「雅、帰ろうぜ!」
「あ、うん。待ってよ奥居くん」
神奈川県に位置する横田中学校の下駄箱で、金髪を結っている女子のような男子生徒、雅(まさ)に声をかける坊主頭の男子生徒、奥居紀明(おくいのりあき)。
戸井たちが率いる武石中が優勝した神奈川県大会、その準決勝の相手が横田中であり、その試合は死闘の末、矢部のサヨナラスリーランで決着が着いたそうだ。
「雅、俺新月高校に受かったぜ!これでまた野球ができるな」
「そうだね、僕も嬉しいよ」
二人は河川敷を歩きながら、他愛もない男子中学生らしい話をしている。雅も奥居も野球部らしく、キャンプで好きな選手の現状などを話していた。
「受験のときに、めっちゃかわいい子が隣だったんだぜ、あの子も受かっていれば……俺のスクールライフは……」
「そういうこと言うとフラグが折れるよ」
奥居が調子にのり、受験で出会ったかわいい子の話をしだす。しかし、雅はこの手の話が極端に苦手なため、奥居もかなり自重しながらであるが。
「おい、あれ見ろよ!」
奥居が河川敷のグラウンドを指差し、雅もそれを見る。河川敷のグラウンドにいたのは二人の男女、女の子の方はマウンドにおり、男の方はバッターボックスに立っている。
女の子の投げたボールに男のバットは空を切る。バッターボックスで膝をついた男へ女の子が手を差しのべているが、男はそれを振り払い、鞄とバットを持って奥居たちの方向へ走り出していった。雅と奥居はその見覚えがあった顔を見逃さなかった。
「あれ、武石中の戸井だよな?」
「うん、そうだったね」
一度試合で死闘を演じた相手、それも4番を打っていたキャプテンの顔を二人は忘れるはずがなかった。
--あの女の子が、戸井から空振りをとった。しかも、真っ直ぐで--
雅と奥居にとってそれは信じられないことだった。決勝で猪狩のストレートをを打ち砕いた戸井ですらかすりもしないストレートを、それも女の子が投じていたことに……。
「あの女の子、凄いな」
「うん、戸井くんを直球で抑え込むなんて相当だよ」
刹那の沈黙を挟んでから奥居が言葉を発し、それを
「女子選手の解禁初年度から、あんな投手が現れるのか……あ!」
奥居はその投手の方を見ると声をあげる、この少女に奥居は確かな見覚えがあった。肩を少し越える程度の蒼みがかった銀髪、間違いなかった。
--あのとき、受験で隣になった子だ--
「雅、もしかしたら俺たち甲子園に行けるかもな」
奥居は雅にそういって歩き出す。
あの子が合格しているかどうか、それすらわからないのに、奥居はなんとなく彼女と新月高校へ野球をする未来が見えたような気がした。戸井を打ち取れるほどの投手であれば、間違いなく面白いところへ行ける。彼は確かにそう確信した。
「どうしたんだい、でも、行ってみたいよね。甲子園には」
奥居に歩き出したのと同時に、雅もまた家路をたどっていく。彼らに待ち受けた高校生活へと思いを馳せながら……。
マイライフでお馴染みの奥居くんと共に登場した謎の少年、雅(まさ)。彼らの活躍はいかに……。