1
新月の夜に
一筋の光
つかむため
走り出す
勇気をくれた
ああわたしたちの
新月高校
2
新月の夜も
消えない大きな
輝きを
煌めきを
与えてくれた
ああわたしたちの
新月高校
教室に入った響と美代子は、冴えない眼鏡の少年から声をかけられる。
「響ちゃん、高校からもよろしくでやんす!」
「あ、うん。よろしくね、矢部くん」
彼は響と同じ中学で、野球部の副キャプテンであった矢部明雄である。キャプテンだった戸井とケンカ別れして一時期は落ち込んでいたようだが、立ち直ったようだ。最も、彼らがケンカする原因を作ったのが響だということはお互いに知らないことだが。
「人違いだったらごめんだけど、武石中の矢部くんかな?」
美代子は矢部にそう尋ねると、矢部は嬉しそうに肯定し、頬が緩んだ。美代子によると、矢部は中学MVPの戸井を支えた名バイプレイヤーだという。
「ミヨちゃんは野球部に入るんだけど、矢部くんも?」
美代子が野球をやっていたことに驚く響、彼女も自らと同じように野球部に入ると聞き、響は再び安心した。
「もちろんでやんす!」
「あ、私も……」
響の発言は刹那の沈黙を産み出し、それから二人は驚愕する。
「「え!?」」
中学時代の響は、少なくとも矢部からは野球に縁の無い印象であり、矢部は驚いたように言葉を紡ぐ。
「どうしたんでやんすか!? 野球部に入ってなかった響ちゃんが」
「う、うん……春休みにちょっと。それにお父さんがプロ野球選手だったから」
響が動機を話していると、矢部は納得したように頷き、使いこまれた茶色のグラブを取り出す。
「これで野球部入部候補生とキャッチボールしようと思ってたでやんすが、どうでやんすか?」
「うん、いいよ」
響は矢部からの誘いに赤い紐で結ばれた青いグラブを取り出す。矢部はそのグラブに書いてある【Gunder-Robot】のロゴを見るや、食いつくようにそのグラブに視線を落とす。
「ハラショーのCDで応募できるガンダーロボモデルのグラブでやんす!なんで、響ちゃんがそれを持ってるでやんすか!?」
「私、ハラショーのファンだから」
原田将吾(はらだしょうご)、ハラショーの愛称で親しまれている人気歌手であり、冬クールに放映されたガンダーロボ最新作である【ガンダーロボ・エピソードzero】の主題歌を歌ったことで、話題を集めた。
響だけでなく、矢部も当然、ハラショーのCDを買ったのだが、チャンスを逃しやすい彼の性ゆえに、やはり抽選には外れてしまった。諦めきれない矢部は凛々しい眉を向けて眼鏡越しに真剣な眼差しで訴える。
「響ちゃん、そのグラブオイラに譲ってくれでやんす!」
「え、でもこれしかグラブ無いし……」
当然のように難色を見せる響、もちろん初心者ということもあるのだが、なんとなくただで譲るのは癪であったのだ。矢部は、そのグラブが外野手用のグラブであることに気がついた響に質問する。
「響ちゃん、ポジションはどこを希望でやんすか?」
「ピッチャーかな」
かつて、戸井を完全に抑え込んだあのマウンド。そこにもう一度立ちたいと、響は強く思うようになった。
響からポジションを聞き出した矢部は勝ち誇ったように響へ言った。
「そのグラブは外野手用でやんすから、投手には使えないでやんす。今週末に投手用のグラブをオイラがプレゼントするでやんすから、どうか、それを譲ってくれでやんす!」
初心者、しかもまともな野球経験が戸井との1打席勝負と春休みの草野球程度しかない響はグラブの形状が違うことに気づく機会がなかったのだ。
「そこまで言うなら、いいかな」
響は矢部に根負けし、グラブを譲ることにした。最も、自分で使うことができない、というのもあるのだが……。
「お前たちも野球部に入るのか?」
グラブを見せあっていた彼女たちに声をかけてきたのは二人組の男子。一人は矢部と同じ坊主に近い短髪男子で、もう一人は金髪を結っている女の子のような男子だった。
「俺は、奥居紀明(おくいのりあき)、こいつは小山雅(おやままさ)。よろしくな」
「3年間よろしく」
奥居と彼と共にいる少年、雅も響たちを見て好意的に接してくれた。
それから、お互いに軽く自己紹介をしていると、担任の教師が入ってきたので、生徒たちはそれぞれの席に座る。担任教師が自己紹介とプリントの配布を終えると、そのまま解散となった。
尚、担任の名前は玉置敬一(たまきけいいち)というようだ。
ガンダーロボの英字表記って【Gunder-Robot】であってるの(滝汗)
【ガンダーロボ・エピソードzero】
ガンダーロボの誕生までを描いた過去作、ハラショーの主題歌起用など、新規層取り込みを意識しているが、(矢部いわく)コアなファン層にも十分楽しめる内容だったらしい。
そして、まさかの矢部くん、響ちゃんとグラブを買いにいく約束を取り付けるファインプレー!
チャンスを作るだけなら彼だって……。