もしも隣人部に友達の少ないヲタクが入部したら⁉︎ 作:中井 修平
「いつの間にか、もう1学期が終わってしまった訳だが」
夜空がいつもの様に髪を弄り、本を読みながら言う。
「そういえば、明日から夏休みだな」
小鷹のその言葉を強調するかの様に、外ではセミが鳴いていた。
夜空は椅子から立ち上がり、自分の髪を撫でる。
「知っての通り、我が隣人部の目的は友達作りだ」
で、と言葉を区切り、鋭い目線を浴びせる。
「この中で友達が出来た者……」
「「「………」」」
全員が口をつぐむ。
ここに居る皆が友達、という解釈も出来なくは無いが、友達か?と問われれば少し悩む、互いにそれ位薄い付き合いな気がする。
「それは"高校に入ってから" "この学園内での"友達って事か?」
「無論だ」
俺の問いに夜空がノータイムで返す。
その2つの条件に当てはまる友達はまだ居ない。
「友達と充実した夏休みを過ごす予定のある者」
「「「………」」」
また皆が気まずそうに目をそらす。
「つか、俺は部に入る前より評判が悪化した気がするぞ……」
「同じくー、目つき悪いせいで」
小鷹の言葉に俺は同意した。
何故か教室内では、俺が毎日礼拝堂に行っている事を目撃し、小鷹も目撃されている為、
「私も前、『柏崎さんって、クラスの殺人犯と、5組のほら、ヤンキーと付き合ってて、二股かけてるんだって?ギャハハー!』ってクラスの女子が噂してるのを立ち聞きしちゃったわ……あいつら許さない……」
「俺は殺人犯呼ばわりかよ……」
何も殺ってないのに……
まぁ、クラスの人間の根も葉も無い低俗な噂に惑わされたり、心を乱されたりする事も無い。
"そんな噂しか出来ない可哀想な奴" "前世でザリガニ頑張ったから人間になれた人間1週間目の奴"そう思っていれば腹も立たない。
「その……ごめんな」
「なんつーか……すまん……」
「べ、別にあんた達が謝る事じゃ無いわ!」
星奈が謝罪を遮ってそう言った。
理科は紅茶を啜ってからこう言う。
「そういえば皆さん部活って、今までどんな事をして来たのですか?」
「ゲームしたり……ゲームしたり……」
「……ゲームしたり……」
「ほぼゲームしかやってねぇな」
多分、隣人部を創ってからろくな事をしてい無い気がする。
「基本遊んでいるだけなんですね……」
そう言った理科に返す言葉も無い。
……………………………………………
暫く沈黙が続く、星奈のギャルゲのBGMしか聞こえない。
「……ねぇ、ちょっと聞くけどさ、あんた達、カラオケって……」
行った事ある……?と消え入りそうな声で俺達に問う。
「まぁ、前の学校に居た時は何度か……」
「中学の時の親友と行ってた」
「あるぞ」
「「「ぅえ⁉︎」」」
夜空がカラオケに行った事があると言う事実に皆が驚く。
夜空がカラオケ……だめだ想像出来ない。
「何故そこまで驚く?」
「いや〜……あんまりカラオケ行きそうなイメージ無かったから……」
「だよなぁ……」
「私はこう見えても、市内のカラオケボックスを全て行き尽くしたカラオケ通だぞ?」
「そりゃ凄いな!1人で市内のカラオケボックス全制覇とは……」
遠夜市だけで46箇所のカラオケボックスがある、1人で全部行ったのか……?
「何故1人だと決めつける?カラオケボックスは友達と行くものに決まっているだろう」
また驚きの声が上がる。
夜空に友達……だと⁉︎
「友達と行くカラオケは楽しいぞ!トモちゃんは歌が上手いだけでなく、聞き上手の盛り上げ上手で、いつもあっという間に時間が過ぎてしまう……」
「あぁ……トモちゃんね……」
小鷹がため息を吐く、どうやらトモちゃんとやらを知っているらしい。
「トモちゃんって誰?」
「夜空の中にいるエア友達だってさ」
「はぁ?」
何それ、エアギターの友達版?
何か、夜空を凄く痛々しい人を見る目で見てしまう。
「何故そんな哀れむ様な顔をする」
「いや、そんな……」
小鷹が夜空に軽く睨まれてタジ……としてる中、星奈は寂しそうな表情を浮かべる。
そんな星奈に小鷹が質問する。
「星奈は行ったこと無いのか?」
「無いわよ……悪い⁉︎」
うぉっ!開き直った。いっそ清々しいな。
「高貴なあたしがカラオケなんて低俗な庶民のお遊びを、やった事ある訳無いでしょ⁉︎」
星奈……お前悔しいんだな……
「全然興味も無いわ!あんなの!中学で誘われなかった時も、ちっとも悲しくなかったんだから!」
「分かったから、落ち着けよ」
小鷹は地雷を踏んだ責任を感じてか星奈を落ち着ける。
その小鷹の後ろで理科が声を上げた。
「先輩?理科もカラオケは行った事無いです。前々から興味はあったのですが、
理科が小鷹を誘うと、今度は夜空が声を上げた。
「ま、待て小鷹!カラオケの事なら私に任せろ!いい店を知っている」
俺も良いところ知ってるんだけどなぁ……まぁここは黙っとこう。多分後で星奈が爆発する。
「案内してくれるのか?そりゃ助かる」
「あにき、わたくしもカラオケ屋さんにはいったことはありません」
「くっくっく……我も久々に混沌の
幸村はいつもの口調で、小鳩もいつもの厨二ワールドを展開させつつ言う。
「んじゃ、いつにする?どうせ明日から夏休みだし」
「私も明日の午後ならいいぞ」
「同じく」
「いつでも大丈夫です」
「わたくしも」
「じゃあ明日だな。待ち合わせは……」
と、話がトントン拍子で進んで行く。
星奈が取り残されているので、そろそろ……
俺は星奈に声をかけた。
「星奈も行こうぜ?カラオケ」
「……っ!べ、別に、皆から取り残されて寂しい訳じゃ無いし!」
「星奈の歌聴いてみたいなぁ……上手いだろうしな」
星奈の肩がビクッと揺れる。
おお……葛藤してる葛藤してる。
俺は皆に聞こえる様に言った。
「実は俺も良いカラオケ屋を知ってるんだ、遠夜駅から徒歩1分。料金も学生向けで、ジョイじゃなくてライブダムの入っているカラオケだ」
「あぁ、"ichi☆bang☆星"だな?彼処はソファーの質が低くてな……」
「それをしても、最新の曲まで入ってるし、ドリンクバーは初めから。それに何より安くて近いってのが魅力的だよ。星奈も行かないか?」
星奈の肩はプルプルと震え、テレビの前からスックと立ち上がる。
「し、しょうがないわね!そこまで言うなら、このあたしの美声を聴くが良いわ!」
「という訳で、その"ichi☆bang☆星"に行きたいと思うんだが、どうだ?時間は1時、昼飯は食っておく事」
皆が少し悩む。
「何だ肉、今は高貴なお肉様がちっとも興味が無くて、行きたいとも思わないカラオケという低俗な庶民のお遊びの話をしているのだが……」
「まぁ……そこでいいか」
「こ、小鷹⁉︎」
星奈をボロクソ言っていた夜空が小鷹の言葉に驚く。
カラオケなら任せろと言った手前、他人の意見に乗るのは気に食わないのだろうか。
「理科もそこでいいですよ、楽しみです!」
「あにきのぎょいのままに、裕翔のあにき、ありがとうございます」
「くっくっく、我もそこに行っても良いぞ?」
形勢逆転、遠夜西駅から徒歩10分のカラオケ屋より、遠夜駅徒歩1分のカラオケ屋の方がいいだろう。
「…………なら、私もそこで……しかし肉、貴様はカラオケに行きたいとでも言うのか?」
「……い、行きたいわよ……」
「聞こえないなぁ?」
始まった……夜空の
「……行きたいわよ!」
「へ?何だって?」
「あたしも一緒にカラオケに行きたい!」
星奈が夜空に叫ぶ。
「そうか、だが私はお前と一緒には行きたくないなぁ」
「一緒に行くかどうかは夜空、お前が決める事じゃない」
夜空は俺に
「何だ裕翔、お前は肉の味方をするのか?裕翔は肉に甘いなぁ」
「生憎どっかの政治家みたいな事なかれ主義じゃ無いんでね、やり過ぎには介入する」
「肉の味方をして、ヒーローでも気取っているのか?」
「夜空の言っている事は色々おかしいぞ」
俺と夜空のやり取りに、星奈が割り込む。
「そうよ!何で皆とカラオケ行くのに夜空の許可が必要なのよ!しかも裕翔が決めた事じゃない⁉︎」
「今更それに気付くとは、貴様は本当に脳味噌が足りないなぁ」
「ぐぬぬ……!バカ!アホ!死ねバカ夜空!」
星奈は拗ねて談話室を走って出て行ってしまった。
ある意味いつもの通りの風景である。
「さて、肉が出て行ったところで、本当の集合時間と場所を決めようか」
「鬼かお前は⁉︎」
星奈が出て行ったところで夜空がいつもの冗談を言い、小鷹が突っ込む。
「だから夜空が決められる事じゃない。夜空が勝手に決めたら夜空がボッチカラオケ行く事になるな」
「くっ……」
夜空が星奈をイビり、星奈が拗ねて泣きながら走って出て行く。
ある意味恒例と化しているこの状況を見て、裕翔は今日も平和だと思った。
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いつも通り星奈を送り、途中スーパーで買い物をして帰宅。
明日は休みだし昼からだし、適度な夜更かしが出来る……
パン、卵、牛乳が無かったな……今日は昨日の焼きそばが残ってるから、刻んで肉追加してソバメシにしよう。
ズボラ飯だけど、意外と美味い。
制服を着替えて夕飯を作り、テレビを観ながら食べる。
兄貴が1人暮らしを始めてから既に1ヶ月近く、もうこの生活にも慣れた。
風呂掃除、洗濯、その他家事を済ませ、学校の課題に手をつけ始める。
夏休みの課題が出ているので、今日中に出来るだけやってしまおう。
その日は午前2時頃まで課題を続けていた。