気配を消して川神の地へと足を踏み入れるものがいた。その人物は辺りの気を探り自分の気配に気づいたものがいないことを確認し、足を進める。
一年ぶりに帰還した自分の育った街を見回す。特に変わった変化はないが大きな気が幾つか感じられる。これはヒューム爺かな?衰えるどころか更に強くなってるね。と、これは鉄心さんに百代かな。百代もかなり強くなってるな。
そんなことを思いながら剣は久々の川神を歩くのだった。
「おーい弟、金貸してくれ」
前を歩く弟と呼ばれた少年、直江大和に抱きつきながら声の主、川神百代そう言い放った。
「姉さん、この前貸した分返してもらってないけど?っていうかその前に自分でバイトくらいしたら?」
「いやー、バイトはしてるんだけどな?返済に当てたら全部なくなったんだよ・・・不思議だよな。というわけで貸してくれ」
「どういうわけだよ。そして俺返済してもらってないけど?」
「い、いや、弟だし、後回しで・・・」
「姉さん?」
「・・・」
「・・・」
「・・・zzZ」
百代は必死に寝たふりをする。ちなみにこれは都合の悪い話になると多用する百代の技である。
「またか・・・仕方ない、この話はまた後・・・とでも言うと思ったか!」
「なんだよー、怒るなよー。返済期日は明後日だろー?」
「いや、その返済前にまた金を借りようとしたのがおかしいんだよ・・・」
大和は諦めたようにため息をついた。
「剣、久し振りですね」
九鬼の敷地に入ろうとする剣に声をかけてきたのは老執事クラウディオ。
「久し振りですね、クラウ爺。」
剣は軽く会釈するとクラウディオは驚いた顔をした。
「あなたが私に敬語を使うようになるとは思いませんでしたよ。」
剣は旅に出る前まではまさにクラウディオとヒュームに対し、敬語を使うようなことはなかったのである。
「あー、気にしないでください。ちょっとした変化ですから。」
うーん、今更敬語を使うってのもかなり恥ずかしいな。でもしょうがない。旅に出て俺にはいろいろなものが欠けているということに気づいた。
「それより、ヒュームさんは今どうしてます?」
「ヒュームなら揚羽様の鍛錬に付いている頃ですね。行ってみてはどうですか?」
「はい、そのつもりです。では、失礼します」
そう言い残し剣はヒュームと揚羽のいる九鬼のトレーニング施設へと向かった。
「・・・どうやら、更に強くなったようですね」
「くっ、ヒュームよ、もう一度頼む!」
揚羽は起き上がりながらそう言うと次の攻撃に備えて構える
「わかりました」
ヒュームはその言葉を待っていたかのように口角をあげ、揚羽との距離を一瞬で詰める。それと同時に左側頭部めがけ鋭い蹴りを繰り出す。揚羽は素早くガードしその蹴りの勢いを利用し後ろに大きく跳躍した。そして着地と同時に右腕で突きの構えを作り目に見えぬ速さで鳩尾めがけて打ち込む・・・がその突きは突然止まることとなった。
「あ、どうぞ。続けてください?」
わざとらしく揚羽さんの後ろに立ってみる。
「っ!剣じゃないか!」
「お久しぶりです、揚羽さん。それにヒュームさんも」
「ふん、ようやく戻ったか。だがその気持ち悪い敬語はなんだ?」
気持ち悪いって・・・。相変わらずひどいな、ヒューム・・・さんは。
「いえ、ちょっとした心の変化ですよ?」
「好きにしろ」
そう言われなくても好きにするつもりだったんですけどね。
「剣よ、我のことは今まで通り敬語なんぞ使わなくて良いぞ。お前にそう呼ばれるとなんか気持ち悪くてな・・・」
また気持ち悪いって・・・。あれ、旅に出る前の俺ってそんなに敬語使ってなかったっけ?
「分かったよ、揚羽。そういえば仕事はいいのか?」
揚羽は俺が旅に出る前辺りから九鬼の仕事でかなり多忙だったはずなんだが。
「剣は運がよかったな。我は一週間に一度こうしてヒュームと稽古をするのだ」
我ながらいいタイミングだったな。揚羽は現状維持が目的ってところかな。まぁ、忙しいだろうし維持できるだけでもすごいけどな。
「我はまだ稽古を続けるが剣も一緒にどうだ?」
「いや、魅力的なお誘いだけどいろんな人に挨拶しなきゃならんからやめとくよ」
「ふむ、そうか。英雄と紋にも顔を出してやってくれ」
うーん、姉だなぁ・・・。
「ああ、それじゃあ俺は行くよ。ヒュームさんも今度手合わせお願いします。」
剣は部屋を出て次は誰の下へ行こうかと足を進める。
「誰かいませんかー」
川神のシンボルとも言える大きな寺。それが川神院。ここには武を極めんとするものが訪れ日々鍛錬を積んでいる。その大きな門の前に剣は拾いの親?に挨拶をするために来ていた。
「ン、だれかネ」
出てきたのはやや片言の日本語を話す全身を緑のジャージに包んだ人物、ルー・イーである。この人物はこんな風貌だが恐ろしく腕が立ち、最難関ともされる川神院師範代の地位まで努力で上り詰めたものである。
「あ、ルーさん。お久しぶりです。剣です。」
「おー、剣じゃないカ!戻ってきたのカ!気が落ち着いたネ」
「はい、今日戻ってきたばっかりですよ。そこを中心に鍛えましたからね。鉄心さんに会いに来たんですが居ますか?」
「ン、総代なら道場にいると思うから行ってみるといいヨ。」
「わかりました。それでは。」
そう言い残し剣は道場に向かう。
「うン、剣は良い感じに戦闘衝動を抑えられてるみたいだネ。百代もああなってくれればいいんだけどネ・・・」
「む、剣か?」
道場で門下生に付いていた鉄心は剣の気を感じ振り向く。
「はい、お久しぶりです。」
「やっと戻って来おったか・・・挨拶もなしに旅に出おって。ふむ、だいぶ気も落ちつたようじゃな。数年前はまるで凶器のようじゃったからの」
ルーさんと同じことを言いますね・・・。まあ、鍛錬の成果が見せられてよかった。数年前は鉄心さんの言うように気のコントロールが雑だったからな。ヒュームさんにはそこが俺の本質だとも言われたが。
「そうじゃ、剣よ。お主は川神学院に編入したいらしいな」
「はい、なにかと楽しそうな学園ですからね。それに英雄や百代もいますし。」
「うむ、手続きはすでに済ませておるぞ。ちと厳しいかもしれんが明日から編入じゃ。ちなみに2年F組になる予定じゃ。」
俺に休養の時間はないんですか?さっき帰ってきたばかりなんですけど?まあそれはいいとしてどうせなら英雄と同じS組にして欲しかったんだが・・・。
「なぜF組なんです?」
「お主ならS組も余裕なんじゃろうがF組のほうが色が濃くて楽しそうじゃぞ?それにS組に欠員が出れば後からクラスを移ることもできるしの」
なるほど、F組が合わなかったら自分で移れということですか・・・。
「まあよい、明日に備えてしっかり休養をとるのじゃぞ。それとモモにも顔出してやってくれ・・・と、帰ってきたようじゃの。」
「おいジジイ、この気は誰・・・」
「おう、久しぶり」
「剣じゃないかー!全然気が付かなかったぞ?気が全く違うじゃないか!」
そりゃそうだろうな。だがそれでも俺に気づいた鉄心さんはやっぱりすごいんだな。ちなみに俺が百代に敬語を使わないのは子供の頃からの付き合いだからだ。
「修行したからな。それより、俺明日から百代と同じ学校に編入するぞ」
「なに!これで毎日戦えるじゃないか!」
百代は目を輝かせる。
「こらモモ!お前たちが毎日試合なんぞしたら学園が壊れるわ!」
「ジジイが結界貼ればいい話だろー、どうせ暇なんだから」
「わしを結界要因にするでないわ!まあ、確かに最近ちと暇じゃが・・・」
学長って暇な仕事なのか・・・?周りに多大なる迷惑をかけてそうだな。お疲れ様です。
「まあ、週に一回手合わせという名目なら大丈夫でしょう?」
さすがに俺も毎日百代と戦うのはめんどくさいからこれくらいが妥協点かな。
「むぅ、それならまだいいが・・・」
「よし、ちょっと少ない気もするけどそれで決定だ!早速明日手合わせだからな!たのしみだなー。」
早速か・・・。やっぱり戦闘衝動は収まってないようだな。そんなことを思いながら鉄心さんの方を見ると呆れている様子だった。これは鉄心さんも手を焼いてるな。
「じゃあ、俺は九鬼に帰って休むとするよ。じゃあな百代また明日だ。」
「おう、明日手合わせだからな。忘れるなよ。」
百代の頭にはもうそれしかないようだ。
剣は呆れながらも九鬼に帰る。
夜、部屋のベッドで横になって考える。
川神学園には武芸者が多いと聞くし百代もいる。なんせ学長があの鉄心さんだからな・・・多少嫌な予感もしないことはないが楽しみだ。
そんなことを思いながら剣は眠りに落ちた。