異世界で悪魔退治するのは間違っているだろうか 作:しゅーぞー
作者、喜びで死にそうです
最近感想を頂けることも多くなって、返信しているのが本当に楽しいです
皆様の期待に応えられるように頑張りますので、これからもどうぞお願いします
「ったく、どういう教育しとんねん、いきなり
赤くなった鼻筋を抑えながらそう怒鳴り散らす一人の女神
それを正座しながら聞く一人の幼女神
椅子に堂々と腰掛けながら偉そうに聞いている青年
三者三様の体制をとったその場は荒れに荒れていた
元はと言えばもちろんネロがこの女神の鼻っ面に本をブチ当てたことに他ならないのだが肝心の本人はというと
「...ふん」
傲岸不遜な態度で目の前で五月蝿く喚く女神を面倒臭そうに横目に見やっていた
「そもそもなんやねんその態度!先に手ェ出してきたんはそっちやで!?訴訟や!訴訟!」
「ちょ!?ロキ!それは勘弁してくれよ!ほら、ネロくん謝って!」
ネロのあんまりといえばあんまりな態度にカチンときたのかさらに烈火のごとく怒るロキと呼ばれたその女神は実は大ファミリアを束ねる主神だ
その構成員の多さは先日やっと一名加入(未契約)したばかりのヘスティアファミリアとは比べ物にならないほどであり、その気になればヘスティアファミリアなど一息で吹き飛ばせるほどの力を持っている
そもそもそんなファミリアを怒らせること自体が珍しいことなのだが謝ることを促されたネロは憮然とした面持ちで
「ハァ?こっちの安眠を邪魔してきたのはそっちだろ。俺は謝る筋合いなんかないね」
と悪びれる様子もなく言い放つものだからロキはそのきれいに整った顔を怒りで歪め
「そっちがそのつもりなら力づくで謝らせたるで!アイズ!この男に反省って言葉を教えたれ!」
「えぇっ!?」
と入り口の方向に大声で呼びかける
その言葉に盛大に驚くヘスティア
アイズ、とは一体どこの誰なのかヘスティアに尋ねようとしたネロは、ヘスティアの顔が青ざめていることに気づいた
今ロキが呼んだアイズ、とはアイズ・ヴァレンシュタインというLv.5の冒険者でオッタルに次ぐ迷宮都市オラリオの実力者
神々に与えられた称号は"剣姫"
常識のある人間、いや、常識のない人間でも喧嘩を売ろうとは夢にも思わない相手である
しかしつい最近オラリオに来たネロはそんなことを知っているはずもない
彼はいつも通りの高慢とも取れる態度で言葉を紡ごうとした
「アイズ?ハッ、聞いたことねえな。誰だそれ」
嘲笑うかのように言い放った青年の視界に、ふと青が写り込んだ
異変に気付いたネロがそちらに目をやるとそこにはいつのまにか少女が立っていた
青色の軽装に包まれた細身の体
鎧から伸びるしなやかな肢体は眩しいくらいに美しい
繊細な体のパーツの中で自己主張する胸の膨らみを抑え込む、エンブレム入りの銀の胸当てと、同じ色の紋章の手甲、腰に下がっているサーベル
腰までまっすぐ伸びる金髪は、いかなる金銀財宝にも負けない輝きをたたえていて、その華奢な体の上に、いたいけな女の子のような童顔がちょこんと乗っている
ネロを見下ろす瞳の色は、金色
今気付いたのだが、どうやらネロはこの世界に来てから人の容姿を事細かに観察してしまう癖がついてしまったようだ
ネロの視線に居心地の悪さを感じたのか
「私の顔に、何か付いてますか...?」
おずおず、というよりは少し感情のない口調でネロにそう問うてくるアイズ
ネロが自分をジッと見つめているのが不思議だったのだろう
アイズに突然話をかけられたネロは困惑した
容姿をてっぺんからつま先まで事細かに描写していたなどとは、口が裂けても言えない
言ったが最後、ヘスティアからも目の前の少女からもロキからも軽蔑の視線を向けられるに相違なかったからだ
「いや...なんでもない」
と、目をそらしてそう返すことしかできなかった
今の状況を知らないひとが見ればそれはともすればラブコメのワンシーンのようにも見えたのかもしれない
そんな娯楽を山ほど知っているロキがそれに気付かないはずがなく
「なんで勝手にラブコメ展開しとんねん!アイズたんはうちのもんやで!アンタみたいな白髪にやれるかい!」
そう言いながらロキはアイズの背後に立ち、両腕をアイズに腹部に回す
息がかかるほどにその体を密着させ、恥骨をアイズの臀部に押し当てていた
現在進行形でロキのセクハラを受けているアイズはというと
困った顔をして腹に回された手を取ってひねり、肘鉄、ロキが痛みであとずさったところにその頬っ面に盛大な音を立てて張り手をかました
ネロには本を鼻っ面に当てられ、アイズからは頬に張り手を食らわされ、散々だ
アイズはなおも困ったような顔をして
「ラブコメって何ですか。変なことをしないでください」
と、無感情に言い放った
ロキはアイズに思い切り引っ叩かれた頬を押さえ涙目になってプルプル震えていたかと思うと、すぐに復活して
「クーデレのアイズたん萌えー!!」
などと意味のわからない言葉を叫び出した
アイズはもちろん、ネロにもその言葉の意味は全く理解できていなかった
そもそもネロは寝不足なのだ
正直このうるさい
「
そう低い声で機嫌悪そうに尋ねるネロ
実際機嫌の悪さはもうすでにメーターを振り切っているのだが
そこでロキは元々の目的をやっと思い出したようで
「そうやった!アイズ!この男をぶちのめしたり!」
と先程までと全く変わらぬうるささでそうアイズに命じた
いつまでいってんだよ、と辟易するネロ
アイズもそんな主神の指示に戸惑いを隠せないらしく
「ですが彼は...冒険者ではなく一般人です。私たち冒険者は一般人と闘ってはいけないと規則で決められています」
その声には先程までとは異なり同様の色が現れていた
ロキはなおも食い下がる
「そんなもん知るか!ウチはこいつに土下座させな気が済まんのや!」
「いくらロキファミリアだからってうちの大事なファミリア構成員に手は出させないぞ!」
アイズの登場に呆気を取られていたヘスティアがようやく喋り出す
しかしネロはまだヘスティアのファミリアには加入していない
別に加入する気がなかったわけではないのだが、いかんせんここ数日はあまりにも多忙すぎた
前述の通り連日の勧誘でゆっくり休む暇が全くなかったのだ
それゆえネロはまだ
それはどうやらロキも知っていたようで
「ファミリア構成員とか言うても一般人でまだ契約しとらんやろ!...せや、そいつ
突然真面目な顔をしてそう切り出したロキはそこで一度言葉を切って
「戦争しかないよなぁ?」
と、とても嗜虐的な笑みを浮かべてそう言い放った
その表情は娯楽を求める神々のそれであり、先程のネロも行いに対する怒りというよりは戦いに対する飢えのように見えた
文字どおり
そんなある種狂気とも取れるようなロキの発言を受け、ネロは少し気圧されてしまっていた
神々の異常性に
しかし隣にいる神はそうではなかった
ヘスティアはその身丈に合わぬ豊満な胸を堂々と張り、無理な要求を突き付けてくるロキに
「いやだね!ネロくんはボクのもんだ、渡す気はさらさらないね。戦争するつもりならするがいいさ、でも覚悟しておいてくれよ?ネロくんは、凄く強いぜ?」
と、きっぱりと言い放った
ロキはしばしあっけにとられたような表情をした後
「プッ、あっっはははははは!」
大爆笑を始めた
面喰らうヘスティア陣営
アイズだけがそんな主神を冷めた目で見つめていた
「あははは、ひー、冗談やっちゅーに、そんなにガチにならんでも...はっはははは!腹いたいわ!」
この神のふざけた態度を見るに、どうやらネロ達はからかわれていたらしい
ということは最初から全部嘘だった...?
自分たちがからかわれていたことに遅まきながら気づく
もともとマイナス方向に天元突破していた機嫌がさらに底なしに落ちていく
「ほんだらもう帰るわ、十分笑わしてもろたし。でも」
帰ろうと入り口に近づいていったロキが振り向きざまにこう言った
「あんまり
先ほどのヘスティアのロキファミリアを軽視しているとも取れるその言葉にその実少しカチンときていたのだろうか、意趣返しのようにそう言い捨てて帰ろうとしたロキ
自らの力を軽んじられたことに対する怒りか、眠れないことへの怒りか、青筋が額に立ってしまっているネロが
「
ビッ、と中指を立ててその神の背中に向けて言い放った
と、ロキもまたネロのその煽りにカチンときたようで同様にその白い額に真っ青な筋を立ててこちらを振り返った
怒っているはずなのになぜか笑っているその顔が見るものの恐怖を誘う
そばに立つアイズですらその迫力に少したじろいでいる様子だった
しかし今のネロにはそんなもの関係ない
正面切ってメンチを斬り合う二人
火花がバチバチと散っているのが容易にわかる
「やってみいや、クソ白髪」
「やってやるよ、クソ糸目。
大胆不敵な発言をするネロにアイズが殺気立った
主神が殺害予告をされているのだ、ここで動かねばファミリアの一員などと間違っても名乗れはしないだろう
しかしそんなアイズをロキは片手を上げることによって制し
「まあええわ。そんじゃ暇があったらまた来るわー」
などと言って帰っていくロキ
荒らすだけ荒らして、どのツラ下げて帰ろうとしているのだろうか
「
部屋の中にネロの声が響き渡った
こうしてオラリオ内の大ファミリアの一つ、ロキファミリアとのファーストコンタクトは最悪の形で終わりを告げた
ネロの住む協会から出て、自分たちの家であるファミリアへ帰ろうとするロキとアイズ
ロキの気まぐれに振り回されたアイズは少し疲れたような顔をしていた
しかしアイズの表情とは対照的にロキは新しい玩具を見つけた子供のようなキラキラした表情で
「ネロって言うたか、人の身で悪魔の血を宿すなんてなぁ...オモロイわ、あの子」
ネロに興味を持った神が、また一人
ロキが帰ってからしばらく経って
二人はみすぼらしい書店にいた
店内には老齢のヒューマンがおり、ヘスティアは店内に入ってくるのを見ると短い白髭を動かした
「やぁ、ヘスティアちゃん。ファミリアへの勧誘ならお断りだよ」
「違うって!おじいさん、二階の書庫を貸してくれよ!」
「おうおう、構わんよ。本は読んだら、元の棚に戻しておいてね」
どうやらヘスティアはこの店主を勧誘しに来たことがあるようだ
誰彼構わず誘っているのだろうか
などと考えているネロの手を引いてヘスティアは階段を駆け上がると、その一室は古いこの香りが漂っていた
隙間なく埋まった本棚が部屋の四方を占領しており、棚の前にも書物の山が築かれている
「ボク、お金がなくてね。ここの店主さんの好意でよくここに入り浸って本を読んでいるのさ」
そう言われあたりを再度見渡してみる
ネロは本を読むことがあまり好きではない
読んでるうちに眠くなってしまうのだ
なのでこの本の山を見ていると少し気が滅入るような気分になってくる
「本はあまり好きじゃないな。それよりどうしてここにきたんだ?」
「うん、それは君の僕のファミリアに入るための儀式を執り行う為だよ。ささ、服を脱いでそこに腰掛けて」
「服をか?」
「あぁ、上着だけでいいよ。これから君にボクの『恩恵』を刻むんだ」
その声色に喜びを混ぜながらうきうきした様子で
実は彼女は自分が子供に『恩恵』を授ける場所はここだと決めていた
本が好きである自分には本に囲まれた場所であるここで始めるのが一番あっているのだと感じていたからだ
『物語』の始まりは、沢山の
ややあって、ネロのヘスティアファミリアへの加入の儀は無事に終了した
ネロの隆々ながらも引き締まった背中には幾つもの漆黒の文字が刻まれている
それはまるでその者の成長を、これまでの歴史を表す『本』のようだった
(ネロくん、君はこれからどんな
ステイタスの更新は神によって行われる
眷属が見て聞いて成したことを神々が評価し、その背中にある【ステイタス】へと書き記していく
冒険者が歩み、神々が記す
ネロが歩む道のりを、その足跡を、ヘスティアが書き綴っていくのだ
「さぁ....ネロくん、頑張って行こうぜ。ボク達の【ファミリア】はここから始まるんだ」
「あぁ、それはいいんだけどよ、とにかく早く帰って寝たい」
「うんうん、ネロくんも気合十分で...っておいっ!いきなり出鼻を挫かないでくれないかい!」
「うるせえな、あんまりでかい声張り上げないでくれ。頭に響く」
ギャーギャー、と自分のそばで騒ぐヘスティアをうるさそうにそっぽを向いてあしらうネロ
本屋の窓から差し込む陽光は騒ぐ二人を暖かく照らしており、それはまるで二人のファミリアの門出を祝しているかのようだった
全く反応しなくなったネロの背中に向かってギャーギャーと未だに騒ぎ立てていたヘスティアはふと目に入ったその背中に刻まれた白紙の物語を見て、嬉しさがこみ上げてきて、口をつぐんで微笑んだ
突然止まったヘスティアの馬鹿騒ぎに怪訝そうに後ろを振り返ったネロの目に映ったのはまるで我が子の成長を見守るかのような目をした主神の姿だった
顔立ちは幼いながらもその顔は聖母のような包容力に溢れているように見えた
ファミリア加入の儀式は何事もなく終わったかのように見えた
しかしヘスティアは大事な異変を見逃していた
本来神に【ステータス】更新時にいじられない限りはただの文字で、なんの反応も示さないはずの背中に刻まれた【ステイタス】に、波紋のように紅が広がるのを
それはまるで静かな水面に一滴の水が落ちたようで
一瞬の後にはもう何も見えなくなってしまっていたけれど
以降、彼の物語は、彼女の手で書き記されていく
それは子供達の織り成す冒険譚
過去、何度も繰り返されてきた冒険譚
神々がこれまでずっと見守ってきた、英雄神話
しかし今、そこに一つの異端が入り混じろうとしていた
これは、その身に悪魔の血を流す青年が歩み、女神が記す
いかがでしたでしょうか
次回か次次回くらいにはダンジョンに入れたらなーと思います
それにしてもネロくん、何か忘れてることがあるんじゃないか?