深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.04

 コーネリア・フォカロルという悪魔について、少しばかり彼の経歴を語ろう。

 彼はフォカロル家という元72柱に数えられる上級悪魔の名門であった。過去形なのは、フォカロル家が首の皮一枚で断絶を免れたという状況にあったからだ。

 先の大戦によって疲弊し、多くの有力者である血縁を失った。更にはお家の経営も崖っぷち。名門とは名ばかりと詰られた事はコーネリア自身、何度もあった。事実、その生活も貴族と言うには余りにも貧窮に苦しんだものだった。

 コーネリア・フォカロルには運が無かった。しかし彼は実力もあり、逆風の中でも必死に家を護ろうとする家族の背を見て育ってきた。それ故に、逆境にも負けず彼はレーディングゲームの有力な若手として名を残すようになってきた。

 それ弛まぬ彼の努力の結晶だ。いずれはフォカロル家を再興する事を夢見て、泥を啜っても構わない。かつての栄光を取り戻すためならば、と。

 悪魔の中でも勤勉であり、家の威光や血の誇りと言う慢心も持たない。纏めるならば、コーネリア・フォカロルは将来性のある悪魔である。

 しかし、今一度。才能にも恵まれ、逆境にも負けぬ精神を持ち、将来をも期待されるコーネリア・フォカロル。彼には……――“運”がなかった。

 

 

 * * *

 

 

 凡庸。コーネリアの脳裏にはその二文字が浮かび上がっていた。

 相対するのはまだ幼きグレモリーの姫君、名をリアス・グレモリー。紅髪を揺らせ、悪魔の翼を羽ばたかせて低く宙を走る彼女に浮かぶのは予想通りという納得と、落胆であった。

 リアスの上を取るようにコーネリアは翼を羽ばたかせ、叩き伏せるように風の魔弾を幾つも放つ。唸るような音を上げてリアスへと迫る魔弾は、リアスが発した魔力の弾丸とぶつかり合って霧散する。

 その瞬間、風の弾丸に込められていた水分が弾け、重力に引かれるのようにして大地を濡らしていく。その先には勿論、リアスがいて、彼女の体には水に濡れていく。

 

「風よ」

 

 コーネリアは指揮者のように腕を振るう。瞬間、フィールド内を渦巻くような風が吹き荒れる。直接的な被害を与えるものではない。そう、これは布石にしか過ぎないのだから。

 コーネリアは眼下のリアスへと視線を向ける。未だ闘志を失わずに見上げてくるも、その変化は明らかだった。彼女の顔色は非常に悪い。唇は青ざめて、小刻みに震えている。

 今、風の流動によってこのフィールドの温度は著しく低下している。その低下した空間の中で、風を受けて濡れた体を冷やされ続けた結果である。

 コーネリアは更に手を振るう。周囲の水分が風によって冷やされ、加えてコーネリアの魔力を受けて氷柱へと変化してく。コーネリアが掲げた手を振り下ろす事で、同時に空中に生み出された氷柱がリアスへと向かって飛翔していく。

 

「Boost!!」

『Boost』

 

 対抗するようにリアスが魔力を固めた弾を撃ち出す。砕けた氷柱はキラキラと宙を舞い、それを待っていたようにコーネリアは腕を振るう。再びフィールド内に吹き荒れた風が砕けた氷をリアスへとぶつけていく。

 先程からこの繰り返しだ。コーネリアが風と水、そして氷を操る事でリアスの体温を奪い去っていく。これを抜けるにはコーネリアを抑えて上空に上がるのが手っ取り早いが、彼はフォカロル家の悪魔である。空中戦ではリアスよりも分がある。

 頭を抑えられ、リアスの繰り出す一撃は何ら決定打にも為り得ず対抗が精々。その対抗すらも反撃に変えていく。コーネリアはただ冷静にリアスを観察し、次の一手を打つ。

 

「リアス・グレモリー。降参してください。もうわかったでしょう? 貴方に勝ち目はありません」

 

 次の一手とは精神への揺さぶり。それはコーネリアの慈悲でもあり、最後通告でもあった。これ以上の闘争に何ら意味はないとコーネリア自身が判断したのだ。

 リアスに自分を倒し得るだけの実力はない。先程から繰り出される魔弾も力任せにも等しい荒いもので、彼女の腕についている見慣れぬ腕輪が魔力を供給しているようだが、ただそれだけだ。魔力があっても研鑽しきれていない魔弾などに屈するほど、コーネリアは弱くはない。

 悲しい程に凡才だった。あの魔力もただ借り受けただけのもの。恐らくは生来の魔力ではない為、精度もろくに上げられないのだろうとコーネリアは分析する。やはり魔力を持たないというのは真実らしい。その対応策を用意していたのだろうが、焼け石に水だろうと。

 

「私に女子供をいたぶる趣味はありません。……賢い選択を」

 

 魔王サーゼクス・ルシファーがこの場を設定したからには、何か隠し球があるとコーネリアは思ったのだが、もしもそれが魔力を付与しているあの腕輪のデモンストレーションだと言うのなら些か、物足りないにも程がある。

 しかし、様子見の為に長引かせるように、追い詰めるように戦って見せても変化を見せる兆候はない。これだけの見せ札だと言うなら、失礼ながらサーゼクスが耄碌したか、と落胆をせざるを得ない。

 あるならば見せろ。ないのならば敗北を認めろ。コーネリアは眼下にいるリアスへと視線を向けながら、油断なく構え、リアスの返答を待った。

 

「……」

 

 ……静かになった。

 コーネリアが操作した風の吹く音がする程度で、リアスは身動きを止めて地に足をつけた。降参するのか? とコーネリアが注意深く観察していると、リアスがゆっくりを顔を上げた。

 

「――……あぁ」

 

 コーネリアは思わず訝しげに眉を寄せた。地に足を降ろし、見上げてくるリアスの表情には笑みが浮かんでいたからだ。青ざめた唇を震わせて、それでも尚、笑う、笑う、笑う。

 

「何が、そんなに可笑しいのですか?」

 

 多少の苛立ちと不気味さを感じつつ、コーネリアはリアスへと問いかけた。問いを投げかけられたリアスは笑みを崩す事なく、しかし何故か礼をするように頭を下げた。

 

「いえ、いえ。あまりにも私は弱いな、と思いまして」

「……はぁ?」

「強いんですね、コーネリア様は。そして、嬉しかったんです。貴方は私を傷つけないように、けど、それでも真剣に戦ってくれているんだとわかったから。だから、これ以上は、失礼ですよね――?」

 

 ――ずくん、と。

 音ならぬ音をコーネリアは耳にした。音は風の音しか聞こえない。だから、この心臓の鼓動にも似た音は空気を震わせた実在の音ではない。けれど、それでも確かに響き渡る鼓動の音。

 ――ずくん、ずくん、と。

 その音は段々と大きくなっていく。空気が変わっていくような錯覚にコーネリアは悪寒を感じた。良くないものを感じた。何が良くないのかはわからない。ただ、悪寒を感じさせる何かがこの場に現れようとしている。

 

「私は、弱い。やっぱり、弱い。才能なんて何一つない。頑張ってみても並以下」

 

 ぽつりと、リアスの呟きが嫌に響き渡った。ゆらり、とリアスの体が揺れて、やや猫背のように背を丸める。

 

「けど、それでも『羨望(ねがい)』の強さだけなら、誰にも負けない。私は弱いからこそ、理想に焦がれて、執着して、尊くて、愛おしくて――」

 

 あぁ、と。吐息が零れる。それは恋にときめく乙女のように艶やかで。

 見た目に似合わぬ色香、魔性すら秘めた微笑み。しかし、――爛々と輝く金色の、7色の光を収めた『異形の瞳(プリズム)』がコーネリアを睨め付ける。

 

「――失礼しました。本当に怖くて、怖くて、でも、あぁ、やっぱり、負けたくないなぁ。本当に、ここまで来て、ここまで来ないと、踏ん切りなんてつかない程、弱くて、呆れる。ねぇ、ねぇ、コーネリア様」

「……ッ!」

「私、『初めて(ヴァージン)』なんです。上手く出来なかったらごめんなさい。初心なもので――“加減”とか、よくわかりませんから」

 

 コーネリアの背に生涯の中でも最大の悪寒が走る。咄嗟に風の弾丸を、先程まで撃っていた牽制用のものではなく、本気で磨り潰すような風の渦を弾へと変えて打ち出す。

 土煙を上げてリアスの姿が見えなくなった事で、コーネリアは自らの悪手を悟る。すぐに土煙を巻き上げるように風を吹かせる。一気に煽られて流れていく土煙の中で――彼は、“悪夢”と対面した。

 

 

 * * *

 

 

『――……弱い。あまりにも脆弱にして惰弱。俺を舐めてるのか? 夢幻の娘』

 

 記憶が過ぎる。それは“赤き龍”、ドライグに稽古をつけてもらった時の記憶だった。

 呆れたように、落胆を隠しもせずに私に告げた彼は落ち込む私を気にもせずに言葉を続ける。

 

『肉体は元より、精神が惰弱だ。なんだ、それは? 悪魔にしては甘く、龍にしても話にならない』

「う、うぅ……そんなの私が一番自覚してます」

『いいや、違うな。夢幻の娘、お前が弱いというのは……――お前の精神性は他者に向ける攻撃性が足りないからだ』

「攻撃性が、足りない?」

『お前の本質は『羨望(あこがれ)』なのはわかるさ。故にお前は夢幻を収める空の器だ。誰かに憧れるが故に自らの価値を持てない。だからこそ、ただ鵜呑みにしてれば満たされて、それで終わりだ』

 

 淡々とドライグは私を見つめて言葉を連ねる。ドライグの言葉に意図を掴みかねていた私は首を傾げていると、溜息を吐くようにドライグが私の欠点への指摘を続ける。

 

『お前には悪魔としても、龍としても、絶対的に欠けている精神がある』

「……なんですか?」

『他者を害する程の、強い我だ』

「……そんなの」

『いらないか? そうだ。お前の価値観は自身よりも他者に比重が向いている。お前自身が何も持たない自分を疎むように。疎む自分が持ち得る者どもを害するなどと烏滸がましいと? 卑屈の塊か? ん?』

「ひ、卑屈の塊……」

『転じてそれは優しさとも言えようが――力が欲しければ、その優しさは過剰だ。甘さとも言える。温い、温い。お前は悪魔としても龍としても、いや、個たる生命としても温すぎる。だから言うのだ。馬鹿にしているのか、貴様?』

 

 怒りすら滲ませたドライグの声に私は身を震わせた。いいか? と前置きをするようにドライグは続ける。

 

『貴様の過ぎた甘えは、他者への侮辱にも繋がる。過剰な美化と言っても良い。勝手に自分で納得して、自分の決めた想像を押し付ける。迷惑極まりない。更には自分が劣っているなどと嘆く始末だ。下らん、貴様に美化されるまでもなく俺は強い。夢幻の娘よ、お前以外の他者を過剰に装飾するな』

「……それは」

『夢幻の娘、お前が思う程、世界に希望なんてありはしない。清らかな願いなんてありはしない。あったとして、それは神や、神に仕えるような聖職者共の領分だ。お前の身には合わん』

「じゃあ、どうすれば良いの?」

『貴様は悪魔で、龍で、そして王だ。夢であり現、矛盾を体現する存在。ならば矛盾しろ。どこまで矛盾して、狂う程に、理不尽な程に焦がれてみろ』

 

 すぅ、と。ドライグの瞳が細められ、真っ直ぐ私を見ながら“言霊(ことば)”が私に向けられる。

 

『覚えておけ、夢幻の娘。現でありながら夢という矛盾の体現。人は、“希望”も“欲望”も同じ言葉で呼んだという事をな。所詮、貴様の『羨望(ねがい)』は……――』

 

 

 * * *

 

 

「――“我が目覚めは、泡沫の如き淡き夢”」

 

 “言霊(ことだま)”を紡ぐ。それは詠唱(うた)。リアスは心の底より思いを込めて詠う祈りの“言葉(ことのは)”。

 

「“この胸に、希なる望みを抱いて現に夢を見る”」

 

 それが、“私”の始まり。

 

「“されど、現に在らぬ幻を重ねて思い焦がれる”」

 

 それが、“私”の終わり。

 

「“故にこそ、我は矛盾の体現者”」

 

 それでも、何度でも夢を見る私。くるりくるり、円環を描くように回り続ける私の宿業。

 

「“我が儘に、願い、望み、欲する、故に”」

 

 告げる言霊(ことだま)は、決意の証。これは、私から零れ出た思いの形。

 

「――“この身は、龍となる”!!」

 

 私の在り方の名をここに。偉大なる赤の君の頂いた名を胸に。

 

 

 

「『“我は『夢現の龍』なり”(メタモルフォーゼ・リーンカーネイション)』!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 それは、光の繭のようであった。

 7色の光を纏う光の繭はやがてひび割れ、閃光のように弾ける。目を焼くような一瞬の光、消え失せた光の繭があった場所にリアスは立っていた。

 大きな変化はただ1つ。その紅髪から覗くようにして、龍を思わせるような角が伸びていた事だ。見た目の変化はそれだけ。あぁ、それだけなのに、まるでそこにいるのは無力だと落胆した少女とは似ても似つかぬ――“何か(バケモノ)”。

 

「――アハッ」

 

 リアスは口の端を釣り上げる。上空に浮かぶコーネリアを見据える瞳は7色の光を収めた、蜥蜴を思わせるような金色の瞳。

 隠しきれない笑みを浮かべて、体勢を低くする。いつの間にか消えていた悪魔の翼は、今度はもっと屈強な“龍翼”となって現れる。強く羽ばたかせるようにリアスは宙を舞った。

 ただ呆然とコーネリアはリアスの変化を見る事しか出来なかった。余りにも異質、先程までいた無力の少女はそこにはいない。代わりにいるのは、まるで恋を知った乙女のように艶やかに微笑む少女。

 

「貴方は、一体……!?」

「漸く覚悟が決まりました。ずっと、ずっと、この場に来てまでずっと悩んでたんです」

「何を……?」

「でも、もう迷わない。私は“羨望(ねがい)”を“欲望(のぞみ)“にしてでも叶えたい“理想(ゆめ)”がある。恋い焦がれるからこそ、私はその夢を慈しみます。そして――私を阻むならば喰らいましょう」

 

 歯を剥くようにリアスは微笑む。鋭く伸びた牙が現れ、ぎょろりと瞳孔の裂けた瞳がコーネリアを睨め付ける。

 

「私は“悪魔(あくま)(ドラゴン)”だ。私が望むままに。私が願うままに。私が欲するままに。ただ我が儘に!!」

 

 リアスが“悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”を付けた腕を掲げる。これから起こる事が楽しみで堪らないと、玩具の開封を待ちわびる子供のように。

 

「――“制限解除(リミット・リリース)”」

『Safety Out』

「出し惜しみ無しで、ありったけで、全力で!! 行くよ、Max Boost!!」

『Max Boost』

 

 “悪魔の手(デモン・ヴェアリ)”から流れ込んだ魔力をリアスは余す事なく掌に集めていく。それは光の玉となって浮かび上がり、その大きさを増していく。

 

「“大きく”、“強く”!」

 

 リアスの言葉が吐き出される。確かな意志を以て込められた吐息は“ブレス”となる。龍の代名詞であるブレス、リアスの“龍の吐息(ブレス)”を受けて魔力の玉は大きく、大きく膨れあがっていく。

 まるでリアスの想いが現実を侵蝕していくかのように、リアスの体の大きさも超え、更に膨れあがっていく。その様を見たコーネリアはぞっ、と背筋を凍らせた。あれだけの魔力を込めた大玉を自分にぶつけるつもりなのか、と。

 

「う、うわぁああああああああっ!!」

 

 悲鳴のように声を上げながらコーネリアは全力で風の弾丸を放つ。それがリアスの体を穿とうとして、しかし届かない。リアスの体に届く前にリアスの背より伸びた何か――“龍の尾”が弾丸を叩き落としたからだ。

 

「“もっと”、“もっと”、“もっと”!!」

 

 リアスはコーネリアを真っ直ぐに見据えながら言葉に思いを込めて吐き出す。リアスの想いに呼応するように魔力の大玉は、リアスの体の大きさの3倍以上にもなろう程に膨れあがり、大きく振りかぶるようにリアスは身を曲げる。

 

「“ぶっ飛ばせぇ”!!」

 

 そして、投げた。ボールを投げるかのように大きく振りかぶってコーネリアへと魔力の大玉は向かっていく。コーネリアは咄嗟に玉を避ける為に翼をはためかせ、なんとか玉の進路方向から身を避ける事に成功する。

 緊張で止まっていた呼吸が、回避に成功した事で安堵の息を吐こうとしたその時だった。リアスが声を大きくして叫んだ。

 

 

「――“弾けて”!!」

 

 

 ――瞬間、音が消えた。

 ……気付いたらコーネリアは地面に叩き付けられた状態で倒れていた。全身が何かにぶつかったような痛みに襲われて、ぴくりとも動かない。麻痺していたのか、やがて音が聞こえるようになって来た。

 目を開く。すると、目の前には7色に煌めく光を帯びた異色の瞳と目が合う。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「ぁ……?」

 

 自分に何が起きたのか、コーネリアはぼんやりと思考を巡らせる。リアスの巨大な魔力玉を避けようとして距離を取り、なんとか進路上から逃れた事。それに安堵した瞬間、リアスの声と共に意識が一瞬飛んでいる。

 恐らく、リアスは自分が逃れようとしたタイミングで逃す前に魔力玉を炸裂させたのだ、とコーネリアは推察する。肌が泡立つような、馬鹿げた量の魔力を込められた砲弾だったのだ。それが炸裂したとなればこうなるのも納得だ、と。

 そこまで思い至って、コーネリアはリアスへと視線を向けた。リアスは心配げな表情で見つめている。

 

「……君は、一体……あんな馬鹿げた魔力を、どこから……?」

 

 魔力量だけで言うなら自分を遙かに超えていた、と。疑問を浮かべるコーネリアにリアスは少し悩むようにして、花が咲くような笑みを浮かべて。

 

「乙女の秘密、です」

「……君のような、乙女がいるか」

 

 バケモノなのに、とても女の子なよくわからない何か。コーネリアは思わず苦笑してしまった。

 下手をすれば殺されていたかもしれない、という事実に体が震える。しかし、こんなにも心配してくれているリアスが自分を手にかけようとするイメージが浮かばなかった。仮に殺したのだとしても意図せずに加減を間違って消し飛ばされてしまうような……。

 

「それで、その……私の勝ち、で良いですか?」

「……あぁ、私の負けで構いませんよ」

 

 こんな加減知らずな子の相手など、これ以上はごめんだ。内心で毒づきながらコーネリアは自らの敗北を受け入れた。

 

 

 * * *

 

 

「――何なのだ、アレは! サーゼクス!」

「見ての通り、我が自慢の妹でございますが」

 

 騒ぎ立てる重鎮である老年の悪魔に詰め寄られながら、満面の笑みを浮かべているサーゼクスにアジュカは笑いを堪えるのが必死だった。最初ははらはらしていたのに、リアスが“龍”に変じた瞬間から安堵したように息を吐いていたのをアジュカは見逃してはいない。

 しかし、とアジュカはディスプレイに映し出されたリアスの姿を見つめる。そこにはコーネリアを気遣うように声をかけている姿が見られる。翼と尻尾こそ無いものの、その頭部の角は未だに顕在だ。

 かつてリアスが暴走した際に見せた角だ。つまり、リアスはかつて暴走させた力を制御する事に成功したという事なのだろう。

 

「“悪魔で龍”、か。言葉遊びかね、あくまで龍なのか、悪魔だけど龍なのか、龍でもあり悪魔でもあるのか」

 

 元よりわけのわからない存在だったリアスだが、枷を外せばここまでわけがわからないのか、とアジュカはほくそ笑む。リアスの戦い振りを己の能力で方程式として“視て”いたが、相変わらずのでたらめ振りだった。

 アジュカからすれば、ただ力任せの暴力でしかなかったが、その魔力量だけでも脅威に値するだろう。自分ならばそっくり叩き返す事が可能な訳だが。まだまだリアスの力は研鑽のし甲斐があるだろう、と。

 

「“夢現(むげん)の龍”、ね。夢幻から生まれた龍の娘は、夢現(ゆめうつつ)なんていう不確かでありながら、そこに確かに存在する幻のような奇跡……か」

 

 夢現、不確かな存在でありながらも、現実を侵蝕する事でそこに在る者。矛盾の体現者。哀れな程に弱くて、しかしてそれ故にどこまでも強くなれる可能性を秘めた幼子。

 あぁ、やはり面白い。アジュカは込み上げてくる笑みを隠しきれず、口の端を釣り上げた。

 

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