深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.11

「ちくしょー、先生いねぇか……とりあえず横になるか? 本当に大丈夫か?」

 

 保健室の扉を開けながら、一誠が私をベッドまで運んでくれた。そのままベッドに座らせて、横にしようとしてくれる手を私は咄嗟に掴んでしまった。

 まだ、心臓を掴まれているような感覚が残っている。あの痛みが幻痛となってじくじく私を侵してくるようで、不安で、狂いそうだった。だから離れて欲しくなかった。今は、誰でも良いから触れて欲しかった。

 

「お、おい……本当に大丈夫かよ? 病院とか行った方が……あぁ、ごめん。俺、君の名前知らないや」

「……え?」

 

 一誠の言葉に、私は頭が真っ白になった。どうして、私の名前を知らないの? だって、私は貴方の……。

 私は、貴方の、何だったっけ……?

 

「……ぇ?」

 

 あぁ、思い出せない。何を思い出せないのかもわからない。私という存在から、何かが抜け落ちていくかのように、まるで砂が落ちていくように私が欠けていくのがわかる。

 わからない、わからない、私は、何をして、何をしようとして、何のために生きていたのか。何もわからなくて、ただ、呆ける事しかできなくて。

 

「……やっぱダメそうだな。ちょっと待ってろ、すぐ先生呼んで来るから!」

「ぁ……!」

 

 一誠が心配げに眉を寄せたかと思うと、笑みを浮かべて保健室を出て行ってしまう。私は引き留める事も出来ずに、ただその手を伸ばして――。

 その手を、見る事が出来なかった。確かに、この手は伸ばしている筈なのに。私がそれを目にする事は出来ない。

 

「ひぃっ!?」

 

 手を引っ込めて、自分の顔を触る。感触は確かにある。目も、鼻も、耳も、髪だって触れる。そう、髪だ、髪だって触れるのに。

 髪が、一切見えない。手と一緒で何も見える事はない。私という存在が何一つ見えない。恐る恐る窓に視線を向けて見る。

 うっすらでも残る筈の姿が、私には見えない。ここに確かに私はいるのに、窓は私の存在を映すことは無い。

 

「ひぃ、ぁあ、あぁあああっ!? あぁああああああああああああっ!?」

 

 頭を掻きむしるように抱えて、私は震える体を動かして保健室を飛び出した。

 見慣れない廊下、見慣れない景色、見慣れない人達、最初は何事かと視線を向けていた人達も、やがて私の声すら聞こえなくなったのか気に留めもしない。

 そんな中を私は彷徨うかのように走って行く。鏡に私が映らない。私はここにいるのに、その姿を見る事は出来ない。そもそも、自分がどんな姿だったのかもわからなくなりそうで、必死に頭を掻きむしって認識を保とうとする。

 そう、死、消滅、血、紅、そうだ。紅の色、私の髪の色は紅だった筈。そうだ、私は。それでも、名前を口にしようとすると喉が拒むようにして名前にならない。脳はそれが名前だと認識しているのに、その名前を文字や声として出力出来ない。

 

「誰か! 誰か!! 誰か、いないの!? ねぇ! 助けて、助けてよ、ねぇ! 誰かぁ!!」

 

 声を荒らげて、その場に座り込みながら叫ぶ。最早、私は認識もされていないのか、誰にも私に気を留めない。

 そして、私を気に留めなかった生徒の1人が、そのまま私をすり抜けるようにして歩いて行く。ここに確かに私はいるのに、ぶつかる事もなくすり抜けていってしまったのだ。

 すり抜けて行った生徒に、私は呆然とその場に座り込む事しかできなかった。おかしい、こんなのおかしい。おかしいとはわかるのに、じゃあ、普通ってなんだったっけと思い出せなくなってる。

 

「……やだ」

 

 体を引き摺るようにして、壁伝いに私は移動する。最早生徒はすり抜けるばかりで、私の存在は曖昧になり続けて行く。手の感触が、物に触れていく感触すら無くなっていく。じわじわと私の心を崩していくように絶望が満たしていく。

 あぁ、そっか。死んだんだっけ、私。そうだよね、だってオーフィスと戦って、心臓を潰されちゃったんだ。そんなの、生きてる筈ないよね。

 

「やだ」

 

 だからって、このまま死んで良い訳無い……!

 だって、まだ何も成し遂げてない。何もしてないのに、何をしてきたかわからなくても、何かを為そうとした事だけは覚えてる。それはまだ夢の途中で、私は、こんな所で死ねない。死ねないんだ。

 当てもなく彷徨うように歩く。外に出れば、もしかしたら。そのまま外に出て、歩いて行く。外靴も中靴も関係ない。そもそもこの学校がなんなのかわからない。さっきまで一緒にいた子……あれ、名前はなんだっけ。とても、とても大切な人の名前だった気がするのに。

 そのままふらふらと歩いて、森がある事に気付いて中に入っていく。行く当てなんかない。ここがどこかもわからない。でも、どこかに辿り着かなきゃいけないような気がして歩き続ける。

 体が重い、頭がふわふわしていく。まるで夢の中だ。死んだのであれば、これは死後に見る夢なんだろうか。そんなの見たくない、そもそも死にたくない。あぁ、死にたくない、消えたくない。

 ただ、その思いを糧に歩き続けて……古い建物を見つけた。多分、さっきの建物に比べて古いから、これは旧校舎というのかもしれない。どうして見た事もない筈の光景を私は彷徨っているのかがわからない。

 

 ――本当に、わからない?

 

 自問自答する。砂のように落ちていくものを必死にかき集めて、あ、と声を漏らした。

 ふらふらではなく、目的を以て。私は走り出した。旧校舎の中へと入って、導かれるように階段を駆け上がり、その扉を開いた。

 中の一室は綺麗な佇まいで。まるで実家を思い出させるような家具などが置かれている。そして、その部屋の中の大きな机、その椅子に誰かが座って私に背を向けている。

 

「――不躾な侵入者さんね。どこの誰かしら?」

 

 くるり、と。椅子を回転させて振り返ったのは……――“私”だった。

 

「なん、で」

「なんで? それはこっちが聞きたいわ。貴方は誰なの? どうしてここに入ってきたの? 何のために?」

「どうして、私が、そこに」

「私? 貴方が私なんて、何を言っているのかしら」

 

 うっすらと笑みを浮かべて“私”は笑う。机の上に肘をつけて手を組み、組んだ手の上に顎を置くようにして私を睨め付ける。

 

「私が“■■■・■■■■■”よ。貴方は違うでしょう?」

「なんで、聞こえない、の」

「貴方が“そうじゃない”からでしょう? 侵入者さん? そう、貴方は侵入者。権利なんか無いの。名前を名乗る事も、その存在がある事も。ねぇ?」

 

 

 ――だったら消えるしかないでしょう?

 

 

 そう告げる“■■■”の言葉に、私は後退る。それを、欠け続ける心が認めてしまっている。そもそも死んだんだ。いいや、死ぬどころか、そもそも私という存在そのものが間違っていた。

 有り得てはいけない。だから、消えるべきものは当然消えるべきであって。“■■■”が言うように私は、このまま何もせずただ消え去れば良い……。

 

 

 

「――違う」

 

 

 

 ――それでも。

 涙を流してると思うのに、もう頬に伝う感触は感じない。立っているのか、座っているのかわからない。この存在はあやふやだ。何も存在を証明出来るものなんてありはしない。

 

「違う? 何が違うって言うの?」

「――貴方は“リアス”なんかじゃない」

 

 そうだ。例え、目の前で“私”の姿を象ろうとも、この場所にいようとも、その仕草で、その声で、その色で、確かに私が認識したのだとしても。

 

「貴方は、“リアス”なんかじゃない。いる筈が無い。いて良いはずがない……!!」

「それは貴方でしょう? 誰かの名前を勝手に奪った誰か。誰かの役割を勝手に奪った誰か。厚かましいにも程があると思わないかしら?」

「――それでも、違う!!」

 

 そうだ。叫ぶ、叫ぶんだ。この言い分を認めてはならない。それを私の心が事実だと認めようとも、それでも、と叫ぶ心が残ってる。それは事実を認める心に比べれば遙かに弱くて、細くて、今にも消えてしまいそうなものだけど。

 私と一緒だ。それは私だ。私のものだ。何者でもない、私の心だ。私が思った全てだ。だから消えそうな私でも、これを自分から手放す事なんかしちゃいけないんだ。だから叫び続けるんだ。それは違う、って何度だって。

 

「いないんだ! 貴方はいない、私がここに居る以上、貴方がいちゃいけないんだ!!」

「それを、貴方はどんな資格と権利を以て言えるの?」

「――そんなもの、ない」

 

 問いを投げかける言葉に、私ははっきりと返す。とうに手足の感覚は失せた。ただ、ここにいたい。ここにありたい。消えたくないという思いの一心で居続けてるだけだ。消えてしまっても仕方ない。でも、仕方ないからと言って消える理由にはならない!

 

「私は夢見たの! だから、貴方は違う! 貴方に否定されるのは仕方ない、でも、だからって貴方に私を消す資格も権利もない! そんなもの、誰も持ってない! 私も、貴方も!!」

「許されると思ってるの? そんな事が。わかっているんでしょう? 貴方は誰かの人生を奪い続けて、奪わないと生きていけない。奪って、奪って、奪った先に何があるというの?」

「――何もなかったら作るしかないでしょ!!」

 

 そうだ、ないなら、作るしかないんだ。

 だって消えたくないんだ。だって生きたいんだ。私はここにいるんだ。

 その証を何も残せないまま、誰かの奪った席でのうのうと生きてられる程、私は強くない。だからといって、その席に座っていただろう誰かになる勇気なんかもなかった。

 臆病で、弱っちくて、何も出来なくて、何も残せなくて。それでも、それでも嫌なんだ。何も残せないから消えろなんて言われるのを、それを飲み込む事だけは出来ないんだ。誰かが座る席に座った以上、その誰かがいない以上は、私が座り続けるしかないんだ!

 

「それが、どんなに罪かわかってるの?」

「罪でも良い。誰に許されなくても良い。一生自分が許せなくてもいい。でも、だからって――誰かの幸せを願う事まで、否定されるのは嫌だ」

 

 そうだ、私は知っていた。その不幸を知っていた。だから捨てる事なんてできなかった。それから目を背ける事は、その不幸を容認する事だった。

 私は弱い。誰かの人生を奪って平気な顔でなんかいられないし、だからといってその誰かになりすませなんて事も出来なかった。だって私はここにいる、私は私しかいない。それが誰かの人生をなぞるものであったのだとしても、そこに立って、選んできたのは私なんだ!

 

「そう、じゃあ、どうする? “私”が貴方の姿だって言うなら、私をまた奪う?」

 

 問いかける“彼女”に、息が詰まる。……その問いに、私は。

 手を、伸ばした。有るはずのない手、それが彼女を掴もうと伸びる。そうだ、必要なんだ。私が私である為には、どうしても。

 

「そうやって、奪って、奪って、奪い続けて、何が残るの」

「それでも、生きたいの」

「生きたいだけで、本当に出来るの?」

「――だから、許してください」

 

 肩を掴む。縋るように“彼女”に体重を寄せる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。弱くてごめんなさい、何も出来なくてごめんなさい、本当は私がいない方がいいなんてわかってる。うぅん、例えそうだって言われても頷けなかった。私が嫌だったの、ずっと、ずっと、どうしてって思ってた。頑張らなきゃって思ってた。そうしなきゃって思ってたの」

「じゃあ、もういいのよ?」

「嫌だ。死ぬのは嫌。死にたくないの、お願い。大切な皆がいるの。私が、私の為に、私が私である為に! 私はまだ、死にたくないよぉ!! 生きたいよぉ!! それが、私が大好きだった誰かの人生を奪った上に成り立つものでも!! そこにいたのは私なんだ!! まだ、私は何も出来てない、何も完成させてない! こんな中途半端で終わりたくない!! 終わりたくないよぉ!!」

 

 無様なぐらい泣き叫んで、私は力を強める。手放したくないんだ、この今を。手にしてきた罪と同じぐらい重くて、大事なものがあるんだ。どっちも手放せないんだ。罪である事も、同じぐらいの幸せを抱えていたいんだ。

 あぁ、そうだ。幸せだったんだ。それが、それがどんなに罪深くても。私が愛した皆に愛される事に喜びを感じたのは私なんだ。その誰かに降りかかる不幸に悲しく思うのは私なんだ。それは、私のものだ。私がずっと抱えていたいものだ。

 

「だから、お願い」

「…………」

「私、もう、代わりで良いなんて言わないから……私は……!」

「――本当に、馬鹿」

 

 呆れたような声が頭上から投げ放たれる。

 

 

「――最初から“リアス・グレモリー”なんていないなんてわかってるなら、私に請い、求めて縋っても意味ない事ぐらいわかってるでしょ? それは、最初から全部貴方のもの。そうやってちゃんと認識して生きていきたいと思うなら、目を逸らさないで」

 

 

 そう、“リアス・グレモリー”なんかいない。それは、私の理想の中で生きる誰かだ。

 決して、私なんかじゃない。じゃあ、ここにいる私は……。

 

 

「罪で良い」

「そうよ」

「愚かで良い」

「そうよ」

「馬鹿だから」

「そうね」

「弱いから」

「本当にね」

「私、代わりじゃない」

「思い上がりね」

「うん、だから」

 

 

 縋っていた手を、強く抱き締めるように。

 

 

「――消えて、もう。貴方はいらない。それは全部、私のものだよ」

 

 

 この両手で強く抱き締めて、私はその“悪夢(わたし)”を砕いた。

 

 

 

『忘れるんじゃないわよ。それは罪、許されぬ罪。それを自覚するのであれば――その罪を抱えたまま、罪に塗れても尚、振るい続けなさい。それが“私”の存在証明なんだから』

 

 

 

 じゃあね、“悪夢(わたし)”。また死んでからじゃないと気付けない程、弱いけど。

 ソレがどんなに傲慢でも良い。ソレがどんなに罪深くても良い。例え、それでも。

 

 

 

「――それでも、私はリアス・グレモリーだから」

 

 

 

 * * *

 

 

「――――」

 

 その感覚に、オーフィスは戸惑いを隠せなかった。そう、“消失した己の腕”という感覚はあまりにも前触れがなく、唐突で、しかし確かな結果として残り続ける。

 リアスの心臓を握り潰した手が根元から“消滅”している。その奇怪な現象に動きを止めていると、目の前で瀕死であった筈のリアスが拳を振り上げていた。

 その全身は“深紅のオーラ”で包まれていた。直感的にオーフィスは全力で防御の姿勢を取った。それは危険なものだと判断したが故に。

 

「――吹き飛べぇぇぇええええええええええええええええええええッ!!」

 

 咆哮、そして一撃。

 オーフィスが受け止めた一撃は、オーフィスの体を軽々と吹き飛ばして遠くの彼方へと飛ばしていく。

 それを拳を振り抜いたリアスは見送り、一息を吐く。その一連の光景を見ていた黒歌は呆気取られるままに口をぽかん、と開けていた。

 

「……は? え? いや、何、どういう事?」

 

 さっきまで死にかけていた筈のリアスが、突然反撃に転じて、しかもあっさりとあのバケモノを吹き飛ばしてしまった。それだけの事ではあるが、それだけの事が起きる要因がさっぱり理解出来ない。

 そんな黒歌が追いつかないうちにリアスが急降下してきて、黒歌を引っ掴むなり飛翔する。

 

「黒歌! 一誠とイリナは!?」

「え?」

「どこ!?」

「え、ちょ、待つにゃん。白音が運んでいったから、白音の気を辿って……」

「早くッ!!」

「はいにゃんっ! あ、あっちにゃん!」

 

 黒歌が指し示す方向を確認したリアスは一つ頷き、黒歌を掴んだまま飛翔する。

 

「――“邪魔”」

 

 一言、何かリアスが呟いた瞬間に景色が一瞬にして切り替わる。まるで転移したかのように景色が別の場所へと変わっている事に黒歌は驚愕する。

 そして、驚愕する黒歌の視線の先には一誠とイリナを運んでいた白音が目を丸くして足を止めている姿だった。

 白音の姿を確認すれば、リアスは乱雑に黒歌を下ろして白音へと駆け寄る。

 

「白音! イリナと一誠を下ろして!」

「え、あの、リーア様?」

「いいから! 早く! 間に合わなくなるわ!!」

「は、はい!!」

 

 鬼気迫るといった様子のリアスに言われるがままに白音はその場にイリナと一誠を地面に下ろす。2人の体は力なく地に投げ出され、最早命の鼓動を感じる事はない。

 それにリアスは目を細め、その手に魔法陣を浮かべる。その魔法陣から引っ張り出すように取り出したのは“悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”を収めた箱だ。それを時間が惜しい、と言うように開いて、駒を取り出す。

 

「……本当にごめん。何回謝っても許されないかもしれない。でも、私は貴方達を失いたくないの。それが私の我が儘でもね、貴方達が私の夢だったの」

 

 2人に歩み寄り、それぞれの胸元にリアスは駒を置いた。

 

「一誠、さっき凄く格好良かったわ。昔からそうだったわね、貴方は私に憧れて、私の為に頑張ろうとしてた。凄く男の子で、いつも惹かれてたよ。ありがとう。だからね、貴方には助けたいと思う人達に届く為の力を」

 

 一誠の胸元には、“二つの騎士の駒”を。

 

「イリナ、貴方の人生を本当に歪めてばっかりね。本当にここまで来させてしまった。だから私は躊躇わない。ここまで来たら、最後まで付き合って。その為に私は貴方に惜しむ事はないわ。後で幾らでも怒ってくれていいから、私の夢に付き合ってね。必ず幸せにするから」

 

 イリナの胸元には、“変異の女王の駒”を。

 その二つに、更に自らの指を噛み千切って血を垂らしていく。充分に滴った血を、まるで駒が吸い上げるようにして二つの魔法陣を描いていく。

 

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。

 

 ――汝、兵藤一誠。我が“騎士(ナイト)”として、この地に舞い戻り、我に仕えよ。

 

 ――汝、紫藤イリナ。我が“女王(クイーン)”として、この地に舞い戻り、我と共にあれ。

 

 汝等、その生涯を悪魔となし、我が夢現の旅の輩となれ。是なる生を歓喜と祝福に満たす事を此の名に誓う。この縁を辿り、いざ再び生を謳歌せよ――!!」

 

 

 2人の手を握り、跪くように頭を垂れながらリアスが詠唱を唱える。それは祈るようにではなく、請うようにではなく、己の意志を叩き付けるかのような宣言と共に。

 それぞれの胸元に置かれた駒は、溶け合うようにしてイリナと一誠、それぞれの体の中へと入っていく。やがて全てが溶けるようにして消えた駒と同時に魔法陣が消えていく。

 それと同時に、土気色だった2人の顔色に生気が戻っていくのを感じて、リアスは吐息する。その光景を見ていた白音がすぐさま駆け寄ってきて、2人の容態を確かめてその身を震わせた。

 

「……生きてます! 2人とも! 生きてます!!」

「……白音、黒歌。改めて、2人をお願い」

 

 喜びを露わにする白音と、その傍らに控えていた黒歌にリアスは告げて跪いていた姿勢からゆっくりと立ち上がる。

 瞬間、飛んで来た光弾をリアスは殴りつけるようにして掻き消す。その光弾を放った先にはオーフィスが浮いていた。

 

「…………グレートレッド、いつ悪魔になった?」

「白音、黒歌。2人を連れて逃げて、早く」

 

 怪訝そうに目を細めるオーフィスから視線を外さずにリアスは告げる。白音と黒歌はすぐさま頷き、それぞれイリナと一誠を抱えてこの場から離れていこうと走り出した。

 オーフィスはそれにはまったく興味がないのか、その視線をリアスへと向け続けていた。リアスは大きく息を吸うように呼吸を整えて、告げる。

 

「違う、って言っても納得しないだろうし、もし違っても戦うしかないのかもしれないわね。そういう運命なのかもしれない。そうね、そう諦めてしまえばこうも思うのよ、オーフィス」

「……?」

「――私の大切な物を踏みにじったのがどんな理由であれ、私は貴方を許さない」

 

 ふわ、と。地響きのような音を立ててリアスの髪が揺らめくように宙に浮く。

 その全身からは淡く輝く“深紅のオーラ”が浮かび上がっていく。それをオーフィスは目を細める。

 

「……それは、何?」

「これは、私の罪よ。私が本来、得てはいけなかったもの。でもね、だからってなりふり構ってられないのよ。だから罪で良い。この力を得られたのは、ずっと私を苛む罪で良い」

 

 強まっていく紅のオーラが揺らめく。それを纏ったリアスは睨め付けるようにオーフィスへの視線を強める。

 

「今日で“無限”が潰えても良い覚悟でいるんでしょうね? いいわ。――消し去ってあげる、何もかも、全部」

 

 

 傲慢なまでに、リアスはそう言い切り、その腕につけた“悪魔の腕(デモン・ヴェアリ)”を撫でるように触れる。

 

「“悪魔の腕(デモン・ヴェアリ)”、Max Boost」

『Max Boost』

 

 残っている残存魔力を全て自身の体に込める。同時に、まるでリアスを中心として星が集うかのように力が収束していく。

 

「我が目覚めは、泡沫の夢。泡と散りて消えゆくは我が理想。

 しかし、故にこそ。この世に希なる願いを為し、罪の茨を纏おう。

 其れは無形、この身は夢現。有り得ざるを有るとし、有り得るを無と化す。

 恐れよ、畏れよ。この身は龍なれば、神をも憚る禁忌となりて。

 あらゆる矛盾を許容し、我が悪徳をここに成し遂げよう。

 我が誓いを聞け。我が身は、世界を侵すものなり!」

 

 紅のオーラが収束していき、それは紅の光となってリアスを包み込む。

 

 

龍身転生(メタモルフォーゼ・リインカーネイション)魔性喚起(デモンズ・ディザイア)!!」

 

 

 繭のように変じた光が弾けた後、そこに立つのは龍翼と悪魔の翼の4対の翼を広げ、龍の真っ直ぐ伸びた角と、拗くれた羊のような角の四本角を備え、雄々しい龍の尾を地に叩き付けるリアスの姿がある。

 しかし、その手足は龍にあらず。頬の一部を深紅の龍鱗が覆うのみ。その瞳は七色のプリズムを収めながらも、漆黒の闇には沈まず。そして、その全身には深紅のオーラが漂っている。

 もしも、ここに知る者がいれば驚いた事だろう。それは彼女が持ち得ずに生まれた筈だったのだから。そう、それこそ矛盾。夢幻を受け入れた器たる彼女には有り得ざるもの、しかして夢現であるからこそ纏えるもの。それを“消滅の魔力”と知る者は呼ぶ。

 

 

「一応、名乗っておくわ。私は、リアス・グレモリー。グレートレッドの加護と、悪魔の生を受けて生まれたわ。それから……――喧嘩を売ってきた上に、大事なものを踏みにじった貴方をぶん殴りたくて腸煮えくり返ってる、ただの女の子よッ!!」

 

 

 

 




『リアス・グレモリーに憧れた理由? ……可愛い女の子になりたかったって、それだけじゃダメかしら? だって、可愛いじゃない。それで充分だったのよ』
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