ACT.01
―――崩れ落ちてしまいそうだった。だからこそ、駆け抜けてきた。早く、速く、疾く、一歩でも先へ。……でも、それは、どうして?――
* * *
体を解すように伸ばし、動きを確認する。確認する事、数度。衰えは感じない。不自由さも感じない。
頭もすっきりしているし、覚束ないなんて事もなく。意識は鮮明良好。
「……ようやく本調子に戻った、かな」
シャルバとの戦いからどれだけ経っただろうか。こうして身体健康に戻るまで要した時間を思えば溜息を吐きたくもなる。
出し惜しみは無しとはいえ、“ジャガーノート”の使用の反動がここまで大きいのは痛かった。
私の意識が明確に戻り始めたのは、一誠達が実家に来て世話をしてくれた頃ぐらいからか。その頃は夢を見ているようなふわふわした感覚なのだけど……後で聞いた話だと、裸で飛び出したりとか、もう、死にたくなった。
グレイフィアお義姉様からその話をされた時は羞恥心で舌を噛み切りたい程だった。ましてやイリナ達に世話され、ご飯まで食べさせられたとかもう……ない、なさ過ぎる。末代までの恥である。
「……それにイリナも気に病ませちゃったみたいだし、ね」
世話の必要が無くなってからは人間界に戻って貰って、時折様子を見に来る事になった一誠達。けど、その中でイリナだけが落ち込んでいるのが気になった。
聞いても話してくれないし、以前のように笑いかけてくれる事が少なくなった。一度、問いただしてみようとしたものの躱されてしまい、うまく会話が出来ないまま、今に至ってしまった。
一誠と朱乃も気にかけてくれているようだけど、原因は恐らく私自身。やっぱり不甲斐ない姿を見せた事が堪えたんだろうか。別にイリナが悪い訳でもないのだから、気にして欲しくはないのだけども……。
「……そもそも、私がジャガーノートを制御出来てれば、って話か」
私の中で色濃く残っている“力の象徴”。それを再現したものが“ジャガーノート”だった。
他にも色々あったんだろうけども、身近な力で、かつ想像しやすいのが“ジャガーノート”だった。実際にその効力はシャルバを蹴散らす程の力を見せた訳だし。
けど、あれは。そう、あれは言ってしまえば自分で誘発させた暴走だ。だから制御しようにも、反動が大きい。わかっていた事ではあるんだけど……。
「……もう使わない。これじゃダメだ」
使ってみてわかってしまった。ジャガーノートの危険性を。あれはダメだ、ただの逃げでしかない。だからこそ、あれは諦めなんだ。妥協の果てに生まれた、諦観による力。
今回は結果的に勝つことが出来たけど、次の保証はない。ジャガーノートを使うにしたって、今度は制御出来るように改良しなければいけない。
そう思えば気が滅入る。私のイメージは力となる。それが私の力だけど、逆を言えば想像出来ない事は出来ない。
今のままじゃ限界が来る、そんな焦燥。ここで立ち止まる訳にはいかないのに、これ以上となるとどうすれば良いのか手探りになりそうだ。
「……無理だ、無理だって思ってたらダメよね」
気を入れ直すように両手で頬を叩く。今回の件で和平の実現はまた遠くなってしまった筈。
イリナの件もあるし、駒王町がどうなったのかも気になる。いつまでも休んではいられない。逸る気持ちを宥めつつ、私は部屋を後にした。
* * *
「ダメに決まってるだろう」
「は?」
「リーア。お前は暫く冥界で療養だ」
お兄様が何を言ったのか、ちょっと理解するまで時間を要した。
駒王町へと戻る為にお父様の所を訪ねた所、どうやらお兄様も帰宅していたようで家族が揃っていた。私も健康になったのだから、と告げた所でお兄様のこの返答である。
「えーと、お兄様。冥界で療養というのは、その」
「言った通りの意味だ」
「待ってください。私はこれでも駒王の地の管理者ですよ? 管理地を長く開けるのはあまりにも無責任です。体ならもうこの通り……」
「まぁ、お前が納得するとは思っていなかったからな。とりあえず座りなさい」
お兄様が私が席に座るように促す。どこか納得がいかない気持ちを抱えながら席に着く。
お兄様、お父様、お母様、そしてお義姉様。全員が揃っているこの状況というのは実に久しぶりかもしれない。
「確かにリアス。お前の症状は良くはなった。だが、それでもお前にはもっとゆっくり療養して貰いたいのが私達の総意だ」
「……心配してくださるのはわかりますけど、でも私には仕事があります。駒王の地を放っておく事は出来ません」
「もちろん駒王の地を放っておくなんて事はしない。あの地は私達にとっても重要な場所となっている。だが、だからこそお前にこれ以上、何があっては困るんだ」
「……だから療養と?」
「ただでさえ、あのシャルバと交戦したんだ。お前の消耗が一体どれほどのものなのか。それをお前の感覚だけで推し量るのは危険だと言っているんだ」
お兄様の指摘に私は思わず唸る。確かに、私の感覚で大丈夫だとは言えるけど、それを目に見える形や私以外にもわかるようにしろと言われれば私に手段はない。
お兄様達の心配もわかっているつもりだ。“ジャガーノート”の反動で、暫く意識や理性が機能していなかったのだから。後遺症が残っていないか心配するのは当然だって私にはわかる。
けど……それでも、私は足を止めたくない。だって、今回が目に見えた成果になったかもしれないのに。完全に振り出しとはいかなくても、進めた筈の歩みが遅れてしまうのは明らかだ。それがどうしても歯痒い。
それにイリナや一誠、朱乃の事もある。早く元気な姿を見せて安心させてやりたい。イリナともしっかり話さないといけないし、冥界で足を止められるのは正直、困る。
けど、だからといって私に今すぐに目に見える形で証明する手段はない。思わず、歯噛みして家族を上目遣いで見てしまう。すると誰もが渋面を浮かべていて、首を左右に振る。うぅ……!
「リーア。今回は聞き分けなさい」
「……」
「良いですね?」
「……」
「リーア」
「……わかりました。ただ、引き継ぎだけでも」
「それは既にやっていますので、安心しなさい」
「……少し様子見に戻ってすぐにこっちに」
「リーア」
「……うぅ」
「上目遣いしてもダメよ」
有無を言わせないお義姉様の眼光に思わず項垂れる。説得するのは無理そう、かなぁ。
「明日には病院で検査を受けて貰う。付き添いにグレイフィアをつける。頼んだぞ、グレイフィア」
「しっかり見張っておきますわ、お義父様」
「お願いしますね、グレイフィア」
「はい、お義母様」
「……もう大丈夫だって……」
ぼそっ、と呟いて見ても誰も聞き入れてくれる様子はまったくなかった。
うー、自業自得だけど、なんだかなぁ。深い溜息を吐くのを抑えられずに零れていった。
* * *
結局、私の力は私の意識や精神に由来する力。だから肉体の不調が直ろうとも心が不調であれば、それはすぐに不調となって現れてしまう。
病は気からとは言うけれど、グレートレッドの影響下にある私は精神の不調がすぐに肉体に反映される。だからこそ、病院で診察を受ける事になれば肉体面だけでなく精神科にもお世話になる訳なのだけど。
故に待ち時間や診察時間が非常に長くかかってしまう。私が診察を受けに来た病院はシトリー領にある大きな総合病院。私はその待合い室で足をぶらぶらさせて暇を潰している。付き添いのお義姉様が手続きなどで傍にはいないからだ。戻って来るまでやる事がない。
「……病院かぁ」
思わず、懐かしいな、と思う。病院の思い出は自分の中でも色濃いから。はっきりと自分という存在を認識したのも、私が始まったのも病院からだった。
だからこそ、この白い空間には不思議な感慨がある。思い入れが強い訳じゃないけど、病院に来ると形容したがい不思議な気持ちになる。
しかし、こうして暇を持て余していると考え事をしてしまう。これからの事だったり、一誠やイリナ、朱乃達の事。自分の力の制御の事。考える事は多いけれど、何も出来ない歯がゆさだけが募っていく。
そうしてぐるぐると思考をしていると、ふと目に入った顔に私は目を丸くさせてしまう。私が視線を向けた相手も私に気付いたのか、驚きの表情を浮かべている。
「……お前は」
「ライザー様」
そう、そこにいたのはライザー・フェニックスその人だった。まさか、こんな病院で出会うだなんて思いもしなかった。なんというか、病院にいるようなイメージの人じゃないし。
ライザーは私を見て驚いた顔を浮かべ、しかしすぐに顰めっ面を浮かべた。前に会ったのは社交界のパーティー以来。だけど、なんだろう。やっぱりなんかあまり良い印象が持たれてないような……。
「何をしているんだ、こんな所で。リアス・グレモリー」
「病院にいる理由と来れば診察かお見舞いか、どちらかですよね? そういうライザー様はどうしてこちらに?」
「ふん。お前には関係ない」
ありゃりゃ。なんか取り付く島がないというか、うーん。なんでだろう。ここまで嫌われる理由なんて思い付かないんだけど……。
「……噂は聞いている。若手の有望悪魔を破った、などとな」
「えぇ、まぁ」
ふと口に出した話題は、少し前に私が初めて大暴れした時の話の事だろう。
上手い返しが思い浮かばずに曖昧な返事をすると、ライザーは値踏みをするかのように目を細める。
「随分と涼しい顔をしているな。それも余裕の現れとでも言うのか?」
「そんなつもりはありませんが……」
「変わらないな、お前は。あの社交界に見たあの時と」
「はぁ」
覚えていてくれた事は嬉しいけど、やっぱりこの年齢で社交界に出たりとかは目に余るように見えるのかな。
「……リアス・グレモリー」
「はい?」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げる。すると、ライザーの怪訝そうな視線が私を見据える格好となり。
「―――お前、何が楽しくて生きてるんだ?」
その言葉に、何故か、ぽかんとしてしまった。
自分でもよくわからないけど、何故か、あぁ、何故か、空白が生まれるように呆けてしまう。
私が呆けた顔をしていると、ライザーがハッ、とした顔を浮かべ、罰悪そうに自身の髪を掻き上げるようにかき混ぜる。
「……要らん事を言ったな。忘れろ。すまなかった」
「……いえ、そんな事を言われたのは初めてで……」
ぽつりと、思わず零した言葉にライザーが黙り込んで口を一文字に結んでしまう。
私も、よくわからないままに沈黙するしか出来なかった。体が勝手に心臓を掴むように胸に手を当てていた。
互いに言葉を発する事なく、静かな時間が流れていく。時間を止めたのはライザーだった。
「……俺はもう行く。ここで失礼させてもらうぞ、リアス・グレモリー」
ライザーは、ただそれだけ言い残して去っていく。その背中を見送りながら、どうしてライザーが病院にいたのか、その理由が気になったのもすっかり飛んでいってしまった。
「何が、楽しくて生きてる……」
自分でも口にして、言葉を並べてみる。そして、あぁ、自分で気付いてしまった。
「……楽しい、か。最近、そんな事、思ったかな」
まるで、ぽっかり胸に穴が空いたような感覚。気付いてしまったその事実に、私は義姉様が戻ってくるまでぼんやりとするしか出来なかった。
* * *
長々と続いた診察が終わった。色々と計測したり、質問形式の確認などを繰り返し、私は診察の結果をお義姉様と聞いていた。
すると、カルテに目を通していた医者が難しい顔を浮かべ出す。それに私も思わず表情を曇らせる。そして医者が難しい顔のまま、ゆっくりと顔を上げる。
「そう、ですね。実に言いにくいのですが……」
「何か、良くない症状が?」
医者の言葉に思わず私は眉を寄せてしまう。何か異常と言えるようなものがあったのだろうか。それは、私には自覚出来ないものなら困る。
後ろでお義姉様も息を呑んでいる。異常らしい異常は自分は感じないのだけど、医者から見て何が良くないのか……。
「その、端的に言うと……リアス様には仕事中毒の疑いがあります」
…………………。
……………。
……はぁ?
「……仕事中毒?」
「はい」
「えーと、あの仕事しないと落ち着かない感じの病気ですよね?」
「はい」
「……ワーカーホリック?」
「そう呼んだりもしますね」
「…………はぁ」
思わず、気の抜けた声を出してしまった。どんな難病かと思ったけど、ワーカーホリック。……えー?
「別に、そんな気はないですけど……」
「嘘おっしゃい」
「えー?」
「えー? じゃ、ありません。昔からそのような傾向があったでしょうに」
後ろでお義姉様が盛大に溜息を吐きながらぼやくように言う。いや、待って。待って欲しい、お義姉様。
「いや、でも……」
「でも、じゃありません。そもそも、貴方の年齢でワーカーホリックの可能性を診断される異常を異常に思わない時点でもう……」
「だって、その、あまりにもあまりな可能性で……」
だって、仕事中毒って。まさか、そんな。
……まさか、そんな。
「……リーア」
「ちょっと待って、だって、ほら、お義姉様は私の事情も知ってるでしょ……!?」
別に仕事中毒って訳じゃなくて、私にはやらなきゃいけない事が多いだけなの!
その、もう! これってどんな顔すれば良いのかわからないし、反応に困る! 別に私は病気じゃない! ……多分。
「やはり、貴方に休暇は必要よ」
「で、でも……」
「私も、その、このご年齢でこのような症状が出るなどとは俄に思いがたく……いえ、リアス様は非常に聡明とお聞きしておりますし、領地の運営に関わっているという話などからの推察ですので……確かに確証はありません。ですが、傾向は間違いなくあるかと思います」
「えぇ……?」
「勿論、ワーカーホリックは悪魔にとって無縁の病という訳ではないのですが、それも種族的に発症しにくいと言いますか、一般的に悪魔には……その、正直に言うと珍しい事例というか……」
精一杯に濁すように告げる医者に私は唸る。う、うぅ、まさかそんな診断されるだなんて夢にも思わなかった! お医者さんも凄い困惑してるけど、私もそうだよ! なんでワーカーホリックなんて言われなきゃいけないの!?
「わ、私は別に仕事中毒って訳じゃ……ほ、ほら! 学校とかもちゃんと行ってますし!」
「じゃあ、学校は好きなの?」
思わず、お義姉様の問いかけに目を逸らしてしまう。正直、行く必要がないなら行かなくても良いと思う気持ちがある。だって、子供の相手は疲れるし。勉強したり、世話を焼くのは嫌いじゃないけど、うん。
勿論、イリナや朱乃がいるから行った方が良いと思ってるけど! ……あれ? でもそれってイリナや朱乃がいなかったら、私は別に学校に行く理由がない……? あれ? いや、だって、やる事が、いっぱい、ある、し……?
「……あれ?」
「リーア……」
「ま、待って! 違うの、お義姉様!」
「ちょっと一度、貴方とはじっくり話をする必要があるようね」
お義姉様が何か、凄い覚悟を決めた顔で言ってくるけど……。
えっ、ちょっと、待って? なんでこんな事にー!?
* * *
そして帰宅後、家族が集まった食事の場でお義姉様が告げた私の症状に皆が深い溜息を吐いた。
「……リーア」
「止めてください、お兄様。私もいたたまれないです」
「なんという事だ……」
「お父様、そんな深刻そうな声で呟かれても……」
「やはり私の育て方が悪かったばかりに!」
「お母様! しっかりして!」
憐れみの視線を向けてくるお兄様に、天を仰ぐように視線を上に向けながらぼやくお父様、そして両手で顔を覆って泣き出してしまうお母様。えぇい! 収拾が付かない!
「仕方ないとはいえ、だな」
「まったくだ」
お兄様のぼやきに同調するようにお父様が頷く。私の“前世”について把握してるからこそ、理解は得られてるとは思う。
……私だって、わからない訳じゃない。ずっと逃げるように目を背けてきた自覚はある。私は、まだ子供なんだって。
本当だったら一誠達みたいに学校に行って、領地の経営なんてやったりせずに学び、遊ぶような年頃なんだって。本当なら、何もなければ、普通に生まれていればそれが当たり前の形なんだって。
でも、私は違う。私は知って生まれて来てしまった。本来、自分がならない筈の“彼女”がいた席を奪っている事実を。“彼女”とこの世界が辿った可能性の一つを。
知らずに何もしない、なんて事は出来ない。祈る事は止めた。嘆く事は止めた。だから進むと決めたんだ。あの可能性の未来を超える未来を掴まないと、それは裏切りだって心が叫んでる。
だから走ってきた。周りの心配もわかっているけど、それでも止まれなかった。止まれないまま、ここまで来てしまった。そしてまだ、どこにも辿り着けていない。欲しい成果は遙か彼方、先も先。だからまだ足を止める訳にはいかないのに……。
「……リーア、やはり暫くお前には休養が必要だ」
「お兄様……」
「リーア。私も今回ばかりはお前に休養しろと強く言い聞かせないと思うばかりだ」
「お父様まで……」
「お前が自由に進む事で、お前が健やかに育つと言うのであれば何も言うつもりもなかった。だが、お前は今回の件で後遺症を負った。そして今回の診断結果だ。楽観視はしていられない事はお前ならわかるだろう?」
「……ご心配をかけているのは、重々承知です。でも……」
「でも、なんだね?」
お父様が目を細め、私を見据える。お父様の言葉は鋭利な刃を思わせ、息を呑む。
いつだって私を叱るのはお兄様かお義姉様、お父様とお母様は渋りながらも、なんだかんだと私に甘かった。
だからこそ、今回の険しいお父様の視線に驚いて、それ故に身が竦んでしまう。
「リーア」
「……はい」
「お前にしか為せない事は多いだろう。だからこそ、自覚しなさい。お前は唯一無二なのだ。私達にとっても、多くの者達にとっても。ならば自分を省みなさい。お前が倒れる事でどれだけの者に心配をかけたか身に染みてわかっているだろう?」
それを言われると、何も言えなくなる。膝の上でぎゅっと拳を握りしめてしまう。
「リーア。お前には遊びが必要だと私は思う」
「……遊び、ですか?」
「お前はここまで直向きに走ってきた。その躍進は素晴らしい限りだ。だが、その為にお前は色々と切り詰めすぎだ。自分でも感じているのではないか? 限界を」
思わず、息を呑んだ。限界を感じていたのは確かだったけど、お父様にまさかそれを指摘されるだなんて。
「図星、と言った顔だな」
「……どうして」
「これでもお前の親なのだよ。お前が何を考え、何を為そうとしているのか。推測ぐらいは出来ようとも。昔からお前はそうして壁にぶつかり、辛酸を舐めようとも這い上がる姿を見せてきた。今回もそうしていくのだろうな、お前は」
だが、と。前置きをするようにお父様は言葉を紡ぎ、その表情に憂いの色を滲ませた。
「今回の件で、見守るだけで良いのかと疑念が沸いてしまうよ。だからこそ良い機会ではないか? 互いに見直すという意味で療養をするのは」
「……見直し、ですか?」
「お前自身を、お前を取り巻く者達を、世界を。もう一度、この場所で。お前の帰る場所でだ」
微笑を浮かべて言うお父様に、私はすっかり毒気を抜かれてしまった。
焦りは消えてない。消えない。足を止めると不安で、崩れ落ちてしまいそうな程だ。
それでも、この目を背けて逃げる事をしてはいけない気がした。そうしたら私はもうお父様と目を合わせられない気がしたから。
「……わかり、ました」
「聞き分けてくれるね? リーア。暫くは療養で実家で過ごす事。いいな?」
「……はい」
思わず項垂れる。焦燥と、納得と。不安と、安堵と。気持ちがごちゃ混ぜになって視界が歪みそうだった。
同時にライザーに言われた言葉も脳裏に巡る。何が楽しくて生きているんだ、と。
……あぁ、もう。思わず、愕然としてしまう。なんとなくわかっていた。わかっていたんだ。足を止めてしまえば、こんなにも、私は脆いんだって。
何も為せない事が怖くて仕方ない。何もしない事で失われていく時間が怖い。だから逃げるように走って、結果が欲しくて走って、走って。
そして、躓いたんだ。派手に転んで、倒れて、皆に迷惑をかけて、心配をかけて。
認めるしかないんだ。今の私の限界は、ここなんだって。これ以上走っても、結局同じ事の繰り返しになるしかない。
なんて無様。なんて惰弱。あぁ、私は、なんて脆い。自覚したくない事実を突きつけられて、私は顔を引っ掻くように押さえる事しか出来なかった。