深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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Chapter:愛すべき子の為に

 ――この子が見る世界が、新しい時代が幸せでありますように。

 

 

 * * *

 

 

「さて、忘れ物とかはないかしら?」

「ないよ、リーア」

「こっちもー」

 

 私は眷属達を見渡して確認を取る。皆、荷物は旅行に行くようなカバン等を抱えている。実質、旅行というか、実家に帰るだけなのだけども。

 今の私の拠点自体は駒王町だ。冥界の実家に帰るとなるとちょっとした旅行みたいになってしまう。今回は連休を利用しての帰省だ。私達が不在の間はサイラオーグが私の領地を見てくれていると引き受けてくれた。

 私とソーナは冥界の実家に頻繁に帰っているけれど、サイラオーグは冥界に帰省する事はあまりない。たまに呼び出しを受けているようだけれども、バアル本家も最低限にしたいんでしょうね。

 さて、帰省である。実家に戻る事は多いけれども、今回は暫く滞在が長くなりそうね。人間界に戻ってからは久しぶりかもしれない。

 

「本家に行くのは久しぶりにゃー」

「そうですね。私達は駒王でやることが多かったですし……」

「イリナに気を遣ってたのもあるしなぁ」

「それは……悪かったわね。でも、もう大丈夫だから」

「そんな時期もあったな、ってだけの話だよ」

 

 一誠達が思い思いに話をしている中で、私は帰省すると言う事で実家へと思いを馳せていた。オーフィスの襲来から6年という月日が経過したその間に増えていた“家族”の顔が浮かぶ。

 

「……ミリキャス」

 

 

 * * *

 

 

 ミリキャス・グレモリー。

 お兄様とお義姉様の間が授かった子。それは目出度くもあり、しかし歓迎されない時期でもあった。何せお義姉様の妊娠が発覚した時が、オーフィスの『蛇』による混乱期の真っ直中だったからだ。

 そんなお義姉様を戦場に出す訳にはいかない、と。しかし自分が抜けた穴を誰が埋められるというのか、とお兄様とお義姉様が口論していたのも、そんな2人をお兄様の眷属達が総出となって『王』と『女王』を支えようと奔走していた事も。

 その頃は、私も沈み込むイリナの事もあってグレモリー家は慌ただしかった。お父様やお母様の説得もあって「争いの最中だからといって、生まれ来る未来の芽を摘むべきではない」と言われて、お義姉様もようやく折れてくれたのだけど。

 それが私が『蛇』によって離反し、テロリストとなった者達の鎮圧に参加出来ていた理由。なんて事はない。お義姉様がいない間に、その穴を埋めたのは私だった、というだけの話。

 その頃はイリナの事もあって私も荒れていた時期でもあった。何かしていなければ不安で、何かを成し遂げる事に必死で。そんな今にも緊張の糸が切れそうな時期を終わらせたのがミリキャスだった。

 生まれたばかりの産声をあげる子。その姿にあのお義姉様が泣きじゃくりながら、我が子を抱き締めていたのが印象的だった。

 付き添うお兄様もまた、静かに涙を零してお義姉様とミリキャスを抱き締めていた。その日から、まるで暗闇に光が差し込むように状況は変わっていった。

 お義姉様から受け取った小さな命の感触を私は覚えている。私に手を伸ばして、よく似た紅の髪に触れて笑う甥っ子の姿に私も込み上げる涙が抑えきれなかった事を。

 

「リアスお姉様!」

「ただいま、ミリキャス」

 

 そんな可愛い甥っ子も大きくなるのがあっという間だ。実家に戻り、私が敷地内に入るなり飛び込んできたミリキャスを受け止める。

 髪色は私とよく似た紅髪、顔はお姉様似の甥っ子は無邪気に笑って私に抱きかかえられるままに笑っていた。ミリキャスが生まれてからは実家にいる事が多かったし、面倒を見る事も多かった。

 本来は叔母が正しい呼び方なのだけれども、私の年齢もあってお姉様呼びにして貰っている。私がミリキャスを抱きかかえていると、真っ先に寄ってきたのはイリナだった。

 

「久しぶり、ミリキャス」

「イリナお姉様! お帰りなさい!」

 

 お帰りなさい、と言うミリキャスにイリナが形容し難い微笑を浮かべる。ミリキャスが生まれてからイリナはずっと家にいたので、ミリキャスにとっては家族にカウントされている。

 私はそのままイリナにミリキャスを手渡す。私からミリキャスを受け取って抱きかかえたイリナは慈しみの表情を浮かべてミリキャスと頬を寄せ合う。それに無邪気に笑うミリキャスに頬が緩ませる。

 

「お帰りなさいませ、リアス様」

「ただいま、グレイフィア」

 

 そうしているとお姉様が姿を見せた。まだ仕事モードのようなので、名前で呼ぶ。

 

「イリナ、お帰りなさい」

「……はい。ただいま戻りました。ご無沙汰してます」

「それに黒歌も」

「……どーもにゃん」

「リアス様からお聞きしていますよ? 後で少し日常生活についてお話があります」

「げっ」

 

 ミリキャスを抱きかかえているイリナには柔らかく接していたお姉様だけれども、黒歌の顔を見るなり目を釣り上げた。それを見た黒歌は口元を引きつらせた。相変わらずお姉様には頭が上がらなさそうね、黒歌は。

 一方で白音は小さくガッツポーズをしていた。それを見た一誠が苦笑を浮かべている。そのまま2人もお義姉様へ挨拶を交わす。

 

「お久しぶりです、グレイフィア様」

「どうも、グレイフィアさん」

「白音に一誠くんも、いらっしゃいませ。ゆっくりしていきない」

 

 柔らかく笑みを浮かべて、すぐに仕事用の顔に切り替えてお義姉様は私達の荷物を預かっていく。

 ミリキャスは未だにイリナの腕の中だ。少しだけ、仕方ないというように微笑を浮かべるだけでお義姉様は何も言う事はなかった。

 

 

 * * *

 

 

 実家での生活は穏やかな時間なものだった。ミリキャスに日本での生活の事を話したり、お父様やお母様に近況報告をしたり。

 黒歌はお義姉様にしごかれているようで、それに一誠と白音も付き合っている。イリナはミリキャスとお話をしている。私も先程まで、そこにいたのだけど部屋を抜け出して、無人の庭で夜の月を見上げていた。

 月を見上げながら手すりの淵に腰かけるようにして足を揺らしていると、聞き慣れた声が耳に届く。

 

「実家に帰ってきているというのに、どうしてこんな所に1人でいるんだい? リアス」

「お兄様?」

 

 聞こえてきた声に私は振り返る。そこには月の光に照らされているお兄様の姿があった。

 

「お帰りになっていたのですか?」

「1日だけだがね。時折、顔を出さねばミリキャスが拗ねる」

「まさか。あの子はお兄様の立場を理解していますよ。拗ねるなんて、有り得ませんよ」

「それはそれで寂しいがね。父親としては」

 

 お兄様が私の隣に並ぶように位置を取って立つ。その姿を見つめながら、月を見上げるように視線を移す。

 

「……6年。早かったですね」

「あぁ……そうだな」

 

 私の呟きに、お兄様が応答するように答える。それを切っ掛けにして、ぽつりと私の口から言葉が零れていく。

 

「その間にミリキャスも生まれて、あっという間でした」

「子供の成長は早いものだな。しかし父親になるというのは、妹が出来るのともやはり訳が違う。身が引き締まるばかりさ」

「あら、それで少しオフで弾けるのも抑えてくださると私とお義姉様も嬉しいのですけれどね」

「ははは」

 

 笑って誤魔化すお兄様に釣られるようにして私も笑う。昔はもっとお兄様のオフの態度に怒っていたのだろうけど、今はそんなに怒れなくなったのは何故なんだろうか。

 単に諦めたのか、大人になったのか。或いは、それが必要な事だと思えるようになったからか。自分の事なのにその辺りの感覚はよくわからないまま、お兄様と会話を重ねていく。

 

「ここにいると落ち着くんです。あぁ、場所という訳じゃなくて。家に帰ってきてるという事がですね」

「珍しいな。リアスがそんな事を口にするのは」

 

 少し目を丸くするお兄様に、私は思わず苦笑を浮かべる。ここで過ごした時間を重ねられた事が大半の理由なんだろうけど、勿論そこには心変わりだってあるのは間違いないと思う。

 

「私も少しは大人になったという事ですよ。多分」

「そうだな。少なくとも落ち着いたな。あくまで昔と比べればだが」

「……だから、つい見せたくないと思う時があるんですよ。ここにいると、気が抜けてしまって」

 

 思わず自嘲するような言葉が零れる。落ち着いた場所にいると、ついつい気が緩んで見せなくて良いものすら見せてしまいそうで、それが少しだけ怖い。そうすると案の定、お兄様から呆れたような声を投げかけられる。

 

「そんな事を気にする眷属達でもあるまい。むしろ見せた方が喜ばれるのではないか?」

「それもわかってるんですけど、ね」

 

 別に素の姿を晒すのが嫌な訳じゃない。弱音を吐いても、受け止めて貰えるのはわかってる。でも、それを拒んでいる理由は怖いのもあるし、でも怖いよりも強い思いがもう一つあって、そっちの方が割合が大きいのだと最近になってようやく認められるようになった。

 

「その、恥ずかしくて」

「……恥ずかしい?」

「皆、私を思ってくれてるって事はわかるんです。甘えたりした方が喜ぶんだろうって。でも、そうすると恥ずかしくて、落ち着かないんですよ。だから、つい1人になりたくなるんです」

「……昔は、怖がって離れていたものかと心配したが。まったく随分と可愛らしい理由を口にするようになったものだ」

 

 お兄様の手が伸びて頭を撫でられる。その手の感触に目を細める。この手の感触がどうしようもなく好きだと思う。色んな人に頭を撫でられても、お兄様の手は何故か特別だ。

 それは最初に触れてくれた手だからなのかもしれない。刷り込みなのかな、と一瞬考えるけれども、無粋だと思って考える事をやめる。

 

「お前は甘えるのが相変わらず下手だな、リーア」

「それ、皆に言われます」

「それなら自覚して貰いたいのだがな」

 

 頭を撫でる手が頬を撫でるように流れていく。その手の感触にむず痒くなって目を細めてしまう。決して不快ではないけれど、気恥ずかしいという思いが大きい。

 自覚、か。そうお兄様に言われて、私は重い息を吐き出す。胸の重りを退かすように、心の内を口にした。

 

「愛されたいって口にするのは、恥ずかしいじゃないですか。重たい女ですよ、私は」

「おや。今日は随分と素直で饒舌だな、リーア」

「もうっ、折角素直になったんですから。そこは黙っててくださいよ、お兄様」

「お前の愛が重い事など、昔から知っているとも。自分を壊したい程に未来を愛した事も、有り得た可能性を慈しんだ事も。私は見てきたのだから」

 

 頬を寄せるようにして抱き締められる。背中に回された手によって、そのまま私を持ち上げるようにして抱き上げられる。姫抱きにされた格好になった私は思わず頬を膨らませてお兄様から目を反らした。

 

「もう、子供じゃないんですよ?」

「15歳など、まだまだ幼子とも変わらないよ。それにどんなに大きくなっても妹は妹だとも」

「では、淑女としての扱いを要求します」

「お姫様抱っこは淑女の夢ではないのかい?」

「身内相手だったら恥ずかしいだけです!」

 

 思わず顔を引っ掻いてやろうかと思って手に力を込めるけれど、下手に力を入れれば落とされかねないと思って手を引っ込める。そのまま腕を組んで不満を示す。

 姫抱きにされたまま、お兄様が手すりから離れるように一歩、二歩歩いてしまう。戻るに戻れなくなった私は、せめて負担がないようにお兄様の胸の中に顔を寄せる。

 

「私は、こんなに幸せで良いんでしょうか、って聞いたら怒ります?」

「あぁ、勿論だとも。これで幸せなのだと欲がなさ過ぎるとな」

「そう答えるとわかってて、問いかける私は浅ましいですか?」

「もっと上手に甘えると良い。昔よりはマシになった分、及第点だがね」

「難しい事を」

 

 嘘。本当は簡単だ。その簡単を難しくしてるのは自分自身だって事も知ってる。

 でも、そうじゃないと私じゃない。それを少しずつ受け入れて、私はここにいる。お兄様の腕の中は居心地が良くて。目を細めて、そのまま目を閉じて頭を預ける。

 

「……何度も決意してる筈なのに、私は弱いですね」

「私とて完璧ではない。失敗をする事も、悔いる事も多くあった。自分自身を疑う日もあった。だから、振り返ってそこに戻ってくれるならそれで良いのだろうさ。それがお前にとって本物なのだから」

「……はい」

 

 なんとなく感じているんだ。そろそろ何かが始まり出す。そんな予感がざわめく度に脳裏にちらつくのはオーフィスの面影だ。

 オーフィスが私に何を見出したのか、私にはわからない。グレートレッドに尋ねようと思った事もあるけれど、不思議と尋ねた事はない。

 私にとってオーフィスは何なのだろうか。形容するには複雑すぎて言葉にならなくて、でもいつかは言葉にしないといけないと予感している。

 その為にはオーフィスを知らなければならない。そう思ってはいるものの、あの龍神様が何を考えているのか皆目見当がつかない。

 自分でも不思議なのだ。言葉にするのが難しいのだけれど、無理矢理当て嵌めるなら共鳴だろうか。オーフィスと私の間で確かに響き合ったものがある。

 オーフィスはそれを静寂と呼んだのだとして、私はそれを否定した。だから、別に何か当て嵌めるべき言葉がある筈なんだ。その答えを私は見つける事が出来てない。

 

「……お兄様」

「? リーア?」

「……いえ、何でも。もう少しだけ、このまま」

 

 胸に空いた穴のような、飲み下しきれない感覚を忘れるようにお兄様に甘えるように体を寄せる。

 それについて考え続けると、深淵に飲み込まれてしまいそうで怖くなる。普段は考えないようにしてるけれど、今はお兄様が近くにいるのだ。甘えて良いと言うのであれば甘えさせて貰おう。

 

「……怖い事は、たくさんありますけど。ミリキャスが生まれた時に改めて護ろうと思った事があるんです」

「それは何だい? リーア」

「未来を。私の大事な人達と望める未来を掴みに行こう、って。それだけは何度挫けたって裏切れない私の願いです。お兄様には知っておいて欲しいから言っておきます」

「……そうか」

「はい」

 

 そのままお互いに言葉を発せずに、私はお兄様に身を寄せながら時間を過ごす。

 そうしていると、遠くの方から何かが炸裂するような音をして、思わず身を跳ねさせる。咄嗟にお兄様が体勢を整えてくれた事で落ちる事は無かったけれども、お兄様の首に腕を回してしまった。

 

「な、何事!?」

「これは……鍛錬場の方からか?」

「……あー、もしかしてお義姉様と」

「キミの“戦車(ルーク)”だろうねぇ」

 

 のほほんとした様子でお兄様が呟くと同時に、また炸裂するような音が響き渡る。その音に私は思わず苦笑を浮かべる。

 

「――今日は、珍しく本気だねぇ。黒歌」

 

 

 * * *

 

 

「鈍っていないようで安心しましたよ」

 

 グレモリーの鍛錬場。そこで黒歌がグレイフィアと拳を交えていた。その傍には一誠と白音が汗だくのまま、荒く呼吸をして倒れている。先程まで3人がかりでグレイフィアに挑んでいたのだが、まだ幼く未熟な2人にはグレイフィアの相手は無理なのも仕方ないだろう。

 グレイフィアの投げかけられた言葉に黒歌は鼻を鳴らす。同時に打ち出された攻撃を身軽な身のこなしで回避しながら、黒歌は目を細める。

 

「鈍ってたら何言われるかわかったもんじゃないんですから、必死にもなりますにゃん?」

「そうですか。……それで、そろそろ酒気は抜けたんですか?」

「わざわざ待ってくれてたんですか。本当に嫌な方ですにゃん」

「可愛い弟子の成長を見届けたい師匠心という奴ですよ」

「それはイリナに譲るので、私は見逃して欲しいにゃん?」

「イリナでは“私”の称号は受け継げませんよ。だから貴方に期待しているのですよ」

 

 グレイフィアから投げかけられた言葉に黒歌は苦笑を浮かべる。肩を竦めた後、こきりと首を鳴らして構えを取り直す。

 酒気、と言われたものの黒歌はグレモリー本家に来るまでに飲酒はしていない。こうなる事はなんとなく読めていたというのもある。グレイフィアが自分を試そうとするだろうと言うのは。

 

「流石に“最強”の名を背負うつもりはにゃいんだけどにゃぁ」

「私とていつまでも現役のつもりもありませんよ。暫く譲るつもりはありませんが」

「……はぁ、そうですかにゃん」

「しかし貴方もリーアに似たのでしょうかね。少しは名誉や地位に欲を出しても良いのですが」

「そんなもの熨斗をつけて誰かにくれてやるにゃん。私は穏やかに過ごしていたいだけ。リーアだってそうでしょう?」

「……そうね。でも、それを叶える為に何が必要かわかっているでしょう?」

 

 グレイフィアの問いかけに黒歌は目を閉じて息を整える。呼吸を整え直して、ゆっくりと目を開く。浮かべるのは不敵な笑みで、その瞳は戦意に燃え始める。

 

「だったら、久しぶりに礼儀なしで行かせて貰うにゃん?」

「えぇ、存分にかかって来なさい。正式に仙術を学んでから貴方が得たものを私に見せてくださいな」

「はっ、いつまでも上から見下ろせると思われるのも酌だにゃん。一本ぐらい取らせて貰おうかにゃ!!」

 

 黒と銀が交錯する。空気を震わせるような音を響かせ、鍛錬場の結界を歪ませる。

 翼を羽ばたかせながら一発一発に恐ろしい程に魔力を込めた魔力弾を黒歌へとグレイフィアは放つ。それを無数にだ、少なくとも50個は超えるだろう魔力の連弾が黒歌へと迫る。

 一息、黒歌が呼気を鋭く吐き出す。黒歌の手元がブレたかと思えば魔力弾が炸裂するように割れていく。黒歌の手前で風船が割れるような、それにしては重厚な音を立てて魔力弾が次々と割られていく。

 そして弾幕の縫い目、グレイフィアへと続く隙間が見えた瞬間に黒歌の姿ごとブレる。グレイフィアが展開した魔力障壁に黒歌の拳が真っ直ぐに叩き付けられる。

 グレイフィアはそのまま結界で受け止める事はせず、受け流すようにして黒歌へと至近距離から魔力弾を放とうとする。それを黒歌は蹴りで掻き消して着地する。そのまま地を這うようにしてその場から後退る。

 猫そのままのような俊敏な動きで距離を取り、黒歌は薄く笑みを浮かべる。そんな黒歌の笑みを見て、グレイフィアもまた挑発的な笑みを浮かべる。小手調べはお互いに終わりと言うように。

 その光景を白音を抱きかかえて退避しながら一誠は見つめて、思わず息を呑む。先程まで子供をあしらうように一蹴された一誠には黒歌の背中は遠く見える。

 

「……アレが、黒歌さん」

 

 黒歌は『リアスの眷属』の中で『最強』だ。そして『最強の女王』にして『銀髪(ぎんぱつ)殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』と呼ばれるグレイフィアの後継者とも言われている。

 普段はその事実が嘘に思えるようにだらしないが、これが本来の黒歌。自分では未だに遠い領域に足を踏み入れている黒歌に羨望と嫉妬を覚えてしまい、思わず握る拳に力が入る。そしてここから始まる戦いを糧とするべく、一誠は目に力を込める。

 

「さぁ、続きといこうかにゃん」

 

 指を鳴らすように握り合わせる黒歌の瞳に『虹色』の光が走り出す。瞬間、黒歌の力が時間を増す毎に膨れあがっていく。

 『戦車(ルーク)』はチェスにおいてクイーンと並んで大駒と呼ばれている。その『戦車(ルーク)の駒』を黒歌は2つ消費しているのだ。駒の価値だけで言えば、黒歌は『女王』を凌駕しているとも言える。

 その力は単純な暴威、主を仇為す者達に不吉を告げる黒猫。普段は鳴く事がない黒猫が戦意に唸り声を上げ始める。その姿にグレイフィアも薄く笑ったまま魔力を練り始める。

 

 

 ――この数分後、結界が壊れてしまった事で2人の戦いは終結を迎える事となる。勝敗については、敢えて語らずにいよう。

 

 

 * * *

 

 

 全ては、愛する者達の為に。『情愛の悪魔』と呼ばれた悪魔の眷属達は未来の為、力に手を伸ばす。各々の思いを抱えながら、いずれ来たる戦いの日に備えて。

   

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