剣が鉄心の手により九鬼へと移されて数年・・・
大神剣13歳の年の話である。
「剣、今日の鍛錬を始めますよ。」
剣は幼い頃よりの武の才能からヒューム、クラウディオに評価され稽古をつけてもらっていた。特にヒュームの稽古は厳しいと揚羽より聞かされていたが剣にとってはなんの苦でもなかった。
「ああ、よろしくお願いします。」
「お前もすでに中学生に当たる歳だ、今日の鍛錬が終わったら俺と真剣勝負をしないか?今のうちにお前の本当の実力を見ておきたい。」
クラウディオの目から見て、ヒュームと剣の実力は互角であった。剣は気のコントロールを得意としており、気で刀を作り戦闘する。
「わかったが、場所は?」
「今、手配致しました。」
クラウディオはその手際の良さからパーフェクト執事と呼ばれている。
「よし、今日はここまでにしましょうか」
「ん、今日はメニュー少なくないか?」
「あなたはこれからヒュームと戦うのですよ?ヒュームと戦うのはまさに死闘となるでしょうからね」
剣は正直ヒュームに負ける気がしなかった。今まで何度か組手という形で対戦したが本気は全く出していない。それに鉄心さんとヒューム爺の喧嘩(ヒューム爺が一方的にふっかけただけだが)を見たがそれでも負ける気がしなかった。剣には少し欲求不満が溜まっていた。自分と対等に戦えるライバルが全くいなく、師のヒュームでさえ、剣からしてみれば物足りない。しかし、久々の真剣勝負に剣は心を踊らせていた。
「・・・わかった。場所を移そう」
「ではこの試合は私が取り仕切りましょう。二人共準備はよろしいですね?」
「大丈夫だ。」
「剣、さっさと始めよう。」
ヒューム、剣は互いに見つめ合う。すでに戦いは始まっている。ヒューム爺は俺に凄まじい殺気を叩きつけてくる。俺はそれに対抗することなく受け流していた。
「では・・・はじめ!」
クラウディオの号令とともに剣は気を開放した。その刹那、周囲の空気が変わった。
(!?なんだこの気の量は!?)
ヒュームが驚くのも無理は無い。なにせ今まで剣は誰相手にも気を開放したことはなかったためである。しかし剣からしてみればこの気の量はおよそ7割。
剣が自分の前に差し出した右手の掌には一気に気が集まってゆく。そして一瞬あたりが光りに包まれたあと剣の掌にはまるで実物のような刀が握られていた。
「剣、その刀はなんだ・・・?」
「ただの気だ。」
ヒュームも気で武器を作り戦う者を見たことはあるが、剣の場合、その刀は実物にしか見えなかった。実物に近い武器を気のみで創りだすことなどヒュームには到底出来ない。
「どこでそんな技を覚えた?」
「・・・気を集めてみただけだ」
「フッ、常識外れなやつだ。まあいい、行くぞ!」
すべての言葉が剣の耳に届く瞬間ヒュームの左足は剣の目の前にあった。
「っ!」
剣は瞬時に目の前に気を集め防ぎ、その足を右手の刀で斬りつけた。だがその左足は刀が届く前に即座に引かれ、二人は元の位置に戻っていた。この一連の動作の中に二人の実力の差が見て取れた。
「やはりお前のその気のコントロールは異常だ」
「どういうことだ?」
「俺の蹴りを気だけで止めた奴などいない、それにその刀から放出された衝撃波はなんだ?」
ヒュームの左足には刀を避けたにも関わらず深い切り傷があった。これが剣の強さだ。攻撃が当たらずとも当たる。剣は今まで、九鬼が用意した相手と何度も試合をしてきたが、相手は何が起こったかわからぬまま傷を負わされることになる。
「秘密。」
剣は言い終わるやいなやヒュームに接近し上中下段と蹴りの3連撃を繰り出した。ヒュームは完璧な蹴りで迎撃したのだが・・・
「くっ!」
迎撃したヒュームの右足には大きな3本の切り傷が刻み込まれていた。ガードすら無意味となる剣の気の鋭さ。そしてこの隙に怯んだヒュームに刀で神速の5連撃を放った。
「ぐあああああああ!」
ヒュームはその場に倒れる寸前にクラウディオによって抱きかかえられた。
「・・・勝者、剣!」
「・・・ありがとうございました。」
あっけない・・・。
こうして剣とヒュームの試合は剣の勝利となった。
「まさか、ヒュームが負けるとは思いませんでしたよ。」
「剣は本気を出していない。」
そうだ。俺は完全に負けた。
「!それは本当ですか!?」
「ああ、俺ではあいつを本気にさせることは出来なかった。これ以上強くなったら誰も剣に勝てなくなるかもな」
最強が故の孤独。それをあいつは味わうことになるだろう。
「なにせ、あなたを倒したのですからね。それよりも、剣のあの蹴りはどういうことですか?あなたは完全に防いだはずですが・・・。」
「剣はあの時、体中に高濃度の気をまとっていた。おそらくその気によって俺の足は斬られたのだろう。」
ヒュームにはあの戦闘中に剣の体から発せられている気が微かに見えていた。だが、その気はまるで刃物のように鋭くヒュームの気では相殺しきれなかった。
「いつそのような技を・・・。!もしや剣の名前の由来は・・・」
「ああ、そうだ。鉄心が俺のもとに赤子の剣を連れてきた時、剣を抱いていた鉄心の腕には無数の切り傷があった。鉄心が手に負えないといったのはそのせいだろう。」
鉄心でもどうにかなった気もするが、九鬼の設備に頼ったのだろう。
「なるほど・・・。だからあなたは剣を誰にも近づけなかったのですね?」
「あいつが成長し気のコントロールができるようになるまで触れるものを切り裂く気をまとっていた。俺以外には手に負えん。あいつの実力があそこまでだとは思わなかったがな」
「まあ、剣の将来が楽しみになりましたね。」
「ああ、俺も鍛え直さねばならん」
剣、望むところだ。俺はまだまだ強くなるぞ。
剣の実力は歴戦の老執事2人の心を踊らせ、期待させた。
「剣!さっきの試合見ておったぞ!」
「おはよう、揚羽、英雄」
興奮気味に揚羽と英雄が駆け寄ってくる。
「うむ、ヒュームをあそこまで簡単に倒すとは!」
「ああ、俺も倒せるとは思わなかったよ。」
嘘だ。俺は絶対に勝てる確信があった。それなのに期待した。この心の虚しさはすべて俺の自業自得だ。
「フハハハ、剣よ我が友として我は誠に誇らしいぞ!」
「うん、ありがとう。俺も英雄が友達で良かった。」
「!なんと嬉しいことを言ってくれる!」
英雄は俺が九鬼に引き取られてから一番長くいた友達だ。鍛錬も勉強もほとんど英雄と一緒だった記憶がある。揚羽はやっぱり長女として色々忙しいんだろうな・・・。
「2人はこれから学校か?」
「ああ、我は勉学も武にもどちらにも励まなければならぬ。剣は本当に中学へは行かぬのか?」
「ああ、俺は武一筋でいくよ。」
俺は学校に通っていない。クラウ爺によると俺にはその必要がないからだ。と、おそらくそれが1つ目の理由。2つ目が、俺が危険だと思っているのだろう。おそらく今日の戦いでその考えは改めただろう。気のコントロールは十分にできるようにはなっている。
「フハハハハ、そうは言いながらも剣は秀才ではないか!我は本当に誇らしい!」
英雄はすでに中1にして天才と呼ばれ素晴らしい成績を残している。俺が英雄に秀才と言われているのは過去に英雄が説いていた問題をあっさり解いてしまったためだ。やはり、俺には人と違う何かがあるらしい。
「英雄、そろそろ時間だ支度しよう。」
「わかりました姉上。では剣、学校が終わったらまた話そうではないか。」
「ああ、わかったよ。行ってこい。」
揚羽、英雄を送り出し、俺は自室に戻った。ベットに横になり目をとじる。
(この世界には俺とまともに勝負できるやつはいるのか?ヒューム爺ですら本気を出すまでもなかった。だがまだ学ぶことはたくさんある。やはり世界を回ってみなきゃわからないか・・・。俺も精神面を重点的に磨かなきゃならないのかもな。どうにも強いやつを求めすぎてる・・・。)
「クラウ爺」
部屋の外にクラウ爺の気配を感じて呼んでみる。
「どうしましたか、剣。」
「俺、高校1年の年に世界を回ろうと思うんだ」
「それはいいですね。ですがなぜ急に?」
「俺は今日、ヒューム爺に本気を出せなかった。試合の後も欲求不満だった。こんな状態じゃあいくら強くなってもしょうがないと思うんだ。」
「ですから、世界中の武人から精神面を学ぼうと?」
「ああ」
「そういうことでしたらすべて九鬼で手配致します。」
「助かるよ。」
こうして数年後、剣は精神を鍛えるため世界中を旅して回っているのであった。
次回から帰還後の話を書こうと思います。