深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.06

 小学校というのは確かに新生活で目新しいものばかりだ。

 私が通う事になったのは駒王学園。原作でも舞台となったあの学園だ。私はそこの初等部に通う事になった訳なのだけども、そこで私には1つ、誤算というか、忘れていた事があったのだった。

 

「ここ、女子校だったんだよね」

 

 そう、女子、女子。全員女子だ。そういえば駒王学園って、最初は女子校だったんだっけ? なんて今更ながら思い出してしまう。

 こうも女子だけの生活というのは逆に慣れない。幼稚園から一緒に上がった子もいるけど、初等部に入ってから初めて会う子もいる訳で。

 外人で、しかも入学時には名前だけはあって暫く休んでいた私なんて注目の的だった。幼稚園からの同期の子には大変だね、なんて同情されたりもしたけど君達のお陰である意味慣れたから問題なかったよ……。

 まぁ、そんな事もありつつ、私の新体制での生活は始まった訳で。お兄様やお父様に派遣して貰った方々には、それぞれ散って貰って役割を果たして貰っている。私はその活動報告を纏めて、教会側との橋渡しをするのがお仕事だ。

 なので、私の普段の仕事は一日の終わりに契約件数や、教会側からの報告を纏めてバランスを取ったり、意見をしたりするぐらいなので平時はそこまで忙しくもない。父上達が学業に専念するように気遣ってくれたから、眷属の方々ものそのように立ち回ってくれているからなんだけど。

 昼は学校、夜は報告を受けてお仕事。これが私の基本的に一日のサイクルだ。我ながら言うのはなんだけど、小学生のする生活じゃない。けど充実した日々は送れているので不満はなかったりする。

 そんな新生活も順風満帆に送っている所で、私は以前から待ちわびていた機会が訪れた事に緊張していた。

 そう。兼ねてより打診していた天使側の現トップ、ミカエル様との謁見の予定が立てられたのだった。

 

 * * *

 

 悪魔、堕天使、天使の三勢力はかつては戦争をしていて、今は停戦している。だけどお互いに連絡を全く取っていないかと言われればそういう訳ではない。

 今でも細々ではあるが、外交の窓は開かれているのだ。それを知った私がセラフォルー様に頼み込んで、私自身も教会側から働きかけて貰っていたミカエル様とのご面会の機会。その機会がようやく訪れた事に私は緊張していた。

 

「……大丈夫。自分に自信を持とう。しっかりしなきゃ」

 

 何度も深呼吸して、私は指定された面会の場所へと足を進めた。今回は非公式のお忍びによる面会だ。なので場所も人間界の隠れた名店、それこそ料亭とも言うべきような場所が指定された。

 なんというか、もうこういった豪勢な場所には慣れてしまったと視線が遠くなる。随伴役のトウジさんの背をついて歩きながら思う。生まれてから豪勢なものに囲まれるような生活をしていれば慣れるというもの。

 

「ここだ」

「はい」

 

 そんな事を考えながら歩いていると、トウジさんが私に振り返りながら襖を開ける。トウジさんに通されるままに中に入ると、そこには金髪の美しい男性の方が席についていた。

 ごくり、と喉が鳴る。見ただけでもわかる、肌で感じる聖なる気配というべきか。肌が泡立つような感覚に陥りながらも私は頭を下げた。

 

「リアス・グレモリーですね? 私はミカエルです。初めまして、ですね」

「この度はこのような機会をご用意して頂き、真に感謝申し上げます。改めてリアス・グレモリーです。ミカエル様」

「かけてください。非公式でお忍びという事ですが、貴方はサーゼクス・ルシファーのメッセンジャーとお伺いしております。わざわざ私を名指しで指定したからには一体どのような話を聞かせて頂けるか想像を膨らませたものですよ。何せ、和平という言葉が飛び出てきたのですからね」

 

 うっすらと細められた瞳は私を見透かそうとしているようで、やはりただの柔和な人ではないのだな、と私は腹に力を込めて。

 そして部屋を見渡す。ここには私を案内してきたトウジさんとミカエル様、そしてミカエル様のお付きと思われる人が1名いる。ここ以外にも誰かが待機していてもおかしくはない。実際、私も一人で行くのは、と心配されたし。

 それでも私は敢えて1人で来た。いいや、来なければならない理由があった。だからこそ、一息を吐いて席に付く前にミカエル様に尋ねる。

 

「本題に入らせて頂く前に、1つ確認をよろしいでしょうか?」

「何でしょうか」

「私は兄より全てを伺った上でこの場にいます。これからする会話の内容をここにいる者達に聞かせてもよろしいのか、私には判断が付かなかったので」

 

 私の言葉にミカエル様が笑みを消した。私を見据えながら口元に手を添えて沈黙する事、数瞬。ミカエル様は顔を上げて、トウジさんや周囲の者を見渡して。

 

「席を外してください。ここからは彼女との2人でお話をさせて頂きます」

「ミカエル様!? し、しかし……」

「悪魔にとっても、天使にとっても重要機密となる話を知っている。そう判断してもよろしいですね? リアス・グレモリー」

「……では、このようにお伺いしましょう。我等が“魔王”が亡くなってから、兄も次代を担う魔王として苦労されております。そちらは如何でしょうか?」

「……成る程、よくわかりました。やはり、席を外して貰う必要がありますね」

 

 お付きの者達や、トウジさんが困惑した様子を見せていたけどミカエル様の一声で退室していくまで時間はそうかからなかった。そして部屋に残されたのは私とミカエル様だけ。

 さて、とミカエル様は話題を切り出すような声を上げた。表情は柔和な笑みそのものだが、その瞳が笑っていない事に私は気付く。これが今の天使達のトップの凄みなのかもしれない、と私は冷や汗で背中を濡らす。

 

「リアス・グレモリー。貴方は“神”の不在について知っているのですね?」

「はい。先の大戦で魔王が倒れたのと同じく、天使も神を失ったと」

「……成る程。であれば、少々不可解ではあった貴方の事も理解が出来ます。貴方はこの事実を以前から知っていた。それ故の貴方が提唱したという駒王の地での悪魔と教会の在り方が実現していたのですね?」

「……はい」

「疑問に思っていたのですよ。幾らサーゼクスが大事に育てているという妹だと言っても、悪魔である貴方達がこうも教会側に優遇するような姿勢を見せていた事に」

「私も、話したい内容とは実はそこも含めているのですが。今後の悪魔と天使の関係について」

 

 ここでお互いの視線が真っ直ぐにぶつかり合う。暫しの間、互い見つめ合っていた私達だけど、状況を崩したのはミカエル様からだった。

 

「何故、と問うても?」

「失礼を承知で言わせて頂きます。――私はこのまま停戦状態が続けば、天使に利がない、と思っています」

「……何故そう思ったのでしょうか?」

「“神”がいない以上、新しい天使が生まれない。そうですよね? そして天使が子を作るとなると、かなり困難だとお聞きしました。悪魔も出生率こそ低いものの、天使に比べればまだ条件は緩いです。長期的に見れば、種族としての特性で差が出ます。更にはこちらは転生悪魔という方策も取っています。大戦ほどの勢力は取り戻せなくても回復はしていくでしょう。ですが、天使はどうですか?」

 

 私の問いかけにミカエル様は笑みを消して沈黙を保った。

 神がいなければ新しい天使が生まれる事はない。そして天使が子を作るには自らの煩悩を抑えた状態で子をなさなければならない、と聞いた。天使は清らかでなければいけない。煩悩や欲望に傾けば一気に堕天使へと成り下がる。

 繁殖という意味合いにおいては、天使は悪魔に劣っている。更に悪魔は転生悪魔で種族そのものを増やす事には成功している。種としての繁栄力だけで言えば、悪魔は天使に勝っているとも言える。

 

「神の不在によって、神の奇跡もその範囲を狭めているのでしょう?」

「……そこまでサーゼクスから聞かされているのであれば、少し疑問が浮かびますね。貴方は、一体何者ですか?」

 

 ミカエル様の問いかけに私は答えに迷う。少し、悩むようにしてから改めてミカエル様へと向き直る。

 

「私はサーゼクス・ルシファーの妹であり、グレモリー家に生まれた娘。……ただ、少し変わりものでして」

「変わりもの?」

「四大魔王から庇護を受けている超越者候補、と言えば伝わりますでしょうか?」

「……それは、また。大きな話になりましたね」

 

 ミカエル様の目に力が篭もる。超越者の異名は名ばかりではない事を知っているのは、先の大戦を知るミカエル様であれば当然だと思う。まだ候補止まりではあるんだけどね。

 

「正直言って、私は今の天使、悪魔、堕天使、この三勢力の均衡状態が危険だと思ってます」

「それは、つまり?」

「改めて単刀直入に言います。我が兄、サーゼクス・ルシファーは三勢力の和平を求めています。私はその理想に同調し、先駆けとなってこのような場を作らせて頂きました」

「……そうですか。サーゼクスが和平を……」

「はい。停戦したまま時間が過ぎれば何かしらの形で均衡が崩れるでしょう。争いという形で。悪魔は長期的な目で見て、勢力の大きさで天使を上回れる可能性がありますが、種族的に天使に命がけの神風などされた日にはそれこそ共に滅びかねません。ここに堕天使が加わってもまた然り、です」

「なので和平を結びたいと?」

「私は悪魔として生まれましたが若い世代です。先の大戦は伝聞でしか聞いた事がありません。勿論、悪魔は天使と堕天使を恐れるものではあります。ですが滅ぼしたいのかと問われれば否です。私は少しでも争いの種は少しでも減らしたいのです。勿論、すぐに和平と言っても無理なのは承知の上です。和平を望むのも我が兄、サーゼクス・ルシファーを始めとした一派閥の願いでしかない。天界だって和平と結ぶとなればすんなりとは行かないでしょう?」

「……そうですね。それだけに私達は争い合ってきた。しかし神も魔王も倒れ、互いに種族の存亡の危機にあるのは事実です。時代も、我等も変わる必要があるのではないか、と私も考えてはいました」

「きっとどの勢力も機会は伺っていると思います。もうあんな思いは、犠牲は生むのは嫌だと願う者も多いでしょう。同時に争いを望む者もいるのは事実だと思いますが」

「それでも貴方は和平を望むというのですね? リアス殿」

 

 ミカエル様の問いかけに私は強く頷く。私は争いはそこまで好きじゃない。強くなりたい、とは思うけど、それは戦う力が欲しいんじゃなくて、護ったり、証明する為の力が欲しいからだ。

 誰かを傷つけたりするのは本当に苦手だ。それが天敵のような間柄の天使だって、堕天使だって。今からトウジさん達と争えと言われたって絶対に嫌だって思うし、争いを止める方法を探したいって思う気持ちは嘘じゃない。

 だからこそ、そんな思いを伝えようとする為に真っ直ぐにミカエル様へと視線を向ける。暫し視線を交わし合っていた私達だけど、ミカエル様が力を抜いたような微笑を浮かべた。

 

「その言葉をどこまで信じて良いのか。私にはすぐに判断する事は出来ませんが、その思いは真摯なものだと感じました。私はこの出会いを良きものにしたいと思っております、リアス殿」

「……私もです、ミカエル様」

「すぐにどうにか出来る問題ではありませんが、貴方の意志、サーゼクスの意志は確認させて頂きました。和平を望む悪魔もいるのだ、と」

 

 それから私とミカエル様は色んな話をした。私が駒王の地で行っている悪魔と教会とのシステムの仕組みについて、その意図と効果を説明する。ミカエル様もかなり興味深げに聞いてくれたのは正直、嬉しかった。頑張って考えた甲斐があったと思う。

 改善案も天使側からの意見を聞き入れて、ミカエル様としても将来的には、この仕組みが和平成立後、悪魔と天使との関係の基準になれば良い、と。持ちつつ持たれつつという相互の関係を目指したいとい言ってくれた。

 それから転生悪魔とはぐれ悪魔について。こればかりはすぐにどうにか出来る問題ではないけれど、その処遇や対処について。悪魔側の意見と天使側の意見を交換したり。

 

「後は、堕天使ですか」

「ツテがないのでまだ接触はしてないんですけども……」

「表向き、何ら動きは見せてはいませんが……“神器(セイクリッド・ギア)”の所有者の付近で堕天使を目撃した等の動きがあるようですね」

「悪魔側でもそれは確認してます。神器使いを取り込んで戦争の為に力を蓄えようとしてるのかも、と」

 

 “原作知識”だと、それは堕天使のトップであるアザゼルの道楽、まぁ実益もあるんだけどね。そういった意味合いが強かった筈。但し、それはそれ、これはこれ。

 もしかしたら、神器使い達が本当に戦力として使われて戦争になる可能性だってあるのだから、堕天使と接触する時は慎重に行かないと。

 それから幾つか確認や情報を交換して、私とミカエル様の密会は無事に終える事が出来たのだった。

 

 * * *

 

 

 ミカエル様との密会を契機にして、私の駒王の地の運営は良好だった。私が直接敵対している教会側との関係を調節しているのもあるかもしれないけど、駒王の地は平和そのものだった。

 時にはトラブルが起きる事があったり、はぐれ悪魔が出現したりもするけど。私が実際に赴く事もあれば、教会側の人達に頼んだりと多忙ながら私の日々は充実していた。

 昼は小学校、夜は悪魔として活動。時には一誠やイリナとの定期的なお泊まり会に、実家に帰って家族との時間を取る事。そしてたまに出席する社交界。うん、上げるだけで忙しい。我ながら多忙すぎる小学生だと思う。

 そんな学校の帰り道。私はその姿を見つけて思わず眉を寄せてしまった。

 

「……八重垣さん?」

 

 公園のベンチに座って、老人よろしく鳩に餌をやっている八重垣さんの姿を見て私は溜息を吐いた。鳩に餌をやっている八重垣さんは見るからに気落ちしていて、覇気がない。

 クレーリアさんがこの地から離れてからというもの、ずっとあんな調子だ。あまり触れてはいけない、というより私が触れたくなかったから関わらないようにしていたけど……。

 

「……何してるんですか?」

「……やぁ、リアス・グレモリー」

「いい加減、フルネームで名前を呼ぶのは止めてくれませんかね」

 

 腰に手を当てて、溜息を吐く。馴れ合いたくないのはわかるけど、ずっとフルネームで呼ばれるのはあまり慣れない。

 鳩がばさばさと飛び去っていく。その様子を八重垣さんは虚ろにも思える視線で見送っていた。

 トウジさんもぼやいてたっけ。八重垣くんが元気を無くした、と。私はそれを聞いたから尚更、避けていたけど……流石に、私もそろそろ向き合わないとダメなんだろうと思う。

 意を決して八重垣さんの隣に座る。少し驚いたような気配を感じたけど、気にせず八重垣さんと同じように空に視線を向ける。

 

「……八重垣さんは、クレーリアさんの事をどう思ってたんですか?」

 

 ぴく、と八重垣さんの肩が跳ねた。それから少し間を開けて、空に向けていた視線を地面へと下ろして、少し項垂れるようになった八重垣さんがぽつりぽつりと言葉を零し始めた。

 

「よく、わからないな。何と言えば良いのか。ただ、きっと聖職者として正しくない思いだ」

「正しくない?」

「……好ましい、とさえ思っていたんだよ。彼女は悪魔だ。なのに人が良くて、困っている人がいれば自然と手を貸せる。好奇心が旺盛で、知らない事があれば知ろうとする。眩しくさえ思えた。どうして悪魔なのか疑問に思う程に」

「八重垣さんの中での悪魔ってのは、随分と辛辣で邪悪な者なんですね。まぁ、間違ってませんけど。私も、クレーリアさんもどっちかと言えば変わり者の部類ですし」

「そうなのか。やっぱり、クレーリア・ベリアルは変わり者か」

 

 はは、と。どこか可笑しそうに笑う八重垣さんに私はやはり眉が寄る。その声がどこか無理をしているような気がする。

 

「何が、辛いんですか?」

「辛い?」

「私達が悪魔らしくなかった事ですか? クレーリアさんが貴方に何も言わずに居なくなった事ですか? 皆、心配してますよ。トウジさんだって、迷惑だろうけど私も」

 

 私の問いかけに八重垣さんは黙り込む。私は八重垣さんを横目で見るように視線を送る。その表情からは何を考えているのかまったく読み取る事は出来ない。

 暫し、沈黙の間が空く。どれだけ待っただろう、そしてようやく声を出した八重垣さんは……どこか、納得したように。

 

「……辛い、か。そうか、僕は辛かったのか」

「自覚、無かったんですか?」

「自覚したくなかったんだろうね。だって、僕はクレーリア・ベリアルを……女性として、好きになってしまっていたから」

 

 ……あぁ、本当に、もう。八重垣さんの告白に私は目眩がしそうになった。

 クレーリアさんも、八重垣さんも。どうしてこうなってしまうんだろう。本来の道筋を辿れば死んでしまっていて、死は回避しても結ばれる事が許されない2人なんて。

 

「気付くの、遅いですね」

「あぁ、本当に」

「クレーリアさんに会いたいですか?」

「無理だろう? 彼女は冥界に帰ったって君が言っていた事だ」

「悪魔になりますか? 聖職者を止めて」

 

 ぽつりと、私は聞いてしまった。私が“悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”を手に入れて、私の眷属にするなり、クレーリアさんの眷属とトレードするなり、手段がない訳じゃない。

 けど、八重垣さんは首を横に振った。それは出来ない、と言うように真っ直ぐな瞳で私を見つめながら。

 

「僕はこの生き方を止める事は出来ない。君達が変わり者なだけであって、悪魔は人を陥れる者がいるのも事実なんだろ?」

「……否定はしません」

「だったらダメだ。クレーリアが例外なら他の悪魔も同じように扱うなんて僕には出来ない。この身は神へと尽くすものだから」

「じゃあクレーリアさんへの思いはどうするんですか?」

「……忘れられるかな。初恋だったんだ、これでも」

 

 はは、と力無く笑う八重垣さんに込み上げてくる思いがある。あぁ、本当に、本当に理不尽だなぁ。わかってた事だ。私が招いた事だ。私がこうするって決めた事なのに。

 

「……どうして君が泣いてるんだ? リアス・グレモリー」

「……フルネーム呼びは止めてください、って、言ってるじゃないですか。だって、だって、どうしてって思うじゃないですか。こんなの……こんなの……」

「……本当に、そうだな。どうしてこうなってしまったんだろうね。僕は聖職者で、君達は悪魔だ。なのに君達はそこいらの人間よりも優しくて、高潔だった。僕はその事実を認めるのが怖かったんだ。僕の信仰が揺らいでしまいそうで」

 

 八重垣さんの手が伸びて私の頬に触れる。私の瞳から涙が落ちていく。止まれ、と思っても止められなくて涙ははらはらと流れ落ちていく。

 だって、こんなの悲しい。クレーリアさんも、八重垣さんも。お互いがお互いを思い合っているのに離れなきゃいけないのは悲しい。そうしたのが私だというのが、何よりも自分を許せない。上手い解決方法も思い付かない自分が憎らしいとさえ思える。

 

「君達が人間なら良かった。悪魔だったからこんなに苦しい」

「……ごめんなさい。惑わせてごめんなさい」

「どうして君が謝るんだ。本当に君は悪魔とは思えないな。……あぁ、そうか。ずっと、ずっと、そう思ってたんだ。認めるのが怖かった。認めていれば、何か変えられたかもしれないのにね」

 

 あぁ、もう。涙が止まらない。自分の感情を制御出来ないのは本当に久しぶりで。

 八重垣さんの手が私の涙を拭ってくれるけど、涙は止まらない。お互いに言葉を無くして、ただ、ただ私は泣き続ける事しか出来なかった。

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