「久しぶりだな、リアス。でかくなったじゃないか」
「お久しぶり、アザゼル。壮健そうで何よりだわ」
アザゼルは通信を入れれば、数時間後には訪れてくれた。正直、立場を思えば行動が早すぎるとも言える。そうして来訪したアザゼルは、いつもの調子で片手を上げて挨拶をする。変わらない様子に私は肩を竦める。
しかも、来たのはアザゼルだけじゃなかった。アザゼルの傍に控えるもう1人を見て、挨拶を交わす。同行者は朱乃。まさか付いて来るとは思っておらず、少しだけ目を瞬かせる。
「朱乃、貴方も来たのね」
「えぇ。話は聞いてるわ。……レイナーレ姉さんは?」
「今は眠って貰ってるわ。まずは私の部屋に行きましょうか。皆、そこで待ってるわ」
私の部屋は密談をするのに適している。グレモリー邸の最上階、そこに2人を招き入れると私の眷属達が席について待っていた。
アザゼルの顔を見るなり、一誠は席を立って複雑そうな表情を浮かべている。そんな表情を浮かべている一誠を見れば、アザゼルは苦笑しながら一誠の方へと歩み寄り、その前に立つ。
「久しぶりだな、一誠。あぁ、言いたい事があるなら言っていいぞ? 今日は無礼講だ。弁明もするつもりもないからな」
「……アザゼル先生」
苦虫を噛み潰したような声色で一誠はアザゼルを呼ぶ。私が駒王の地を離れている間、一誠は神器の扱いだけではなく、様々な事をアザゼルから教わったと聞いた事がある。
アザゼルも立場があるから頻繁に会いに来れた訳でもないけれど、それでも一誠が尊敬する存在の1人だったのは間違いないだろう。それは一誠から聞いた話から察する事が出来た。だからこそ、今回の件に対する思いは複雑だと思う。
一誠が拳を振り上げる。それにイリナが目を見開くも、一誠はアザゼルの胸を叩くようにして拳を置くのみ。そのまま顔を俯かせて震えている。そんな一誠の様子にアザゼルは苦笑すらも消して、ただ一誠の好きにさせる。
「……俺は頭が良いわけじゃないし、知らない事も多い。子供だから知らされてない事なんていっぱいあるだろうって思ってる。だからアザゼル先生が何か色々考えて選んだんだって、そう思うし、思いたい。だから、先生を殴る権利があるとしたらそれはレイナーレさんだけだ」
「……そうだな」
「……でも、やりきれねぇよ……!!」
息を震わせるように一誠は告げる。もう一度、アザゼルの胸を叩くように拳をぶつける。それにアザセルは眉を僅かに歪めるだけだった。そのまま一誠の頭を軽く撫でてからベッドの上で眠るレイナーレへと歩み寄っていく。
そのアザゼルに続いて朱乃もレイナーレの傍へと寄っていく。朱乃は傍にある椅子に座って、レイナーレの手を握りしめた。
白音の治癒があって傷跡は残ってはいないけれども、レイナーレを見つめる朱乃の視線は険しいものだ。今にも泣きそうな程に表情が歪んでいる。そんな朱乃を心配しつつ、私は話を進める為にアザゼルに声をかける。
「……アザゼルに来て貰ったのは襲撃者を引き取って貰う為よ。レイナーレがこんな調子なら誰かに来て貰わないと引き渡しも出来ないからね」
「あぁ、わかってるよ。グザファンか。離反したウチの元幹部なのは間違いねぇよ。神器研究の過激派だったな」
「私も顔を合わせた事がありましたが……」
頭を掻きながらアザゼルが答える。朱乃も面識があったのか、顔を歪ませている。
さて、アザゼルを呼び出したのは勿論、捕らえた堕天使達の引き渡しの為でもあるけれど、本題はこっちだ。
「アザゼル。以前言っていた件、レイナーレが望むなら……構わないわね?」
「あぁ。お前達には借りを作った事になるしな。帳尻合わせはこっちでする。そろそろ朱乃もこっちに派遣出来そうだったんでな。まぁ、あと一歩早ければ、とは思わなくもないが……」
以前言っていた件。それはレイナーレが望むなら
それ自体は以前から話が上がっていた事だ。アザゼルはレイナーレに対して負い目がある。この現状を作ってしまったのは不本意だったけれども、それを良しとしたのもまたアザゼルなのだから。
「レイナーレが不在になれば、こっちも早く朱乃を送り込めるだろう。……例の会談、早められるならそれに越した事はないだろ?」
「お互いに、ね。……死んで楽になりたいって。そう言ってたわよ」
「……そうか」
レイナーレから聞いた言葉をアザゼルに伝えれば、アザゼルは目を細めて小さく呟くように返事をする。朱乃は目に涙を溜めて、悲痛な顔を浮かべている。
アザゼルはそんな朱乃の肩に手を置いて目線を合わせるように膝をつく。目に涙を溜めていた朱乃は堪えきれないと言うように涙を落とす。
「朱乃、別にお前のせいって訳じゃないから気にするなよ」
「でも……本来は私がここに残る筈だったのを、私がレイナーレ姉さんに押し付けたようなもので……」
「結果論でしかねぇよ。じゃあ、お前はお前が救った奴等が助からなくて良かった、なんて言う訳じゃないだろ。これは俺が決めて、指示を出した。責任は大人が取るもんだ。お前は何も悪くねぇよ」
アザゼルの言葉に朱乃は唇を噛みながら、小さく頷いた。それを見てから朱乃の頭を撫でてからアザゼルは立ち上がり、改めて私へと視線を向ける。
「俺の部下が世話になった。今回の件の責任は全て俺にある。改めて感謝する。そしてすまなかった」
「形式上、その謝辞と謝罪は受け取るわ。こっちも何も出来なかったのは事実よ。手段はあったのに、ね」
「それこそお互い様だろう。……あぁ、これだから戦争とか勢力争いなんてごめんなんだよ、ったく……」
真剣な表情を崩してアザゼルが頭をぼりぼりと掻く。アザゼルの意見には私も同意するばかりだ。争いが無くなれば良いと言う程、理想論を夢見ている訳ではないけれど、争わずに済むならそれに越した事はないのだ。
アザゼルの言葉に一番、怒りを露わにしていた一誠ですらも沈黙してしまった。誰もが言葉を発しないまま、言葉を発したのは眠っていたレイナーレだった。目覚めの前兆のように呻き声を上げて、その瞳を薄らと開く。
「……起きたか、レイナーレ」
「……アザゼル様……?」
夢現という様子で自分に声をかけてくるアザゼルに反応するレイナーレ。次第に意識がはっきりしてきたのか、レイナーレの表情が苦々しいものへと変わっていく。そして力なく、それでいて皮肉めいた笑みを浮かべた。
「……まさか、総督自らいらっしゃるだなんて。暇なんですね」
「暇な訳あるかよ。仕事だよ、仕事」
「そうですか。後処理はリアスがやってくれるのでしょう? じゃあ、私みたいな下っ端なんて放っておいてください。それともクビでも言いつけに来ましたか?」
「あぁ。お前が辞めたいって言うならな。いいぜ、除籍させてやるよ」
アザゼルの言葉にレイナーレは少し意外そうに目を瞬かせて、自嘲するように笑みを浮かべた。そのまま手を動かそうとして、自分の手を握っている朱乃の存在に気付いて口元を引きつらせる。
それから暫し視線を彷徨わせた後、諦めたように溜息を吐いて目を閉じる。疲れ果てて、燃え尽きた。そう感じさせるレイナーレの仕草は痛々しく見える。
「……今回の件を含めて、もう、私には背負えません」
「知ってる。知っていてお前に押し付けたのさ。軽蔑するか?」
「とっくの昔にしてますよ。……それでも、なんででしょうかね。アザゼル様が自らいらっしゃってくださるなんて、それだけで少し報われて気になりますよ。私は使い捨ての部下じゃなかったって思えました」
「怨むなら怨め。お前にはその権利がある」
「嫌ですよ、面倒くさい」
「神話に名を残す俺を殴れる権利だぞ? 今後あるかもわからないぜ?」
「分不相応な報酬なんて、要らないんですよ」
心底嫌だ、と言わんばかりに口にするレイナーレにアザゼルは浮かべていた笑みを消す。レイナーレの言葉には力も、覇気も無い。どれだけ疲弊しきっているのかそれだけでわかってしまう程に。
暫し間を置いてから、アザゼルは咳払いをしてから、真面目な表情へと変えてレイナーレへと告げる。
「お前が望むなら
「……はぁ、それでも除籍させてくれるんですね。始末してくれるって事ですか?」
「皮肉がいてぇなぁ。まぁ、それもお前が望むなら俺は止めはしねぇよ。あと俺が用意する選択肢は……リアス」
「えぇ」
アザゼルから話を促されて、私はレイナーレへと視線を合わせるように歩み寄る。怪訝そうな表情を浮かべるレイナーレに、私は言い切る。
「貴方の持つ知識の多くは一誠……『
「……それは、まさか」
「悪魔になるつもりはある? レイナーレ」
私の提案があまりにも意外だったのか、レイナーレは目を見開く。暫しそのまま呆けていたけれども、視線を落として力なく笑ってから首を左右に振る。
「……それは、無理よ」
「……何故? 悪魔になりたくないから? 待遇に関して言うなら、確実に今の状態から改善だってしてあげられるわ。ある程度の自由だって保障するわよ?」
「でも、それはつまり一誠達と肩を並べろ、って事でしょう? ……私には、無理よ」
力なくそう言って、レイナーレは身を起こそうとして痛みに呻く。力が入りきらないのもあるのだろう。朱乃が慌ててレイナーレを支える。
朱乃の支えを受けながら体を起こしたレイナーレは、憑き物が落ちたように儚げに笑っていた。その目から涙が零れ落ちている。
それを隠す事もしない。視線を俯かせるように向けたまま、レイナーレは心情を吐露するように言葉を紡いでいく。
「私はアンタの眷属になったとして、そこで生きて行く自信がない。私にそこまでして貰える価値なんてない」
「……レイナーレ」
「アンタ、戦うつもりなんでしょ? オーフィスと。あの『
でも、と。言葉を一度切る。息を震わせて、涙を更に溢れさせながらレイナーレが言う。
「だから本気で夢を叶えようとしているアンタの道について行ける自信がない。何も誇れるようなものなんて、私にはないのよ。そんな半端な奴がさ、アンタに付いていくなんて無理なのよ」
「……それが貴方の本音なのね。レイナーレ」
「
「そんな……! まだ、これからがあるじゃないですか! まだ、まだ時間だってあります、出来る事だって探せる筈です!」
堪えきれなかったのか、朱乃がレイナーレの手を取って叫ぶ。その朱乃の叫びに顔を歪ませたのは一誠と白音だ。2人は何か言いたげにして、しかし唇を噛んで言葉を紡ぐ事はなかった。
それはきっと、2人も同じ事を思っているに違いない。けれど一誠と白音はずっと見てきたし、触れ合ってきたからこそわかるのだろう。レイナーレが心を折ったのは、間違いなく自分達が原因なのだと。
だからこそ同じ事を思っても口にする事は出来ない。そんな一誠と白音を、イリナと黒歌が寄りそうように支える。それに気付かず、朱乃は涙を零して左右に首を振りながらレイナーレの手に自分の額を押し付ける。
「朱乃。……そう言ってくれるのは、きっとありがたい事なんでしょうね。でもね、私はもう疲れたし、わかっちゃったのよ」
「……何を、ですか」
「私に才能なんてない事。努力しても、貴方達のようにはなれない。そもそもなろうとする事が出来ない。貴方達には叶えたい夢があるんでしょ? その為に力を磨いてきた。目標に向かって進んできた。私は……そんな夢や理想を持つ事が出来なかった。だから、私はここまでなのよ。もう、何かになりたいなんて思う事は出来ないの」
朱乃に言い聞かせるようにレイナーレは言う。それは悟りを開いたように優しく、けれど残酷な告白だった。朱乃も理解したのだろう。言葉を失って、顔を歪ませて嗚咽を零す。
アザゼルはそんな私達の様子を黙って見つめていた。アザゼルだってわかっている。根本の問題はレイナーレ自身の心にある事を。どんなに選択肢を与えられても、それを選ぶ事が出来なければ意味がないのだ。
レイナーレには特別がない。凡庸な堕天使だ。だからこそ、夢に向かって邁進し続けてきた一誠達と自分を比べて心が折れてしまっている。彼女は強くはない。弱いからこそ、何も選べないままここに来てしまった。その事実が一番の問題だ。
「……その限界を、取り払えるとしたらどうする?」
「……は?」
だから、私の発した言葉にレイナーレは目を瞬かせて私に視線を向ける。
「レイナーレ。捨てる命なら……私の実験台になるつもりはある?」
「どういう事よ……?」
「私は“ある方法”を使えば、貴方の足りないと思う才能を補う事が出来るかもしれない。貴方が感じる限界を壊す事が出来るかもしれない。でも、それは確実に貴方という存在を変質させるわ。それは今以上の希少性を貴方に与えるでしょうね。どうなるのかも正直未知数、だからモルモットと言い換えても良いわ。でも、貴方が生きたいって思わせる切っ掛けを与える事が出来るかもしれないわ」
「……モルモット」
「まぁ、ちょっと脅すような言い方をしたけど……その“ある方法”を試したのが一誠とイリナって言えば、少しは察して貰えるかしら?」
レイナーレは恐る恐ると言った様子で一誠とイリナを見つめる。一誠とイリナ、白音と朱乃は私に驚いたような顔を浮かべて視線を向けてくる。黒歌だけは事前に話しているから平然としているけれども。
興味深げに顎を撫でたのはアザゼルだ。興味津々といった声色で私に声をかけてくる。
「それは俺にも教えられねぇってアレか? 一誠の成長速度や、イリナの“創造”に関係してるんだろ?」
「一応、“
「お前さん、“超越者”の候補だもんな。成る程な、つまり何かしらの方法はあるって事か。……ま、なんとなくアタリはつけてるんだがな、聞かないでおいてやるよ」
「ありがとう、アザゼル。一誠達が世話になってるけど、こればかりはね」
「本来は得られる筈もねぇデータをこっちも受け取れてんだ。お相子って事で良いさ。で、どうするんだ? レイナーレ」
「……え?」
「というか、アレだ。俺が言う資格がねぇのは承知で言うけどよ!」
アザゼルはレイナーレの頭を撫でる。それは力強く、髪を掻き乱すような撫で方だ。アザゼルに頭を揺らされるように撫でられたレイナーレは目を白黒とさせて、きょとんとした表情を浮かべる。
「捨てる命なら賭けてみても良いんじゃねぇか? レイナーレ。お前はよ、幸せになろうとする事を諦めなくて良い。悪名を残すのは俺のような悪党だけで良い。お前は俺に利用された憐れな被害者ってだけだ。お前自身が諦める必要はねぇだろ」
「……アザゼル様」
「必要だったら命令してやるよ。だからよ、足りないとか、怖いとか、失望したくないとか全部吐き出して、リアスに預けてみろよ。夢を見せてくれるかもしれねぇぞ? 俺だってこいつに夢を見せて貰ったんだからよ。他人任せな身勝手だけどよ、背中を押すなら奈落の底より、希望のある方を俺は選ぶぜ?」
アザゼルがレイナーレと視線を合わせながら言う。レイナーレは目を丸くして、唖然としたままだった。その言葉に、私は苦笑を浮かべてしまう。
これだからアザゼルの事は嫌いになれない。なんだかんだでアザゼルは身内に甘いのだ。それが元来の性質なのか、もしくは先の大戦が切っ掛けなのかはわからないけれども。
「それにお前がそんなんだと朱乃が泣いたままだろ? 朱乃を泣かした原因を作ってるのが俺だって知られたらバラキエルにヤキを入れられちまう」
「……本当に、アザゼル様はアザゼル様ですね。この顎髭」
「おっ、憎まれ口を叩けるぐらいには持ち直したか?」
肩を竦めて笑うアザゼルにレイナーレは軽く頭を振ってアザゼルの手を振り払う。それからゆっくりと深呼吸をして、アザゼルへと視線を向け直した。
「今まで、お世話になりました」
「レイナーレ。今までの働きに感謝する。それに報いる事が出来ない情けない長だが、お前の事は嫌いじゃなかったぜ。捨てた命だからって、簡単に死ぬなよ。もっと良い女になれたら、その時は口説いてやるよ」
「ぞっとする話ですね。丁重にお断りしますよ。あと5年早かったら考えましたけど」
アザゼルの軽口に、レイナーレが儚さが抜けた笑みを浮かべる。穏やかな微笑を見たアザゼルは一歩、身を退くようにして離れる。
レイナーレの視線が私へと向けられる。その瞳には怯えや、恐怖、不安、そんな色が隠せないままでいる。それでも真っ直ぐに向けられる視線を私は受け止める。ここで怯むなら彼女の気持ちを踏みにじる事になると思うからこそ。
「……生きたいって思える程、私は強くないし、望みもない。けど、もしも可能性があって。それを望んで貰えるなら。まだそんな価値があるんだって皆が言うなら」
そこでレイナーレは一度、言葉を切る。次の言葉が発せられるまでの間が果てしなく長い時間のように思える程だった。そうして、ようやく吐き出されたのは待ち望んでいた言葉だった。
「……縋っても良いの?」
震えるように吐き出された言葉を確かに受け取る。そのまま、朱乃が握っていた手とは逆の手を握りしめて、レイナーレと視線を合わせながら頷く。
不安がないとは言わない。確約した事なんて言えない。それが叶わなかった時の事を脳裏に過らせて私が震えそうになる。けれど、そんな自分を噛み砕くイメージを押し広げて、私は強く言い切る。それが出来なくて何が『
「貴方の幸せへの道を拓いて見せる。だから、私に付いて来て」
それにレイナーレは私を暫し見つめてから、俯くようにして静かに頷いた。
その頷きを見た朱乃が、声を上げて泣きながらレイナーレに抱きついた。レイナーレが困惑したように朱乃を受け止めているのを見て、そっとレイナーレの手を離した。
一歩身を退いて周りを見れば、一誠が手の底で押し上げるように涙を拭い、白音が黒歌に身を預けるようにして泣いているのが見えた。
救われたいって。その一言を私達は待っていたんだ。今、それを強く実感した。いつの間にか握っていた拳にイリナが手を添えてくれた。イリナへと視線を向けると、イリナからも視線を合わせて強く頷かれた。
「よく出来ました」
「……いい加減、私もしっかりしないとだね」
「うん。そうだよ、リーアは私達の『
軽く背中を叩かれる。自然と伸びた背筋に力が入る。そうだ、救いに行くんだ。私の手は万物に届く訳じゃないけれど、それでも守りたいものと思ったものだけは絶対に手放さないようにしないといけない。
「リアス」
「アザゼル」
「……頼んだぜ」
名前を呼ばれて振り返る。真剣な表情のまま、アザゼルに肩を叩かれる。応じるように私も強く頷く。
この日を以て、レイナーレは表向き、
* * *
「……まったく、あれだけダメだと言った筈なんだがな」
「ダメだって言っても聞きませんからね。だったら最初から巻き込んでデータ取りをして貰った方が良いでしょう」
後日、私はある場所を訪ねていた。それは幼少期に私が過ごした事があるアジュカ様の日本での拠点だ。
予めアポを取っておき、そこでアジュカ様とお茶をしながら本題を切り出していた。レイナーレに施すのは私の血を使って変異させた『
これはアジュカ様から固く禁じられている。あれは『
それ故に何が起きるのかわからない。その最もがイリナの異能だ。一誠も成長速度を考えれば影響を受けているけれども、イリナほどに目立った変化はない。それ故に何が起きるのかは未知数で。
それでも、私はそうすると決めた。そしてやると決めたのなら最初からアジュカ様を抱き込んでしまえば良い。何かあった時に解析役としてアジュカ様がいればとても心強いのだから。
「まぁ、言い出したら聞かんのは承知してる。日取りを決めよう、俺がオフの日でこっちに来れる日でな」
「ご迷惑をおかけします」
「良いさ。まぁ、今度は最初からデータが取れるのは俺としても興味深い。それにお前の頼みだからな。たまの我が儘ぐらい叶えてやるさ」
不敵に笑いながらアジュカ様が言う。それに深く頭を下げながら、私はレイナーレを悪魔へと転生させる準備を整えるのだった。