深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.05

 悪魔の身だと言うのに慣れてしまった教会の中で、私はほぅ、と息を吐き出した。

 今日は奇跡の子であるテオドロとその両親が来日する予定の日。私は少しばかり飾った身支度を調え、その時を待っていた。

 今回は事が事だけに教会の警備の方もかなりの厳重だ。その為、悪魔側の陣営でここにいるもの達も少数だ。残りは一誠達の護衛をお願いした。何かあった場合、あちらも狙われる可能性があるからだ。

 一誠にイリナ、朱乃の顔を思い出し、頑張らねばと意気込みながら私は顔を上げた。時計を見れば間もなく時間だ。私が顔を上げたのと同時にノックの音が響く。

 

「リアス君、私だ」

「拝戸牧師」

 

 駒王の教会勢力を纏めている拝戸牧師だ。普段はトウジさんと仕事をする事が多いから、そんなに交流は多くはないけれども道端で会えば世間話をする程度には交友を持つに至った。

 扉を開けて顔を合わせれば、やはり緊張しているのか表情が強張っているように思える。

 

「そろそろ時間だ。来てくれるかね?」

「えぇ。こんな機会を頂けたので、やはりお互い緊張するものですね」

「あぁ、後の歴史にでも残りそうだよ。まったく」

 

 茶化すように笑って言う拝戸牧師の緊張が少し緩んだのを見て、私も息を吐く。

 そのまま2人で並びながら歩き、聖堂へと足を踏み入れる。

 トウジさんや八重垣さん、主立ったメンバーに護衛をされながら聖堂で待っていたのは2人の男女と、女性の腕に抱かれた幼子。幼子が私と目が合い、私は笑みを浮かべてみせる。

 この子がテオドロ。天使と人間の間に生まれたハーフの子、か。

 

「お初にお目にかかります。リアス・グレモリーでございます」

 

 スカートの端を持ち上げ、一礼をする。そして顔を上げて改めて3人へ視線を向ける。

 男性も女性も、見るからに柔和で優しそうな、そして誠実な印象を受ける。神聖と称するべきか。少しばかり居心地の悪ささえ覚えてしまいそうな程に清廉、そう称すれば良いか。

 

「お初にお目にかかります、リアス・グレモリー殿。こうして相見える日を楽しみにしておりました」

 

 男性が進み出て、私に握手を求めるように手を差し出した。私もすぐに応じるように握手を交わす。

 

「貴方が、ルイジ・コンティーニ助祭枢機卿ですね」

 

 ルイジ・コンティーニ助祭枢機卿。あれから私の方でも少し調べてみたが、まだ30半ばであり、エクソシストとして前線に立ち続けた猛者の1人だと言う。

 その最中、妻となる天使と出会い、恋に落ちたらしい。その巡り会いには紆余曲折があり、今に至るそうで。聞いた印象だと、ウチの兄様とお義姉様のドラマにも負けず劣らず、といった所だろうか。

 そんな波瀾万丈な人生を送っていた為か、落ち着いて見える雰囲気の底に鋭いものを感じる。気のせいにしてはやはり気が鋭い。まるで鞘に収められた剣のような、そんな印象を覚える。

 今の立場は特例に近いものであり、そこにはやはり天使を妻として迎えたという事が大きいのだとか。

 

「えぇ、お名前を覚えて頂きありがたく存じます。そして、こちらが……」

「イオフィエル、と申します。初めまして、グレモリーのお嬢様」

 

 コンティーニ猊下に代わって、子を抱きしめたまま柔和な笑みを浮かべて挨拶をする女性、イオフィエル。

 とても優しそうな女性で、母性を強く感じる。優しさを詰め込んだような笑顔に一瞬、同性ながら見惚れてしまう。すぐに気を取り直して、私も挨拶を交わす。

 

「ふふ、ヴェネラナの顔を思い出すわ。貴方、そっくりですもの」

「……母上をご存じで?」

「戦場で、敵として何度かね。“亜麻髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)”の名は天使の間でも知れ渡っているのよ? 今は、婚約して名が変わったのだったかしら? 少しは落ち着いたのかしら」

 

 ころころと喉を鳴らすように笑うイオフィエル様に思わず身を縮こまらせる。母の異名と、敵として顔を合わせていた事実。それにどう反応していいのか分からず、一瞬戸惑ってしまう。

 

「私の事はイオ、と呼んで頂戴な。こうして、このような形で出会えた奇跡を喜びましょう」

「……身に余る光栄です、イオ様」

「貴方が為した事に比べれば、私なんて日陰者も良い所よ?」

「奇跡の子を産んだ方が何を仰いますか」

「奇跡、ね。えぇ、本当に。……こちらがテオドロよ。テオドロ、挨拶しましょうね?」

 

 腕に抱かれたままの子供、テオドロが私に視線を向けてくる。どこか興味津々で食い入るように見つめてくる視線に懐かしい気持ちを覚える。ここまで年齢が低い子達と交流するのは幼稚園児時代以来だろうか。

 

「初めまして、テオドロ様」

「……悪魔?」

「えぇ、リアス、と申します」

「あかい髪、すごい」

 

 今日はバレッタで纏めてアップにしているけれど、やはりこの髪の色は目立つのだろう。テオドロ様の視線は明らかに私の髪に集中していて、私は少し頭を近づけるように距離を詰める。

 

「触ってみてもよろしいですよ?」

「……いいの?」

「えぇ、どうぞ」

 

 おずおず、と手を伸ばしてくるテオドロ様の手が私の髪を撫でる。何度か手が往復して、感触を確かめている内にテオドロ様の手が離れる。とても愛らしい笑みを浮かべて、キラキラした眼差しで私を見つめてくる。

 

「とってもキレイなあかいいろ!」

「紅、って言うんですよ、私の自慢の髪色です」

「悪魔なのに、やさしいんだね!」

「……そう思ってくれて嬉しいです」

 

 笑みを浮かべて、テオドロ様の相手をする。やはり天使と人間のハーフと言えど子供である事には変わらない。純粋で、無知で、だからこそ好奇心が旺盛。穢れを知らない無垢さに思わず目が細められる。

 そんな私達の様子を見てイオ様とコンティーニ猊下が微笑んでいる事に気付く。それはどこか安堵するような、そんな印象を受ける。

 

「本当に、話に聞いた通り悪魔らしかぬ人ね。リアス嬢」

「そんな君だからこそ、私達は君に会いたくて極東の地を訪れたのだ」

「……と、言いますと?」

 

 その言い方だと、何かを私に求めていたような口振りで。私は疑問をそのまま口に出す。するとコンティーニ猊下が眉間に少し皺を寄せて、呟くように零す。

 

「……テオドロの為だ」

「テオドロ様の?」

「私は人間で、イオは天使。そのハーフは奇跡の子と言われ生を受けた。この子は神が私達に授けた贈り物、生まれた事すら特別だ。そして、そんな特別はこれからも付いて回るだろう」

「だから、“普通”なんてものは夢の又夢で、それは仕方ない事だと私達は思っていたんです。生まれただけでも奇跡だ、と。……貴方の事を知るまでは」

 

 イオ様がテオドロ様の頭を撫でるように抱きしめながら私を見据える。その視線には羨望の色が見えた事に、私は息を呑む。

 

「悪魔で、教会と折り合いをつけながら人に紛れて、普通に暮らしている。悪魔だけじゃなくて堕天使のバラキエルまで移住してきたと聞いた時は、それは驚きました。更にはバラキエルに人とのハーフの子がいると」

「君も、そしてバラキエル殿の娘も、牧師の娘も君を慕い、そして“普通”に子供として暮らしている。それが、私には驚きだった。そして……テオドロにも、そんな未来があるのではないかと思ったのだ」

「普通に学校に行って、友達を作って、そんな人としての当たり前を。子供の内にしか出来ない経験をこの子にさせてあげられるなら、って」

 

 思わず、私は言葉を失う。

 特別である事が幸せな訳じゃない。特別であるからこそ得られないものだってある。普通の平穏だったり、些細な幸せだったり。隣の芝生は青く見えるとは言うけど、手に入らない当たり前というのは“特別”でもある。

 私だって特別だ。グレモリーの家に生まれ、そして“リアス・グレモリー”という特別に生まれてしまったから。だから特別であるという重みは共感出来る筈だと思いたい。

 思うからこそ、私は、私がやってきた事は……そんな特別を背負ってしまう子達の希望になるんだろうか。その大きさに触れて、言われた事で私の中で感情が渦巻いていく。

 

「……私は、貴方達に未来を示せたのでしょうか?」

「えぇ、そうよ。もしかしたら、“特別”な子達が少しでも普通や、当たり前に近づけるような世界を貴方は私達に示してくれた」

「もし、加われるならばその輪に我が子も加えたい。そして、天使や悪魔、堕天使が種族を超えて和平を結べるのならば……それは、素晴らしい事だと私は思う」

 

 それは、私が目指していた場所。私が願う、理想の到着点。まだこれは道半ばだけど、望む場所に手が届いた証だ。

 実際にここに来て、言われるまでは思わないようにしていた。万が一があるかもしれない、と可能性に怯えていた。けど、改まって言われたこの言葉が私にとって何よりの救いで、沸き上がる感情はどれだけの喜びをもたらしてくれるのか。私には伝えられる言葉が見つからない。

 

「私で、私で宜しければ……テオドロ様とも、手を取り合っていければと思います」

 

 胸に手を添えて、万感の思いを込めて伝えた。向かうべき理想がある。だから。

 

 

 

「―――……実に感動的、と言えば良いのか」

 

 

 

 ――そんな声が、拍手と同時に耳に届いた。

 私は弾かれたように顔を向ける。聖堂の一角、影となっていた場所から浮かび上がるように現れる美しい男性。片目を隠すかのような茶髪に、どこまでも冷たさを感じさせるオーラ。

 

「何者だっ!?」

 

 八重垣さんが聖剣に手をかけ、即座に警戒して私達の間に割って入る。けれど男は八重垣さんをまるで路傍の小石を見るかのように一瞥した後、改めて私へと視線を戻した。

 

「お初にお目にかかる、リアス・グレモリー」

「……何者?」

「シャルバ・ベルゼブブ。偉大なる“ベルゼブブ”の血を引く、正当後継者だ」

「ベルゼブブ……!?」

 

 八重垣さんが驚いた声を漏らす後ろで、私も息を呑んでいた。ベルゼブブ、つまりそれはアジュカ様が継いだ四大魔王の、“本来の魔王”の血筋を意味する。つまり、彼は“旧魔王”の子。

 それは兄様にとって政敵とも言える相手だ。何しろ旧魔王派は目的も理念からして現魔王派と衝突している。それ故に冥界の奧へと押し込められたという話は聞いてはいた。

 そして私にとってもシャルバ・ベルゼブブはいつか相対すると思っていた。“原作”でも立ち塞がり、様々な爪痕を残した。故に私は構えを取って、臨戦態勢へと入る。

 

「シャルバ……何故、どうやって貴方がここに!」

「イオフィエルか。ふん……大戦以来だな」

 

 テオドロ様を庇うようにイオ様が抱きしめながらシャルバに問う。シャルバは忌々しいと言わんばかりにイオ様へと視線を向け、吐き捨てるように言葉を紡ぐ。

 その間に私はシャルバの気配を探るも……かなり強い。旧魔王の血筋というのは伊達じゃないという事か。多分、この場にいる誰よりもあいつは強い。

 

「何、この場に足を運んだのは、私達の目的を果たす為にどうしても必要不可欠であってね」

「目的、だと?」

「言っただろう? 争う事が目的ではない、と。私の目的は―――リアス・グレモリー、私と共に来て貰おう」

 

 場の視線が一気に私に集中した。集まった視線を気にせずに私はシャルバを睨む。

 

「……何の意図があって私を?」

「今一度、君とは話し合いたいと思っていたのだよ。和平を先導するサーゼクスの妹。その君の過ちを今一度、正す為にね」

「過ち……?」

「然様。悪魔が、天使や堕天使などと手を結び、和平を為そうなど……愚の骨頂なのだと言う事を。真の魔王の血筋である私が直々に、そして現魔王達にも理解して貰えるように、ね」

「……成る程。私のやっている事が気に入らないから、私をダシにしてお兄様達をどうにかするつもりですか」

 

 思わず舌打ちする。何か起きるだろうとは覚悟していたけども、まさか旧魔王の血筋が直接この場に出てくるだなんて思いもしていなかった。

 けど、イオ様が言っていたけど……どうやってここに入り込めた? ここは教会、神の勢力圏だ。幾ら、シャルバが実力者だと言ってここに誰にも気付かれずに入り込めるのはおかしい。

 

「和平など、所詮は根本より相反する我等には不可能なのだよ。あってはならない。だからこそ、私がここにいるとも言える」

「? どういう事かしら……?」

「私がここに入り込めた事が疑問なのだろう? 誰にも気付かれず、悪魔が教会に忍び込むなど考えにくい、と。そうだろう、“普通”であればな?」

 

 そう言って口の端を釣り上げるように笑うシャルバに、私は脳裏に嫌な予感が過ぎった。心臓が強く高鳴る。思い描いた可能性を否定するように拳に力を込める。

 

「私をここに通してくれた“教会関係者”、私の考えに賛同してくれた協力者……君達から見れば“裏切り者”がいたと言えば話が早いか」

「馬鹿なッ!?」

「馬鹿な? 何を馬鹿と言うのか。馬鹿は、本当に和平など実現出来ると夢見ている自身だと見つめ直すが良い」

 

 トウジさんが吠えるように叫ぶけど、シャルバは冷酷に突き放す。そうだ、シャルバが言うように裏切り者がいるのだとして、シャルバがここにいる事でそれは既に証明されてしまっている。私の脳裏に過ぎった可能性が、現実になる。

 私のやってきた事が万人に受け入れられるとは思っていない。コンティーニ猊下やイオ様のように理解を示してくれる人もいれば、受け入れてくれない者達もいるだろうというのはわかっていた。

 ……わかっていても、その裏切りを伝えられた事が何よりも辛い。

 

「さぁ、私と共に来て貰おう。リアス・グレモリー」

「……断る、と言えば?」

「ふむ。ここで争えば、幾ら私といえど少しばかり危険か。多少腕の立つ程度の有象無象が揃えば、それなりの脅威にはなる。私も好んでリスクを冒したい訳ではない」

 

 であれば、と。シャルバは冷笑を浮かべながら続ける。

 

「手段を変えるとしよう。これは交渉だ、リアス・グレモリー」

「何……?」

「確か……そう、なんだったかな? “紫藤イリナ”、と言ったか?」

 

 ―――頭が、真っ白になった。

 

「シャルバ・ベルゼブブ……貴様ァッ!!」

「和平などと口にする貴公には、意味を理解して貰えたようだな。私がここに入り込めたように、“護衛”に裏切り者がいないとは言えまい?」

「まさか……! そんな嘘だ!」

 

 トウジさんの叫びが聞こえるも、どこか遠い。私は限界まで拳に力を入れて、頭に血が上っていくのを感じる。目の奧に血が集まっていくように、熱もまた集まっていく。

 状況がわからない。イリナは既にシャルバの手中に落ちているのか? なら、一誠や朱乃、レイナーレやバラキエルさん達はどうしたのか。

 心臓がうるさいぐらいに鼓動を刻む。必死に冷静さをかき集めて、私はシャルバを睨み据える。

 

「私の一声で、哀れな人間の娘は……どうなるだろうな?」

「……」

「別に、小娘一人の命でどうにかなると思ってはいないがね? だが、これは仕方がない事だ。何せ、世界が過ちに向かおうとしているのを、正しい流れに戻すには必要な犠牲となるだろう」

「……黙れ。イリナに、手を出すな」

「ならば、私と共に来い。リアス・グレモリー。そうすれば解放してやろう」

 

 ……目を伏せて、逡巡する。状況がわからない。ここで頷いて良いのか、頷くべきなのか。

 イリナを失う訳にはいかない。護ると決めた。あの子を護らなければならないのだから、今は。

 けれど、ここでシャルバに従えば和平の道のりはどうなる? なら、従うべきではないんじゃないか。

 それは、イリナの命に代えられるものなのか? 違う、違うだろう! リアス・グレモリー! 私は! 私の……私の望みは……!!

 

「さぁ、返答や如何に! リアス・グレモリー!!」

 

 

 

 ―――選択を迫るシャルバの声に続いて、遠くで雷鳴の音が重く鳴り響いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ―――時は、少し遡る。

 

「リーア、上手くやってるかなぁ」

「どうだろう……」

「心配だね……」

 

 机に広げたお菓子を食べながら、イリナ、一誠、朱乃は呟きを零した。

 今日は大事な話し合いがある為、何かが起きても言いように皆は朱乃の家にお邪魔していた。今日はバラキエルも護衛に来ていて、教会の関係者も何人かが護衛として来ている。

 そんな重々しい雰囲気を感じ取れば、子供である3人は事前に聞かされていても不安に思ってしまう。

 

「アンタ達が心配したってどうにかなるもんでもないわよ。大人しく待ってなさい」

 

 ふん、とエプロンを外しながら言うレイナーレに子供達の視線が集まる。先程まで朱璃と一緒に子供達に手作りのお菓子を振る舞っていたレイナーレだ。そのおやつは今も子供達に摘まれ続けている。

 レイナーレに「はーい」と仲良く返事をしながら、三人は再びお喋りへと興じていく。

 

「天使と人間のハーフの子ってどんな子なんだろうね」

「まだ3歳ぐらいでしょ? ちっちゃいねぇ」

「私も堕天使とのハーフだから、ちょっと気になるなぁ」

 

 わいわいと共通の話題で盛り上がる子供達。そんな様子を見ながらレイナーレは溜息を吐く。脳裏に子供達を頼む、と訴えるリアスの顔が過ぎって舌打ちをする。

 そんな様子を見ていた朱璃が微笑んだのに気付いて、レイナーレは罰悪そうな顔を浮かべる。レイナーレのそんな顔を見て満足したのか、朱璃は台所へと戻っていく。

 まったく、面倒な事を頼まれたものだ、と。そうしてイライラとしながらレイナーレが時間を過ごしていると、入り口から声がする。

 

「すいません、イリナちゃんいますか?」

「貴方、教会の……」

「ちょっとトウジさんから連絡があって、イリナちゃんを呼んで貰って良いですか?」

「良いけど、イリナー? 呼ばれてるわよ?」

「え? 今、行くー!」

 

 手に取っていたお菓子を皿に戻して、イリナはぱたぱたと玄関の方へと向かっていく。

 イリナが手つかずで残していったお菓子を見て、一誠と朱乃が即座に顔を見合わせる。互いに残ったお菓子を取ろうと睨み合う。それをどこか冷めた目で見るレイナーレ。

 

 

「きゃぁあああーーーっ!?」

 

 

 ―――そこに、イリナの悲鳴が響き渡った。

 

 

「イリナ!?」

 

 真っ先に声を上げたのは一誠。反応したのはレイナーレ。玄関は開け放たれたままで、レイナーレは飛び出すように玄関に躍り出る。

 そして見たのはイリナを脇に抱えるようにして走っていく神父の姿。その様子の異質さにレイナーレは思わず叫ぶ。

 

「待ちなさい! 貴方、一体何のつもりで……!」

「レイナーレ! 下がれ!!」

 

 レイナーレの声を遮ったのはバラキエルだった。レイナーレが足を止めるのと同時にレイナーレの眼前が爆発する。

 咄嗟にその場を後退り、しかし着地で体勢を崩して尻餅を付く。そしてレイナーレは見る。空に結界が展開されていくのを。そして現れたのは―――無数の悪魔。

 

「な……ッ!?」

「この状況、教会関係者に裏切り者が出たか……!」

「なぁっ!? じゃあ、イリナを攫ったのは!」

「イリナァっ!! 待ちやがれぇッ!!」

 

 バラキエルが悪魔達を睨むように見て、忌々しそうに歯を噛む。レイナーレが状況を把握し、先程イリナを連れ去ったのが裏切り者だと悟る。

 その後ろで、イリナの名を叫びながら一誠が飛び出してくる。即座に自分の自転車に跨り、あっという間にスピードを出して突っ走っていく。イリナを連れ去った神父を追ったのだろう。

 そんな一誠の後を追って朱乃が走り、しかし自転車に乗っている一誠のスピードに追いつけず、意を決して堕天使の翼を広げたのが見えた。そのまま地を蹴り、朱乃が飛翔していく。

 

「あんの馬鹿! 待ちなさい! クソガキ共!!」

「レイナーレ! 行ってくれ! 私はこの悪魔共の相手をする! 私は、朱璃を残して行く訳には……!!」

「……ぁー、もうっ! わかりました!!」

 

 苦渋の表情を浮かべながら告げるバラキエルに、レイナーレはバラキエルが駒王に移住する経緯を思い出して、舌打ちしたい思いに駆られながら叫んだ。

 そして翼を広げ、全速力で走っていった一誠と朱乃を追う為にレイナーレは翼を羽ばたかせた。

 

 

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