深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.05

 朱乃達が来て、皆が思い思いに談笑をしている風景を少し離れた所で眺める。一誠はイザイヤと男の子同士で盛り上がってるようだし、イリナ、白音、アーシア、トスカはガールズトークに華を咲かせている。

 黒歌は「柄じゃない」と雑務を片付けに席を外してしまった。故に、なんとなく眺めるように一歩引いてその光景を眺める。そうしていると朱乃が傍に寄って来るのを目にする。ソファーに座る私の隣に座って、肩に頭を預けてくる。

 

「随分とお疲れね」

「……まぁね」

 

 朱乃の頭を撫でてやると、甘えるようにすり寄ってくる。こういう所は大きくなっても変わらない。そんな変わらない朱乃が可愛いとは思うけれども、少し心配にはなる。これだけ綺麗になれば異性の目だって惹くだろうに。

 悪い男に捕まったりしなければ良いのだけど。しっかりはしているけれど、没頭し始めると周りが見えなくなったりする性質があるし。それをイザイヤ達が補佐しているのだと思えば、少しは安心は出来るけど。

 

「色々と一区切りが付いたの。ちょっと前まで、少し大変でね」

「レイナーレからは人工神器の研究が一段落した、とは聞いたけど」

「それはちょっと前ね。それとはちょっと別件。……ヴァーリと出張ってたのよ」

 

 ヴァーリ。その名に私は肩を揺らす。

 そう、その名は私にとっても特別な名前だ。一誠を眷属に抱える以上、目を逸らす事は出来ない存在だ。

 

「私も……というか。私の出自も関わる話だったから、ね」

「……そう」

 

 朱乃の出自と言えば、姫島家の事だろうか。詳しく聞いた方が良いのだろうか。朱乃が姫島の家に対して何を思っているのかはあまり聞いた事はない。声の調子を聞く限りは好印象ではないのだけれど。

 しかし、ヴァーリ。あのヴァーリである。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に宿るドライグと対を為す、白き龍『アルビオン』を封じた『神滅具(ロンギヌス)』、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の所有者であり、正当な『ルシファー』の血筋のサラブレッドと言うべき存在だ。

 この世界でもアザゼルによって拾われ、堕天使陣営で保護された事で朱乃が面倒を見る事が多かったそうで。更にはアザゼルが一誠の存在を知っていた事から、一度ヴァーリと引き合わされた事がある。

 

「ヴァーリは元気?」

「丁度思春期まっしぐら、って感じね。お風呂も断られるようになっちゃったわ」

「むしろ一緒にお風呂に入ってた事にビックリしたわ」

「ヴァーリは……ほら、ね」

「……まぁ、わかるけれど」

 

 ヴァーリは実の親に虐待されていた。そこから逃げ出して、アザゼルによって保護された。そこは世界が変わろうとも、大筋までは変わらなかったようで。それ故に当初は酷いものだったと朱乃から聞いている。

 そんなヴァーリに積極的に手を伸ばしていったのが朱乃だと言う。ヴァーリの出自に思う所があった、と聞いた事がある。朱乃も堕天使と人間のハーフだ。いつかの私と朱乃が重なったりしたのかもしれない。

 最初こそ良い関係は築けなかったけれども、朱乃は神器の研究者という事で自分の力について教えを説き、研究をしてアドバイスをくれる朱乃を無碍に出来なくなったのか、朱乃にとっては手のかかる弟のような存在だと言う。

 私にとっての一誠と同じ関係と考えると、随分と因果なものだと思う。朱乃の周りに、原作における“リアス・グレモリー”に関わった者達が増えているのも。ましてや、あのヴァーリの姉貴分のような立ち位置に収まるなどと思いもしなかった。

 朱乃には色々と驚かされているけれど、実はまだ驚いた事が一つある。ヴァーリの話題で、ふと思い出してしまい、それも気になって私は朱乃に問いかける。

 

「ギャスパーも元気?」

「ギャーくん? 元気よ、ヴァーリと一緒に……こう、微笑ましく育ってるわ」

「あぁ、そう……そうなのね」

 

 そう、あのギャスパーである。ギャスパー・ヴラディ。原作ではリアス・グレモリーの眷属として悪魔に転生した吸血鬼。

 その出会いは偶然で、朱乃がギャスパーを見つけたのはヴァンパイアハンターに狙われている所だったそうで、朱乃が見つけたときにはほぼ虫の息だったらしい。同行していたアーシアがいなければ、そのまま命を落としていたとも。

 それが切っ掛けで神の子を見張る者(グリゴリ)に引き取られたものの、ギャスパーの神器である『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の制御が上手く効かず、半ば軟禁状態で過ごしていたのはこちらの世界で変わらず。

 そんなギャスパーと関わりが深いのが、あのヴァーリだと言うのだ。別の世界の可能性を知るが故に、その両者の出会いは私にとっては驚きの連続だった。

 どうにも最初に顔を合わせた時に時間を止められたのがよっぽど悔しかったらしくて、暫くギャスパーに喧嘩を売って、そんなヴァーリからギャスパーが逃げ回るというのが二人の友人関係の切っ掛けらしい。

 

「懐かしいわねぇ。今となっては、一緒に力を高める……親友? 親友なのかしらね、あれ。同志というか……」

「……中二病発症者(どうるい)ってはっきり言いなさいよ、朱乃」

 

 朱乃が目を逸らした。そう、この世界では陣営も異なれば、その性格も大きく違っているらしいギャスパー。具体的に言うと……ヴァーリ2号らしい。どう2号なのかは、こう、中二病的な意味で。

 何でも、ギャスパーに最初に止められたのが悔しくて、喧嘩を売っていたヴァーリもギャスパーの事を知るにつれて、男同士のよくある殴り合いによる語り合いが起きたらしく、それから二人は互いの力を高め合う関係になったらしい。どうしてそうなった。

 

 

『ククク、時の呪縛から逃れようとも闇の恐怖からは逃れる事は出来ない……!』

『ならば、伝説の龍と偉大な悪魔の力を受け継いだ俺がその闇を光で滅してくれる……!』

『悪魔が光を纏うか! いや、ルシファーだからこそか……! 面白い、君はやはり面白いよ、ヴァーリ・ルシファー!』

『貴様もな、闇に選ばれし邪眼の主、ギャスパー・ヴラディ!』

 

 

 だいたいこんな感じらしい。最初に聞いた時に思いっきり噴き散らかした私を責めないで欲しい。元の世界では気弱で引きこもり気味だった吸血鬼が、こちらの世界では中二病患者である。しかも白龍皇と一緒に並んでるというこの光景を誰が想像したか。

 そして、何故か私は敵視されてたりする。どうにもお兄様が『ルシファー』と呼ばれている事からか、真のルシファーであるヴァーリを知るギャスパーからすると、いずれその名を奪い返さなければならない宿命の相手らしい。お兄様は良いとして、何故私まで巻き込まれた。赤龍帝が眷属にいるからですか。

 

 

『君と、君の兄とはいつか決着をつける事になるだろうね。真のルシファーがどちらなのか、「白」と「赤」のどちらが最強か。その審判の時が来るのを僕は待っているよ』

 

 

 色んな意味で泣いた。無事は無事だし、元気に育ってくれてるのは何よりだけど、もう、誰が想像した、こんな結果。今でもギャスパーの事を思うと頭が痛い。世界が異なれば人は変わるというけれども、もう、なんか変わりすぎである。

 まだ私が関わった相手ならそれもわかるのだけれど、ギャスパーに関してはほぼ何もしていない。ただ助ける相手が私から朱乃に変わり、引き取られた先が悪魔ではなく堕天使陣営だっただけで、まさか、こんな事になるなんて……。

 ちなみに女装癖は変わらなかったそうで、ゴスロリを好んで着ていると聞いた時は思わず呻き倒してしまった。それに吊られてヴァーリの服装センスもそっちに偏って行っているらしい、こう、鎖とかいっぱいジャラジャラつけた感じの……。

 

「僕には許されない至高のファッションセンスだよ! って褒め合ってた時はどうしようかと思ったわ、私」

「あぁ、吸血鬼は銀がダメだものね……」

「苦手だけどつけられない訳じゃないって。肌が傷むから嫌だって言ってたけど」

「……そう」

「あとは「光と闇が合わさり最強に見える!」って二人で考えた合体技をアザゼルおじ様に向けて、アザゼルおじ様が半泣きになったり……」

「もうアザゼルのトラウマを抉るの止めてあげなさいよ!?」

 

 それ、アザゼルに対する的確な嫌がらせだから! と、私は思わず突っ込んでしまう。朱乃も例のトラウマの話を知ってからアザゼルには同情的だったりする。

 やはり世界は騒がしい。良くも悪くも変わっていく。立場も、ヒトも、在り方も。

 

「……リーアは、本当に優しいね」

「何よ、突然」

「誰かの幸せそうな話とか、日常の事とか。そんな話をしている時のリーアが一番、幸せそうな顔をしてるわ」

 

 朱乃の手が伸びてきて、頬を撫でられる。そのまま指が唇に沿うようになぞられ、思わず背筋がぞくりとする。

 無意識に朱乃はこういう事をしてくるから教育に悪い。ほら、チラ見して気付いたアーシアとトスカがキャーキャー言ってるから。イリナと白音は呆れ顔を浮かべてるけれど。

 

「はいはい、朱乃は頑張ってるよ。良い子、良い子」

「……もう、リーアは狡い。そうやってすぐ子供みたいに扱うんだもの」

 

 朱乃をよしよし、とするように背中を撫でてあげて抱き締める。その扱いが不服だったのか、朱乃は頬を膨らませる。

 

「……ま、良いわ。やっぱり、リーアの傍は落ち着くわね。自然と羽根を伸ばせるわ」

「ゆっくり休んでいきなさい。今日の夕食は白音と黒歌のオススメの店だし、美味しいもの食べて、ぐっすり寝て、ね?」

「うん……」

 

 そのまま私に身を預けるようにして力を抜く朱乃に、私は穏やかに笑みを浮かべながらそのまま背中を撫で続けるのであった。

 

 

「……神よ、この幸福に感謝を捧げます」

「……ょしっ」

 

 

 ……つい、横目でイザイヤが神に祈りを捧げてるのを見てしまった。その隣で一誠も小さくガッツポーズをしているのを見逃さなかった。イザイヤも、計画の犠牲にはならなかったからそういう思いを素直に出せるのは、うん、良い事なのかなぁ……?

 

 

 * * *

 

 

 ささやかな宴は穏やかに、しかし騒がしく過ぎ去っていく。育ち盛りの一誠とイザイヤが競い合うようにご飯を食べて、その隣でメニューを制覇せん勢いで注文を重ねていく黒歌と白音、そんな二人を呆れたように見るイリナと、目を丸くするアーシアとトスカ。

 食べ放題はお断りではあるが、普通の客としては手放しで歓迎される黒歌と白音。まぁ、お金ならたくさんある。二人もこの地では悪魔として、悪魔のお仕事をしている為、お金はたくさん持っている。

 一誠も二人に比べれば少ないが、悪魔の仕事を受けているという。その仕事もささやかなものだけれど、悪魔として生きて行くのならば切っては切り離せないもの。ちゃんと学んで欲しいと思う。

 そんな風に皆を見守っていると、不意に食事の手を止めて黒歌と白音が顔を上げた。ぺろり、と食べかすを舐め取ってから黒歌が私に視線を向ける。

 

「リアス、団体さんにゃ」

「……結界に引っかかったの?」

「はい。種族は……多種多様ですね。絞りきれません、恐らく例のテロリストかと」

 

 テロリスト。それを聞いて私は目を細めた。オーフィスの元に集いつつある者達、今はまだ潜伏するように活動をしているけれど、小規模の小競り合いは世界各地で続いている。

 これもその一つかと思っていると、朱乃が困ったように頬に手を当てていた。そして申し訳なさそうに私達へと頭を下げる。

 

「ごめんなさい、多分私へのお客様ね」

「なるほど。それじゃあ、迎撃に」

「待つにゃ」

「ぐぇ」

 

 さっさと出て終わらせにいこうとして、席を立とうとした私の襟首を黒歌が掴む。そのまま引っ張られ、首が締まった為に潰れたカエルのような声を上げて席に着き直してむせ込む。

 

「アホ。アンタがここで戦ってオーフィスが万が一出てきたらどうするにゃ。というか真っ先に『(キング)』が飛び出すんじゃないの」

「げほっ……いや、まぁ、そうだけど」

「ちなみに私が出張る程でもないにゃん。だから私は行かないよ」

「……となると」

 

 チラッ、と私は視線を向ける。その視線の先には一誠、イリナ、白音がいる。一誠は爪楊枝で食後の余韻を楽しみ、イリナは水を飲みきって席を立とうとしている。白音は暫し目を閉じた後、私に視線を向けてくる。

 

「リーア様。どうか命じて下さい。我等、グレモリー眷属。主の命を果たす為、ここに」

「食後の運動、って訳じゃないけどな。黒歌さんがいかないって言うなら、俺達でなんとかするさ」

「……実戦は初めてなんだけどなぁ」

 

 凜とした声で白音が、笑みを浮かべて一誠が、どこか不安を滲ませながらも確かに頷くイリナが。

 その3人の姿を見て、私はふぅ、と溜息を一つ吐く。月日が経って、私自身でも変わらなければならないと思った事がある。それは、信じる事。

 例えば、これがお兄様やアジュカ様なら。私よりも明らかに強い絶対的な人達なら信じる事が出来る。私よりも良い結果が生まれるって。少し楽観的ではあるけれど、出来ない事は出来ないと任せきってしまうのは手だと学んだ。

 だから、これは私がどうにか出来る事で。それを誰かに託すという事、私は学んでいかなければならない。誰かの上に立つ者として、ここは任せると言う勇気を。

 

「我が愛しき眷属達、ここは私達の憩いの故郷。土足で踏み荒らす者に、我が友人に刃を向ける者達を滅しなさい。相手がテロリストなら容赦はいらないわ」

「私も行きましょう。イザイヤ、付いてきて。トスカとアーシアは待っていて頂戴」

「わかりました、朱乃姉さん」

 

 一誠達が席を立つのに合わせて、朱乃とイザイヤも席を立つ。

 

「イザイヤ、気をつけて」

「朱乃お姉様を任せたわよ」

「トスカもアーシアを頼んだよ。アーシア、すぐ帰ってくるから待っていてくれ」

 

 ぽん、とイザイヤがアーシアの頭を撫でて、トスカと視線を交わしてから部屋を後にしていく。

 それに続いて他の面々も部屋を後にして、アーシアが不安そうに表情を歪ませている。そんな中で、黒歌はメニューを広げてまだ食べるつもり満々であった。それを見て、流石にトスカが眉を潜める。

 

「……随分と悠長に構えてるんですね」

「心配はしてないにゃ。信じてあげる事も必要よ?」

「信じてはいます」

「だからって私達も一緒に慎ましく祈って、ってのはおかしな話にゃん? 祈りを否定するつもりはにゃいけど、私はいつも通りにして、いつも通りに帰って来るのを待つ事にするにゃ。結局はアンタ達の祈りと同じ、皆が戻ってきたらいつも通りであるように。だから私もいつも通りに過ごすだけにゃ」

 

 そう言って、店員を呼び出すベルを鳴らす黒歌を見つつ、私は迎撃に向かった皆を思う。

 ……信じよう。何でも私が解決すれば良い、という話じゃない。だから、信じるんだ。私の大事な皆の事を。ちゃんと成し遂げてくれるって。

 

 

 * * *

 

 

 闇に紛れるようにして、その者達はこの特異な町を進んでいた。

 駒王町というのは、裏の世界においては一種のタブーにも近い。ここはかつて『蛇』が降臨し、災禍を巻き起こした地。そして、その組織に属する者はそこで何があったのかを知らされている。

 『蛇』は『番』を求めている。『蛇』は静寂を求め、異世界を『番』と共に作り上げ、そこで永遠を享受する事を願ったのだと言う。

 しかし『番』はこの世界にある事を望み、『蛇』を拒絶したと言う。故に『蛇』はこの世界の破壊を決めたという。ただ物理的に破壊するのではない。言うなれば、秩序という法に混沌という牙を突き立てたのだ。

 まるで世界に巻き付くかのように“蛇”の影響は広がり続けている。そして、彼等もまた蛇に取り込まれたものだ。彼等は世界の秩序に対して反感を持っていた。その理由は様々だ。

 虐げられた者もいれば、己の利益を追求する者もいた。そこに統一された理念はない。ただ力があり、力によって統一され、混沌を招く者達。混沌故に数多の勢力からの離反者が集い、それ故に統率が取れているかと言われればそうでもない。

 結局の所、自由にやりたいが為にそこにいるのだ。力は何も望まない。力はただ、力としてあるだけ。そして力を振るえば良い。ただそれだけしか教えてくれない。

 なら、手にした力があるなら。それを思うままに振るいたいと思うのは誰しもが描く欲望の筋書きではないだろうか。故に、この闘争は必然であった。

 

「『瞬雷の堕天使』姫島 朱乃だな」

「大層な名ですけども、そう呼ばれていますわね」

 

 駒王町は中立地帯ではあるが、その中立の意味合いは「現地に集った者達は争わないが、余所から持ち込まれた争いにも関与しない」と言うべきが正しい。

 ここは“蛇”、オーフィスによって残された爪の痕。それを調べる為に勢力が手駒を送り込んでいるが、誰もが争いを避けたがり、現地で争う者はいない。しかし、同時に余所の勢力に何が起きようとも関知しない。

 不思議な場所とも言えよう。空白のようにぽっかり空いた場所だ。それ故に数多の組織が点在し、そしてそこに朱乃がやってきて、朱乃に恨みを持つ勢力が独自に動いたというのが今回の構図である。

 場所は郊外の森の中、目標が移動をし、人目を避けた所で何かしらの方法で接近に気付かれた事を悟った者達は、これを罠だとは思いながらも誘いを受けてここに来た。

 

「可能であれば生け捕りにしろ。奴は堕天使の中でも有数の頭を持つという。それにバラキエルへの牽制にもなる」

「……まぁ。随分とご評価頂けているのですね。そして私を父への当て付けにしようと」

 

 すぅ、と。父の名を出された朱乃の目が細められる。隣に従者のように控えていたイザイヤも眉を寄せた。

 事実として朱乃は神器の研究者としても知られている。神器所有者の保護だけでなく、その研究も担う身。その頭脳には一体どれだけの価値があるというものか。そんな対象が護衛だけを連れて駒王町に訪れたというのは、攻め時だと判断した。

 各々が武器を手に握る。既にこの場は結界が張られている。余所の勢力が関与しないとはいっても、用心に重ねる事はない。

 

「その頭脳、我が組織に貰い受けよう」

「組織の離反者達が集っただけの烏合の衆、という訳では無さそうですね」

「今は語る名を持たないが、いずれ世界にその名を轟かせるだろう。我等は力なり」

「まるで獣ですね。力があるから振るう、力があるから奪う」

「そうしなければ世界には変えられないものがある」

「……否定はしませんわ。えぇ、力とは世界を変えるもの。力を得た者達の一生を狂わせていくものですわ。見てきました、多くの力に惑わされた者達を」

 

 一歩、朱乃が前に出る。その背から広がる翼は漆黒の夜闇に溶けてしまいそうな美しい翼。堕天使である事を証明する翼を広げ、朱乃は眼前に立つ者達を見据える。

 

「力が神から授けられたものならば、それを監視し、管理するのが地に落ちた我等、神の子を見張る者(グリゴリ)の役目。その一員として責務を果たしましょう」

「やれ! 数ではこちらが上だ!」

 

 敵の規模は10人以上、大して相手は二人。確かに『瞬雷の堕天使』の名は伊達ではなく、傍にいる少年も神器使いなのだろう。だが多勢に無勢、一斉に各々の力を構え、彼等は朱乃とイザイヤへと殺到しようとする。

 

「――時間稼ぎどーも、よくキレなかったな。朱乃」

 

 その内の1人、真っ先に踏み込んだ者を奇襲する一撃が叩き込まれた。

 瞬きの間に現れたのは“赤”。その手に握った剣を一閃し、知覚外からの神速の一撃が叩き込まれる。それに突出していた者に続いていた彼等は足を止める。

 

「な、何奴!?」

「一体どこから……!? 身を潜めていた神器使いか! 情報では4人と、いや男は1人だけだった筈だ!!」

 

 足を止め、周囲を警戒する。4人、という情報を聞いていたがその情報と一致しない助力者の出現に彼等は歯噛みする。

 一撃を以てして、突出していた者を倒した少年、兵藤一誠は目を細めるようにして敵対者達を睨む。

 

「黙ってれば好き勝手言いやがって。勝手に俺の友達を誘拐しようだの、殺そうとしてんじゃねーよ」

 

 剣の血を払うようにして振るう一誠の左腕、そこにつけられた『赤龍帝の籠手』を目にして敵対者達は狼狽えた。

 

「な……! ま、まさか! 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だと!? 今代の『赤龍帝』……悪魔が何故、堕天使に加担する!?」

 

 ――駒王町には『赤き竜騎士(ドラゴンナイト)』がいる。

 それは各勢力にも伝わっていた。悪魔へと転生した今代の赤龍帝が街を守護していると。

 ここは元々、悪魔によって管理されていた土地。多種多様な勢力が入り乱れるようになっても、その基本的な統治は悪魔である彼等によって行われていた。だが、まさか介入してくるとは考えてもいなかった。

 冷戦状態であるとはいえ、悪魔と堕天使は敵対しているのだ。何故『赤龍帝』が朱乃の手助けに現れたのか解らず、襲撃者達は戦くように一歩引いた。

 

「逃がしませんよ。既にここは貴方達の結界を上書きして掌握しました。貴方達に逃げ場はありません」

 

 背後から響いた少女の声に幾人かが振り返る。月の光を帯びるかのようにその白の色彩は輝き、目を惹いた。その頭部には猫の耳が揺れている。

 

「悪魔の飼い猫か! 何故だ! 何故、悪魔が介入する!?」

「さっきも言ったろ」

「私達の友達に良からぬ事を考えてるなら、ぶっ飛ばす」

 

 一誠に並ぶようにして姿を現したのはイリナ。その眼には敵意の色が浮かぶ。

 自分よりも一歩前に立つ2人の姿に朱乃は柔らかく微笑み、しかし、それも一瞬の事。

 

「私を怨むのは道理。それだけの事をしている自覚はありますし、怨まれる事はとうの昔に覚悟している事です。この道を進むと決めた時から。ですが、私の家族や、私の友人に弓を引く者であれば、この『瞬雷』の名にかけて悉く貴方達を焼き払いましょう」

 

 

 ――あの日、何も出来なかった自分を、誰よりも許せなかったあの日から。そうすると決めたのだから。

 

 

 

 

 

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