一誠とイリナがはぐれ悪魔に襲われてから数日後、私は紫藤家を訪ねていた。
あれからイリナは塞ぎ込んでしまい、トウジさんの話もろくに聞こうとせず部屋に引き籠もってしまったらしい。食事などは食べてくれるものの、学校にも行こうともせず、部屋から出ようとしない。
そんな様子を聞いた私は居ても立ってもいられず、イリナに会うべく家を訪ねてたのだ。
「やぁ、リアスちゃん。来てくれたのか……」
「……トウジさん」
私を出迎えてくれたのはトウジさんだった。その顔色は悪く、目の下にはクマが浮かんでいる事に気付いて私は眉を寄せた。きっとあれからちゃんと眠れていないのがわかってしまう。
イリナと会う前に私は居間へと入り、トウジさんと向かい合った。疲れを隠す事もなく椅子に背を預けるトウジさんは深く溜息を吐く。
「……いつか、こんな日が来るかもしれない、とは思っていた。実際に来てみれば堪えるね。娘の反抗というのは」
「……申し訳ありません。私も危惧はしていましたが、まさかこんな形になるとは思ってもみませんでしたので」
「誰が悪いという訳でもないだろう。ただ、運が悪かった、間が悪かった。でなければどこから間違いだったのか求めてしまう。あの時、イリナを強く止めて君との関係を断ち切っておけば、とね」
トウジさんの言葉に私は拳を握った。聖職者の娘と、悪魔の娘。本来では相容れない間柄の私達が育んできた友情は間違いだったのか? 私はそこまで思い、しかし首を振る。
「私はイリナと友達になった事を後悔したくありません……」
「あぁ、それで良い。それで良いんだ、リアスちゃん。もしもなんて起き得ない。そして私も望まない。今となっては君がいない生活など考えられない。それだけに君との日々は満ちあふれていた」
「トウジさん……」
私は弾かれたように顔を上げてトウジさんを見る。トウジさんは苦笑を浮かべて、肩の力を抜くように息を吐き、天を仰ぐように視線を上げる。
「この地の生活は平和そのものだった。何より、イリナが笑ってくれていた。そこには確かに君の気遣いや尽力があった事を私はもう否定出来ない。君は誰よりもこの地の者達の為に心身を粉として尽くしてくれた。疑いようもない程に」
「そんな、私は……悪魔ですから。それぐらいしなければ……」
「受け入れて貰えない? そうだね。その通りだ。そしてそこまでして、ようやく認められるのだ。やはり君が悪魔なのを私は惜しんでしまうよ。ただの人間の子であればここまで悩む事も無かっただろう」
首を左右に振りながら言うトウジさんに、私は上げていた顔を俯かせてしまう。
悪魔と人間と、悪魔と聖職者と。種族や立場の壁の隔たりはとても大きく、広い。わかっていたつもりでも、実際に目の前に立ちはだかられて感じる溝の深さに私は眉を寄せてしまう。
「それでも私は悪魔で、トウジさんは聖職者です。それで良いと思ってました。きっと、これからも変わりません。私は貴方達、神の信仰者の敵です。その事実は変えられません。そこまで変えてしまう必要はないんです。それでも私達は歩み寄っていける。私はそう信じてます」
お互いに相容れなくて、決して混じり合う事は出来ないのかもしれない。
けど、それで良い。朝と夜が混じらないように。お互いがお互いの役割を果たして、世界を回して行けば良い、と。私はそう思ってる。
「リアスちゃん、君は……何故、そこまで尽くせる? 和平を望む、その先駆けとなる君は何を見ているんだ? 決して平坦な道ではない。幾度も苦渋を呑んだ筈だ。なのに何故、君はそれでも歩む?」
「夢と理想を、心の底からの叶えたいと思っているから。だから私は止まれない。この胸を焦がす程の思いを私は消す術なんて知らないから」
どう言い繕ったって、どんなに善行を積もうと。悪魔は悪魔だ。それ以上にもそれ以下にもなれないし、なる必要なんて無い。
私は悪魔として生まれた自分を誇りたい、そして好きになりたい。悪魔の自分のまま、リアス・グレモリーとして生まれた私自身を。だから誇り高くありたい。
悪魔が神の敵として生まれたなら、敵として在り続けても構わない。それが悪魔の運命なら。だけど、そこに憎しみは欲しくはない。挑み、挑まれて、お互いを高め合えるような。そんな理想を知っている。知っているからこそ目指したいと思っている。
私が憧れた日々を、もしくはそんな日々を超えるような幸せを。だから私は足掻いている。夢を見ている。理想を叶える為に日々を生きてる。いつか望んだ
「……時代の変わり目なのかもしれないな」
ぽつりと、トウジさんが呟く。そして私へと視線を向けて。
「若さとは眩しいな。目が眩んでしまいそうな程に……本当に、眩しい。けれど、それで新しい時代の幕開けを目にする事が出来るなら。争いが減り、互いが互いを尊重出来るような世界が生まれるなら、それに越した事はないのかもしれない」
トウジさんに同意するように、私は頷く。
決めたんだ。我が儘に世界を変えて行こうって。だから、変えて行かなきゃ。どうしようもない世界も、理不尽も、どうしても納得が出来ないんだから。
* * *
トウジさんとの会話が終わらせて、私はイリナの私室の前に立っていた。
何度も大きく深呼吸して、私はドアをノックした。
「イリナ? 私よ、リアスよ」
……声をかけても返事がない。それでも辛抱強く待ってみる。それでも反応がない。ただ沈黙の時間が流れていく。
ドアに手をかけてみれば、鍵が開いていた。悪いと思いながらも私はイリナの部屋の扉を開けた。
中はカーテンで締め切られていて薄暗い。そしてベッドの上には布団にくるまっている山を見つけた。
「……イリナ」
名前を呼んでみると、布団の山が身動ぎをするように動いたのを私は見逃さなかった。
そのまま後ろ手でドアを閉めるけど言葉が出ない。どう声をかけたら良いのか、なんて。ここまで来て言葉に詰まる自分に舌打ちがしたくなる。ふぅ、とゆっくりと息を吐いて。
「……まだ、怒ってる?」
問いかけてみるも、動きはない。焦れったい思いが私の胸を焦がす。ゆっくりと静かにベッドの傍まで行って、ベッドに腰掛ける。
「……言ってくれないと、わからないよ。イリナ」
それでもイリナは何も答えてくれない。ただ、少しだけ震えているように布団の山が動いていた。一瞬戸惑ったけど、私はイリナを布団越しに抱きしめようと手を伸ばす。
布団の中に収まっていた小柄な彼女を布団越しに捕まえる。すると、抵抗するように身動ぎをしようとするイリナ。それでも私は抱え込むように抱きしめる。逃がさない、と意志を表明するように。
「イリナ、謝りたいの。貴方を泣かせてしまった事、貴方を傷つけてしまった事……貴方が傷つく事なんて無かった。貴方の優しさは正しいの。悪かったのは、悪魔だった私。受け止められなかった私。言わないといけない事を黙っていた私だった。だからイリナが悪い訳じゃないの」
抱きしめながら私はイリナに頭を預けるようにして囁く。恐らく背中から抱きしめた格好となって、私はイリナのうなじに額を預けるような姿勢になっているのだろう。
なんとか紡いだ言葉も届いてるかどうか。すると、イリナが身動ぎをした。今まで腕の拘束を逃れようとする動きじゃなくて、体の向きを変えるような動き。私はその変化に気付いてイリナを離した。
する、と布団が落ちる。顔を出したイリナの目は真っ赤で、目の回りは涙の跡で赤くなっていた。どれだけ泣いたのだろうか、と思うと胸が締め付けられて痛い。
「……イリナ」
「リーアは」
名前を呼んで声をかけようとした所に、割り込むようにイリナが声を発した。顔を少し俯かせ、布団をぎゅっと握るように手に力を込めながらぽつり、ぽつりと呟くように。
「……リーアは、私の事、嫌いじゃない?」
「そんな事、ある訳ない」
「酷いこと、いっぱいしたよ」
「……確かに、痛かったわ。迷惑だと思った事もある。言わないだけで、お祈りをすると頭は痛くなるし、十字架に触れれば痛い思いをした」
そっとイリナの拳に手を添えるように伸ばす。今度は振り払われずにその手を掴む事が出来た。
「でも、それはイリナが神様に私を許して欲しい、って優しい思いから来てる事も知ってる。私はそんな優しいイリナが好きだった。だから優しいイリナでいて欲しかった。だから何も言わなかったの」
「私、優しくなんて出来てない。リーアに、いっぱい、いっぱい、嫌な事した……!」
「させてしまったのは私よ。イリナは、何も悪くない」
正面から抱きしめるようにイリナの背に手を回し、撫でるように触れる。イリナの体は震えていて、おずおずと私の背に手を伸ばしてくる。その手が私を抱きしめるのと同時にイリナの体の震えが強くなった。
「私、私……リーアに、ひどい、ことして……嫌われてたんじゃって、こわく、て……!」
「イリナ。……そんな事、ないよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、傷つけたい訳じゃなくて、神様が、リーアを許してくれますようにって……! リーアが、好き、だからぁ……! ずっと、友達で……いたくて……!」
「大丈夫、大丈夫よ。本当にごめんね、イリナ……」
縋るように私に抱きついてくるイリナを受け止めながら、彼女の背を撫でるように叩きながら私は何度も大丈夫、と囁く。
本当に度し難い。傷つけたい訳じゃなかったのも、傷ついていたつもりもなかったのに。それは私がそう思っていただけで、イリナにとっては違った。
イリナにとって私は、いつの間にかそんな大きな存在になっていたなんて思わなくて。何を見ていたんだろう。見ていたつもりで、きっと何も見えていなかった。
私は、こんなにも好かれている。そんな私が自分を大事にしないなんて、大事な人達を傷つけてしまうなんてわかっていた筈なのに。私は何度、繰り返せば気が済むのか。
「……ごめんね、イリナ。それから、ありがとう」
刻みつけよう。もう二度と忘れないように。この痛みを、この思いを絶対に消さないように。
* * *
リアスとイリナの和解が済んでから数日後、無事に快方した一誠とイリナは紫藤家に集まっていた。定期的にお泊まり会をしていた2人にとって慣れたものではあったが、いつもと事情は違った。
居間には一誠とイリナの他にトウジ、八重垣、そしてリアスが揃っていた。トウジと八重垣は真剣な表情を浮かべていて座っていて、一誠とイリナは隠しきれない不安を表情に出していた。
そんな一同を見てから、リアスは呼吸を整えるように深呼吸をしてから話題を切り出した。
「今日、集まって貰ったのはお話しておきたい事が色々ありましたのと、今後の事についてお話をさせて頂ければと思ったからです」
「イリナと一誠くんも呼んでかい?」
「えぇ、必要な事でしたので。特に一誠については、今後の未来を決める大事な話になるわ」
「み、未来……?」
特に名前を挙げられた一誠は、何故自分が名指しをされるのかわからずに不安そうな表情なまま自分を指で示す。リアスは小さく頷いて、一誠へと視線を向けながら。
「一誠、貴方の中にドラゴンがいる、という話はしたわね?」
「う、うん」
「そのドラゴンの名はドライグ。“
「馬鹿な!?」
トウジが机を両手で叩きながら立ち上がった。そんなトウジの様子に一誠もイリナも身を竦ませた。八重垣も信じられない、という表情を浮かべて呆けている。鬼気迫る、という表情のまま、トウジはリアスへと詰め寄った。
「一誠くんが……『
「今まで黙っていて申し訳ありません。ただ、秘匿せざるを得なかった理由もおわかり頂けると思います」
「……そう、か」
トウジはそのまま力なく椅子に座り直してしまう。その表情には苦悩の色がありありと満ちている。
どうしてトウジがそこまで感情を昂ぶらせたのかわからないイリナが、不安を拭う為にリアスへと問いかける。
「リーア? その、ブーステッドギア? って何……?」
「そうね。『
「うん」
「じゃあ、悪魔と天使、堕天使が戦争をしていた事も?」
「……うん。たくさん、たくさん悪魔も天使も、堕天使も死んじゃったのよね?」
「えぇ、たくさんの命が失われたわ。今は、戦争を止めましょう、って言って戦争はしてないのだけどね。その三勢力の戦争なんだけどね、一度だけ、戦争を止めなければならない事が起きたの」
「戦争を止めないといけない事……?」
「どの勢力にも属さずに暴れた二匹の“ドラゴン”がいたの。そのドラゴンは天使も、悪魔も、堕天使も関係なく攻撃を仕掛けたの。その二匹のドラゴンを止めるため、三勢力は手を組んだ。その“ドラゴン”の片割れが貴方に宿るドラゴンなのよ、一誠」
リアスの説明に一誠は息を呑んだ。自分の中にいるというドラゴンはそんなに凄いドラゴンだったのか、と。
「ただ、三勢力が手を結んだ事でそのドラゴンの二匹は封印する事に成功したの。そして、その魂は『
「セイクリッドギアって何なんだ?」
「神様が生み出した不思議な力、と言うのが簡単かしら。色んな形があるのだけど、ただの人間が人外、それこそ悪魔や天使や堕天使と戦える程の力を与えるものもあるわ。一誠の中に眠っている『
「神様すら……殺す」
ごくり、と一誠が息を呑む。イリナも言葉を失って、信じられないと言った様子で一誠を不安げに見る。
「えぇ……神器と言ってもピンからキリあるのだけど、例外なく言えるのはただ1つ。神器を宿して生まれた人間は数奇な運命を歩む、という事。『赤龍帝の籠手』、ドライグを宿す者は特に、ね」
「数奇な運命って……」
「神様を滅ぼす事も出来る力よ? 誰だって欲しがるし、危険に思うわ。もし貴方が『赤龍帝の籠手』の所持者だと知れば、貴方を洗脳して手下にしたり、殺そうとする者達は絶対に現れる」
「洗脳に、殺すって……!?」
リアスの口から飛び出た物騒な言葉に一誠は目を見開く。だが、リアスの表情が一切動じず、変わらないままなのを見て冗談でも嘘でもない事を悟る。
隣でイリナも不安げに一誠を見て、その手を握った。一誠はその手に驚くも、すぐに縋るようにイリナの手を握り返す。
「ドラゴンは力を招き寄せる、とは昔から言うものだわ。だから一誠、貴方のこれからの人生は決して平穏には生きられない。座して殺されるのを待つか、闘争の果てに生き延びるか……貴方に許された選択肢は余りにも少なく、過酷よ」
「なんで……? なんで! なんでイッセーくんがそんな目に遭わなきゃいけないの!?」
「運命だからよ。それが『赤龍帝の籠手』を宿してしまった者の宿命。神様によって力を与えられてしまった人が背負わなければいけない宿業」
「神様って何なの!? 何でそんな酷い事を許すの!? 祈りを捧げたら神様は人を救ってくれるんじゃないの!?」
イリナが憤りを隠す事なく吠える。それにトウジは眉を歪め、八重垣も苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。リアスは目を閉じて、イリナの憤りを受け止めてから静かに口にする。
「私は悪魔だから、神が何を思って“
「そんな……! じゃあ、そんなもの要らないって捨てれば良いじゃない!」
「無理よ。“神器”は魂と密接に繋がっている。無理にでも引きはがせば所有者の命はそこで尽きるわ」
「……理不尽だ! 理不尽だよ! そんなの!」
イリナが絶句したように息を呑んでから、怒りを爆発させたように叫ぶ。イリナが叫ぶのをリアスは目を細めて見つめ、そして目を伏せるように閉じて。
「……多くの神器所有者はそう思った、と聞くわ」
「え?」
「こんな力、いらなかったって。神器の力は奇跡かもしれない、けれど奇跡を起こした人は祭り上げられるか、疎まれるかのどっちかしか出来ない。平穏に生きていくのはとても難しいの」
「……そんな……」
イリナが俯いて肩を震わせる。隣にいる当事者である一誠よりも、イリナは感情を爆発させて憤りを示していた。イリナの中でどんな感情が渦巻いているのか、推し量る事は出来ない。
そんなイリナを見つめてから、リアスは一誠へと視線を移した。どこか呆けたように話を聞いていた一誠はリアスの視線に気付いて目を合わせる。
「……一誠」
「……リーア、俺、どうしたら良いんだ?」
「一誠はどうしたい? 貴方が望むなら私は叶えてあげる。これは悪魔の契約と思ってくれても構わないわ」
「悪魔の契約……」
「えぇ、そうよ」
強く頷いて、リアスは一誠へと告げる。
「貴方が私に護って欲しいと言うのなら、この身を賭してあらゆる災禍から守りましょう。貴方が平穏を望むと言うのなら、その平穏を必ず守り通しましょう。貴方が力を望むのなら、その力の使い方を教えてあげましょう。代価はただ1つ」
「……代価」
「えぇ、契約に支払う貴方の代価は――絶対に幸せになる事よ」
「え……?」
「命を寄越せ、なんて言うと思った? 今時、命をかけた契約なんて流行らないの。それに友達価格でお安くしておくわよ?」
鳩が豆鉄砲を喰らったように呆ける一誠に、ウィンクをするリアス。そんなリアスの仕草に一誠は思わず見惚れる。それ程に綺麗に、力を抜いた笑みを浮かべてリアスは笑っていたから。
「イリナも、勘違いしないでね? 神様は不幸にしたくて神器を人間に配ってる訳じゃない。じゃないと許せないでしょ? 私はだから、神器を持つ人達を、神器を持つ事で不幸になる人達を救いたいと思ってるの。それは当然、神様を信じるトウジさん達も同じ気持ちよ」
「……本当?」
「えぇ。ただ、神器の力はとても強力で、宿る人の善悪は関係ない。だからどうしても悪い人が出てきちゃう。神様から貰った力で悪い事をしてしまう人がいるの。どうしても救えない事をしてしまう人達もいるのが現実よ。だから一誠を殺そうとする人がいても、憎まないでね。許してあげて、とは言わないけど」
「……うん」
「良い子ね、イリナ。……さて、話を戻すけど、一誠はどうしたい?」
場の視線が一誠へと集中する。リアスが、イリナが、八重垣が、トウジが。全員が一誠を見ていた。一誠は悩むように自分の手を見つめていたが、不意に顔を上げて。
「……俺には、神様すら滅ぼせる力が使えるかもしれないんだろ?」
「えぇ、そうよ」
「俺を危険に思って、殺そうとしたり、利用しようとする奴もいるんだよな?」
「そうよ」
「俺は、死にたくない。それに力があるなら……俺を襲った悪魔みたいな奴から誰かを守れる?」
一誠は真っ直ぐにリアスを見つめて問う。一誠の顔を見つめて、リアスは笑みを消して真剣な表情を繕い向き合う。
「貴方が力を望むなら。その思いが本当なら『
「なら、俺は護りたい。理不尽で殺されそうな奴を助けてやりたいんだ。そして認められたい。俺は生きていたいから。力を貰ったなら、その力を誰かの為に使いたい。それがどんなに怖がられる力でも……俺を助けてくれたリーアのようになりたい」
リアスのようになりたい、という言葉にリアスは目を瞬かせた。何を言われたのか一瞬掴めず、けれど理解した時に何とも言い難い表情を浮かべて曖昧に笑みを浮かべる。
「私はそんな立派なものじゃないけど。一誠が憧れてくれるなら恥ずかしい真似は出来ないな」
ふぅ、と溜息を吐いてからリアスは表情を引き締める。
「一誠。戦う事を選ぶんだね? その為の力を望むんだね?」
「うん」
「じゃあ、私と約束よ。絶対にその最初の思いを忘れない事。力に溺れない事。自分を見失わない事。……いいわね?」
「おう!」
力強く頷いた一誠を見て、リアスは優しげな瞳を一瞬浮かべた後、トウジと八重垣へと向き直り頭を下げる。
「……勝手ながら、力を貸してください。トウジさん、八重垣さん。私は一誠を護りたい。あらゆる思惑から、彼が自分の意志で歩んで生きていけるように。力を担う先達者として一誠を導いて欲しい」
「……それで良いのか? 我等が一誠くんを保護すれば、赤龍帝を天使側の勢力が確保した、と思われるぞ」
「その点は私からミカエル様に改めてお話させて頂きたいと思います。尚、これは私の独断で悪魔側で一誠が赤龍帝だと知っているのはごく一部です。表に知られるまでは平穏に過ごせるでしょうが、知られれば一誠を眷属として悪魔に転生させる事を目論む者もいるでしょう」
「そうなる前に一誠くんの身辺を固めたい……という事か」
「はい。難しい事を頼んでいるのは承知ですが……一誠が自分で道を選べる大人になるまで、私は一誠にどの勢力も関わらせるつもりはありません」
確固たる決意を以てリアスはトウジへと告げた。それを受けたトウジは暫しリアスを見つめ返し、そして目を伏せながら大きく頷いた。
一誠はこの瞬間を忘れる事はないだろう。この日を境に、一誠の運命は、そして一誠に関わる者達の運命は大きく変わっていく事となるのだから。
同時に、彼は忘れない。彼の胸の奥、鮮やかな程に焼き付いた原風景。そこに紅髪の彼女がいる事を。終生、忘れる事はないだろうと。