深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

49 / 90
ACT.04

 勢いで誘拐犯になりました。どうも、リアス・グレモリーです。

 思わずその場に膝をついて項垂れたいのを必死に堪えながら、場所を変えて寝かせた黒歌と、その側に寄りそう白音を見て溜息を吐く。

 本当に突然の事で、対応を間違ったとしか思えない。だけど、他に何か出来たのかと言えば妙案は浮かぶ訳でもなくて。苛立ち混じりに頭を掻いて紛らわす。

 

(参ったな。もう列車は出る時間だし、後でお父様に連絡しておかないと……)

 

 一応、人目を避けるようにして場所を選んだ訳だけど。さて、どうしたものかと腕を組む。

 顔を上げて視線を2人に向けてみると、伺うように見ていた白音と目が合う。すると怯えるように耳がぺたんと下がってしまう。それに苦笑が浮かびつつ、頬を掻いてみる。

 

(あーもう、なってしまったものは仕様がないわ。出たとこ勝負でいきましょう)

 

 なるようになれ、と思いながら私は白音と目線を合わせるように膝をつく。

 

「……まずはごめんなさい。謝らないといけないのかしらね」

「え……?」

「お姉さんに乱暴しちゃったでしょ? だからごめんなさい」

「…………」

「お姉さん、お魚を盗んでたのだけど。盗みが良くない事だってわかるわよね?」

 

 私の問いに白音は少し遅れるようにして頷く。耳は下がったままで、怯えるように体は小刻みに震えている。

 

「ご、ごめんなさい……私がおなかを空かせてて……私が、私が悪いの……」

「あぁ、えっと。……そうね。悪い事をしたら叱らなきゃいけないんだけど、貴方達、ご飯を全然食べられてないのでしょう?」

 

 改めて白音の体へと視線を向けてみるけれど、やはりやせ細っている。ろくに栄養が取れていないのがはっきりわかる程に。

 

「生きる為には食べる事は必要な事。だけれど、盗みは悪魔だって許されない事だわ」

「……ごめんなさい、私が我慢出来なくて」

「あー……」

 

 今は、何をいってもこの子を責めるように聞こえちゃうか。ただ、それだけ切羽詰まっていたのはこれで伝わる。肉体的に飢えた事がないから、彼女たちの苦痛がどれだけのものかはわからないけれど。

 ……さて、ここからどうしようか。彼女たちとここで関わってしまったのは、原作から逸脱するポイントだ。全く同じに流れになる訳ではないとは言っても、歩む可能性の一つとして原作は存在しているのも変わらない事実な訳で。

 “だからといって”、彼女達とここで関わるのを止めるつもりはない。どちらかと言えば、ここからどう落としどころをつけるか。その判断材料にしていかなければならない。

 本来の歴史を辿れば、彼女たちはこの後、悪魔に拾われる。黒歌は白音を守るために眷属悪魔となって、後に白音にも手を出そうとした為に主を殺害。そして黒歌は指名手配となり、白音は置き去りにされて、紆余曲折の後に“リアス”と巡り会う。

 黒歌を説得するには、やはり白音を引き合いに出すしかないかな。ここで出会った以上、関わり合いにならないという選択肢はない。それなら自分側に引き込まないといけない。だからこそ説得を考えている訳なのだが……。

 

(信用して貰えるかなぁ。最初に名前を呼んじゃったのは本当に悔やまれるなぁ……)

 

 咄嗟とはいえ、知る筈のない名前を呼んでしまったのが痛い。そこから疑われれば、どうその疑いを晴らせば良いのか。

 うんうんと唸っていると、ふと白音の方から腹の虫の音が鳴るのが聞こえた。視線を向けてみれば、お腹を押さえている白音の姿が見える。

 

「……あぅ」

「あー……」

 

 何かあったかな、とポケットに手を入れてみるも、何もない。

 これなら移動中のお菓子の一つでも持っておけば良かったと思いつつも、白音へと声をかける。

 

「ねぇ、白音ちゃん」

「……?」

「お腹いっぱい、ご飯食べたい?」

「……! た、たべ……たい……」

「そうだよね。私もね、白音ちゃんにご飯食べさせてあげたいって言ったら、やっぱり怪しいかな?」

 

 伺うような視線には、明らかに不信の色が見える。まぁ、それは普通の反応だ。特におかしな事でもない。

 これでお菓子でもあげて、そこから警戒心を解せたら、なんて思いつつも備えはない。現実とはいつだって非情で、運命というのは突発的なものなんだろうと溜息が出る。

 ……そう思っていると、不意に袖を引かれた。白音がおずおずと伸ばした手が私の袖を掴んでいて、思わず目をきょとんとさせてしまう。

 

「……貴方が言ってる事は、凄く怪しいです」

「うん。自覚はあるよ」

「でも、嫌な気配が……しないです」

 

 きゅっ、と。袖を掴む指に力が篭もる。それでも体は怯えるように震えていて、これだけの行動に彼女の勇気がどれだけ込められているのかと思う。

 手を握るべきなのだろうか。それとも、彼女の次の言葉を待つべきなのか。そうして無言を貫いていると、白音の顔が上がって目線が合う。

 

「……どうして、私達を構うんですか?」

「どうして、か」

 

 問われ、己の心に問う。……浮かぶ答えは、ただ一つだ。

 

「夢を、見たんだ」

「……?」

「うん。そうとしか言えない。とても悲しい夢を見たんだ。わかりあえなくて、離れてしまって、そうやって悲しむ誰かを見た事がある。それが本当に、心の底から苦しくて、どうにかしたくて……だから、その“誰か”が重なる貴方達が放っておけない」

 

 袖を握られていない手で、白音へと手を伸ばす。びくり、と身を震わせるものの拒む事はない。そのまま頬を撫でるようにして、出来るだけ刺激しないように優しく触れるように心がける。

 

「私が嫌なんだ。ただ、それだけなんだ。だから手を伸ばしたい。貴方達の為なんて言える訳もない。自分のエゴだって、わかってる」

「……わからないです。聞いても、よくわからない」

「うん。理解して貰えるものだと思ってないし……白音ちゃんには難しかったかな?」

「……でも、あったかいです」

 

 私が頬に添えた手に重ねるように白音が手を伸ばす。目を閉じて、私の手に預けるように重みが加わる。

 

「……お姉様みたい」

 

 そう言って目を閉じて、小さく呟く。それを聞いた私は、暫くは白音を好きにさせる事にした。僅かな身動ぎをするだけで、白音が何も言わず、私も何も言わず、時間だけが過ぎていく。

 どれだけそうしていただろうか、頬に添えていた手を白音が握る。ゆっくり開いた瞳は涙に濡れていて、雫が今にも零れ落ちそうなまでに溜まっていて。

 

「……たすけて」

 

 消え入りそうな声で、切なる願いは紡がれる。

 

「お姉様が苦しいのは、もう、見たくない」

 

 ……あぁ。

 思わず、内心で深く息をするように。両手を伸ばして白音を腕の中に包み込む。

 “原作”(あちら)のこの子達が、仲違いするまでは同じ思いを抱いていたのかは知る由はない。知る術もない。それこそ神のみぞ知る所だ。

 けど、彼女たちは今、こうして私の目の前にいて。聞き届けた声がある。零れ落ちた願いがある。

 

「私が助ける」

 

 抱き締めて、白音の身が竦むのも関わらずに手に力を込める。壊れ物を包み込むように、決して壊さないように。けれど、手放す事がないように、腕の中に閉じこめる。

 痛んだ髪を撫でる。指を通せば髪が切れてしまいそうな感触に心が痛みながらも、頭を撫でる手が止まらない。

 

「貴方の願いは、私が聞き届けた」

 

 だから、もう泣かないで欲しい。

 私が、貴方達を救うから。傲慢でも良い。叶えると決めたんだ。なら、もう迷う事はしない。

 

「……たすけて、くれますか?」

「お腹いっぱい食べさせてあげる。暖かいお部屋に、お洋服も。飢える事も、凍える事もさせない。約束するわ」

「……ひどいこと、しませんか?」

「しない。私は、貴方達が笑ってる姿が見たい」

「どうして、初対面なのに、そんなにしてくれるんですか……?」

「きっと、それが私の運命だから」

 

 そう、運命だ。縁は繋がり、結ばれた。願いを叶えたいと言われたのであれば、私はその運命に従う。うぅん、違う。私はそうして選ぶんだ。己の運命を。そうしたいと思うからこそ。

 

「勿論、与えられるだけが不安なら対価も求める。そう、契約ね」

「……契約」

「貴方達を救いましょう。だから、貴方はいつか、私を救って頂戴」

 

 抱き締める腕の中で、震えが強くなった。しがみつくように力が込められる。

 押し殺したような嗚咽が聞こえる。それを聞かなかったようにするようにして、私は静かに泣き崩れる白音を背を撫でた。

 

 

 * * *

 

 

 泣きじゃくる白音が泣き疲れて、私のよりかかって眠る。体勢が苦しくないように調整していると、眠っていた黒歌の呻き声が聞こえた。目を向けてみると、ゆっくりとその瞳が開くのが見えた。

 

「起きたかしら?」

「……! お前ッ!」

 

 暫し目覚めの余韻に呆けていた黒歌に声をかけると、黒歌は即座に飛び上がって距離を取るようにして後退る。そして、私の腕の中にいる白音に気付いたのか、憎悪に染まった瞳で私を睨む。

 

「白音!」

「落ち着きなさい。何もしてないわ」

「……白音を離せ」

「貴方が落ち着いて話してくれるなら」

 

 暫く荒い息をしていたが、深呼吸をするように落ち着きを取り戻す黒歌。けれど、それでも瞳から憎悪と敵意は消えず、爆発直前を思わせるような熱を感じる。

 それに肩を竦めつつ、そっと白音を抱きかかえたまま黒歌へと歩み寄る。そのまま差し出すように白音を渡そうとする。一瞬、戸惑ったように黒歌は白音を受け取って私と距離を取る。

 

「……なんのつもり?」

「人質なんて思われるのが嫌だっただけよ。私は貴方と対等に話したいのよ、黒歌」

「……どうして私を知ってるんだい? アンタ」

「そうね。私だけが名前を知ってるのもフェアじゃないわね。私の名前はリアス・グレモリーよ」

「……知らないよ、そんな奴」

「今知って貰えたからいいわよ。さて、どうして私が貴方を知っているか、その問いに答えましょう。端的に言えば、貴方達を探していたからに他ならないわ」

「私達を?」

「貴方、猫又でしょう?」

「……それが何?」

 

 疑わしいと視線の圧を強める黒歌に大袈裟に肩を竦めるように見せて。

 

「私、少し変わっててね。予知夢を見るのよ」

「……はぁ?」

「その予知夢で、“黒い猫又”が悪魔になって、冥界にとって災禍になる未来を見たのよ。だから、なんとなく貴方を見てピンと来ちゃったのよ」

 

 嘘は言ってない、嘘は。荒唐無稽だとは思うけれど。実際、黒歌の目は疑惑の色が強まっている。

 

「その夢を見てから、私はその猫又を助けたかったのよ。“黒い猫又”には妹の“白い猫又”がいてね。お尋ね者になった“黒い猫又”は“白い猫又”を置いて去ってしまった。それが私にはどうしても許せなくてね」

「…………アンタの話が本当だとして、それがどうして私だって思うんだい?」

「だから名前を呼べた。違う?」

「…………本気で言ってるのかい、それ」

「じゃあ、そもそも身よりのない貴方達の名前を一体どこで知れると言うの?」

「アンタが何を隠してるかわかったもんじゃないからね。信じられるか、そんな話」

「そうね。隠し事はいっぱいしてるわ。貴方に言えない事だって多くある。けれど嘘は言ってないわ。つく意味も、理由もないもの」

 

 強く言い切ってから、私は息を吸い、吐き出すように彼女の名を呼ぶ。

 

「貴方に手を差し伸べたい、なんて言っても逆効果でしょうしね。こう聞きましょうか。白音に暖かな家、衣服、食事を与えたいと思わない?」

「…………」

「勿論、対価は貰うわ。それは貴方に払って貰う。それが支払われ続ける限り、私はこれを契約とし、遵守する事を誓うわ。私は対価を貰い、報酬を与える。……悪い話じゃないと思うけど?」

「悪魔の契約なんて信じられない。悪魔はすぐに裏切る」

「認識の相違という奴ね。悪魔は契約を尊ぶのよ。その契約を逆手に取る事はあっても、悪魔は契約を破る事はない。破らせる事はあっても、ね。そして貴方とする契約は、貴方に破らせる意味もない」

「…・・なんなの、アンタ。気味が悪い」

「信用して貰おうと必死なのよ。まさか万引きしてる所を見つけて、それを捕まえたら抵抗されてなんて誰が予想出来ますか!」

「そんなの私が知るか!!」

 

 ごもっともで。内心、苦笑を浮かべる。私だって黒歌の立場だったらそう言うだろうと思うし、と思いつつ。

 

「ここで私の誘いを断れば貴方、ろくな事にならないわよ」

「……予知夢だっけ? そんな与太話を信じろと? 脅しのつもり?」

「貴方は与太話だと思って聞いてればいいわ。そうなって後悔するのは貴方だもの。……白音を泣かせたいの?」

 

 私の問いには、憎々しげに私を睨み付けてくる。やっぱり黒歌にとって白音はウィークポイントか。悪いけれど、弱点を晒す方が悪いという事で情け無用で行かせて貰うわよ。というか私だって余裕がないのよ、黒歌。

 

「今なら私は貴方を雇ってあげられるって言ってるのよ。万引きもせずに真っ当な食事が取れて、私の所から独立するのだって将来的に視野に入れてもいいわよ?」

「……うまい話には裏があるってもんだよ」

「じゃあ契約書でも書く? 口約束で信じて貰えないって言うならちゃんと書くわよ」

「あぁもう! なんなのさアンタ!」

 

 頭を掻きむしるように黒歌が頭を掻く。その腕の中の白音が落ちそうになって、慌てて抱え直して私を睨んでくる。

 

「あまりにも私に都合が良すぎる話で、信じられないわよ……! なんで初対面で私を助けようとする? 夢で見ただけでしょ? 訳わかんないわよ……!」

「勿論、私の我が儘よ」

「はぁ……?」

「後ね、貴方の力を借りたいのよ。貴方、仙術は使えるのよね?」

 

 そう。黒歌をどう説得しようかと思って、黒歌の事を思い出していた時に思い付いたのだ。それは、彼女が持つ力について。

 仙術。それを交渉の材料と出来ないかと閃いたのだ。自然の気と一体化して自身を強化したり出来るが、一部の妖怪などにしか使えない術であり、私の伝手では触れる事のない力だ。

 私自身に力はないけれど、グレートレッドによって注がれる“無色の力”を思いに反応させる事で変化を促し、力としている。……そんな私が、もしも仙術が使えたら? と思ってしまったのだ。

 

「その力を私に貸してくれるなら、貴方達の衣食住も含めて私が面倒を見てあげるわ。どう?」

「……信用出来ない」

「……白音は、たすけて、って言ったわよ。もう貴方が苦しむ所は見たくない、って」

 

 その指摘に、黒歌が唇を噛むのが見えた。白音だって空腹で辛いだろうが、黒歌だって辛い筈だ。ただ、姉だから。幼い妹を守らないといけないからと気を張っていると考えるのは自然な筈だ。

 黒歌の視線が腕に抱く白音へと移る。その目に涙の跡があった事に気付いたのか、そっと指で白音の頬をなぞる。

 

「……ッ……ぅ~~!」

 

 まるで忌々しげに、悔しげに、憎々しげに、入り交じった感情を込めきった呻き声が聞こえる。白音を強く抱き締めて、その場に膝をつくように黒歌は項垂れた。

 

「……裏切ったら、末代まで祟ってやるから」

「……うん」

「白音に何かしてみろ。末代と言わず、その喉笛噛み千切ってやる」

「うん」

「……あんたと契約を交わす。だから、この子に、白音に凍える事も、飢える事もない居場所を与えて……!」

「そこに、貴方もいなきゃ意味がないのよ」

 

 膝をついて項垂れる黒歌に近づく。肩が震えているのは、悔しさなのだろうか。そんな姿を見るのが忍びなくて、私は震えを抑えるように黒歌の肩に手を置いた。

 拒まれる事はなかった。ぽたり、と。黒歌の頬を伝って涙が落ちていくのを見なかった振りをして。

 

「私に出会ってくれてありがとう。もう、貴方達を飢えたり、凍えたりさせない。そんな場所に連れて行ってあげるわ」

「馴れ合うつもりは、ないよ」

「それでいい。貴方がそう望んで、それでも契約の代価を払ってくれるならそれでいい」

 

 背中を撫でるように手を伸ばす。拒まれる事はなく、黒歌は背を丸めるようにして白音を抱き締めて、ただ静かに震えていた。

 その内心を推し量ることは私には出来ない。ただ、黒歌と白音を手元に置く事が出来そうで一つ、安堵の息を零した。

 

 

 * * *

 

 

 信じられるものなんて、妹以外に何もなかった。

 黒歌は思い出す。妹ともに生きてきた自分の生涯を。

 一番印象深い記憶は、母が死んだ事。好いた男に振り向いて欲しくて、その男の間に生まれた私達を認めて欲しくて。

 だが、それは叶わなかった。父と呼べる相手は自分たちを省みる事はなく、そして母は帰って来なかった。

 待った。待ち続けた。少し離れるだけだと、すぐに帰ってくると言って母親は帰って来なかった。

 数日待ち続けて、あぁ、もう帰ってこないのだと黒歌は悟ったのだ。同時に、傍らにいた妹を守れるのは自分だけだと。

 あれからどれだけ年月が経ったのか、と黒歌は振り返る。母が残していた備蓄も食べ尽くし、路銀も尽きそうだった。死に物狂いで食べられるものをかき集めて、肌寒い日は妹と暖めあった。

 幼いながら黒歌は頭が良く、要領も良くて、そして何より天才だった。母から教わっていた仙術が幸いしたのだ。だが、それでも2人分の生活を支えるには、やはり黒歌は子供でしかなかった。

 飢えに飢えて、盗みに手を出したのも仕方なかった。これが初めてではない。仙術を駆使して何度も繰り返してきたのだ。

 生きたかった。守りたかった。ただ、それだけだった。それ以外に無かった。だから、今日も同じだと思った。

 そして黒歌は出会ったのだ。奇妙な悪魔であるリアス・グレモリーに。

 

「えぇ、お父様。ごめんなさい、少し遅れそうで……えぇ、詳しくは帰ってからで。はい、はい」

 

 通信で家族と話しているだろうリアスの声を聞きながら、どこかへと向かう列車の個室の中で眠り続ける白音の頭を黒歌は撫でる。

 個室、という事はリアス・グレモリーが裕福な家系であるという事は察する事が出来る。 予知夢だとか、我が儘だとか。正直言っている事が信用ならない相手だ。何を思って自分を助けようとしているのか、言ってる事が本当だとしても、それでも信用がならない。

 そもそも、黒歌は信用するということを知らない。妹である白音は半身のようなもので、他人を信じる、なんて事は誰にも教わらずにこれまで生きてきたのだから。

 

「……」

 

 そうだ。信用なんて出来ない。いつ、こいつが化けの皮を剥がすかなんて、と。少し離れた所で通信に応じているリアスの背を睨む。

 そう思わないといけないと、疑わないといけないと黒歌は思っていた。でないと、何かが折れてしまいそうだったから。自分を支える何かが。

 眠る白音の手を黒歌は握る。穏やかに寝息を立てている妹の顔を見て、誓いを新たにする。

 

「必ず、私が守るから」

 

 そう、例え、何を利用しても。

 何度もしてきた誓いを繰り返す。

 それしか、黒歌は知らないのだから。

 温もりを受け入れるという事を、知らない。

 だから、憎悪する。恐怖する。忌避する。黒歌は、リアス・グレモリーを信じる事はしない。出来る筈がないのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。