「やぁ、初めまして。キミがレイナーレだね? 俺の名前はアジュカ・ベルゼブブ。知ってはいるとは思うが魔王をやっている。よろしく」
「…………………まさか、魔王に握手を求められる日が来るとは思いませんでした」
たっぷり間を置いてから、レイナーレはぎこちなく笑みを浮かべた。そんなレイナーレの手を握るアジュカ様は悪い意味でのいい笑顔を浮かべている。本当にウチの魔王達と来たら誰かをからかったりするのが好きなんだから。
ロボットのような挙動をしているレイナーレに苦笑を浮かべつつ、手をぱんぱんと鳴らす。
「アジュカ様、あまりからかわないでやってください」
「これは失敬。リアスの眷属となる子がどんな子なのか気になるのは仕方が無い事だろう?」
「お兄様みたいな事を言わないでください」
「俺もお前の兄貴分だと思ってはいるのだがね? 頼りにはしてくれているんだろう?」
「…………はいはい、そーですねー」
「ははは、このやりとりも懐かしいな」
本当にむかつく。楽しそうに笑っているアジュカ様の顔を思いっきり殴ってやりたい。今の私なら一発ぐらい殴れるんじゃないだろうか? よし、今度別の機会があったら今までの恨みも込めて一発殴っておこう、そうしよう。
そんな事を思いつつ、気を取り直すように深く溜息を吐く。後ろでは一誠とイリナが同じように溜息を吐いている。そんな二人をそれぞれ黒歌と白音が頭を撫でていた。
私達とアジュカ様の繋がりはかなり深い。そもそもバグを起こした一誠とイリナの『
とは言っても既にアジュカ様の手を離れてしまっている為に微調整は出来ても、深奥のブラックボックスなどには手を出せない、というのが現状なのだけれども。それは別の話でさておき。
「では、本題に入っても良いですか?」
「あぁ、技術者として、研究者として事前説明をしておかなければならないからね。レイナーレ、ここが本当の引き際だ。聞く覚悟は大丈夫かな?」
「そんなものはないですけど、他に行く当てももう無いので好きにしてください」
私が会話を切り出し、アジュカ様が確認を取るようにレイナーレに訪ねる。それにレイナーレは皮肉めいた笑みを浮かべるだけ。
そんなレイナーレの反応を顎をさするように観察していたアジュカ様。少しの間を開けて、アジュカ様の視線が私に移る。
「リアス、使う駒は?」
「『
「残りの駒と、彼女の資質を思えば妥当ではあるが……よりにもよって『
「……何か、問題があるんですか?」
私の返答にアジュカ様が額に手を当てる。浮かぶのは笑みだけれども、吐き出す息は憂鬱そうなものだった。そんな複雑な感情の色を見せたアジュカ様に対して、レイナーレが不安を覚えたように問いを投げかける。
好きにしろ、と言う割には何が起きるかわからない、という会話をすれば怖じ気づくのも仕方ないと思う。
「その説明をしよう。レイナーレ、キミは悪魔の『
「他種族すらも悪魔に転生させる事が可能な、チェスの駒を見立てたものと認識していますが。そして駒によって転生した悪魔は、その駒に応じた能力を得る、で合っていますか?」
「そうだ。そして『
「厄介……ですか?」
どういう事だ、とレイナーレは私に視線を向けてくる。私は肩を竦めて見せる。
「これから私が貴方に施す転生は、ちょっと訳が違うのよ」
「そうだ。リアスが行う転生は、言うなればバグ技でね」
「……バグ技?」
「リアスはとある事情から、自らの血肉を与えた力あるアイテムの効果を増幅させる特異性を持っている。それがバグ技という由縁なのだが、この特異性が『
「……『
少し考えるようにしてから答えるレイナーレ。アジュカ様は満点だ、と言わんばかりに笑みを浮かべ、宙に円を描くように指を動かす。
「正解だ。『
「……私が、リアスの特異性の影響をダイレクトに受けるという事ですか?」
「似たような事例で言えば『
「……だから
私が事前に伝えていた言葉の意味を理解した、と言うようにレイナーレが溜息を吐く。
そう、アジュカ様の懸念は私も考えていた事だった。だから『
そう言った打算があったのは否定しない。でも、まだ何者にもなれない彼女に可能性を拓いてあげたかった。それを象徴するのが『
私でさえも何が起きるかわからないけれど、だからこそ未知に賭けようと思ったのだ。例え、それで『兵士』の駒を一つ失う事になろうとも、レイナーレに何が起きようとも、その責任を全て背負うと決めて。
「技術者としては正直反対ではある。だが研究者としては興味深いとさえ思ってしまう。最早、業のようなものだな。だからあとはキミの意志一つだ、レイナーレ」
「……確認を取ってくれるのですね」
「昨今、
アジュカ様の確認にレイナーレは瞳を閉じる。誰もが息を呑んでレイナーレの返答を待っていた。
けれど、沈黙の間は長くは保たなかった。レイナーレが笑い声を零したからだ。どうしようもなくおかしい、と言うように。小さなものだったけれど、それは程よく体の力を抜いたようで、レイナーレは笑みを浮かべたまま目を開く。
「構いません。……ここで後戻りすれば、それまでの私に逆戻りです。生きるも死ぬもない。そこで終わっている自分です。だから、これが最後のチャンスのつもりでいます。私はその転生に同意します」
「わかった。開発者として全面的なサポートを約束しよう。新たな同胞として、妹分の眷属になるキミを歓迎しよう」
改めてアジュカ様がレイナーレへと握手を求めるように手を差し出す。それにレイナーレが戸惑いながらも握手をする。
こうしてレイナーレの同意を取れた転生の儀式は、アジュカ様がデータ取りの環境を整える事から始まった。私の特性はトップシークレット、足りない人員は事情を把握している私の眷属を回してレイナーレの転生の準備を整えていく。
それまで私とレイナーレは手持ち沙汰になってしまい、二人置いていかれてしまった。何も話す事もないまま、何気なしに準備の風景を眺めてしまう。
「……本当、アンタ変な悪魔だったのね」
ぽつりと、呟くようにレイナーレが声をかけてきた。視線を向けずに作業風景を眺めたまま私も答える。
「変わり者の自覚はあるけれどね」
「そういう意味じゃないわよ。元から変だから変なのねって納得しただけよ」
「失礼な。これでも貴方の主になる予定なのよ?」
「……それも、そうね。そうなった時の実感がまだ沸かないんだけど」
「いいのよ。成功するって、まだ決まった訳じゃないし」
「失敗する事も考えてるの?」
「考えておかないと、そうなった時に動けないでしょ」
「……生真面目ねぇ」
「貴方に言われたくないわよ」
何でも無い会話を交わす。取り留めない内容ばかりのもので、互いに深入りをしないような話題ばかりを選び、すぐに会話が途切れてしまう。
やがてその内、会話でのやりとりすらしなくなった。何も言わないまま、作業の終わりまで待っていると、準備が整ったようでアジュカ様に声をかけられる。
「行きましょうか、レイナーレ」
「……えぇ」
応じるレイナーレの声が少しだけ固いように感じたのは私の錯覚なのか。そんな事を思いながら整えられた場の中央へと向かって私達は歩き出した。
場の領域を整えたのは黒歌と白音による結界だ。余分だと判断したものを排除し、謂わば無菌室のような状態を保っている。それを補助しているのがイリナと一誠。一誠は『譲渡』の力で二人の力を増幅させ、イリナが必要な要素を『錬成』していく。
そうして生み出された空間にアジュカ様が感心したように頷く。
「いやはや、改めて見るとお前の眷属は面白いのが揃ったもんだな」
「お褒めに預かり光栄です」
「では、データの観測は俺がやるからいつでも始めてくれ。レイナーレはこれを腕に嵌めてくれ、キミのバイタルチェックを同時に行ってくれる。転生前から転生後の比較のデータも取れるしな」
「わかりました」
アジュカ様から腕輪を受け取ってレイナーレが身につける。そうしてレイナーレと結界の中央で向き合う。淡く光りを放つ膜のような結界は演出としては劇的なんだろうな、と思考が横道に逸れる。
どこか緊張した様子のままのレイナーレに視線を戻して、思わず苦笑する。意識を切り替えるように『兵士の駒』を取り出し、親指を噛み切るようにして血を流す。それを駒へと塗りたくるように触れる。
駒に血が溶けていくように消えていく。血が溶けきった後に魔方陣が浮かび上がり、駒が変質したのを確認する。それはレイナーレも感じたのか、唾を飲み込む音が聞こえる。表情を引き締めてレイナーレへと声をかける。
「こっちの準備はいいわよ。いくわよ、レイナーレ」
応じる声はない。目をぎゅっと閉じて、僅かに身を竦ませながらレイナーレは頷く。
そのレイナーレの胸元に駒を掲げるように向ける。兵士の駒は私の手を離れ、そのままレイナーレの胸元へと浮遊していく。それを確認した後、私は思いを強く込めるように詠唱を紡ぐ。
「我、リアス・グレモリーの名において命ず。
――汝、レイナーレ。我が“
汝が身、悪魔となりて我が夢現の旅の輩とならん。是なる生を歓喜と祝福に満たす事を此の名に誓う。この縁を以てして、いざ新たな生を謳歌せよ」
私の詠唱に合わせて、『兵士の駒』がレイナーレの胸元へと吸い込まれていく。
溶け合うようにして消えていく駒を見届けて、悪魔への転生が終わったのを確認する。ふぅ、と緊張を解すように息を吐き出す。特に異常らしい異常は見受けられないけれど……?
「レイナーレ、もう目を開けていいわよ」
まだ目を閉じているレイナーレに声をかける。……だが、返事がない。
「……レイナーレ?」
もう一度声をかけた瞬間、目を閉じたままのレイナーレが私に向かって倒れ込んできた。咄嗟に支えるも、レイナーレの意識は完全に失われているようだった。
「レイナーレッ!?」
思わず声を荒らげる。そのまま抱きかかえて、横に寝かせるように地に下ろす。腕を取って脈拍を測り、呼吸を確認する。どちらも異常は見受けられない事をまず確認して、すぐさま結界の外でデータを取っているアジュカ様に向けて叫ぶ。
「アジュカ様!」
「今、解析してる。バイタルに異常はないんだが……おっと、一誠、結界内に入るなよ! 余計なデータが混じる!」
結界の中へと入り込もうとした一誠を制止しながらアジュカ様が空中に浮かんだモニターを確認している。いくつものモニターが浮かんでは消えてを繰り返す。
その間に私はレイナーレの手を握り、その様子を観察していた。やはり脈が乱れた様子などはない。どちらかと言えば、まるでこれは……。
「……気を失ってる?」
「そのようだな。悪魔への転生事態は上手く行っているようだが、意識が落ちているな」
外で解析していたアジュカ様も同じ結論に至ったのか、私の呟きに同意を示してくれる。
けれど、転生が終わった直後に意識を失うというケースがあっただろうか? 少なくとも私は知らない。アジュカ様へと視線を向けると、アジュカ様も首を左右に振った。つまりこれが初の事例、前例がない事だと。
「データは取れるだけ取った。一度、様子見をする。黒歌、白音、結界を解いていいぞ」
アジュカ様の指示を受けて、結界を展開していた黒歌と白音が解除していく。すぐさま駆け寄ってくる一誠の足音を聞きつつ、私はレイナーレを見つめる事しかできなかった。
* * *
レイナーレへの転生を施して、数時間後。あれからレイナーレは目を覚ます気配はない。
アジュカ様が手配した機器を取り付けられたレイナーレは、まるで病院の患者のようだ。ただ彼女は昏々と眠り続けている。脈拍は正常、転生事態もデータ上は問題はない。ただ、異常があるとすればただ1点。
「……寝てる?」
「そう言えば平和だが、つまりは意識が夢を見ている状態から浮上して来ない、というべきか」
レイナーレのものと思わしきカルテを捲りながらアジュカ様が告げる。私は腕を組んで、アジュカ様からの報告を受けながら思考を巡らせる。
アジュカ様が言うには、レイナーレの状態は身体には問題はないけれども、その意識が深い眠りについている事が原因だと言う話で。
その症状には覚えがあった。だけど、まさか、と私の思考がそれを否定する。けれど、認めない訳にもいかない。
「……もしかして、“眠り病”?」
「その症状と極めて近い状態だ。同じと結論づけられないけどな」
「眠り病って……サイラオーグのお母さんがかかってたっていう、悪魔特有の病気だっけ?」
「よく覚えてたね、イッセー」
「そりゃ、まぁ……」
感心したように言うイリナに一誠が頭を掻く。ミスラ様の治療には私とイリナが行い、そのまま私がミスラ様から激怒されて説教をされるという事があった為、記憶に新しいんだろうと思う。
今でもたまに激怒したミスラ様に怒鳴られる夢を見る事がある。それだけに恐ろしかった。そんな事を思い出しつつ、思考を現状把握のものへと切り替える。
「悪魔に転生した途端に眠り病にかかったって事ですか?」
「どうだろうな。……どっちかというと、もう一つの症例に近いかもしれん」
「もう一つの症例? 似たような事例が他にもあったにゃ?」
白音の問いかけに、アジュカ様が思案の表情を浮かべて呟く。それに黒歌は首を傾げる。私も同じように首を傾げる。他に似たような事例なんてあったのかしら?
心当たりがないまま私が首を傾げていると、アジュカ様が溜息を吐いてチョップを入れられた。そんなに痛みはないけれど、ちょっと吃驚してしまった。
「お前がなんで首傾げてるんだよ、リアス」
「へ?」
「お前の事だよ、『眠り姫』」
「…………あぁーっ!?」
“眠り姫”と言われて、私は思わず叫んでしまった。私とアジュカ様以外の面々が何の事かと首を傾げている。
「眠り姫……ってなんですか?」
「『グレモリーの眠り姫』、俺を含めた魔王達の笑い話さ。当時、あのサーゼクスが再起不能寸前に追い込まれた事件でな」
「サーゼクス様が!?」
え、それは初耳なんですけど!? お兄様が再起不能になりかけてたの!?
「笑い話だから話すが、悪魔の出生率が低い事は既に知っているな? だからこそリアスが生まれた時は舞い上がって酷かったんだよ。当時のサーゼクスはな。同じ時期に妹を授かったセラフォルーとはしゃぎ回って、それぞれの親からしこたま怒られたりした事があってなぁ」
「シスコン魔王……」
ぽつり、と白音が零す。それにアジュカ様が噴き出すも、すぐに息を整えて笑いを堪えながら話を続ける。
「だが、ここのお嬢様はなんと生まれた時から『眠り病』にかかったように眠り続けてたんだよ」
「リーアが?」
「それは……再起不能になるのも納得ですね」
「あぁ、本気で当時は戦々恐々としてたんだぜ? 他の魔王3人でサーゼクスの仕事を肩代わりして、見舞いに行かせたりと気を遣ってな……」
「……リーア、あんた良く生きてたにゃん?」
「うるさいわね! 好きで寝てた訳じゃないわよ!!」
黒歌が奇妙な
「ちなみに、リーアの時はどれぐらい眠ってたんですか?」
「確か……3年だったか?」
「「「「3年!?」」」」
眷属全員からツッコミの声が挙がった。あれ、そういえば話した事なかったっけ……? いや、ないわね。だって私も言われるまで『眠り姫』って呼ばれてたのをすっかり忘れてた訳だし。というか私の意識が始まったのが3歳ぐらいの頃だから仕方なくない……?
「あの頃、仕事の合間に虚空に向かって妹の名を呼び続けるサーゼクスは……傍目から見ててキツかったな……」
「うわ……」
「きつ……」
「お労しや……」
「リーア……」
「な、なんで私が悪いみたいな流れになってるの!? 不可抗力じゃない! それよりも! レイナーレの事についての方が重要でしょうが!!」
話の流れを断ち切る為に私は声を大きくしながらレイナーレを指さす。こんなに大きな声を上げているのにレイナーレはすやすやと眠るだけだ。だんだん腹が立ってきた。
そもそもあれは私が悪い訳じゃないし! 悪いとするならグレートレッドだし! ……グレートレッドが原因? あれ、確か私の時のケースって言えば……。
「話が脱線したな。で、今回のレイナーレは『眠り病』というよりは、リアスの時のケースに近いだろうと俺は推測している」
「リーアは眠り病にかかってた訳じゃないと?」
「もうお前達は承知の事だが、リアスはグレートレッドと魂が繋がっている異例の存在だ。それ故、悪魔としての生を受けながらもグレートレッドの『夢幻』の力、俺達が『無色の力』と呼称する力の受け皿になる為の、その変質に必要な最低限の期間。それ故の3年という昏睡だった訳さ」
「じゃあ、そのケースから考えるなら……レイナーレさんも?」
「あぁ、リアスが変質させた駒の影響で悪魔にはなったが、更なる変質の為の準備期間なのやもしれん。推測の段階だがな。それなら一誠とイリナもまた昏睡してないと辻褄が合わない」
「でも、俺達はあの時、死んでましたし……」
「だから推測でしかないんだよ。俺の『眼』でも相変わらずさっぱりだ」
お手上げだ、と言わんばかりにアジュカ様が手を上げる。やっぱり駒はバグったようでそっちの解析も困難らしい。それにレイナーレの意識が覚醒していない為、データの取りようもないというのが現状らしい。
つまりアジュカ様では手詰まり。原因は私と似た事例の可能性がある。一誠達は当時死亡していた為、類似ケースだけれども比較対象には出来ない。もしかしたらすぐに目覚めるかもしれないし、私のように時間がかかるかもしれない。……或いは、と脳裏に浮かんだ可能性に唇を噛む。
私が思い浮かべた事はアジュカ様も推測していたのだろう、私に代わるようにして告げる。
「もしくは、このまま眠り続けるか、だな」
「え……?」
「レイナーレは一誠やイリナとは少し違う。彼女には拠がなかった。自分自身への自信というもの、確かな個性、船で言う所の錨が非常に脆く感じた。それ故、注ぎ込まれた力に精神が耐えきれずに塗り潰された可能性すらある。……わかってたんだろ、リアス」
「…………可能性は、あるとは思ってたわ」
それを考えなかった訳じゃない。私の力は『想い』に反応するものだ。ただ、それ事態には力は無い。けれども、もしもレイナーレの『想い』に反応したのが悪い方向であれば。
最悪、眠り続けたまま。その可能性を考えなかったとは言わない。眼を逸らしたのは事実だけど。そうならないで欲しいと願ってはいた。だから衝撃は少なくとも私の中では少ない。まだ最悪のパターンの一つに入っただけだ。
「それならやる事は一つよ。その為には皆の力を借りる事になるけど」
「……リーア、対策は考えてたのか?」
「誰よりも私の力に触れてきたのは私自身よ。その可能性は十分あると考えてた。その時に自分が何が出来るかもね。確かに蓋を開けてみれば別物だけど、表に出ている症状は『眠り病』と同じものよ。なら、私の治療法がそのまま使えるわ」
「夢に入り込むつもりか?」
アジュカ様の問いかけに私は頷く。もしもレイナーレの精神に悪影響があった場合、その夢に入り込んで私がなんとかするつもりだった。
「それで確実にどうにか出来る保証はないけど、やると決めた事は最後までやり通すわ」
「俺達は何をすれば良いんだ?」
「黒歌と白音はレイナーレの気を整えてあげて、異常があればアジュカ様にすぐ報告するように。一誠は二人を『譲渡』で補佐してあげて。イリナは私の補佐を頼むわ。もし私に異常があった場合、私を無理矢理引っ張り上げられるのはこの中だとイリナだけだからね」
「了解!」
「わかりました」
「はいはい、了解にゃん」
「わかったよ」
私の指示にすぐに気を切り替えて一誠達が動き出す。その様を見て、私は深呼吸をする。緊張してない、と言えば嘘になる。
そんな私の頭をアジュカ様が撫でてくれた。むぅ、また頭を撫でられた。
「良い眷属を持ったな。それに、お前も良い顔をするようになった」
「……なんで皆、すぐ私の頭を撫でるんですかね。特にお兄様や、兄貴分の人達は」
「嫌か?」
「嫌じゃないですけど、なんか不服です」
そうか、とアジュカ様はすぐに頭を撫でていた手を離してくれた。
……少しだけ、肩の力が抜けた。夢の中に潜り込むのはこれで何度目だろうか。慣れたものではある。だけど今回のようなケースは初めてで、何が起きるかは未知数だ。
「……それでも、まだ私に出来る事があるなら。それをしないと嘘だよね」
返事を返さないとわかってても、レイナーレの頬を撫でるように触れてみた。案の定、返事はなく、静かな寝息だけが聞こえてくるだけだった。