深紅のスイートピー   作:駄文書きの道化

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ACT.12

 黒歌からリアスの事を話された一誠は夜に外に出てぼんやりと空を眺めていた。今日の星空は雲がかかっていて、星は合間に見える程度だ。月は程よく雲化粧をしているので美しいのだが、一誠の心は空の雲のように靄がかかったままだ。

 目を閉じる。思い返すのは桜が咲き誇る季節で出会った紅の彼女の事。リアス・グレモリーは一誠にとって運命の分岐点と言うべき相手だった。感情を名付けるなら親愛や敬愛と言った感情。そして、多分初恋であった相手だ。

 今も恋をしているのかと問われれば、その恋は敬意へと変わっていた。人知れず存在していた人外、悪魔であった彼女は悪魔なのに優しくて、暖かくて、ずっと自分を守ろうとしてくれた。

 過酷な運命を背負っていた自分を庇護し、自分で道を選べるようにいつも手を差し伸べてくれていた。そして運命のあの日、オーフィスによって命を落としてしまった自分を蘇らせる為に貴重な『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使って悪魔に転生させてくれた。

 恩は尽くしきれない程に。敬愛は頭を垂れる程に。親愛は彼女の未来を憂う程に。彼女の歩む道が自分が共に進んでいく道だと信じて疑ってなかった。

 確かに思い返せば、背負い込みすぎて潰れてしまわないか不安な時もあった。それを少しずつ預けてくれているのだと思っていた。きっとそれは嘘ではない。けれど、真実を知ればその信頼すらもどこか遠いものだと感じてしまった。

 深い愛情の裏にある自己否定と変身願望。龍という力を欲した彼女、自分自身を失ってしまうかもしれない程に、何がリアスを追い詰めているのだろうか。一誠には理解出来ない。

 そうして答えが出ない問いを空に投げかけ続けてどれだけ時間が経ったのかもわからない。ただ、ぼんやりと夜風に当たったまま空を見上げ続ける事しか今の一誠には出来なかった。眠気だって遠いままで、今日は眠れそうにもない。

 

「何やってんのよ、アンタは」

「レイナーレさん?」

 

 そんな夜空を眺めていた一誠の停滞を打ち崩したのはレイナーレだった。体調はすっかり良くなったのか、しっかりとした足取りのまま一誠の隣に歩み寄ってくる。

 外に出て、そのまま座り込んでいた一誠を見下ろすように見るレイナーレの表情は呆れそのものだった。

 

「少し前からずっと座り込んでて、何してんのよ」

「気にしてくれたんですか?」

「さっき見かけて、動いた様子もなかったから声かけに来たのよ。ったく、なんだってのよ。アンタがそんなだと調子が狂うでしょ」

 

 隠しもせずに舌打ちをしながらレイナーレが告げる。悪態を吐いているのに心配されているという、相変わらず解りづらいレイナーレの気遣いが今の一誠には少しくすぐったかった。

 空を見上げたまま、ぽつりと一誠はレイナーレへと問いかけてしまう。今回の件の切っ掛けとなったのは間違いなく、レイナーレだからこそ聞いてみたくなったのだろう。

 

「レイナーレさんは、自分が嫌いですか?」

「は? 何よ、そんな事に興味あるの? お気遣いもそこまで来ると鬱陶しいわよ」

「心配になりますよ、自分を削ってまでって。どうしてそんなに苦しむんだろうって。俺、頼りないっすかね……」

 

 一誠の問いにレイナーレは何も返さない。2人の間を夜風が優しく撫でるように吹き抜けていく。暫く黙っていたレイナーレが、そのまま勢いよく座り込む。

 けれども一誠に視線を向ける事だけはしない。ただ不機嫌そうに鼻を鳴らして、空を睨むように見ながら答える。

 

「それ、私の事だけじゃないでしょ。大方、黒歌? リアスの事でも話した?」

「わかるんですか?」

「まぁね。この修行の間でアイツの危うさを嫌という程、思い知ったし」

「レイナーレさんは、その、辛くはないんですか? 自分を削るような力の使い方をしてて……」

「本当にアンタって大事に育てられてるわよね。そういう聞き方が出来るって事は、恵まれてるって事よ。努力すればちゃんと届く道が見える。努力出来る才能がある。アンタって可能性の塊なのよ、自覚してないからそういう事を聞いちゃうのよ」

 

 ぴっ、と一誠の鼻先に指を突きつけるように一誠を睨みながらレイナーレは告げる。指を突きつけられた一誠は少し仰け反るようにして、レイナーレの言葉を受ける。

 ふん、ともう一度鼻を鳴らしてレイナーレは空へと視線を移した。足を広げて、少しだけ背を仰け反らせるような体勢で後ろに回した手で支える体勢になって。

 

「わかんないわよ、幸せなアンタには。わかって欲しいとも思ってない」

「……でも、俺は苦しいですよ」

「アイツはそれをわかってるから、心配かけたくないって走り続けてるのよ。逃げるみたいにね。逃げ道なんてどこにもないから、前に進んで逃げようとしてる」

「……リーアの事ですか?」

「私の勝手な想像だから、それが真実だとは思わない事ね。誰も見たいものしか見えないんだから。私はあいつが前に進んでるようで、ずっと逃げたいんだと思ってるわよ。それが悪いとは思わないけれどね」

「それは、レイナーレさんもそうだからですか」

「私は少し違うわよ。逃げ道どころか、もうそれしかないってだけよ。アンタみたいに誰かに手を伸ばせるような選択肢がそもそも見えないし、選べないの」

 

 それは決定的な不理解だった。一誠は理解出来ないし、レイナーレも理解を求めない。どうしようもない断絶が起きていた。それでも2人はこうして肩を並べて空を見上げている。

 月明かりに照らされるレイナーレの顔を横目に一誠は見る。レイナーレの顔はどこまでも無表情だ。昔は苛つきを隠さずに眉間に皺が寄っていたけれども、今は自然体に振る舞っている。

 昔と今。比べてしまえば今のレイナーレの方が明らかに幸せなのだとは思う。けれど、彼女は自分自身を削るように力を使っている。それも自分には負けたくないという、執念という名の呪いを胸に。

 その事実に一誠は、どうしたらいいのかわからなかった。そんな一誠の様子にレイナーレは溜息を吐く。心底、どうでも良いと言わんばかりに。

 

「リアスもアンタもなんでそんなに他人の事を気にしてられるのかしらね。いや、アイツは他人の事を気にしないと生きていけない生き物なんでしょうけど。あぁ、私もだけどね。ただ方向性が違うってだけの話」

「方向性が違う?」

「私はもう見返りとか、そういうのは求めたくないの。求めた分だけの絶望を嫌という程、味わったわ。だからもういいの。惜しまれて生かして貰ってるだけでもう十分抱えきれない。だから、私は今後は自分の為に、リアスに尽くして生きて行く道以外選ぶつもりはないの」

 

 レイナーレの宣言に、やはり一誠はどう反応していいかわからずに黙り込む事しか出来ない。そんな一誠の様子を見たレイナーレは一誠の目の前に来て、一誠の両頬を挟み込むように両手で掴む。

 突然のレイナーレの行動に一誠が目を丸くして硬直してしまう。レイナーレは自分に視線を真っ直ぐに向けさせながら言う。

 

「目を逸らすんじゃないわよ。これがリアスがアンタを遠ざけたかったどうしようもない現実よ。世の中、どうしても救われない奴がいる。私がまだ良い方。最後に救いが残ってたから。いい? アイツはそんな絶望と戦わないと気が済まない、いいえ、生きていけないの。だからアイツは誰かを巻き込むのをいっつも躊躇してる。誰かの生き方や夢を邪魔するんじゃないかってずっと怯えてる。それでも少しずつ手を伸ばしてるの。だから、そうした手を掴めるのはアンタとかイリナみたいに手を差し出せて、幸せを分け与えられる奴がやらないとダメなのよ」

「……俺は、どうしたら良いんですか。幸せってどうやったら分けられるんですか」

 

 レイナーレの強い口調に、一誠は気圧されるように気弱な言葉を漏らしてしまう。レイナーレはただいつものように鼻を鳴らす。

 

「思うように生きなさい。悩むだけ悩みなさい。私は答えなんて与えてやらないわ。悩んで、苦しんで、それでも最後に残ったものしか私は信じれないもの。でも、アンタにそういうものを信じろ、なんて事も言えない。私はもう救われて終わってしまってるから」

「終わってるって……」

「『拒絶』ってそういう事なのよ。私は今以上にどこにも行きたくないの。ただ、譲れないものだけ抱えて、そうして終わりたいの」

 

 一息に言い切って、しかし皮肉げに笑いながらレイナーレは続ける。

 

「別に求めなくても誰かさんが勝手に与えたがるでしょうから、それを与えられるままに生きて、そうして必要になったら盾にでもなって死ぬの。それなら、私が最後に自分を許せる終わりだと思うから」

 

 今まで一番、心底おかしそうにレイナーレは弾んだ口調で告げる。その内容は決して一誠には理解も共感出来ない心情だったとしても、それが自分が見つけた唯一だと言うように。

 

「その許すって事をそれ以外に出来ない事が、自分が嫌いなのか? って問いの答えなら私はそうよ、って返すわ。私はずっと自分を認められないで生きてきた。認められるだけの生き方も出来て来なかったし、これからもきっと出来ないわ。多分死ぬ最後の瞬間まで。でも、それで良い。それでも私の歩いてきた道で、それを譲るつもりはないの」

 

 一誠から手を離して、レイナーレは月を背に立ち上がる。月光を影にしたレイナーレの姿に一誠は目を奪われる。光に背を向けて影を作るように立つその姿に。

 

「この先、私みたいにどうしようもない生き方を選んでる奴がアンタの前に立ち塞がるわ。だって、そういう生き方をしてる奴って周りを巻き込んでろくでもない事ばかり起こすわ」

「俺は、レイナーレさんがどうでも良い生き方をしてるって思いません……」

 

 力なく左右に一誠は首を振りながら言う。そんな一誠を叩きのめすようにレイナーレは言葉を口にする。

 

「立場とかそういうので全部決めちゃう奴はタチが悪いわよ。アザゼル様を信奉していた頃の私が良い例でしょ。そういう奴もいれば、ただ自分の欲望にしか従わない奴だっている。一誠、アンタが思うより世界はろくでもないのよ。でも、そのろくでもない世界でアンタはろくでなしにならないように生きないといけない。それがアンタが誰かを幸せにしたいって思い続ける限り、ずっと続いていく“(のろ)い”よ」

「“(のろ)い”……」

「そうよ。でもね、“(まじな)い”でもあるわ。アンタは呪いをかけられてるのよ、とっくの昔に。リアスに愛情っていう名の“(まじな)い”をね。イリナもそうだし、黒歌も、白音だってそう。アンタ達は幸せにならなきゃいけない義務がある」

「レイナーレさんは違うんですか……」

「私はもう“終わった”のよ。だからアンタ達の背を押して、アンタ達に付いていって、これが最後で良いと思った瞬間に命を投げ出すんでしょうね。でも、アンタはそうしちゃいけない。私にはないものがあるから。わかるでしょ?」

「……なんですか、それ。俺にあって、レイナーレさんにはないものって事なんですか」

「リアス自身もそうだし、貴方には大切な人も、友人も、家族も、それを纏めて引っくるめた『日常』があるでしょう?」

 

 日常、と。その言葉を口にするレイナーレは穏やかに微笑を浮かべていた。それは決して自分にはないものだと諦めているように。一誠は咄嗟に叫びたかった。そんなのおかしいって。

 日常は大切なものだ。誰にもあって当然の筈のものだ。でも、一誠は知ってしまっている。どうしようもない現実は確かにあって、泣き出したくなって、苦しくなって、胸を掻きむしりたくなるようなどうしようもない日々を生きてる誰かがいる事を。

 

「……俺には、守らないといけないものがあります」

「えぇ、そうよ」

「守らないと、俺が俺じゃなくなるから」

「それでいいの」

「俺は、リーアの『騎士(ナイト)』だから。それに『赤龍帝』で、誰かを守れる力を授かったから」

「なら、やるべき事はなに?」

「そんな理不尽を、巫山戯るなって言って叩き斬る事だ」

 

 それは譲れないものを叫ぶ憤りの声だった。感情の高ぶりに思わず涙が浮かぶ。

 だって、そんな自分を見て遠い者を見つめる大事な日常の一部である彼女が微笑むから。

 その枠の中には自分がいないように振る舞って、それを諦めてしまっている。

 あぁ、どうしようもなく叫びたい。巫山戯るなと。そんなの許せないと。

 

「俺はレイナーレさんが命を投げ出すような事も、リーアが苦しむ事だって目の前で起きてるなら飛んでいってぶった斬る。それが俺に出来る事だ」

「そう。なら、そう願い続けなさい。何があっても折れないように、何度も辛酸を舐めて。それでも私みたいになったらいけないって呪いを残してやるから」

「だったら俺だって死んだら呪ってやる。レイナーレさんが死んだら、嫌だって言う程に泣いてやる」

「男の子が泣くもんじゃないでしょ? だからね」

 

 くるりと、背を向けてレイナーレが表情を隠す。月を見上げる彼女の髪を夜風がふわりと持ち上げる。

 

「強くなりなさい。もっと、もっと、望むままに。でも決して誤った思いじゃなくて、どこまでも正しいまま、正しくないものに力を振るいなさい。そうして私を一生、妬ませ続けなさい。アンタは私の一生を滅茶苦茶にしたんだから。背負い続けなさい。それでも幸せになる為に」

 

 表情見せないまま、レイナーレは言い切った。そんなレイナーレの言葉に一誠は歯を噛んだ。握りしめた拳は痛くて、勢いのまま立ち上がってレイナーレを自分の方に振り向かせるように肩を掴んだ。

 そうして振り返ったレイナーレはどこまでも透き通った笑みを浮かべていた。その笑みを前にして一誠は何も言えなくなりそうになる。けれど、違う。ここで言葉を止める事が自分が抱えていた靄を晴らす事だと思い切って口にする。

 

「全部だ。俺は、全部諦めないぞ。レイナーレさんが、アンタが諦めてたって引き摺ってでも一緒に行くんだ。だってアンタだって俺の日常の中にいるんだ。仲間になったんだ。だから、一緒に行くんだよ」

「そうよ。そうして進み続けなさい。それでもどうしょうもなくなくなって泣き出したくなったら、私が死ぬだけよ」

 

 乱暴に一誠の目に浮かんだ涙をレイナーレが拭う。不器用な手付きに一誠が目を瞑る。

 握っていたかった。この肩を、この手を、この存在を。でも、そうすればきっと突き放されるだろう。決して自分達の望みは重なる事はない。同じ道を歩く事は出来ても、視線は同じ方向を向く訳じゃない。

 悔しかった。どうしようもなく巫山戯るな、と叫びたかった。叫んだ所で涼しげにどうでも良いと言われる事も理解した。だからって、はいそうですか、って大人しく従うような奴にはなれないし、なれそうにもない。あぁ、なりたくなんてないんだ。

 大切なものを失うぐらいなら強くなれ、と。何も奪われないように。何も奪わせないように。力を求めよう。何も失わなくて良いように。決して、彼女のようになってはいけないと戒めを自分の胸に刻んで。

 

「……どうして、皆が幸せになれないんですかね」

「幸せを感じるのには、足りない何かが必要だからよ」

「足りない何かがないと、幸せになっちゃいけないんですか」

「その幸せがいつまでも続く保証もないでしょ? 失うかもしれないし、奪われるかもしれない。実際にそうならなくても、その可能性の芽があるだけで皆、怯えるんだから」

「それでも俺は皆が笑っていて欲しいって思います」

「それでいいのよ。叶わない願いだと思って、挑むことを諦めた私みたいにならないように精々気張りなさい」

「レイナーレさんは変われないんですか? 変わりたいって思わないんですか?」

「少なくとも今は、ね。そう簡単に変われるんだったら、それはもう私である必要はないじゃない?」

「…………」

「ちょっとは失望した?」

「俺には、わかりません」

 

 理解が出来ない、と泣きそうな声で一誠は言う。変わるって何だろう、と。自分のままでいたいという事と、変わりたいって思う事はそんなに離れていなければならないものなのかと。

 自分が望むままに変わっていく事が、自分らしいって事なんじゃないのかよ、と。だからって別人になるのは行き過ぎてる、と。その境界線が一誠にはわからなくなってしまった。

 自分である為に変わらない、希望なんていらないなんて。そんなの間違ってるんじゃないかと。じゃあ、正しいって何だろうと。自分の中に答えはない。ただ、それでもせめて変われないという誰かが苦しむ理由を切り裂く事だけは出来そうだった。

 力はある。あとは望むだけだ。あぁ、強くなりたいな、と一誠は空を見上げて月を睨んだ。遠く、どこまでも遠い空に浮かぶ光に焦がれるように。

 

「周りが諦めてくれたらサクッと楽に死ねたのかもしれないのに、本当に甘い事ね」

「朱に交われば赤くなるって言いますから……」

「本当にどうしようもない悪魔に魅入られたものだわ」

 

 レイナーレも空を見上げて呟く。変わるものと、変わらないものと。変わらないという事と、変わっていくという事と。その境界線の正しさが示される事はない。

 一誠の惑いは完全には晴れる事はなく。突きつけられた現実は無慈悲にそこにあるだけ。一誠は何も言えず、レイナーレも何も言わずに、ただ空の月を見上げていた。

 

 

 * * *

 

 

「今日は一緒に寝てもいいですか? リーア様」

 

 珍しい、と思って私は目を瞬かせてしまった。そろそろ寝ようかと思って眠る準備をしていると枕を抱えた白音が部屋にやって来たのだから。

 白音と一緒に寝る事は偶にあった。白音が不安になった時とか。黒歌の所に行く事もあるみたいだけれども、黒歌に心配をかけたくない時は私の所に来る事がある。

 だから珍しいと思いつつも、拒む理由もなく私は白音を誘うようにベッドを叩いた。別荘とはいえ、私の眠るベッドは2人が並んでも十分広い。

 失礼します、と前置きをしてから枕を置いて布団に潜り込んでくる白音の髪を撫でる。人に紛れている間は隠している猫耳は眷属達と一緒にいる時は出しっぱなしにしている事が多い。

 暫く撫でていると気を許したように目を閉じて、私の手に撫でるままに白音が身を任せてくれている。それが可愛らしくて、つい構ってしまいたくなる。

 

「何かあったの?」

「思う事が色々ありまして……」

「今回、白音は一誠に付き添って貰った事には感謝してるのよ?」

「えぇ、結果については良かったと思ってます。でも、じゃあ今度は自分がって思っちゃって……」

 

 そんな白音の言葉に私は思わず苦笑を浮かべてしまう。次は自分が、と思ってしまうのはレイナーレの力と一誠の成長を見た為か、と。刺激になる事は良いのだけど、あまり焦らなくても良いのに、とつい思ってしまう。

 白音は十分、私達にとって欠かせない存在となっている。仙術の支援も含めて、魔力の操作に関しては白音より秀でているものはいない。細かな気遣いも含めて、白音がいなくてはもう成り立たない自覚はある。特に私が。

 

「そんなに焦らなくても良いのに」

「いやです」

 

 駄々をこねるように言われて、私の胸に顔を埋めるように抱きついてきた白音を抱き留める。偶に白音はこういう時がある。まだ小さい頃は、黒歌と喧嘩して拗ねた時とか。最近はあまり見かけなくなってた白音の駄々をこねる姿に思わず微笑を浮かべてしまう。

 そうして背中を撫で続けていると、胸に埋めていた顔を上げて白音が見上げるように私を見つめてくる。

 

「リーア様、お願いがあります」

「? お願い?」

「リーア様のお力添えを頂きたくて。少し、試したい事がありまして」

 

 ……そうして白音が告げられた“お願い”に私は目を丸くさせる事となる。その内容を咀嚼するように吟味して、私は確かに頷いた。

 

「無理だけは禁物よ?」

「わかってます。だから、少しずつで良いんです。本当に少しずつ、私はそれでも前に進みたいんです。貴方と、皆と一緒に」

「……ありがとう、白音」

 

 背中を抱え込むようして抱きかかえる。白音も身を預けてくれる。躍るような心を抑えるように目を閉じて、意識をそのまま沈めていく。

 今日は、気持ちよく眠れそうだと。そんな事を思いながら。腕の中に抱えた温もりを抱き締めながら。

   

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