ACT.01
意識は気泡が水面に浮かぶように。
前後、左右、上下、全てがわからない。浮遊感に包まれながら意識だけはそこにある。
そんな奇妙な感覚にたゆたっていると、影が見えた気がした。
影はとても大きな、大きな……赤……?
「なに……?」
声が漏れた。何だろう、この大きな“赤”は懐かしい気がする。凄く落ち着くような、けれど怖いような、奇妙な違和感が自分の心の中に残る。
影はじっ、と私を見ていたようだったけど、不意に何かを伸ばす。それはまるで指のようだった。大きな爪がついた、人のものではない爪。
―――それが、心臓を突き刺していた。
「……、……は……っ……!?」
心臓が、潰れた。
痛い、苦しい、息が出来ない。心臓だけがない。破裂してしまったように、元から無かったように。ただそこに心臓があったという名残だけが私に残される。
ずるり、と爪が引き抜かれる。痛い、熱い、苦しい。涙すら滲む。視界がぼやけていく。死んでしまうんじゃないか、という痛みに堪えて出来ない呼吸をしようと喘ぐ。
赤い、視界が、赤く、全てが、赤に……。
瞬間、熱が体を襲う。失った心臓を補填するような、まるで炎の塊。異物が自分の体に根を張っていくな激痛に身を捩らせる。悲鳴を上げたくても上げられない。ただ自分の身を掻きむしるようにひっかきながら抱きしめる。
どくん、と。何かが脈打った。胸へと視線を向けると、抉られた胸の中、そこに―――心臓があった。けれど今までの心臓と違う、異質な、自分のものじゃない心臓が。
なにこれ、と疑問の声を上げられない。やがて肉が埋まり、私の傷は塞がっていた。違和感はやがて消えていく。それと同時に意識も重たくなっていく。
影は、藻掻くのを止めた私をただジッと見ている気がした。一体、この影は、何……?
私の疑問を感じ取ったかのように影が口と思わしき部分を開く。そして、重々しくも不思議な声が世界に響いていく。
『おっぱいには夢が詰まってる。それ即ち浪漫』
……はい?
『ずむずむいや~ん』
……ちょっと待って。こんな痛い思いさせられて、よくわからないのに、なんで、そんな。
「―――意味わかんないわよッ!!」
そして、何事も無かったように夢は覚めるのだった。夢の内容はよく覚えていなかった。
* * *
「おはようございます、リアス様」
「おはよう、グレイフィア」
身支度を調えて朝食へと向かう。食堂へと着けばお義姉様が控えていた。相変わらずのメイド振りだと関心するばかりだ。私もようやく呼称の使い分け、オンとオフの切り替えが出来るようになったと思う。
「今日はサーゼクス様もいらしておりますよ」
「お兄様が?」
「朝食を終えたらそのままお仕事ですが」
「そう。久しぶりだから楽しみね」
最近、お兄様は忙しくて会う機会がそんなになかった。四大魔王なんだし、多忙で当然だとは思うけれども。旧魔王派との諍いもある訳だし、現政権が順風満帆とは言えない状況だ。
そんな事を考えているとお父様とお母様、そしてお兄様がやってきた。私は真っ先にお母様の方へと駆け寄り、抱きつくように飛び跳ねた。
「おはようございます、お母様!」
「今日も元気ね、私のリーア」
抱き留められて、しっかりと抱えられる。朝の挨拶のキスをすると、私の頬にもお母様のキスが贈られる。するとお父様も慣れたように私の前髪を上げておでこにキスをしてくれた。代わりにお父様にも頬にキスだ。あ、だらしない顔になった。
ふと視線を感じて見るとお兄様が羨ましそうな顔で見ていた。目が合うと、いつでも来て構わないといったように両手を広げたので、面白くて噴き出してしまった。
「お客人様ですか? あまり見ない顔ですけど」
「リ、リーア!?」
「あら、お兄様だったんですか。久しぶりに見るので顔が思い出せなくて……」
思わず悪戯を思い付いてお母様に抱きつきながら言うと、兄様は愕然とした表情でよろめき、その場に膝をつきそうになっていた。足が子鹿のように震えている。ちょっとやりすぎたかしら?
「冗談ですわ、お兄様。ご多忙の所、お疲れ様です。はい、ちゅー」
お母様の腕から離れ、兄様へとせがむように両手を広げながら抱っこの構え。すると素早い動きで抱き上げられてしまった。兄もまた悪戯が成功した、というような顔をしているからさっきのは演技だった訳か。むむむ、また騙された。
でも本当に落ち込む時もあるからこの兄は相変わらず読めないな、なんて考えつつお兄様の頬にキスを贈る。するとお兄様もお母様がした頬とは逆側の頬にキスをしてくれる。
「おはよう、リーア。今日も可愛らしいよ」
そうして朝の挨拶を終えて食事に入る。食事の間に会話は一切ない。音も最低限にしか鳴らない静かな食事風景だ。
最初はうまく扱えなかったナイフとフォークも今ではお手の物。生き物とは環境に適応して生きていくものなのだなぁ、などと思う。
静かな食事は終えるのも早い。朝の会話は食事の全てを終えてから始まる。口元を拭った兄様が笑みを浮かべて私に話題を振る。
「リーア、グレイフィアが最近お前の教育に熱心だという話は聞いたよ。成果はどうなんだい?」
瞬間、私の目のハイライトが消えた自覚がある。俗に言うレイプ目、希望を宿さない死んだ魚のような目。そういえば冥界に海はないんだって、お義姉様が教えてくれたよ、お勉強で……。
「ワタシ、カナリ賢クナタヨ」
「……リーア、どうしていきなり片言に?」
「追試、再テスト、増エル課題、ノルマ達成、進捗ドウデスカダメデス……」
「グレイフィア? 流石にやり過ぎじゃないのか、これは?」
「リアス様が望んだ事です、限界ギリギリのスケジュールを組むのは。勿論休憩の時間も取っていますよ。そちらはヴェネラナ様に一任しておりますが」
「勉強時間から解放されたリーアは年相応で、本当に可愛いのよ? サーゼクス、うふふ」
そう、確かに私は言った。バアル領のお忍び訪問を終えてから私はしっかりと夢を持つに至った。今までは焦って確かなものを欲しているだけだった。自分の中の不安を拭う為に。
けど、それでは焦燥に追いやられてるだけ。お義姉様が最初に私を咎めたのも、今では仕方ないと思う。きっと心身共に痛めつけるだけに終わっていたんじゃないかとさえ思う。
だから私はバアル領の訪問を終えた後、お父様とお母様に全力で甘えた。曰く、兄様と同じぐらい、もっと有名になれるようなグレモリー家の子になりたい。でも私は子供だからどうなれば良いかわからない。だから甘える事にしたのだ。
夢は大きくグレモリー家の当主、兄様と同じぐらい、いやそれ以上に有名になる事。勿論良い意味でね? だけど私は子供だし、どうやって頑張ればわからない。だから教えて欲しい、教育役が欲しいのだと訴えた。
最初は困ったような顔をしていたお父様とお母様。渋られたりもした。なれば、と私は子供の特権を活かす事にした。教育してくれなきゃ引き籠もって家の書物を全部読み漁る、という、今思えばよくわからない抗議方法だった。
書斎に篭もり、私を連れ出そうとするお義姉様とお母様を必死に躱し続けた。お義姉様には猫か鼠ですか、とこっぴどく怒られた。服の汚れとかも気にしないで逃げ回ったからね。
そんな事をしていればお父様が折れて、お母様を説得してくれたようだった。後で聞くとお義姉様も私の教育を推し進める方向で説得をしていてくれたらしい。聞いた当時はちょっと意外に思ったりもした。
『貴方は抑え付けてはどんな反発をするかわかりません。適度に伸ばして引き締めていく方が良いと悟っただけです』
その結果があのスパルタ教育だよ! 確かに言い出したのは私だけど! まずは一般教養、礼儀作法マナー、はたまたレポートとか! 過密スケジュールに初日の私が固まってしまったのも無理はないと思うよ!
正直、脳が疲れる。体の疲労感も酷い。それでも鬼講師となったお義姉様は止まらない。基準点が満たせなければ追試、しかしスケジュールは既にびっしり組まれているので数少ない予習時間が削られていく。
休憩時間は絶対に削られないので、予習という何をしても構わないという自由時間が失われるのだ。これが意外とキツい。レポートだってちゃんと書くには多少なりとも予習時間を割り振らないといけないのに。
当日学習でその終わりに一日の内容の全テストを毎日続けてたら頭がおかしくなっちゃうよぉ! しかも忘れた頃に当日のテストじゃなくて前のテスト出して、前より点数が下がってたら再教育だし!
そんな私の目が濁り続ける日々が続いている中、休憩時間は何も考えずにお母様に甘える時間となっている。というより、考えるだけの力がない。ただお母様にべったりと甘えるのだ。抱きついたり、抱きしめて貰ったり、髪を梳いて貰ったり、頭を撫でて貰ったり。
そこにお父様も加わる事があって、親子団欒水入らず、といった所だ。その時は私も余計な事を考えずにただ甘える事が出来ているのは、果たして良い事なのか悪い事なのか。いや、そうでもしないと素直に甘えられない私が悪いんだろうけどね。
そのお陰で同年代の中ではトップクラスの教養を身につけたんじゃないかな、と思っていたら出来て当然の事です、とお義姉様に一蹴されてしまった。出来て当たり前って、それは私の年齢を加味してないよね? って言ったら鼻で笑われた。
『グレモリーの代々当主の中でも1番になるというのならばこれぐらいして貰わなければ困ります』
ぐぅの音も出なかった。
正直ありがたくはあるんだけども。お義姉様曰く、どうにも私は自分への加減というものをわかっていないらしい。
とにかく無理・無茶が過ぎる。それを自覚がないまま、自分を騙し騙しにやるから辛い思いもするし身につかないのだと言う。余裕を持って勉強するって事は大事だね。緩みすぎてもいけないけど。
その点、お義姉様は流石のお義姉様だった。私の限界ギリギリのスケジュールというのは間違いはないだろう。辛いとは思いつつも、得られる実感の方が大きいし。目は濁るけれども。
「それに、そろそろリーアにも次のステップを踏んで貰おうと思っていますしね」
「ほえ?」
「一般常識やマナーなどは、今からでも社交界に出ても恥ずかしくない程度に教えたつもりです。実践出来るかは反復とリアス様の心掛け次第ではありますが」
「うっ……精進します。えーと、それで次のステップって?」
「サーゼクス様。前から打診していた話をここでしても宜しいですね?」
「あぁ、“彼”からは既に了解は取れている。何だったら今から呼んでも構わないよ」
お義姉様が了解を取るようにお兄様に確認を取っている。“彼”って誰だろう? 了解を取れているというのは、誰かに何か許可を貰っているという事だとは思うのだけど。
私が首を傾げているとお兄様の傍に魔法陣が展開される。紅い淡い光の魔法陣だ。室内を照らす紅い光がゆっくりと消えていく中、そこに立っていたのは一人の男。
外見は凝ったデザインの紅いローブで身を包んでいる。魔法陣から現れた男は跪くように見事な一礼をする。
「ルシファー眷属が『
「顔を上げてくれ、マグレガー」
「はっ」
跪いていた姿勢を保っていたけど、お兄様の一声で立ち上がる。『
「今回、君に会わせたかったのは彼女だ。私の妹のリアス・グレモリー。リーア、彼は私の眷属で『
「マグレガー、と申します。お初にお目にかかります」
「リアス・グレモリーですわ。よろしく、お兄様の『
お義姉様から指導された一礼の見せ時! 椅子から降りて、スカートの裾を持ち上げながら一礼する。顔を上げれば興味深げに鋭い瞳で私を見ていた。ほぇー、お兄様の
「リアス様、今後は私の代わりにマグレガーを家庭教師として貴方につけます。彼は近代西洋魔術の使い手。魔術に精通している彼に貴方の指導を依頼しました」
「と、私も話に聞いております。よろしくお願いしますね、リアス姫」
「リーアで構わないわ。私は教えを請う立場ですもの。公の場ではともかく、指導の間は小娘として扱いくださいな」
「これはこれは、無茶を仰いますな。我が敬愛する主の妹君を小娘に扱うなどと、畏れ多くて首が飛んでしまいそうです」
軽やかに言葉を交わす。ちょっと見た目が怖いかな、と思うところがあったけど話してみればそうでもないかな?
それにしても魔術、魔術かぁ。私は魔力がないから、だから魔術を、っていうお義姉様の配慮なんだろうか? でも、ようやく自分の力に出来そうなチャンスが訪れたのだ。自然と私の心は高揚するのだった。
* * *
魔力と魔法の違いは何か?
魔力は悪魔が生来持つ力の事。これにはイメージ、つまり想像力や創造力のセンスが問われるらしい。
私が以前、魔力を見てもぴんと来ない、という感覚は正しく、私の魔力の無さを示すものだとお義姉様の授業で私は納得していた。
では、一方で魔法とは何なのだろうか。魔法は悪魔の起こす現象を研究、解明し緻密な計算を以てして悪魔の魔力が起こす超常現象を再現する事から始まったのだと言う。
なので魔法は外側、つまり結果そのものは魔力で起こす現象と酷似していても、魔法を出力する魔法力は魔力とはまったく別のものだと私は解釈している。
私の中で魔力と魔法の差異は力の源だ。魔力は己の中から生まれる流れを、魔法は世界の流れの方向性を弄る事で世界を改変する現象を引き起こすのだと思う。
今度、消滅の特性を持つ兄様に、兄様の感覚を伺っておきたい所だ。兄様は超越者に格付けされる程の“消滅”の申し子。そこから何かヒントを得られるかもしれない、と。
ここで推論ではあるんだけど、多分、私に魔力が宿らなかった理由は私の前世にあるかもしれないと思っている。
魔力とはイメージ、つまり思考力、認識の塊である。我思う故に我あり。悪魔の力とは強い我によるものなのではないかと思うのだ。
我が強ければ出力が上がるのか、という訳ではなくて。世界に対して起こせる超常現象に“特性”が付くのではないか、と。それこそバアルを象徴する“消滅”の魔力のように。
私は純粋な冥界の生まれではない。それにこの世界を元々、空想の世界だと認識していた、言葉にするなら“外側の意識”だ。
更に私は“リアス・グレモリー”になっている。その認識こそが、“リアス・グレモリーは消滅の魔力を持っていた”から“自分はリアス・グレモリーではあるが、リアス・グレモリーを観測していた意識故に、自身が消滅の魔力の特性を持つ可能性を否定している”可能性がある。自分が“リアス・グレモリー”ではないから、と。
私が考えた仮説。特性を持つ魔力というのは魂や肉体などの全ての要素が合致した状態でないと生まれない、それこそ特殊な血統の証とも言えるのかもしれない。そう考えれば純血主義や転生悪魔を格下扱いする意見もわからない訳ではないと思う。
私は肉体こそは優れたグレモリーとバアルの血を引いたスペックが高いものだと思うけど、魂が如何せんそれについて行けてない可能性がある。そう思った時は凹んだ程だ。確かに私は原作の“リアス・グレモリー”よりも強かではないけれども。
案外、サイラオーグの魔力がないのも魂と肉体のバランスが取れてないからなんじゃないかなと思った。どちらかと言うとウァプラの血が色濃く出たんじゃないかなって。そう思えば後に獅子の王のように悠然と戦う姿に納得がいくし。
ウァプラの血が濃く出た故に肉体を鍛える、という手段が彼には合っていたのかも知れない。つまりサイラオーグは魔力がない、んじゃなくて、魔力へ割り振られる才能を肉体へと向けた、という可能性。あくまで推論だけどね。確証はないし。
「成る程、姫は面白い考えをされるな」
「あくまで子供の思いつきだけどね。でも自分で納得出来る理由があれば魔力がないだなんて事に悩まなくて済むしね」
それはそうと、何故か私はマグレガーとお茶をしている。新しい事が始まると思っていた矢先、こうしてのんびりとお茶を飲んでいる事には多少なりとも疑問がある。そう思っていると、マグレガーが微笑を浮かべながら言葉を口にした。
「姫も仰っていたそうですね。方向性のない努力が怖い、と。闇雲ではなく、しっかりと目標を持った努力がしたいと。これはその下準備ですよ」
「私が魔力と魔法の違いについて知ってるのかと、それについてどう思っているか聞く事が?」
「えぇ。悪魔も人も、向き不向きがあります。得意でないものを伸ばすのは非常に至難な事です。好きな物こそ上手なれ、です。まずはリアス様の方向性を探ろうかと思いまして」
「ふーん。私に向いてるものってあるのかしら?」
「向いていないものがない、なんて事はありませんよ。それが魔法かまでは私もまだわかりかねますがね」
そうだと良いわね、と思いながら私はマグレガーとの話に興じる事にした。
例えばどんな動物が好きか、とか、どんな景色が好きか、とか、火と水と風、土ならどれが強いと思いますか、とか、精霊と友達になりたいですか、とか。
色んな質問をされるので、思考は途中から捨てた。考えないで素のまま答えよう、とマグレガーの質問に私は答えを伝えていく。
「姫、失礼ではありますが髪を一本と、少々採血させていただいても?」
「良いわよ。えい」
「……あのですね、姫。もう少しこう、手心と言いますが」
「良いじゃない、一本ぐらい。はい」
「要求したのは確かに私ですが……グレイフィア様に怒られますよ?」
「うぐっ」
無造作に髪の一本を抜いて手渡すとマグレガーに咎められた。確かに今のは無かったかもしれない。お義姉様には内密に、という約束をして貰った。私と姫だけの秘密ですね、何て言うものだからこの人もお茶目なのかもしれない。兄様の眷属だし。
そして今日は採血をして解散、という事になった。今日はお義姉様の授業もないし、お母様とお父様に目一杯甘えようっと。
* * *
マグレガーの本名はマグレガー・メイザース。元は魔術結社“黄金の夜明け団”の創設者の1人である。
ありとあらゆる魔術に精通しているとも言われ、禁術の研究においては第一人者である程に知識を深めている。自他共に認める程に。
「……なんだ、これは」
そんな彼が息を呑んでいた。未知への疑問の興奮と困惑、そして恐怖を混ぜたような呟きだった。
彼が前にしているのはリアスの血と髪だ。『
元から魔力がないという話は伺っていた。それ故に魔法を学ぶ悪魔というのも面白いと興味がそそられてしまった。彼自身、そう思っていた。
そんな浮ついた気持ちが吹き飛んでしまいそうだった。
「なんだ、この親和性は……まるで無色の、しかしそれでいて解け合うだけでなく触媒の要素を強靱にしていくだと……?」
それはリアスの血を触媒に混ぜ込む事で、親和性が高い方向性を調べてみようと試した時だ。最初は当たりが出て、これは確定かと思い、次の媒体を試した所、これも大当たり。次の媒体を、大当たり。次の媒体を、大当たり。
流石にこの時にはマグレガーは異常を察知していた。悪魔の血肉というのは少なからず魔力を宿すもの。それだけでも魔法使いにとってはマジックアイテムの製作に役立てられる触媒の1つでもある。
だが悪魔にも特性というものがある。親和性がない組み合わせだって存在する。その筈だった。
―――“リアス・グレモリー”の血肉の親和性の幅は留まる所を知らない。
その結論に至ったマグレガーは自分が汗をかいているのだと言う事に気付いた。そう、リアスは確かにこれといった特性は存在しない。長所もない。短所と言う所もない。言ってしまえば平凡だった。並以下の、才能のない劣等児だと。
違う、そんな馬鹿な話がある訳がない。本質は別にあるのだ。彼女は原石で、最高の触媒たり得る。彼女の血肉があればそれだけで他の触媒を強化し続けていく事が出来る。
それはまるで実体のない力の塊。指向性のもたない、しかし指向性を与えれば反応を起こし、爆発的にその力を強化していく。無色の力の塊。それが彼女の本質なのだとすれば。
そこまで考え、マグレガーは首を振った。いずれにしてもこれはサーゼクスやグレイフィアに報告せねばならない、と。
「……ん?」
そこでマグレガーは気付く。リアスの血を混ぜて増幅された触媒、その中でも一際反応の強いものがあった事に気付いたのか。見落としか、或いは浸透し、時間が経過する事によって効力を発揮し始めたのか。手にとってマグレガーはその媒体を眺める。
「これは……龍の鱗、か」
―――リアス・グレモリーの血肉は他の触媒との親和性が非常に高く、その中でも特に竜種に関連するものに優れる。