深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.02

「マグレガー、私達に内密の話とは?」

 

 グレモリー邸の一室、そこはサーゼクスの私室だ。そこには部屋の主であるサーゼクスとグレイフィア、そして対面に座るようにマグレガーが座っている。

 この3人が集ったのはマグレガーが内密の話があると2人を呼んだからである。その時のマグレガーの表情は敢えて感情を押し殺したような様子で、2人は何かが起きたのだとすぐに察した。

 そしてマグレガーが今、携わっていたのはリアスの教育だ。つまり、それはリアスに何か起きた、或いは発覚した為の内密の話という事だろう。姿勢を正すようにサーゼクスは体に力を入れる。リアスに関しての報告で、こうして居住まいを正すのは何度目だろうか、と。

 

「……我が王よ。ここは敢えて言葉を選ばないでご報告する事をお許しください」

「君が敢えて、と言う程だ。事はそれほどに重大だと言う事だね?」

「リーアに何かあったのですか?」

 

 不安の色を宿したグレイフィアが問いを投げかける。それにマグレガーは重々しく溜息を吐いた。彼は言葉を発する前に机の上に懐から取り出した物を置いた。それは封を施した薬品と思わしき液体を入れた瓶だ。

 

「こちらは私が調合したポーションです」

「マグレガー?」

「実演した方が良いでしょう。2つございますが、これはまったく同じ工程で製作されたポーションです」

 

 そしてマグレガーは懐に手を入れ、更に何かを取り出した。それは厳重に封を施された紅い血液の入った小瓶だった。

 

「こちらは、リアス姫様から採血させて頂いた血液です」

「リーアの?」

「ご覧ください」

 

 訝しげな顔をする2人を前にして、マグレガーはポーションの片方の封を解き、リアスの血液を垂らすように流し込む。

 するとどうか。リアスの血を混ぜ込んだポーションは一瞬、血の色で濁り、しかし瞬く間に血の色が消え失せてしまった。そしてサーゼクスとグレイフィアにもすぐ感じ取る事が出来た。そのポーションから感じられる存在感が、力が一瞬にして増した事が。

 

「……マグレガー、これはどういう事だ?」

「これは今まで私が作成した既存のポーションです。いえ、私でなくても錬金術を多少なりとも嗜んだものであれば製作は困難ではないでしょう。それほどに簡易なポーションです。ですが……」

 

 2つのポーションを指さして。

 

「リアス様の血を混ぜ込んだポーションは効能が増強されます。端的に言えば、リアス様の血肉は無色の力の塊。ただそのままであれば何の変哲もない血肉ではありますが、力を持つ媒体……つまり魔法薬やマジックアイテムに混ぜ合わせる事で、その効能を格段に強化させる事が出来ます。そして効果が適用される幅は私の調べた限りでは留まる所を知りません」

「ただ、血を混ぜ込んだだけでか?」

「血の一滴だけでもです。勿論、その量に応じて効果は変動します。最低、血の一滴であろうともその効能は1段階上の素材で作成したものと遜色のない効果を発揮しています。姫の血肉は力を蓄えた媒体に与えれば、その状態を最高峰の状態へと変化させる―――結論として、彼女の血肉は力ある物に対して最高の触媒と為り得ます。力を秘めたものであれば何であれ、溶け合う事によってその効能を最大限にまで引き出す事が出来ます」

 

 沈黙が部屋を包み込む。グレイフィアは信じられない、というような眼差しで口元を抑え、マグレガーは静止したまま。サーゼクスは机に両肘をつけ、顔の前で手を組む姿勢を取る。その瞳はマグレガーの出したポーションを睨み付けるように見ている。

 

「……何でも、と言ったな。マグレガー。本当に何でもなのか?」

「単純な触媒、調合品、魔力を秘めた器物、私が所持するアイテムに一通り試してみましたが、そのほぼ全てに効果を発揮した事を確認しております」

「血の量に応じて、と言ったな。なら、リーアの血肉を最大限まで活かせば君だったらどんな事が出来る」

「方法にもよりますが、王にすら比肩しうるでしょう」

「魔王と称された私と比肩するか。成る程……成る程」

 

 マグレガーの返答に頷き、何度も頷いて。そして項垂れるようにサーゼクスは視線を落とした。

 

「……君が内密に、と言うわけだ。この事が知られれば」

「姫の争奪戦が起きても不思議ではありません。彼女はあればあるだけ、力あるものを増幅する事が出来る。そしてその効果を及ぼせる範囲は多岐に及びます。もしも悪意あるものに姫の身柄を抑えられれば……」

「想像もしたくない事だな。魔王にも匹敵する可能性を持つ力が野放しにされる訳だからな」

 

 サーゼクスの声には自然と重みが加わっていた。つまりリアスは新たな火種になりかねないという事だ。それも自分に匹敵するだけの力を発揮する事が出来る可能性を秘めているのだから。

 こうなるとリアスが自身の残り滓などと侮蔑されている状況は良くもないが悪くもない。誰もリアスの本質に迫ろう、という者はいないであろう。表向き才能のない無能者と認識されているのだから。

 

「……リーアがそのような力を秘めているのは、やはり前世の影響か?」

「恐らくは。私見ではありますが、姫が生まれてから目覚めるまでに要した3年は、前世が姫の体を適応するように変質させるのに要した時間と見ています」

「元々のリアスの血肉は私と同じ、つまり魔王にして超越者たる私を生み出した条件と同じだ。可能性を秘めていてもおかしくはない。それが変質した結果、このような特性を得たのだとすれば……」

「場合によっては姫は主と同じく“超越者”に認定されても不思議ではありません」

 

 超越者。それは悪魔に生まれながらも桁違いの能力を有し、悪魔であるか疑わしいとされる存在に与えられた称号だ。サーゼクスもまた消滅の魔力が人型になって生まれて来た、などと称される事もある。

 その妹もまた数奇な運命を帯びて生まれてきたのは、どのような因果なのか。思わずサーゼクスの口から溜息が零れてしまった。

 

「つまり、リーアは自らの血肉を扱いこなせるようになれば私に比肩しうる、という事で良いのか?」

「現時点での姫は全てにおいて並か、並以下です。好奇心や根性、諦めの悪さなどは美点ではあるんですが……」

「手を施さないと無駄が多いのよ、あの子。矯正するのに時間がかかったわ」

 

 ちらり、とマグレガーがグレイフィアに視線を送ると、リアスの教育を担当したグレイフィアは溜息を吐いた。はっきり言ってリアスに才能と呼べるものは無い。確かに心は強いが、それもどこか自身を換算していない無茶で無謀、下手すれば自己犠牲を躊躇わない歪なものだ、とグレイフィアは語る。

 良くも悪くも平凡。そして所々で並以下。努力をしている事は認めるのだが、その努力の方法を適度修正や指導をしなければあらぬ方向へ進んでしまう。リアスは非常に手間のかかる子だった。

 

「今の状態でリーアに彼女の特性を教えるのは非常によろしくありません。平気で己の身を削り、その特異性を晒してしまう可能性があります」

「しかし、この特性を理解させなければ姫が自衛する力を持つ事も難しいのも事実です。魔法を教える、というのは手ではありますが魔法を身につけさせるのもセンスが必要です」

「リーアに魔法のセンスは?」

「はっきり言ってありませぬ。既存の魔法式であるならば努力次第で身につけられるでしょうが……。姫は己の非才を別の形で埋めるタイプです。時間があれば、どの分野でもいずれは至るでしょうが、彼女の身の特性を考えれば時間をかける前に様々な思惑に翻弄される可能性があるでしょう。となれば、彼女が安易に力を求めて起きる結果といえば1つです」

「自身を可能な限りまで削り落とす、か」

 

 リーアならやりかねないな、とサーゼクスは眉を寄せる。自分が生まれてくるべきじゃなかった、と涙を流して叫んだあの時からだ。リアスの自身を軽んじる悪癖にはグレモリー家の皆が頭を抱えている。

 そんなリーアだからこそ、自らを削り落とす事で力を得るなどという性質を得てしまったのかと思うと嘆きたい程だった。まったくもってリアスに取り憑いた前世というのは忌々しい限りだと。

 

「……どうしたものか」

 

 父上達にも話さなければならないだろう、と思うと気が重い。だが、避けては通れぬ道だと、サーゼクスの吐き出した息は宙に解けて消えた。

 

 

 * * *

 

 

 あれから数日経ったけど、マグレガーはまだ研究があるからと顔を見せていない。お義姉様も忙しくなった、という事で最近は本邸の方でも見かけないし、お兄様に至ってはお義姉様以上に顔合わせする事もない。

 やる事もないので復習はしているものの、そろそろ復習する内容も飽きてきた。変化のない日々はどんなに奮い立たせても気が滅入るばかりだ。こうなると忘れられていた焦りがじわり、と胸の奥から沸き上がってくるようだった。

 

「んー……そういえば」

 

 最近、心臓に妙な違和感を感じる。胸を触っても特に違和感がある訳じゃない。だけど、何というか漠然とした感覚の違いを感じる。本当にとても些細だけど。

 調子が悪くなるようなものじゃないけど、じわり、じわりと違和感を感じるようになっている。意識すればする程、何かが込み上げてくるような感覚に陥る。

 

「最近、夢見も悪いみたいだし……体調が悪いだけかな」

 

 最近、夢見が良くないのか汗だくで目覚める事がある。体を掻きむしった時もあって、今はお母様に添い寝して貰う事が多い。お母様に添い寝して貰えると落ち着くのか、夢見が悪くなるような事はないみたいなんだけど。

 ストレスなのかな、と思う。よくわからない漠然とした不安に思わず腕を組んで悩み込んでしまう。変化がない毎日のせいか、ストレスが溜まっている可能性はある。こういう時は気晴らしにグレモリー邸を散策してみるのも良いかもしれない。

 まだ踏み入ってない所もあるし、と思う。いや、私が勉強とかで缶詰になったりしたからだけど。あと書斎に引き籠もる事が多いし。書斎の書物も粗方読み切ってしまったし、書斎に行くのは何となく気分じゃない。

 庭にでも行ってみようかな、と思い足を向ける。庭師が管理しているのだから庭園は本当に見ていて飽きないのだ。休憩するには丁度良い場所だろうし。

 庭園へ向かう途中にはグレモリー本邸の入り口がある。私が通りかかった時だ。その入り口の門がゆっくりと開かれるのを目にした。お客様かな? と私は目を向ける。

 メイドに案内されるままに中に入ってきたのは男の人だった。緑色の髪の、どこか妖しげな美貌を持つ青年。思わず目を奪われて凝視してしまう。

 すると彼の方も私に気付いたのか視線を向けてくる。視線が絡み合い、暫し見つめ合う。そこではっ、としてしまう。じっと凝視してるだなんて失礼だと。これではお義姉様に怒られてしまう、と慌てて一礼をする。

 

「……これはどうも。小さなお嬢さん、もしかして君がリアス・グレモリーかな?」

「は、はい。リアス・グレモリーでしゅ!」

 

 ……噛んだーっ! 何だろう、その、違うの。なんというか凄い妖しい雰囲気に当てられたというか、この人についつい目を奪われたというか、お兄様とは違う美貌を感じたというか、ともあれ緊張して上がってたんです!

 内心、あわあわしていると彼は歩み寄って私を覗き込むように屈んだ。距離が一気に近づいたので私は思わず息を呑んでしまう。

 

「……へぇ」

 

 興味深げな声だった。ぞく、と背筋に電流が走ったように跳ねる。思わず一歩、後ろに下がってしまった。その声に並ならぬものを感じたような、そんな気がする。

 だが不快なものじゃなかった。どちらかといえば興味を持たれているのだと思う。ゆっくりと息を落ち着かせるように呼吸を整える。

 

「ふふふ、驚かせてしまったようだね。これは失礼をした」

「い、いえ……」

「名乗りが遅れたな、俺はアジュカ・ベルゼブブ。よろしく、可愛らしいサーゼクスの妹君?」

 

 ……は?

 アジュカ・ベルゼブブ……って、お兄様と同じ四大魔王の一人! その名前を聞いた瞬間にぶわっ、と私の背筋に冷たい汗が広がっていく。お兄様の親友とも言われていて、お兄様と同じく“超越者”で、レーディングゲームの開発者!

 そんな方の顔を訝しげに凝視してしまっただなんて、子供とはいえ不敬だったんじゃないかな! 私はすぐさま頭を下げる。

 

「こ、これは大変失礼を!」

「いやいや、何。君も好奇心が旺盛なようだしね。気にする事はない。立場の事を気にしているのかもしれないが、ここは公の場じゃない。親友の妹にそこまで目くじらを立てる事はしないさ」

 

 微笑を浮かべながら頭を撫でられた。家族以外に頭を撫でられたのはミスラ様ぐらいだから、思わず戸惑ってしまう。

 

「あ、あぅ、……そ、それでアジュカ様は何故我が家に?」

「ん? サーゼクスに呼び出されてな。ただ、そうだな」

 

 微笑を浮かべたまま、私の顔を見つめる。その瞳には好奇心の他に、何か別の色が見えるような。やっぱり背筋の悪寒が止まらない。怖い? いや、怖い訳じゃない。どちらかと言えばどんな感情を向けられているのかよくわからない。この人は、一体何を考えているんだろう?

 

「―――君に興味があったから、かな」

 

 ……なんで、私?

 

 

 * * *

 

 

「アジュカ、君が時間前に来ているとは驚きだったよ」

「そう睨むな、サーゼクス。少しお前の妹と戯れていただけじゃないか」

「ほぅ? 私の可愛いリーアの表情が妙に引きつっていたのは気のせいか?」

「俺に粗相をしてしまった、と慌てていたみたいだからな。教育が行き届いているじゃないか、流石グレイフィアが教育しただけはあるよ」

 

 くつくつと喉を震わせるように笑うアジュカをジト目で見つめるサーゼクス。サーゼクスが帰宅した時、彼が目にしたのはアジュカを前にして辿々しく彼と言葉を交わす妹の姿だった。サーゼクスを見つけた瞬間、自分の後ろにリアスが隠れた時からサーゼクスのアジュカに向ける視線は険しい。

 それを楽しげに受け止めつつアジュカは笑う。そして、アジュカは部屋を見渡すように視線を向ける。そこにはジオティクス、ヴェネラナ、グレイフィアがいる。

 そして、更に2人。一人は気怠げな空気を纏っている男、もう一人は黒髪をツインテールに結んだ少女が1人。

 

「まったく……ただでさえ面倒くさいのに、面倒くさい事を起こすなよ、アジュカ」

「ははは、悪いね。ファルビウム。好奇心が抑えられなくてね」

「リーアちゃん、可愛かったねぇ。礼儀もしっかりしてたし! ウチのソーナちゃん程じゃないけど!」

「セラフォルー、後で私とじっくり妹について語り明かそうじゃないか。具体的には私のリーアがどれだけ可愛いかを君に理解して貰う必要がありそうだ」

「あれれ? サーゼクスちゃんどうしたの? そんなに私の可愛い可愛いソーナちゃんのお話が聞きたいの?」

 

 ファルビウム・アスモデウス、そしてセラフォルー・レヴィアタン。サーゼクス、アジュカと並ぶ四大魔王の2人がそこにいた。

 つまり、ここには四大魔王、冥界の現政権を担う最高権力者達が集っているという事になる。……その会話内容は実にアットホームなのが現状なのだが。

 

「……ごほんっ!!」

 

 そこにグレイフィアのわざとらしい咳払いが入る。ジオティクスは苦笑しているし、ヴェネラナに至ってはサーゼクスとセラフォルーへジト目を向けていた。ヴェネラナの視線に気付いたサーゼクスとセラフォルーは何事も無かったように姿勢を正す。

 そう、サーゼクスはグレモリー邸に最高権力者である彼等を招集したのだ。これは密会である。この会話を聞かれぬよう、細心の注意が払われている。それもこれも全てはこれから為される会議の為だ。

 

「まずは、我が眷属マグレガーが纏めたレポートを見て欲しい」

 

 グレイフィアが配った資料を各々、手にして読む。事前にジオティクスとヴェネラナには伝えていた事だったが、改めて資料に目を通した2人の顔色は良くない。

 セラフォルーはぺらぺらと、しかし先程までのおふざけはなかったかのように読み進めている。ファルビウムは淡々とページを捲り、アジュカも同様だった。

 

「……血肉そのものが無色の力の塊、ねぇ。グレモリー家の子はイレギュラーに産まれなければ気が済まない運命でも背負ったの?」

 

 ファルビウムが読み終わった資料を机の上に適当に置いて、溜息を吐く。

 

「マグレガーによれば、その力は我等四大魔王に匹敵する程の力を得る事も可能だそうだ」

「それは……一大事だね。でもリアスちゃん自身の才能は無いんだね」

「あぁ、それはグレイフィアのお墨付きだ」

「この、龍に関連する触媒の親和性は他のものと比べて高いというのは?」

「龍は力の象徴だ。それ故、力に反応するリーアの血肉は反応がしやすいという仮説が挙げられている。或いは、リーアの前世が“龍”に関与している可能性がある、ともな」

「詳細は不明、って訳かー、成る程ね」

 

 資料を目で追いながら頷いて、セラフォルーが一度資料を置く。

 

「だから私達が集められたんだね? 新たな“超越者候補”の出現、その扱いをどうするのかという密会かな?」

「あぁ、詳細を伏せての招集にはこのような事情があったのだ」

「慎重になりたくもなるよねぇ。下手したら冥界の戦争がまた起きちゃうよ、リーアちゃんの特性は」

 

 無色の力の塊。混ざり合う事で力を高める触媒。事の重大さを理解したセラフォルーは普段の陽気さを潜めてサーゼクスの様子を伺う。

 セラフォルーにはサーゼクスの妹、リアスと同じ年の妹がいる。だからこそサーゼクスの苦しみに共感してきた。沈み込む彼を励ます事も一度や二度じゃなかった。目が覚めてから一緒に喜びもした。いつか互いの妹を会わせてあげよう、と約束した。

 まさかこんな事になるだなんて。そんな思いが過ぎるが、起きてしまった以上は仕方ないと意識を切り替える。

 

「魔力がない、っていうことは、力そのものがある訳じゃないんだね」

「あぁ。あくまで血肉が触媒になるが、その血肉に魔力が宿っている、という訳ではない」

「……でも、一体どういう事なんだろうね? 特に何の変哲もない血肉なんでしょ? なんでマジックアイテムとかに混ぜ合わせるとそんな反応になるんだろ?」

「その為に君にリーアを見て貰いたい、とは思っていたんだ。アジュカ」

 

 サーゼクスの一声に視線が資料を眺めていたアジュカへと移る。

 アジュカはサーゼクスと同じ“超越者”である。その能力は全ての現象を方程式や数式で操る事が出来る絶技を持つ。それ故に、サーゼクスはアジュカから見て、リアスがどのように映るのか見て貰いたいという気があった。

 アジュカは資料を見ていた手を止め、机に置く。ふぅ、と吐息してから周囲を見渡すように一瞥。そしてサーゼクスへと視線を向け直して。

 

「俺の見解を告げる前に、良いだろうか? サーゼクス」

「何だい?」

 

 サーゼクスは姿勢を正して、アジュカと向かい合う。どのような事実が待っていようともリアスを護る為であれば手段は選ばない。そんな覚悟を胸に秘めて。

 

 

 

「―――あの子を俺にくれ」

 

 

 

 咄嗟に全力で消滅の魔力をアジュカに叩き込もうとしたサーゼクスはグレイフィアに顔面をハリセンで一閃される。サーゼクスの体が仰け反り、そのまま椅子が倒れてサーゼクスの体が投げ出される。

 一瞬の沈黙、その沈黙を破ったのは頬を引きつらせたジオティクスだった。

 

「……アジュカ殿、それはどういう意味かね?」

「あぁ、語弊がありましたか。そうですね……嫁でも良いですし、養子でも良いです。弟子でも構いません。あの子を俺の傍に置きたいんです」

「よ、嫁!? リーアがお嫁に行くだって!? 将来はお兄様と結婚するも言って貰ってないのにリーアが誰かの嫁に!? 私の、私の可愛いリーアがぁあああ!?」

「サーゼクス! 落ち着きなさい!!」

 

 すぱぁん、と再び気持ちよい音を立ててグレイフィアのハリセンが唸る。ヴェネラナはただ唖然としていて、ファルビウムは面倒くさそうに頬杖をついて、セラフォルーは恐ろしいものを見つめるようにアジュカを見ていた。

 

「そ、そんな! 四大魔王の一人で超越者のアジュカちゃんがロリコンだったなんて!! セラフォルー、ショック!!」

「ははは、スキャンダルにでもするのか? セラフォルー」

「サーゼクスちゃん! 協力しましょう! あのロリコンはここで滅殺しなきゃ私達の可愛い妹の貞操の危機! 兄として、姉として立ち上がる時よ!!」

「貴方まで混乱しないでください、セラフォルー!!」

 

 グレイフィアのハリセンがセラフォルーに叩き込まれ、セラフォルーもサーゼクスと同じように椅子から投げ出される。そんな様子を見て、アジュカは愉快そうに笑っている。そんなアジュカの様子に殺意すら篭もった視線をグレイフィアは向ける。

 

「アジュカ様。意図の説明を」

「怖い怖い。最強の『女王(クイーン)』に睨まれると生きた心地がしないな」

 

 グレイフィアの視線を受け止めながらアジュカは肩を竦める。そうだな、と前置きをして。

 

「見えなかったんだよ」

「……見えなかった?」

「俺はありとあらゆる事象を数式と方程式で掌握する事が出来る。この世の現象全てには法則性が決まっている。何でも、だ」

 

 だが、と言葉を漏らす。その声はどこか昂揚の熱を持って。

 

「リアス・グレモリーは『外側』は平凡なものだ。所々並以下だってある。だが、それは側の話だ。中身が違う。中身にこそリアス・グレモリーの本質は眠っている」

「中身……?」

「あれの中身はな、普段は隠れているが『別の数式』が息づいてる。普段は、……そうだな。言葉にするなら『リアス・グレモリーを象る数式にひたすら0を足している』と言うべきか」

「0を足す? それって、何もないって事なんじゃ……」

「あぁ、結果は変わらない。だがな、異質なんだよ。数式で見ても意味のない0を足すという形が。初めて見る形なんだよ、興味がそそられた。そしてその特性。彼女はその『0という数字』……いや、0とも確かには言えない。仮称として『α』とでもするか。リアス・グレモリーが内包する『α』に何かが秘められている。だからこそ、俺はリアス・グレモリーの内側を暴き尽くしたい」

 

 それは執着だった。恋と呼ぶなら恋かもしれなくて、しかし恋とするには偏執が過ぎる。そんな感情だった。そう、これは未知の解明への果てしない己の欲望だと。

 

 

 

「リアス・グレモリーが力ある物全てに恩恵を与えるというのならば、その意味を、その起源を、その性質を、見届け、解析し、見出し、解明したい。故に、俺は彼女を引き取りたいと思っている」

 

 

 

 

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