「ガンダーロボのように正義は必ず勝つでやんす!」
バレンタインの翌日、矢部は軽やかな足取りで登校している。
彼は、第1志望校であった新月高校から補欠合格の知らせが来たのだ。
--これを早速、戸井くんに伝えるでやんす--
矢部にはそのことを誰よりも知らせたい親友がいた。そのことを知らせたい親友、戸井の机の元へ向かい、喜びを伝えようとした。
「……」
しかし、この日の戸井はなにかに絶望したような様子で机に突っ伏していた。喜びを胸のうちにしまい、矢部は戸井から事情を聴く。
「空振りだったんだ」
響ちゃんに一打席勝負をして負けた、それも完敗だった。ということは戸井のプライドが口から出すのを許さなかった。
しかし、「空振りした」としか言わなければ、矢部には何をいっているのかがわからない。だが、矢部はここでひとつの結論を出す。
「もしかして、いたずらだったでやんすか?だからってそれほどブルーにならなくても」
もちろん、バレンタインにそういういたずらをするのはどうかと思うが、そういうことをしたがる男子も一定数存在するらしい。矢部はその手の軽いいたずらだと思い、彼を励まそうと明るい一言を贈った。
--本当に、矢部の言葉に悪意はなかったのだ--
それでも、野球に裏切られたような、何もかもが信じられない今の戸井には矢部の明るさが許せなかったのだ。彼は机を強く叩いて矢部を怒鳴る。
「矢部くんになにがわかるんだよ!」
戸井の怒号に矢部はひどく驚愕する。自分が志望校に合格した喜びを分かち合いたかったはずの友人が自分に対して怒りを露にしている。
「な、なんでやんすか!オイラは戸井くんを元気付けようと……」
「だからそれが余計なんだよ、ほっといてくれ!」
今の戸井には何を言っても効果がない、矢部がそのことに気づくためには、そして、今の戸井を見守ることが出来るようになるには、今の彼ではあまりにも若すぎたのだ。
「勝手にしろでやんす!オイラはもう知らないでやんす!」
矢部としても志望校だった合格の喜びを分かち合いたかっただけなのに関わらず、戸井に当たり散らされたことが悲しく、それがショックだったのだ。
戸井鉄男と矢部明雄、二人の野球少年の友情は大きな亀裂が入り、その亀裂は直ることなく卒業の時を迎えてしまった。
それから戸井は、野球推薦で神奈川の名門校、あかつき大学付属に進学し、どこの高校からも推薦が来なかった矢部は猛勉強の末、勉強もスポーツも中堅上位の新月高校へと進学した。
彼らの壊れた友情は思わぬ形で重要なファクターへ変化する。それは愚弄か啓示か、それは二人にすら分からないままであった。
響ちゃんは悪くないよ、タブンネ。
でも、響が結果的に彼の心を折ったのも事実なんだよなぁ。