから、上手く見つけられると良いけど。
音を立てないように私は部屋を抜け出して、シトリー邸の廊下を歩いていく。やっぱりグレモリー邸と内装が違うなぁ、と思いながら歩いていると、その姿を見つけた。
「……セラフォルー様?」
魔法少女のコスプレでもない、私服で。窓から差し込む僅かな光を浴びて空を見上げるセラフォルー様は、普段の快活な様子が嘘のように静かで。
「リーアちゃん? どうしたの?」
「ちょっと目が覚めてしまって……おトイレに」
「あぁ、そっか。じゃあ、案内するよ」
「お願いします」
魔王様におトイレの場所を尋ねるなんて正直心苦しい限りだけど、このまま邸内を彷徨うのだけは絶対ごめんだった。特に話す事もなくセラフォルー様の一歩後ろを歩いていくように付いて行く。
新鮮なセラフォルー様の姿を見てしまったからか、私はついついセラフォルー様に熱心な視線を送ってしまっていたようで、不思議そうにセラフォルー様が首を傾げて振り返る。
「どうかしたの? リーアちゃん」
「いえ、セラフォルー様の普通の私服が珍しくて……」
「そう?」
「いつも魔法少女のコスプレされてますし……」
「良いじゃない。趣味なんだしー」
ぷぅ、と頬を膨らませるセラフォルー様に思わず苦笑する。……そこでふと思ったけど、いつからセラフォルー様って魔法少女趣味を拗らせたんだろう? ちょっと聞いてみようかな。
「セラフォルー様はいつから魔法少女に嵌ったんです?」
「……どうしてそんな事聞くの?」
「魔法少女が出来たのって、そんな昔じゃないですよね? セラフォルー様、私よりも年上だし、魔法少女以外に趣味とか無かったのかなぁ、って」
正確には年齢が幾つか聞いた事はないんだけどね。でも、先の大戦の経験者でもある筈だから結構なお歳の筈。いや、悪魔の外見は成熟したら自由とは言われてるから見た目とイコールではないのは承知だけどね。
ふと、セラフォルー様は足を止めた。窓の外へと視線を向けて、遠くを見つめるようなセラフォルー様に私は視線を送る。何だろう、どこか寂しそうな、普段はあんなに距離が近いセラフォルー様が遠い気がする……。
「……昔、か」
「……セラフォルー様?」
「私の魔力の特性、リーアちゃんは知ってるよね」
「氷ですよね?」
「うん。……昔は、私は結構残酷だったって言ったら信じる?」
「……え?」
振り返りながら私に微笑むセラフォルー様の笑顔は、今まで見たことないぐらいに冷たくて、とても妖しい。それこそこの人は悪魔なんだと思い出す程に。目を奪われる。この人は、本当にセラフォルー様なのか疑ってしまう程だった。
「……誰も話そうとしないからね。昔の私の事って」
「……聞いても良いんですか?」
「リーアちゃんなら良いかな。……うん、貴方なら知って貰っても良いかな」
くすくす、と笑うのはいつものセラフォルー様のようで、けれど先程見せた氷の微笑とも言うべき冷たい表情を浮かべたセラフォルー様の雰囲気も残っていて、私の中でセラフォルー様の印象が大きく乱れている。
そんな中でゆっくりとセラフォルー様が語り出す。それは、彼女にとって昔の、昔のお話。
「昔は結構ね、エグかったんだよね。私も。若かったんだよ。グレイフィアちゃんと最強の座を争うぐらいにはね」
「エグ……?」
「氷で相手を閉じこめたり、氷柱で串刺しにしたりとか。それを平然とやってた自覚はあるかなー」
ぞく、と。何でもないように話すセラフォルー様に私は初めて恐怖した。この人の深淵を覗き込んだような気さえした。肌を刺すような肌寒さを感じる。これは悪寒によるものなのか、それとも……。
「戦争中だったからね。まぁ、戦争してる時は良かったよ。終わってからもそれなりに上手くやってた。私が外交担当に任命されたのは、その実績を評価されたからだったのもあるんだけどね」
「そう、だったんですか……」
「うん。まぁ、戦争だったからね。戦争だったから、と言えば誰もが仕様がないと思ってくれた。でも不意にある日ね、本当に良かったのかな、って思ったんだよ」
「良かった……?」
「これといって大きな出来事は……無くも無かったんだけどね。まぁ、積み重ねてきたものが爆発しちゃって、色々とガタが来ちゃったんだよね。今でもたまにカウンセラーにかかってるけど、あ、ソーナちゃんには内緒だよ?」
指をぴっ、と口の前で立ててウィンクするセラフォルー様の姿に私は思わず痛々しさを感じてしまった。話を聞いたからというのも、その仕草が無理をしてるんじゃないかと思ったからだ。
戦争。数多の命が失われた、その中には親しい人だっていた筈だ。昨日にそこにいた当たり前が一瞬にして無くなる事があったと思う。それを乗り越えて、魔王になって冥界を治めようとするなんて、どれだけの負担がかかっていたんだろう。
「まぁ、そんな時に気晴らしで人間界に行ってね……」
「その時に、魔法少女に?」
「うん」
……今まで、なんかもうちょっと落ちついて、って魔王の方々には思ってたけど戦争を乗り越えた反動だったのかな。
私は先の戦争がどんなものだったのかを知らない。想像をする事しか出来ない。詳細を語られる事もない以上、その時に感じた思いや体験を共感する事は出来ないんだと思う。
「……リーアちゃんは怒るかもしれないけど」
「ん?」
「私ね、リーアちゃんの気持ち。少しわかるんだ」
「私の気持ち……?」
「――物語の登場人物達に憧れる気持ち、って言えば良いのかな」
心臓が思わず高鳴った。
「私にとって、それが魔法少女だった。当時の私にとっては救いだったんだよ。愛と奇跡の魔法、誰もが笑ってハッピーエンド。可愛い女の子は、どんなに力を持ってても可愛い女の子で、恋をして、友達と楽しく過ごして……戦争なんかない、苦難があっても乗り越えていける」
「……セラフォルー様」
「あまり、こういう事は話したくないんだけどね。ほら、私の憧れで、魔法少女は笑顔でいないといけないんだから!」
……ズルい。
この人は、その言い方はズルい。だって、そんな言い方されたら共感しちゃうよ。
どうしようもならない現実で、空想に憧れて、憧れのようになりたいだなんて。
痛い程に、苦しい程に、私は知っている。それが届かない現実のやるせなさも。
それでも足掻き続けなければいけない。立場が許さない。生きていかなければならない。
投げ出すのも、捨てるのもきっと簡単で。それでも出来ないのは、その思いが無ければ耐えられないからで。
「リーアちゃんはさ」
「……?」
目線を合わせるようにセラフォルー様は屈んで、様々な感情を込めて私を見て。
「どんな大人になるのかな」
「セラフォルー様?」
「羨ましいよ、リーアちゃんが羨ましい。リーアちゃんの力が羨ましい、リーアちゃんの生い立ちも、境遇も、特別なのも、生まれた時代も。私は全部、全部、全部……妬ましいぐらいに、羨ましいよ。なりたいものになれるなんて、本当に羨ましい」
それでも微笑んで、私の頭を撫でてくれる。その表情には少しの寂しさが見え隠れしていて、胸が張り裂けそうになる。
一体、どれだけの苦しみに苛まれてきたんだろう。どれだけ心を焦がして来たんだろう。わからない。まだ子供の私にはわかるものはない、けど、それでも。
目線を合わせていてくれたセラフォルー様に抱きつく。抱きついて、首に腕を回してぎゅっと抱きしめる。驚いて息を呑むセラフォルー様の気配を感じるけど、気にしない。
「……痛かったら、泣いて良いんです」
「……、……うん」
「苦しかったら、辛いって言って良いんです」
「そう言えたら、良かったね」
「言える場所があれば良いんです。なります、なりますから。私が」
「……あはは、リーアちゃんは優しいなぁ」
セラフォルー様の手が私の背に回される。それはどこか戸惑うような手付きで、迷っているような、力強さをまったく感じない華奢な手の感触。
私は逆に強くセラフォルー様の頭を胸に抱え込むように抱きしめる。艶のある美しい黒髪、指通りも素敵。そんな髪に指を這わせて頭を撫でる。
「……頑張った子が、報われないのは悲しいです」
「……そうだね」
「頑張った分だけ、報われたって良いじゃないですか」
「私も、そう思う」
「誰も悲しい思いなんてしないで、笑って過ごせたら良いじゃないですか」
「理想論だけどね」
「それでも、夢は見ていたいじゃないですか……!」
「うん……」
力を抜いてセラフォルー様が体を預けてくれた。両足に力を込めてセラフォルー様の体を支える。
どうして、どうして私は子供なんだろう。もっと大きかったら、この人を抱きしめてあげたいのに。こうして頭を抱えてあげるので精一杯なのがもどかしくて。
「……リーアちゃん、泣いてる?」
「泣いて、ません」
「そっか」
「はい」
互いに顔を見ないまま、静かな夜の時間は過ぎていく。それ以上、交わされる言葉はなかった。
* * *
あの夜の後、互いに落ち着いてから別れて。朝が来たらセラフォルー様はいつも通りに戻っていた。
「リーアちゃん! おっはよー! ところで帰るまでの間、私とソーナちゃんと一緒に魔法少女撮影会をしない! ねぇ! ねぇ……!」
「か・お・が・ち・か・い……!!」
「あぁ、リーアちゃんの手ぷにぷに……!」
昨日の事がまるで夢の事だったようにさえ思える。あれはセラフォルー様の演技とか、私が見た夢とか。そんな風に思ってしまう程だった。
けど、私はもう同じように見れない。天真爛漫なこの人の素顔、あるいは秘めた一面。それを垣間見てしまった以上、戻れはしない。
「……はぁ、まったく。それで少しは満足するなら付き合いますよ」
「リーア!?」
「ほ、本当!? やったー!! それじゃ行こう! 2人とも!!」
私とソーナを両脇に抱えて勢いよく駆け出していくセラフォルー様。呆れたように溜息を吐いて額を抑えているグレイフィアに手を振りつつ、一体どれだけ拘束されて着替えさせられるのかと思うと憂鬱の溜息が出た。
―――……何者にもなれない私、誰かに憧れる私。誰かの影である私。
もしも、そんな私に憧れる誰かがいたとしたら、私は……――――。