もしも隣人部に友達の少ないヲタクが入部したら⁉︎ 作:中井 修平
俺は小鷹のストーカー確保を確認して部室に戻る。
部室には夜空と星奈が待っていた。
取り付けていた無線機_____咽頭マイクを取り外す。
「小鷹、どうだった?」
「ストーカー確保、1名、明るく短い茶髪で中性的な顔立ちの生徒だ。骨格は女子生徒だが……男子の服を着ていた」
「それはどういう事だ?」
「う〜〜ん………」
夜空からの質問の答えを考えているうちに、俺の背後のドアが開く。
そこにはさっきのストーカー(?)生徒と、小鷹が立っていた。
「楠幸村ともうします、1年1組です」
幸村、と名乗った生徒が深々と頭を下げる。
「戦国武将みたいな名前ね」
「さようです、真田幸村のごとく、りっぱなにっぽんだんじになるようにと、父上と母上のねがいがこめられた名前なのです」
「にっぽん……だんじ……?」
夜空が幸村を見つめて問いかけ、それに幸村は何ともないように答える。
「はい、みてのとおりわたくしはだんしですが……」
「いや、見ての通りじゃないから……だいたい何で俺を付け回したんだ」
小鷹が本題に切り込む、幸村がどうして小鷹を付け回したか、だ。
「……じつはわたくし、いじめをうけているのです」
「ぅ……いじめか……この学校にもあるんだな……」
「いじめが無い学校など存在しない」
夜空が誰に言うでもなく、皆に語りかけるように言う。
「何であるんだろうな……いじめって……」
「決まっているだろう、楽しいからだ」
「楽しい?」
星奈の問いかけに夜空の言葉が続く。
「そうだ、人間は自分は傷つかずに他人を攻撃するのが好きだ。生き物を殺したり、ネットで誰かを叩いたり……虐める相手に落ち度があれば、大義名分を得て、更に気持ち良く虐められる」
「流石はリアルいじめっ子……」
小鷹の言葉に、夜空がバンと机を叩いて立ち上がり一喝。
「私をそんな連中と一緒にするな!」
「夜空の言っている事は正しい、いじめっ子は何らかの虐められる原因を探し出し、そこを徹底的に突いてくる。恐ろしいのは、
俺は夜空に援護射撃。
俺も小・中と虐めに遭っていた身、無視、暴力は当たり前、酷いものだと筆箱を隠されたり、本を便所に流されたり、テストの点数を黒板に貼られて晒されたりした。
今まで過ごして来た雰囲気を踏まえて……失礼かもしれないが、夜空は虐められっ子だったのかもしれない。
「そ、それがどうして小鷹を付け回す事になるの?」
空気を察した星奈が話題を反らす。
誰にでも、触れられたく無い暗部はあるだろう。
「はい、どうすれば小鷹先輩のようなつよいおとこになれるか学ぼうと」
「え〜?」
星奈が反応を示す。
「このヘタレヤンキーみたいに?」
「何ぃ⁉︎」
と、幸村が"如何に小鷹が男らしいか"を語り出す。
「きそくにしばられることなく、おのれの生きたいように生きられるそのすがたは、ごうほうにしてらいらく。よくぼうの赴くままに金品をうばい、いにそわぬものはちからをもって排除し、びじょをはべらせ酒池肉林のかぎりを尽くす、神をもおそれぬそのふるまい、まさに天上天下唯我独尊!」
「どこの董卓だそれは⁉︎」
流石に小鷹がツッコミを入れる。
確かに幸村の中の小鷹は美化されすぎている。
「俺は校則は守るしカツアゲはしたこと無いし女を侍らせた事も無いっ!」
「またまたごけんそんを」
「謙遜じゃ無ぇっ!」
幸村……マイペースなのか?
「つまり幸村は、虐められる事の無い強い男になりたいのか?」
「虐めってどんな事されてるの?」
星奈が虐めの内容を聞く。
曰く、同じ学年の男子達が仲間外れにすると言う。
体育の時間、幸村が着替える時に皆離れていく、ドッチボールの時、幸村だけ狙われない等だ。
それは虐めか……?
「それって虐め……痛ッ!」
小鷹が言いかけた時、夜空が殴って止めた。
そして夜空はこう続ける。
「それは可哀想だな、貰い泣きしてしまいそうだ」
若干棒読みだ。
「わたくしが女々しいからこのような仕打ちを受けるのです、わたくしが男らしくなれば、虐めも無くなるに違い無いのです」
「楠幸村……自らの力で困難に立ち向かおうというその姿勢、見事だ!小鷹の下で、しっかりと男の道を学ぶと良い」
「ありがとうございます」
だが……と言って夜空は幸村に紙を突きつける。
入部用紙だ。
「小鷹は我が隣人部の部員として忙しい身の上、お前が入部すれば、より身近で小鷹を観察する事が出来るぞ?」
「入部します」
「私の時と全然違うじゃ無いのよ⁉︎」
「まままま……落ち着け星奈」
星奈の入部に対する態度が違うとの抗議を夜空はスルーし、幸村はサラサラと入部用紙に記入していく。
「おいおい夜空……どういう事だよ?」
「いいじゃないか、舎弟が出来たと思えば、これで小鷹も一端の不良だな!」
「何が一端だ!」
「わたくしが小鷹せんぱいのしゃてい……うれしいです、ときにその……"あにき"とおよびしても?」
「……ぁぁ、好きにしてくれ……」
幸村が記入の終わった入部用紙を持ち、感激の瞳で小鷹を見つめる。
小鷹は呆れ気味に了承した。
「ま、我が隣人部にはもう1人男が居るんだがな……何なら2人に仕えるか?」
「おい、俺に降るな夜空」
「こちらの方は……」
幸村が俺に興味を示す。
「高岡裕翔、我が隣人部の部員だ」
「男らしさなら、裕翔の方があるんじゃない?ほら、不良に絡まれた時_____」
おい星奈、それは皆に内緒だったんじゃないのか?
俺は星奈に視線を送り黙らせる、ここで変な勘繰りされても困るからだ。
星奈は若干焦った表情を浮かべる。
「不良に?絡まれたのか?」
遅かった……何とか誤魔化さないと……
「あぁ……俺と星奈が一緒に帰ったときだな、不良3人に絡まれたんだよ……」
「そ、そう!それで裕翔、3人とも追い返しちゃったのよ!」
星奈がギリギリのところで話を合わせる。
「ほう……そういえば裕翔、今日は持って来てるな?見せてみろ」
「出すなって言ってたろ?」
といいつつ、ソフトケースを開けてライフルを取り出す。
「おおぉ……」
「どうだ幸村、裕翔にも仕えてみるか?」
「俺は舎弟は取ってない、小鷹に任せろよ」
「俺に押し付けるな!」
俺はライフルをソフトケースに仕舞う。
取り敢えず、目の前で隣人部の部員が1人増えた。
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「星奈、一緒に帰ろう」
「良いわ、一緒に帰る事なんて滅多に出来ないんだから、感謝しなさい?」
そうだな、と笑って返しつつ帰る準備をする。
夜空と小鷹、幸村は既に談話室を出ていた。
「隣人部にも2年生以外の人が増えたわね、しかも男子なんて、男女比率が偏っちゃったわね」
「あぁ、その事についてなんだが……」
「?」
「音声のサンプルを取ってデータを解析した……あいつ、女子だぞ」
「え……?」
「骨格が女子なのに男子の制服着てるからな、おかしいと思ったらやっぱりだ」
「ち、ちょっと待って!幸村は"りっぱなにっぽんだんじ"って言ってたわよ?それは……」
「……性同一性障害って聞いた事あるか?自覚が無いのであれば、もしかしたらそれかもしれん……」
「あぁ……生まれ持った性別では無いと思い込むあれ?」
もしかしたら……可能性は捨てきれない。
「とにかく、口外するなよ。幸村がああ言っている以上、幸村を尊重しよう。混乱も避けたい」
「わかったわ……あんた、結構優しいのね」
「優しかったら、俺にも友達がいるよ」
星奈は優しく笑うが、俺は苦笑いで返す事しか出来なかった。
俺は自転車を押しながら星奈を家まで送る。
5組で小鷹が舎弟に差し入れさせたという噂が立ったのは、翌日だった。
同じ日、小鷹が下級生の女子を襲って凌辱したという噂も立った。
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部室
「コーヒーがはいりました、あにき」
昨日から入部した幸村が、小鷹にコーヒーを淹れている。
「あ、あぁ……って何でメイド服なんだ……」
幸村はずっとメイド服を着て皆にお茶を出している。
「真の男になる為の特訓だ」
いや、それはおかしいだろ……
まぁ、幸村は骨格は女なので凄まじく似合っている、違和感仕事しろ。
「よぞらのあねごはおっしゃいました、しんのおとこたるもの、たとえどんなかっこうをしていようとも、かくしとおせぬおとこらしさがにじみでるものだと、このような……」
夜空はまたテキトーこいたのか……
「また適当な事吹き込んで……!」
「そう言う小鷹こそ、いたいけな下級生を凌辱したそうでは無いか……」
夜空はニヤリと笑いながら言う。
あの噂だ、2クラス飛び越えて3組でも小耳に挟んだぞ、どんだけ有名人なんだ小鷹は……
「小鷹……俺はお前軽蔑するわ……」
「なっ!してない!誤解だ裕翔!」
「冗談だよ……」
「つか、あの子は理科室登校してる人に馴染めない子なんだぞ⁉︎」
「ふん、どうだかな……」
夜空は若干本気そうに言う、まぁ、小鷹の性格からみて多分噂は事実無根の事だろうが……
「あっ、思い出した!」
テーブルの反対側で星奈が何かを思い出して声を上げ、皆が注目する。
「あんたが助けた子よ。天才発明少女、志熊理科。小学生の頃から電子機器・薬品・コンピュータプログラムまで色んなものを作り出して、企業に技術協力までしてるって話、だからパパ、授業に一切出なくても良いって条件まで出して、入学して貰った訳」
「授業に出なくて良いだと?」
夜空は驚いて星奈の話に聞き入る。
「そうよ、理科室登校。あの理科室自体、あの子の為に作られた物だし」
「超VIP待遇じゃないか、良いのか?1人の生徒をそんな特別扱いしても」
「ハァ?優秀な人間が凡人より優遇されるのは当たり前でしょ?あたしにも部屋の1つ位作ってくれても良いのにねぇ」
言いながら幸村からコーヒーカップを受け取る星奈。
「まぁそれはその子の研究部屋だからだろ、技術協力してるって話が本当なら集中して研究する部屋は要るだろうな。星奈は何かやってるか?そう言う事」
「なっ!あたしは存在自体がこの学校に貢献して_____」
コンコン、と、部室のドアがノックされる。
ドアがノックされる事は滅多に無く、皆がドアに注目する。星奈でさえ話を止めてドアを見つめていた。
ガチャ、とドアが開くと、1人の女子生徒が立っていた。
白衣を着て、限りなく黒に近い茶髪をポニーテールにしている眼鏡をかけた女子生徒だ。
その生徒はキョロキョロと部室を見回し、小鷹を見つけると表情を明るくする。
「見つけました!小鷹先輩!」
「な、何の用だ?」
小鷹の反応……白衣、雰囲気……
噂をすれば、の登場か。
「小鷹先輩がこちらの隣人部に所属していると聞きまして、理科も入部しようかと」
「入部⁉︎」
小鷹が驚きで声を上げる。
間違いない、この女子生徒がさっき話していた"志熊理科"だ。
星奈は少しだけ驚き、幸村は無表情を貫いている。
反応が皆と違ったのは夜空だ、眉間に皺を寄せ、一瞬だが険しい表情を浮かべる。
「入部届もこちらに……」
「志熊理科とやら」
夜空がソファから立ち上がり、理科につかつかと歩み寄る。
「この部はとある崇高な目的の為に活動している、その為、入部には条件が必要なのだ」
「目的と言うと……友達を作ると言う事ですか?」
「「⁉︎」」
やっぱり、流石は天才少女と呼ばれるだけあって着眼点が鋭い。
あのポスターでわかるモンなのか……と小鷹と夜空が驚愕している。
「理科、友達がいない事に掛けては自信がありますよ?」
「……入部資格は満たしているようだな……今日から貴様も、我が隣人部の部員だ」
夜空が入部届を受け取り、渋々と言った感じで入部を承諾する。
「やったぁ!これで放課後は毎日小鷹先輩と会えますね!ついでに皆さんもよろしくお願いします!私達の邪魔にならない程度に?」
「俺達はついでか?なぁ志熊理科よ」
理科が初めて俺に気づく、どうやら小鷹しか視界に無く、小鷹の後ろにいた俺に気付かなかったらしい。
「そう言えば……どなたですか?貴方は」
「俺は2年3組高岡裕翔、隣人部の部員。部長でもない俺が言える事じゃないが、風紀を乱す様な事はしてくれるなよ?お前のはしゃぎ様はそんな気がする」
「む……いきなり失礼ですね貴方」
「あ、おい何か当たってんぞ」
腕に抱きつかれている小鷹が何かに気付く。
「あ、すみません、エッチな本入れたままでした」
「エッチな本⁉︎」
「そんなモン持ち歩いてんのか⁉︎」
星奈が驚きの声を上げて席から立ち上がり、小鷹も驚く。
「……」
俺は無言でイヤホンを耳に刺し、音楽を聴きながら持って来ているソフトケースを弄る。
何故か理科はその本を広げて朗読を始めた。
ロボ×ロボのBL本らしいが、俺はその手の"薄い本"は苦手……と言うより無理だ。
ぐっヘヘヘ……とか言ってるけど……まぁ良くうら若い女子が朗読出来るもんだ……
あれか、俗に腐女子というやつか……俺が最も苦手とする人種だ。
人の趣味をどうこう言ったり馬鹿にするつもりは毛頭無いんだが……BLはちょっとな……
「……お前はおかしい」
「へっ、分かってましたよ、誰も理解してくれないって、でも理科は負けませんよ!」
朗読が終わった理科は、小鷹の腕に抱きつく。
「先輩、試しに理科と性行為でもしてみましょうか?」
「ぶっ!」
「なっ!なっなな、何を言っているのだ貴様は⁉︎破廉恥な!」
小鷹が吹き出し、夜空は軽いパニックななりかけ、星奈は後ろで口をパクパクしている。
幸村は相変わらず無表情だ。
俺は無言で本のページをめくる。
「しかし先輩、聞くところによれば、世の中には"セックスフレンド"というものがあるそうですよ?」
「無いっ!そんな友情は無い!」
「意外と純情なんですねぇ〜先輩」
理科が夜空をからかい(おちょくり?)、夜空が奥歯を噛み締める。
「とにかく!そういうのはダメだ!セ……とか、そんな不純な友情など私は認め無い!」
「しかし先輩、雄と雌の間に普通の友情など成立しないかと」
この一言が夜空の気に障った。
ついでに俺も我慢の限界が近づきつつある。
「そんな事無いッ!」
夜空が一喝、教室が静まり返る。
「ど、どうしたのよ夜空……?」
「な、何でも無い……」
「何やら地雷を踏んでしまった様ですねぇ……でも、これから色んな事しましょ?小鷹せーんぱい?」
星奈が夜空を気遣うが、理科は空気を読まずに無神経な発言を続ける。
俺は机に座りながら黙々と本を読み続けた。
これはあれだ、マトモに反応したら負けな奴だ。
「何であんなゴミみたいなポスターで……」
「何でこの子こんなに小鷹に懐いてんのよ……」
「え?何か言ったか?」
「「何も言って無いぞ(わ)!ふんっ!」」
小鷹は夜空と星奈に知らんぷりされる。
こうして部活仲間に、志熊理科という腐女子で変態な変人が増えた。
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その日も俺は星奈を家まで送る。
俺と星奈は帰る方向が同じな為、バスが無い時はこうして一緒に帰るのが普通になっていた。
「あの志熊理科って奴……とんでもねぇ奴だ」
自転車を押しながら俺は星奈に話しかける。
「え?何?もしかしてくっつかれてる小鷹に嫉妬しちゃった?」
「真面目に違うそうじゃない。あれ、皆をからかってるみたいに見える。多分、俺はああ言う人種と一生馬が合わないだろうな……」
そんな事を話しながら俺は星奈と歩き続ける。
柏崎邸の前に来ると、金髪の1人の女性が立っていた。
「お嬢様、お待ちしておりました」
「あらステラ?」
「知り合いなのか?」
星奈はその女性と知り合いみたい、女性の口ぶりから星奈の家のメイドさんかな?
「ええ、家令のステラよ」
「初めまして、ステラ・レッドフィールドです」
ステラ、と名乗ったその女性は、折り目正しく挨拶を交わす。
「初めまして、高岡裕翔です。星奈さんと同じ2年3組です、今日は星奈さんをここまで送って来ました」
「大義だったわ裕翔、また明日、学校で会いましょう?」
「ああ、また明日な」
星奈は先に門をくぐって行ってしまう。
「お嬢様がいつもお世話になってます、今後とも、変わらぬお付き合いをよろしくお願い致します」
「いえいえ、こちらこそ。いつも彼女_____彼女達と一緒に居ると、楽しいですから」
それにしてもステラさんって……あんまり表情を変えない人なんだな……
さっきからずっと真顔、幸村より表情に乏しいかもしれない。
「それでは、お気を付けて」
「ありがとうございます」
俺はステラさんと別れ、自分の家へと自転車を走らせた。
主人公の筈の裕翔君が空気だ……