深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.03

「んー……」

 

 ペンをくるくると回しながら声を漏らす。

 病院から退院し、私は無事にグレモリー家での生活をスタートさせた。

 グレモリーの本邸に連れてこられた時、あまりの豪華さは口をぽかん、と開けてしまった。だって本当にお城だし。今でも城の全部を回りきれると思えない。それにこれは家の1つで、まだ別荘とかあるのだからグレモリー家は本当にとんでもない。

 私は自分に宛がわれた部屋の勉強机に向かい、悩んでいた。それは今後の自分の展望についてだ。お兄様とお義姉様に泣きついてからというもの、どこか朧気だった意識は地に足をつけたようにしっかりし始めた。

 恐らく、私がリアス・グレモリーとしての自分を受け入れて、認識し始めたからだと思う。心構えだけでここまで意識が変わるものかと思う。病院にいた頃とは全然違うと自分で思う程だ。

 意識がはっきりした以上、考えなければいけない事は多い。それは将来の事だ。大まかとはいえ、私はこの世界で起きうるかもしれない大事件の事を知っている。

 起きうるかもしれない、というのは私はここが“ハイスクールD×D”の世界そのものだと思う事は止めたからだ。私というイレギュラーがいる以上、これから起きる出来事は私だけのものだし、大筋が変わらなくても細部は変わる事は間違いなしだ。

 バタフライエフェクトなどの言葉もある。未来は原作のように進む保証なんてないし、歴史の修正力でやっぱり同じ道を辿るかもしれない。どっちになるのかなんてなってみなければわからないのだから、私は備える事をしなければならない。これから来る未来に。

 

「私は魔力がないから、どうしたものかしら」

 

 病院の機器の計測では私の魔力は感じられなかったらしい。私も魔力と言われてもぴんと来ない。現時点での測定なので、後天的に或いは、という可能性があるとお兄様は言っていたが楽観視はしないでおこうと思う。ないならないだ。

 そうなると私の武器とはなんぞや、となる。この身はグレモリーの娘、将来は上級悪魔となり、レーディングゲームなどに参加していく事になる。少なくとも私はそれを望んでいる。

 純粋にお家に恩返しがしたいし、未来の可能性を知る限りでは眷属を得る為の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は手に入れておきたい。確認した所、私はグレモリーの血筋なので成人を迎えれば悪魔の駒を与えられるという。

 

「それでも王が弱かったら意味がないわよね」

 

 原作のリアスだって決して弱かった訳じゃない。周りが強すぎる面々ばっかりで埋もれているだけで。

 そうなると原作のリアスの武器だった消滅の魔力がない私はそれ以下だ。本当に運命的な出逢いを果たして、朱乃や子猫、祐斗にギャスパー、一誠、その後に眷属になってくれたアーシアやゼノヴィア、ロスヴァイセを同じく眷属に出来たとしても同じにはなれないのだ。

 なら私は私だけの武器を見つけないといけない。少なくとも直接、戦闘に貢献出来なくてもアーシアのように回復や、何かしら支援といった方向でも良いから長所を身につけたい所だ。

 

「修行、しかないかしら」

 

 ないなら努力するしかない。つまりは修行、修行あるのみ。とはいえ、方向性が無いのは困る。誰に相談すべきか、と悩んでしまう。

 

「やっぱりお義姉様かしら」

 

 グレイフィアお義姉様。兄様の眷属であり、最強の“女王”として君臨するその人。

 オフの時は少し厳しいけれども優しいお姉さん、という印象だ。付き人としている時は凛々しくて、それはそれでまた憧れる姿ではある。

 何をするにしたってこの身は子供。そして魔界の常識も嗜んでいない。自己流で何かを始めるよりは教えを授けてくれる人を見つけるべきだろうと思う。

 

「善は急げね」

 

 ペンを机の上において立ち上がる。目指すはお義姉様の所へ。

 部屋を出てお義姉様を探していると休憩しているとの事で、他のメイドに案内されてしまった。自分で探すつもりだったが、こんなに大きな城で人を探すなど迷子になる可能性が高いと探し始めて気付いた私だった。

 

「リアス様? どうかされたのですか?」

 

 少し訝しげな顔で問いかけてくるお義姉様の目を私は真っ直ぐに見る。

 

「えと、あのね。お義姉様……」

「……休憩中とはいえ、今は仕事中ですのでグレイフィアと呼んでください」

 

 あ、そっか。仕事中はお義姉様って呼んじゃダメだったんだ。忘れてた。

 オンオフの切り替えはしっかりしないとね。……呼びにくいけど。仕方がない。立場があるんだし。お互いに。

 

「あ、ごめんなさい。えーと、じゃあグレイフィア、お願いがあるの」

「何でしょうか?」

「私、修行したい、というか、強くなりたい、というか……力を身につけたいの。でも、どうしたら良いかと思って、グレイフィアに相談しに来た、んだけど……」

 

 私の言葉は段々尻すぼみになっていく。だって、グレイフィアの顔が凄く怖くなっていくから。

 目を合わせられずに背けてしまう。な、なんでこんなに険しい顔をされたんだろう……。

 

「……リアス様。どうして、そのように力を求めてるのですか?」

 

 1つ吐息してからグレイフィアは私と目を合わせるように屈んで問いかける。真っ直ぐに瞳を見つめられれば思わず息を呑んでしまう。嘘とか言えるような空気ではない。いや、別に嘘を言う訳ではないんだけど。

 

「えっと、私、将来はグレモリー家の後継者になるでしょ?」

「えぇ、そうですね」

「いつか上級悪魔になって、悪魔の駒を貰って眷属を増やさなきゃいけない」

「……はい」

「でも、私は魔力がない。このままじゃグレモリー家に相応しくないと思うの。だから何か代わりの力でも良いから欲しいの。……力が無くて、何も出来ないのは嫌なの」

 

 そう。嘘は言っていない。これも本当だ。言わないだけで未来への不安もあるから、それを払拭するだけの自分の武器が欲しい。

 嘘は言っていない。このままじゃ何も出来ない。それは嫌だ。そのままではいられない。私は強くなりたい。“リアス・グレモリー”のようにはなれなくたって、彼女の代わりに収まっても問題ないぐらいの力が欲しい。

 素直な気持ちで言葉を伝えていると……グレイフィアの顔がもっと怖くなってた。眉が寄って、目の力が凄い。思わず泣きそう。お、怒らせたのかな……?

 

「リアス様。……いいえ、敢えてこう呼ぶわね。リーア。貴方、何を焦ってるの?」

 

 呼称を変えた、という事は義姉として聞いている、という事なのだろう。

 焦っている。確かに、私は焦っている。だってこのまま何もしなかったら“リアス・グレモリー”以下だ。ただの劣化した存在だ。それじゃいけない。何をするにしたって私には力が必要なんだ。

 

「このままじゃ、私、何も出来ない」

「何も出来ないから力を求めるの?」

「……うん」

「リーア。貴方が焦る気持ちがわからない訳じゃないわ。貴方は聡い子。確かに貴方はグレモリーの次期後継者。上級悪魔となり、眷属を従える王という立場になるわ。その為に貴方の魔力がない、というハンデを払拭したい、という気持ちもわかるわ」

「なら……」

「リーア。焦る気持ちはわかるけど、貴方はまだ4歳にもなっていないのよ? まだ悪魔の駒を授かるのだって時間があるわ。その間に魔力が宿る可能性だってあるし、何も貴方自身が必ずしも強くならなきゃいけない訳じゃない」

「それじゃあダメなの!」

 

 思わず叫ぶ。

 

「……ダメなの、私はただでさえ遅れてるの、劣ってるの。だからいつか宿るかも、なんてものを待ってられない。何か欲しいの、何でも良いの。私が胸を張って何かを為せる力が……!」

「リーア、貴方……」

「今じゃないとダメなの! 今から何か積み上げてないと私は何も出来ないままだ! 何も出来ないのは嫌だ……!」

 

 もう必死だった。ただ、ただ思ったことを伝えるだけ。私は焦ってる。そうだ、だって待ってくれないんだ。原作が始まった時、“リアス”が高校3年生だった事を考えれば15年、たった15年しかないんだ。

 原作主人公である一誠はたった1年の間で爆発的に成長したけど、それは主人公だし、赤龍帝だからだ。彼自身に才能がなくったって、それでも強くなるだけの才能はあったと私は思う。

 私には何もない。特別なんて何一つない。私にあるのは残された時間だけ。それを無為にする暇なんて無いんだ。だから、だから力が欲しい、と強く訴えるように真っ直ぐ視線を向ける。

 

「……リーア」

 

 ……どうして、そんな悲しそうな顔をするの。お義姉様。

 

「……貴方の強くなりたいって気持ち、わかる。焦る気持ちもわかる。けどね、リーア。貴方が強くなろうとするならちゃんと教えてあげる。だからそんなに焦らなくて良いのよ?」

「教えてくれるってどれぐらい?」

「どれぐらい、って……」

「他の人と一緒じゃ足りないの! 私が一番になるぐらいに強くなりたいの! 誰にも負けない、何にも負けないぐらいに!」

「リーア、貴方、何と戦ってるつもりなの?」

「え?」

「私? サーゼクス? それともお義父様や、お義母様?」

「……え、と」

「それなら比べる相手を間違ってるわ。今から頑張って追いつける筈なんて、ある筈ないの。はっきり言うわ。貴方は誰よりも劣っている。それは確かよ。でも、貴方はそれに甘えてない。立ち向かおうとしている。それで良いの。焦る気持ちはわかるけど、そこまで自分を追い詰めなくて良いのよ?」

 

 お義姉様の両手が頬を包み込む。視線を合わせながら真っ直ぐに。悲しそうな顔をしてるのに、どこまでも優しくて。

 

「リーア。……貴方が子供のままでいられる時間も限りがあるのよ? もし、貴方が修行をしたいと言うならその時間を削らないといけないの。それを悲しむ人がいるのを貴方はわかってる?」

「え……?」

 

 子供のままでいないと、悲しむ人……?

 

「……ぁ」

「……わかったわね? そうよ。貴方のお父様、お母様。貴方が子供で甘えていられるのは限りがあるのよ。いつか貴方も大人になる。親に甘えたままではいられなくなる。でも、今の貴方には許されてる。親も同じ。いつか、いつか貴方を世に送り出さなきゃいけなくなる」

 

 ……悪魔にとって、我が子は。

 出生率が低い中で、生まれてきた子で。

 大事なんだって、兄様が語っていた事を思い出す。

 

「3年。3年よ、リーア。ずっと、ずっと貴方の両親は待ってた。貴方が起きるのを待っていたのよ? 起きたら何をしてあげようか、ってサーゼクスも楽しみにしてた。貴方という子を育てる事をずっと心待ちにしてたの」

 

 きゅっ、と。

 いつの間にかお義姉様は私を抱きしめてた。ぽん、ぽん、と。背中を撫でるように優しく叩かれる。

 

「私だって、そうなのよ? リーア。貴方は確かにグレモリーの子。いつかこのグレモリーを背負わないといけない。でも、貴方という子が、子供のままでいられるのも今しかないの」

「……子供でいられるのは、今しかない……」

「貴方は強くなって何がしたいの?」

「……グレモリーの娘に、恥じない子になりたい。何かを為せるだけの力が欲しい」

「なら、その心を忘れなければ大丈夫よ。貴方は絶対に強くなれる。いいえ、私が強くしてみせるわ。最強の“女王”の称号にかけて」

 

 だからね、と言い聞かせるように。

 

「お願いよ、リーア。貴方は確かに普通じゃない。劣ってるかもしれない。それでも貴方は貴方だけなの。……焦らないで、子供が無理に背伸びしなくて良いのよ」

 

 ……何も言えない。

 だって、だって、私が普通じゃないせいで、どれだけ迷惑をかけたか知ってる。

 普通の子に生まれれば、悩む事も、苦しむ事もなかったって思う。

 この優しい人達を困らせちゃいけない。これは私の我が侭だ。わかってる、そんなのわかってる。

 でも、私はこのままじゃ不安なんだよ、お義姉様。だって、だって未来に私はきっと戦わなきゃいけない。何も起きないように、なんて祈って、他人任せにしたくない。

 でも、言えないよ。どうすれば良いのかわからないよ。私が子供でいられる時間を楽しみにしてくれてる、なんて言われても、それがどれだけ大事だってわかってても。

 私は、どうすれば良いんだろう……。

 

 

 * * *

 

 

「……強くなりたい、か。リーアがそんな事を思っているとはな」

「はい。何とか言い聞かせはしましたが、納得したとは思えませんね」

 

 グレイフィアの言葉にそうか、と返すのはジオティクス。ジオティクスはグレイフィアに注がれたワイングラスを手に取り、ワインを口に運んだ。

 本来であれば芳醇な味わいをもたらしてくれる美酒も気を紛らわす程度にしかならない。ふぅ、と一息吐き、グレイフィアへと目を向ける。

 

「グレイフィア、晩酌に付き合ってくれるかね」

「……かしこまりました」

「ここからはオフで頼むよ」

「……わかりました、お義父様」

 

 グレイフィアは吐息を1つし、意識を切り替える。主従から、父と娘へと。

 

「難しいな、子育ては。サーゼクスの時とはまた違う悩みだよ。子育てというのは親にとって永遠の課題だな、グレイフィア」

「心中お察し致します」

「良い子だよ、リアスは。とても良い子だ。聡すぎるといっても良い。それが前世の影響だと言うのであれば、何故我が子にそのような宿命を押し付けるのか、と前世だというどこぞの馬鹿者に怒鳴りつけてやりたいぐらいだ」

「私も、ご一緒できるなら張り手ぐらいはしてやりたいものですわね」

「リアスが言ったそうだな。生まれるべきは自分じゃなかった、と。馬鹿馬鹿しい、子供にそのような事を言わせるなど……」

 

 ジオティクスは酒が助けるのか、自らの胸中を明かしていく。

 グレモリー家は悪魔の中でも特に情愛が深いと言われている。グレモリーの血筋であるジオティクスもまた情愛が満ちあふれた人だと言う事をグレイフィアは知っている。この義父に救われているのは自分も同じなのだから。

 悪魔は合理的主義だ。使えぬ子がいれば放逐するのも当然、と言う見方が一般的であろう。だが、グレモリー家はその中でも異端とも言えるのかもしれない。

 

「リアスがあぁでは、ヴェネラナが嘆くのも無理もない……」

「……まだ、お義母様は」

「あぁ。リアスの前ではそのような素振りを見せていないが胸中は複雑だろう。前世とやらに影響されたのか、あの子は魔力を持たずして産まれた。それは自分の所為だ、と責めるのも無理はない」

 

 そこまで口にして、ジオティクスは目を細めた。忌々しい、と言わんばかりに吐き捨てる。

 

「リアスが影で何と言われているか、お前は知っているか? グレイフィア」

「グレモリーの眠り姫……の事ではありませんね?」

「“サーゼクスの絞り滓”、だ」

「……サーゼクスが耳にしたら、口にした者を消滅させかねませんね」

 

 グレイフィアは目を細めながら言う。もしも自分の前でそのような事を口にする輩であるならば自分も容赦出来る自信はない。

 サーゼクスはリアスを溺愛している。それが自分の絞り滓と妹を称されればどう思うか。そして立場が邪魔して言えぬ相手であれば、どれだけ堪えているのか。サーゼクスもまたグレモリーの血筋。本当によく似ている、と改めてグレイフィアは思う。

 

「アレもよく耐えてるよ。もしかしたら一番、胸中が荒れてるのはあいつかもしれないな。グレイフィア、あいつを見ておいてくれよ?」

「勿論ですわ」

「お前には苦労ばかりかける。リアスの事も諭してくれたのだろう?」

 

 労るように投げかけられた言葉にグレイフィアは視線を落としてしまう。

 

「……あの子が力が欲しい、と言い出した時、正直憐れんでしまいました。あれは、まるで呪われてる」

「……前世にか?」

「あの子は聡い。その聡さ故に知ってしまう。理解してしまう。自分が無能でいる事がどれだけ周囲に迷惑をかけるのかを。だからこそ力を求めた。誰にも恥じないようになりたいのだと。その心意気は素晴らしいです」

「だが、子供が持つべきものではないな」

「いずれは持たなければならないものです。でも、余りにも早すぎる……」

 

 そう。悪いことではないのだ。リアスの思いは間違っていない。だが余りにも早すぎる。

 

「あの子は他の子と一緒ではダメだ、と言っていました。……親に愛情を求める前に、あの子は独り立ちしてしまおうとしている。それが不憫で、不憫で堪りません」

「甘やかしてやれない親も、さぞ哀れだ。ヴェネラナも苦しいだろうな。あいつが聞いていない事が幸いだ」

「どう導けば良いのでしょうか。子供でいるには聡すぎて、しかし大人として扱うにはあまりにもあの子は若すぎる……」

 

 グレイフィアの弱音とも取れる嘆きにジオティクスは深く溜息を吐く。

 

「……あの子には近しい目線が必要かもしれんな」

「近しい目線……ですか?」

「うむ。庇護する者ではなく、共に歩み、成長し合う者。友と呼べる者がな。……なぁ、グレイフィア。ちょいと頼まれてくれるかな?」

「……まさか、と思いますが」

「何、お忍びさ。表立って動けばあれなのでな」

 

 どこか悪戯を思い付いた、サーゼクスを思い出させるような顔をしてジオティクスは告げた。

 

 

「一人、いるだろう。リアスと境遇を同じくし、しかし諦めずに立ち向かう“獅子の子”がな」

 

 

 

 

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