深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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第5章 変転の夢
ACT.01


 光陰矢の如しとは言うもので、月日の流れは本当に早いものだ。

 私は目の前で行われている光景を見つめながら、そんな思いを抱く。

 鳴り響くのは剣戟の調べ。向かい合うのは2人、1人は少年で、1人は青年。

 少年、一誠の振り抜いた剣を身を捻る事で青年、八重垣さんは危なげなく交わす。

 八重垣さんの繰り出した拳を一誠は左手の籠手で防ぐ。そのまま弾かれるように互いに距離を取る。

 

「一誠くん、今の打ち込みは良かったよ」

「はい!」

「じゃあ、もうちょっとペースを上げようか」

 

 くす、と微笑んで八重垣さんが剣を構え直し、一誠も籠手と剣を構え直して向き合う。そして互いに距離を詰めて剣戟の調べは再開される。

 一誠が自らに眠る力を知ってから1年の月日が流れた。あの日から一誠は強くなる為に力を欲した。その強くなる一環として一誠の先生役を担ってくれたのはトウジさんと八重垣さんだった。

 “原作”と違って、一誠は何の力も持たない人間のままだ。あれから何度か試してみたけど“赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)”の発現には至っていない。

 そんな一誠の力を伸ばす為に買って出てくれたのがトウジさんと八重垣さんの2人の聖剣使い。一誠自身に聖剣を扱う才能は無かったけども、剣術そのものは教えられるという事で一誠はエクソシストとしての技術を2人から学ぶ事になった。

 2人が一誠に身につけさせたのは片手に剣、片手に籠手というスタイルだ。籠手で防御をこなしつつ、剣で攻撃する。時には籠手で拳を繰り出す事も視野にいれた、将来一誠が発現させるだろう“赤龍帝の籠手”を前提とした修練だった。

 お世辞にも才能が豊かだとは言えない、と一時は言われた一誠だったけど、持ち前の負けん気と根性で努力を重ね、才能がないなんて言われる事はなかった。ただ直向きに努力を重ねて一誠は強くなっていっている。

 聖剣こそ扱えなかったものの、光の剣といった一般的な退魔師の道具は使えるようになり、出会いさえ違えば立派な悪魔祓いになれていた、とトウジさんが言っていたのを思い出す。一誠としては、別にエクソシストになりたかった訳じゃないと言ってたけど。

 

「リーアー!」

「あら、イリナ。おはよう」

「おはよう」

 

 私が一誠と八重垣さんの稽古を見学していると、イリナが駆け寄ってきた。

 その手にはバスケットが握られていて、その中から僅かに美味しそうな匂いが漂ってきた。これも日常となった風景だ。イリナが朝食を差し入れで持ってきてくれるようになったのは。

 イリナだけど、あれから一誠以上に変わったと思う。一言で言えば大人びた、大人しくなったと言えるけど、好奇心や気の強さは相変わらず。ただ少し残念に思うのは、彼女はあまり神への信仰心を持たなくなったという事。

 それには私が教えてしまった現実が、イリナにとって神への不信に変わってしまったそうで。神に祈りを捧げる事を止めた訳ではないけど、信仰が深いかと言われるとそうでもない。

 神様を心の底から信じる事が出来ない、と相談された時、私はどんな顔をすれば良いかわからなかった。上手い言葉が見つからず、お互いに空気を重くしてしまうから私とイリナの間ではタブーの話題となっている。

 そんな彼女は体を動かす事も好きで、こうして朝食を作って一誠と八重垣さんの稽古に混ざっている。そして意外だったのは、イリナは錬金術を学び始めたという事。

 一誠が頑張る中、自分も何か出来る事がしたい、と。最初は一誠と一緒にエクソシストとしての訓練を積んでいたけども、イリナとしては複雑だったのか身が入らなかったようで。そんな中でトウジさんが勧めたのが錬金術だった。

 元々好奇心の強いイリナは錬金術師としてめきめきと成長していて、研究にフィールドワーク、そして稽古と私以上に忙しそうにしているイリナである。私も冥界でしか取れない素材を取ってきたりと、イリナ専属の契約悪魔みたいな事をしてたり。

 尚、錬金術を学ぶ過程でイリナが得たのが料理の腕前の上達だ。イリナのお母さんが家庭の味を奪われてしまいそう、なんて冗談を言う程にイリナの作るご飯は美味しい。

 将来は良い嫁さんになるだろうな。その為には平和な世界を勝ち取らないといけないと、志を抱き直す程に。

 ……ただ、そんなイリナにも、欠点というか。悪癖が生まれてしまったものもある。

 

「はい、リーア! 新作よ!」

「う、新作……?」

 

 そう、そう言って渡されたのはボトル。よくスポーツドリンクなどを入れておくアレだ。このボトルから私は禍々しい気配を感じるのは、果たして錯覚なのか、それとも……。

 これはイリナが錬金術でポーション作りを始めてから生み出される“健康ドリンク”なのだけど、不味い。とにかく不味い。料理上手な筈なのに健康ドリンクと称されたコレだけはどうにもならない筆舌に尽くし難い味なのだ。

 良薬口に苦しって言うでしょ? とは言うイリナだが、本人も味の改善には手を尽くしてるとの事。本人も不味いとは理解しているらしく、今後に期待して欲しいとはよく言っている。

 まぁ、効能は実際に効くので確かに良薬ではあるんだけどね。イリナのお母さんなんてなんかこう、肌が若返ったみたいだって自慢してたし。トウジさんも体調の維持に常飲してるみたいだし。正直、愛だと思う。

 

「一誠! 正臣さん! お疲れ様! はい、ドリンク!」

「うっ、き、来たか、イリナ……!」

「飲まなかったら朝ご飯抜きだから」

「ははは、それじゃあ、頂こうかな。……アーメン」

 

 丁度、稽古を終えた一誠と八重垣さんにイリナがドリンクを差し出すと一誠は露骨に嫌そうな顔をして、八重垣さんは十字を切りながらドリンクを受け取っていた。

 まったくの問題がない訳じゃないけど、日々は平和に流れて行く。私はぐっ、と背筋を伸ばしてドリンクに悶え苦しむ2人に苦笑しながら歩み寄っていくのだった。

 

 

 * * *

 

 

 その日、夜を迎え、管理者としての仕事や、本来通うべきである冥界の学校、その単位の代わりとなるレポートを纏めている時だった。私の下に一通の連絡が入った。それは珍しくお兄様からの連絡で私は目を丸くした。

 

『やぁ、リーア。今、良いかい?』

「お兄様? 急にどうされたんですか」

『少し困った事になってね。リアス、すぐに支度をしてくれ。君に頼みたい仕事がある』

 

 お兄様から言われ、私はすぐさま身支度を調え始める。その間にも兄様が話を続ける。

 

『話というのは、姫島 朱乃についてだ』

「姫島 朱乃の?」

『あぁ、彼女を監視していたんだが、どうやら私の放っていた監視が目をつけられたらしくね。今、バラキエルと交戦中だ』

「たった今ですか!?」

 

 私は思わず驚きの声を上げてしまった。朱乃の事は確かにお兄様に頼んでいたけど、バラキエルに見つかっちゃったのか。なんて最悪な!

 

『そして最悪な事にそのタイミングで姫島の家に迫る者達がいるらしい。こちらの手が足りず、すぐに動かせる手がない。リアス、行けるか?』

「そうならそうと早く言ってください!!」

 

 私は怒声を通信越しにお兄様へと浴びせてしまう。だが、私の心の中には焦りが走っていた。なんてタイミング! いや、逆かもしれない。お兄様が放っていた監視を利用したのかもしれない。

 悪魔がお前達の傍を彷徨いているぞ、なんて情報を流すだけでバラキエルを釣る事なんて簡単だ。その間に始末出来れば悪魔に罪を擦り付ける事すらも考えているかもしれない。

 ともかく、朱乃に危険が迫っているというのならば行くしかない。例え赤の他人でも、起こるかもしれない悲劇を見過ごす事なんて出来ない!

 

『転移魔法陣で飛んだらすぐ戦場だ。……すまない、リーア』

「お兄様は最善を尽くしてくれました。後は私に任せてください」

 

 通信越しに謝罪してくる兄様に私は告げて、そのまま転移魔法陣の転移に身を任せる。

 転移魔法陣を抜けて目を開く。そこには巫女服や陰陽師といった風貌の者達が臨戦態勢で構えていて、私の前に現れたのは1人の茶髪の男性。

 

「ベオさん!」

「来たか姫さん! 悪いな、姫さんの手を患わせる事になっちまった!」

 

 そう言って男性、ベオウルフさんは私に謝罪の言葉を口にした。お兄様の『兵士(ポーン)』で、お兄様と会う時に紹介された事もある。こうして戦場で並ぶ事になるだなんて思ってなかったけど。

 

「今、沖田の兄さんがバラキエルと戦ってるんで俺が此奴等の足止めをしてたんすけど、多勢に無勢って奴で! 何人かもう家に向かっちまった! 更には結界も張られたんで悪魔じゃ寄りつき難いんすよ!」

「そういう事情で私が寄越された訳ね。ベオさん、突っ切るわ。私が行くからこの場は任せたわ!」

「姫! 無理だけはしないでくれよ! あとで俺がドヤされちまう!」

 

 互いに言葉を交わし合って、迫ってきた呪符などや炎をステップで避ける。ベオさんは拳を握って叩き落としたりしてぷらぷらと手を振っている。それでもじゅう、と灼けるような音と煙が出ているから何回も叩き落とすのは危険だろう。

 

「くっ! 何故だ、何故悪魔が堕天使に肩入れするのだ!」

「うるさい、退け! Boost!」

『Boost』

 

 私は勢いよく駆け出して“悪魔の手(デモンヴェアリ)”から注がれた魔力で体を強化しながら飛び込む。私が飛び込んだ後ろをベオさんが補佐するようにサポートしつつ、道を空けてくれる。

 相変わらずベオさんは合わせてくれるのが上手い。相手の呼吸を掴むのが得意というか、合わせが非常に上手いのだ。今もこうしてすんなりと人垣の壁を抜け、目標と思わしき破邪の気配を感じる結界を目にした。

 私の道を作って、今度はベオさんがその道を塞ぐ。一瞬振り返ってその様子を確認して、私は覚悟を決める。躊躇っている暇はない。出し惜しみも、慢心も、何一つ捨てる!

 

「“我が目覚めは、泡沫の如き淡き夢”」

「“この胸に、希なる望みを抱いて現に夢を見る”」

「“されど、現に在らぬ幻を重ねて思い焦がれる”」

「“故にこそ、我は矛盾の体現者”」

「“我が儘に、願い、望み、欲する、故に――この身は、龍となる”!!」

 

 謳え、謳え、謳え! 掴める希望は、絶対に! 零しはしない!!

 

 

「『“我は『夢現の龍』なり”(メタモルフォーゼ・リーンカーネイション)』!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 姫島 朱璃は我が子である朱乃を強く抱きしめながら覚悟を決めていた。それは命に代えてでも我が子を護る、と言う悲愴なまでの決意だった。

 夫であるバラキエルから悪魔が近隣で活動をしている、この討伐の為に少し家を空けると言っていた。ならば頼れる夫は戻らない。ならば、この幼い我が子を護れるのは自分しかいないのだと。

 

「お母さん……」

「大丈夫よ、朱乃。すぐに、すぐにお父様が助けに来てくれるわ」

 

 怯え、震える我が子を強く抱きしめる。自身が張った結界が解かれていく気配を感じる。しかし朱璃には戦う術などない。故にこの結界が解かれた時、抵抗の術を失う。その事実を何より理解しているのは朱璃自身だった。

 そして結界は解かれていく。結界が解かれ、姿を現したのは陰陽師と思わしき格好をした者達。それが家へと上がり込み、朱璃と朱乃を睥睨する。

 

「……堕天使との間に生まれた忌み子か。哀れな」

「哀れ? 哀れですって……? この子は私と夫との愛の結晶です! そんな風に哀れまれる筋合いなどありません!」

「堕天使に拐かされたとは聞いていたが、あまりにも惨い。すぐに楽にしてやろう。その忌み子共々な」

 

 力の高まりに逃げ場もなく、迫る絶望に朱璃は歯を噛みながら我が子を抱きしめた。伏せた瞼の裏に移ったのは最愛の夫の姿。

 しかし、次に朱璃を襲ったのは、朱璃が覚悟していた死への衝撃ではなかった。障害を砕くようにして飛び込んでくる音に顔を上げる。

 

 ――美しいまでの紅。月光に照らされた紅の髪が風に舞い、朱璃とその腕に抱かれた朱乃を庇うように立ち塞がったのは“龍人”。

 

 

「な、何者!?」

「名乗る名はないわ。――失せなさい、この親子の命は貴方達には惜しい」

 

 この場に乱入した者、リアスはただ感情を感じさせない平坦な声で告げる。確固たる意志で敵対を示すかのように、その翼を広げて朱璃達を覆い隠す。

 

「構わん! 纏めて始末しろ!!」

 

 殺到する霊力を込めた符や術が殺到する。ただ一点、朱璃と朱乃、そして乱入してきたリアスを滅ぼす為に。

 しかし、死を感じる一撃は、返す一撃によってまた粉砕されてしまう。それはリアスの振るった“尻尾”が全ての攻撃を薙ぎ払ったのだ。その光景に一瞬、誰もが呆気取られる。

 

「もう一度言います。失せなさい。でなければ次はその首が飛ぶ事になりますよ? 無用な殺生は好みません。この親子に手を出さなければ、その命を無為に捨てる事もないです。さぁ、賢明なご判断を」

 

 リアスは感情を殺したような無表情を浮かべ、異形の瞳で術者達を一瞥する。リアスの異形の瞳に怖じ気づいたのか、術者達の足が一歩下がる。

 

「龍……龍だと! 何故、何故龍が介入してくるのだ!?」

「縁故に」

「縁だと!?」

「本来は繋がる筈のない、されど夢幻の如く淡き糸が紡いだ運命。雷光に代わって我が身はこの時、この親子を護る化身となりてここに在りましょう」

 

 大きく翼を広げるようにして、尻尾で床を叩く。そして威嚇するように牙を剥いてリアスは警告する。次はない、と瞳を爛々と輝かせながら。

 暫し、膠着状態が生まれる。その中で1人、そのまま後ろに引いて逃げ出す。それを切っ掛けにしてまた1人、また1人と背を向けて走り出す。

 

「ま、待て! 待て貴様等!」

 

 残っていた術者達も戦況の不利を悟って次々と逃げ出していく。そして最後の1人が家から出て行き、気配が遠ざかったのを確認してリアスは安堵の吐息を吐いた。

 リアスは振り返ると、呆然としている朱璃と、朱璃の腕の中で目をぱちくりさせながらリアスを見つめる朱乃の姿を見た。それを見たリアスは心の底からの笑みを浮かべて、思わず目線を合わせるように膝を付いた。

 

「……良かった。間に合った」

「……あ、貴方は……一体……?」

「……名乗る程の者でもございません。縁があれば、また」

 

 長居は不味い、とリアスはついていた膝を上げて立ち上がる。そのまま自分が突き破ってきた壁から出て行こうとする。

 

「ま、待って!」

 

 そんなリアスの背に投げかけられたのは、朱璃の腕に抱えられた朱乃の呼び止める声だった。一瞬、リアスは足を止めてしまい、振り返ってしまう。

 

 

「――助けてくれて、ありがとう!」

 

 

 叫ぶように伝えられた感謝の言葉にリアスは呆気取られたような表情を浮かべた後、泣きそうな顔で、けれど笑みを浮かべて、そのまま空へと飛び去るように翼を広げた。

 朱璃の腕から離れ、外へと飛び出した朱乃がその姿を見送る。紅の髪と翼を靡かせるその姿を見えなくなるまで、ずっと。

 

「朱乃ッ! 朱璃ッ! 無事か!!」

 

 そこに飛び込んできたのは無骨な男、朱璃の夫であり、朱乃の親でもある堕天使バラキエルその人だ。その体には斬り傷が無数にあり、肩で息を吐いている事から急いでここに駆けつけてきたのが見てわかる。

 バラキエルの姿を見た朱乃は、すぐさまバラキエルの胸の中に飛び込んだ。遅れて外へと出た朱璃も混ざり、親子三人は互いの無事を確認するように抱きしめあった。

 

「すまない……まさか、姫島の者がこのような姦計を仕掛けてくるとは……」

「良いのです、良いのです……こうして無事だったのですから」

「しかし、お前達、どうして助かったのだ? 襲撃者達は……」

「龍人様が追い払ってくれたの!」

 

 バラキエルが不可解そうに疑問の声を漏らすと、バラキエルの腕の中に収まっていた朱乃が満面の笑みを浮かべてバラキエルに伝える。

 龍人? と訝しげな顔をするバラキエルは、確認を取るように朱璃へと視線を向ける。朱璃は朱乃の言葉を否定せず、1つ頷いて見せた。

 

「紅の龍の人! とても綺麗で! 格好良くて! 私とお母様を助けてくれたの!」

「……そうか」

「お礼もちゃんと言ったの! 助けてくれて、ありがとうって! そしたら、凄く綺麗に笑ってくれたの!」

「……そうか、そうか。朱乃、すまない。怖がらせてしまった。肝心な所で傍に入れない父親ですまない……すまない……! その龍が来てくれなかったら、私は、お前達を……!!」

 

 感極まったように噎び泣きをしそうな様子のバラキエルを慈しむかのように朱璃が抱きしめる。朱乃もそんな2人の様子を見て、バラキエルの腹に抱きつくように腕を回す。

 月光が照らす中、堕天使とその妻と子供は互いの無事を喜び合うように抱きしめ合うのだった。

 

 

 * * *

 

 

「いやぁ……今回はドジを踏みました。申し訳ありません、姫」

「うぅん、総司も無事で良かった。はい、これ。私の知り合いの子が作ってくれたポーション」

「これは忝ない」

 

 私はあれから姿を隠すように飛んで、術者達と戦っていたベオさんと合流。そして同じように合流した総司さんと一緒に離脱して、私の家に連れてきた所だ。

 バラキエルと戦っていたという事で、総司さんの怪我はかなり深かった。総司さんはかつて新撰組の一員であり、病に冒された身を何とかしようとして外法に手を出していたという。その時にお兄様と出会って眷属になったという話を本人から聞いている。

 その外法によって多数の妖怪を体内で飼っているというのだけど、その妖怪の半分ほどが行動不能になるまで追い込まれたらしい。

 

「流石、堕天使の幹部クラスとなると相手にするのも楽じゃありませんね……避けに徹していたので、この程度で済んでますが」

「こっちも術者達が多くて、とにかく大変でしたよ。そんなダメージじゃなくても蓄積するとやっぱ痛いですし……」

「ごめんなさいね、2人とも。私の我が儘で……」

「気にしないでください。私は主の命を遂行したまでですが」

「まぁ、姫の手を煩わせちゃったんだけど……」

 

 謝罪を口にする2人に私は首を左右に振る。朱乃と、朱乃のお母さんが無事だったんだ。それで十分だと言うように。

 

「……けど、総司とベオさんの顔が割れたのは不味かったね」

「えぇ。ルシファーの眷属がバラキエルの周りを嗅ぎ回っていたとなれば……」

「戦争の要因になっちまう? 俺達がか」

「……そうなる前に、私が手を打つから大丈夫よ」

「姫?」

 

 そう、この2人は魔王の眷属なのだ。この2人がバラキエルの周りを嗅ぎ回るように動いていたというのが堕天使側に知られれば、一体どういう動きになるのか予想が付かない。

 こうなってしまっては仕様がない、と私は開き直る事にした。何も悪い事はしていないし、むしろ相手にとって利のある事をしたのだ。ならばこのまま突っ切らせて貰おう、と。

 

 

「後日、バラキエルに接触して、このままアザゼルまで和平の話を通す」

 

 

 ベオさんが思いっきりポーションを噴き出したけど、私は頑なな決意を固めて頷くのであった。

 

 

 

 

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