もしも隣人部に友達の少ないヲタクが入部したら⁉︎ 作:中井 修平
午前10時、起床。
起きた瞬間、感覚で遅刻を確信して変な汗がブワッと出て来たが、そんなでも無かった。
集合時間は1時なのでまだ少し時間がある。
多分隣人部の皆が爆笑して過呼吸を起こしそうなくらい酷過ぎる寝癖を直し、ワックスで少しだけ整える。
7部丈のカーゴパンツを履き、胸ポケットのある半袖のTシャツを被る。
その上から紺色の薄い麻のシャツを羽織る。
少し長めのグレーの靴下を履き、部屋を出る。
スマートフォンと予備のバッテリー、財布には充分金が入っているが、念の為途中で下ろそう。
幸い夏休み初日で平日の為手数料がかからずに済む。
あとはハンカチティッシュ。
持ち物はOK、戸締りOK、火の元OK。
いつものブーツを履いて家を出る。
自転車を出し、遠夜駅まで走らせた。
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遠夜駅までは自転車で大体45分。
西口の駐輪場に自転車を停め、駅のデッキ近くで待つ。
カラオケ"ichi☆bang☆星"は駐輪場の隣のビルに入っているのだが、流石に外は暑すぎる。
特に暑い時間に集合の為、駅の中で集合する事にした。
到着したのは11時半、まだまだ早い。
駅の中にフードコートあるから昼はそこで済まそう、1時まで時間潰して居よう。
あとは、部屋を取るんで予約入れておこうか。
そうすればスムーズに入れるし、ライブダムがある部屋に当たれる。
そう思い、裕翔はまず本屋へ向かい、買った本をスターバクスでコーヒーを飲みながら待つ事にした。
読みながら時間を潰していると、昼の時間になる。
フードコートへ移動し、サブ○ェイでサンドイッチを注文して食べる。
そのままそこで本を読んでいると、集合時間の20分前になる。
遅れるのが嫌な俺は、そろそろ待合場所に行こうと席を立った。
コンコースに着くと、既に俺と小鷹以外のメンバーが来ていた。
「よっ、早いな」
「裕翔は早く着いていたのか?」
「あぁ、自転車なんで早く着いてたんだけど、時間潰してた」
最後に着いたのは小鷹だった。
「皆早いなぁ、また10分前だぞ?」
「私は理科より5分遅れて来た」
「わたくしはあにきが来られる20分前に着きました」
「私が来たのは、星奈先輩が来られる15分前です」
「あたしは幸村より5分早く来たわ」
「何で皆そんなクイズみたいな言い回しを……」
幸村を基準に考えると……
幸村→12:30着
星奈→12:25着
理科→12:10着
夜空→12:15着
……かな?
「皆早いなぁ……んじゃ行くか」
西口へ向かってコンコースを歩き始める。
西口のデッキに出ると、子供が遊んでいる。
このデッキは下のロータリーの歩道橋としても使えるので、子供が鬼ごっこをしているのをよく見かける。
「……?小鷹、どうした?」
「……っえ?いや、何でもない」
急に立ち止まった小鷹を急かし、デッキを歩く。
西口の南側にはビジネスホテルがあり、その角のデッキを左に曲がる。
突き当たりの2本の階段の左側を降りれば駐輪場、その隣のビルに入っているのが目的のカラオケ屋だ。
狭いエレベーターに7人が乗り、3階へ。
目の前にあるのが目的の店だ。
「いらっしゃいませー」
「13時で予約している高岡ですけど」
「はい、13時フリータイム7名様でご予約の高岡様ですね。会員カードや割引券はお持ちでしょうか」
俺は財布から会員カードと20%割引券を店員に渡す。
「こちら週末なので10%割引になりますがよろしいでしょうか?」
「構いません」
店員がパネルに何かを入力したり、レシートの様なものに記入したりしている。
「割引券使うのね……」
「セコイな……」
「うるせえよ、安い方がいいだろうが」
星奈と夜空が後ろでコソコソ話している。
庶民派な俺は何でもいいから財布の負担は減らしたい。
「学生様ですか?」
「はい」
「では学生証の提示をお願い致します」
俺はまた財布から学生証を出し、店員に見せる。
皆も学生証を店員に提示した。
学生証を見せると学生料金で利用出来るのだ。
「では係の者が案内致します、ドリンクバーは無料になっておりますのでご自由にご利用下さい」
「こちらです」
もう一人の店員に部屋へ通される。
18号室に通され、それぞれが座る。
「それではごゆっくりどうぞ」
店員が部屋を出て行った。
座っている順番は奥から
夜空、小鷹、小鳩、幸村、テーブルを挟んで、理科、星奈、俺だ。
俺が音量とエコーレベル、マイク音量を調節しながら言う。
「それじゃ、1人700円先に出しといて」
「1人700円だと⁉︎」
夜空が声を上げる。
「私がいつも行くところでは、トモちゃんと2人で800円だったぞ⁉︎」
「トモちゃんはエア友達だから1人に数えない、以上」
あーあー、とマイクをチェックする。
取り敢えず皆が財布から700円を出し、テーブルの上に置く。無論俺もだ。
選曲パネルを出し、テーブルに置いた。
「本から選んで番号を打ち込むやつじゃないんだな」
「何時のカラオケの話してんだよ……最近は皆タッチパネルでキーワード入れるやつだぞ」
俺はパネルを操作して曲を選ぶ。
「それじゃ、取り敢えず俺から……」
精密採点を入れ、曲を入れる。
まぁ、最初だから盛り上がる曲を……
曲のイントロが始まる。
「【放て!】」
〜♪〜♪
歌い終わった。
「さーて、何点かな……?」
点数が出る。
「85……まぁまぁかな……」
「ふっ、まだまだね」
「うるせー、一杯一杯だ」
後ろで星奈がからかって来る。
星奈なら最も高い点数出るだろうなぁ。
演奏中止で採点画面を切る。
「先輩、歌上手いですね!ちょっと聴き惚れちゃいました」
「いや、多分俺より上手いのがこの中にいるぜ」
次は幸村の番だ。
演歌のイントロが流れ始める。
「このうたを、あにきにささげます」
そう言うと、演歌を歌い始める。
「【命〜燃〜や〜す〜と〜き〜】』
〜♪〜♪
幸村、終了。
点数が出る。
「84……それなりにがんばりました」
幸村は小鷹に向き直りながらそう言う。
「そ、そうか。よく頑張ったんじゃないか?」
「ありがとうございます、あにき」
すると、激し目のイントロが流れ始める。
「くっくっく……我が美声を堪能するがよい……!」
次は小鳩の番か……
「…はーっ!」
大きく息を吸い込み、歌い出す。
〜♪〜♪
小鳩、終了。
何か星奈の目がキラキラしてる上に若干よだれが出ている。
「くっくっく……さぁどうじゃ!」
点数が出る……
「78……あんちゃぁん……」
「あ、あぁ……残念だったなぁ、また次頑張ろう」
「うん!」
次、小鷹の番だ。
小鷹はちょっと自信ありげな表情でマイクを受け取る。
「さて、いくか!」
曲のイントロが始まる。
「【時々、もしかしたら何も、かも夢なんじゃないかと思う】』
〜♪〜♪
小鷹、終了。
「すばらしいうたごえでした、あにき」
「先輩、良い声してますね!濡れてしまいそうです……」
「くっくっく……7000年前貴様と共に闇夜を駆け抜けた時代を思い出す……」
「そんな思い出ねえよ……」
「ふっ、では私だな……」
小鷹のマイクが夜空に回る。
静かにイントロが流れ始め、モニターにタイトルが表示される。
"二人の背中"
「【窓越し、歩く君の背中。ずっと、見つめてた】」
夜空、歌上手い……
引き込まれる様な歌声だ。
夜空にカラオケ行きそうなイメージ無かったから、凄く驚いた。
〜♪〜♪
夜空、終了。
「「「おぉ〜」」」
俺、小鷹、幸村は拍手を送り、夜空がドヤ顔で髪を撫でる。
「さて……点数は……」
点数が表示された。
「96.4⁉︎こりゃすげぇ……」
「ふふ、私にかかればこんなものだ……」
「夜空にしては中々やるじゃない?ま、あたしには敵わないけどね!」
星奈がやめればいいのに夜空を挑発する。
「そうか、では貴様が負けたらここで全裸になってもr」
「鬼かお前は!」
「やめとけ、星奈が再起不能になるから」
「あ、先輩、次は理科の番ですよ!」
激し目のイントロが流れる。
「【駆け抜けて!夜明けの先まで、2人繋がるトキ迎えよう】」
あ、この曲好きかもしんない。
〜♪〜♪
理科、終了。
理科は最後、マイクの持ち手を舌先で舐めてマイクにキスをする。
「どうです先輩!理科の"ラブ・マイク・フィニッシュ"!ゾクゾクきましたか?」
「来ねぇよ!」
小鷹がすかさずツッコミを入れる。
「えー、徹夜で考えたのにぃ〜……」
「タダでさえ汚いマイクが更に汚くなるからやめろ、誰が触ったかわからんから雑菌だらけかもしれんぞ」
「ゔえ"」
俺が理科にそう言うと理科はトイレに直行する。
多分、口でも洗いに行ったのだろう。
今のうちにマイクをウエットティッシュで拭いてやる。
因みに点数は89点だった。
この部の歌唱力、地味に高いな……
「あ、次はあたしね!マイク貸して!理科が舐めたやつじゃない方」
次は星奈の番だ。
星奈もナチュラルに酷い事言ったな……まぁ普通か?
聞き覚えのあるイントロが始まる。
「あ、俺この曲知ってる」
「知ってるの?じゃあオリジナルとあたしの歌い方どっちが良いか聴き比べなさい!」
「【左手に隠した】」
〜♪〜♪
星奈、終了。
「やるじゃん星奈!」
「へへ〜ん、どう?あたしの美声は!」
結果は……
「96.8、現状最高得点ね!」
奥の席で夜空が悔しげに顔を歪めている。
「あんなのまぐれだ、採点がおかしい。次こそは自己ベストを出してやる、貸せ裕翔!」
「次俺だから、順番は守れ」
「くっ……」
俺は既にパネルで選曲してある為、自動的に次の曲が流れ始める。
「【unknown soldier】」
それからカラオケが5時間近く続いた。
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「あ"〜……歌い過ぎて喉が痛い……」
「おつかれさまです、あにき」
「先輩のその枯れた声で罵られたら理科、Mに目覚めてしまいそうです!」
「自重しろバカタレ」
小鷹は疲れて眠ってしまった小鳩を背負い、会計へと歩く。
その後ろを夜空と星奈がげっそりとした表情でついてくる。
途中から採点での争いが始まり、ヒートアップした結果だ。
結果的には夜空の勝利、最高得点の99.4を叩き出した。
しかし98点や99.2等を出した回数は星奈の方が多いので、回数だけで言えば星奈が勝ちと言えない事も無いが、最高得点で競っていたので夜空の勝ちだ。
会計をして人数分の割引券を貰い、みんなに配ってエレベータでビルを出る。
この位の時間帯になると、仕事終わりの会社員や週末をエンジョイする大学生で居酒屋が賑わい始める。
そして俺は、この位の時間は結構好きだったりする。
「これで1学期のぶかつもおわりでしょうか」
歩きながら、幸村が零す。
「40日間も先輩とイチャイチャ出来なくなっちゃうんですね……」
「待て理科!今まで俺とイチャイチャして来たかの様な言い方するな!」
「あにきのパシリも出来なくなるのですか……」
すると、先を歩いていた夜空が振り返る。
「お前ら一体何を言っている?夏休みも普通に活動するぞ」
「部活やるのか?夏休みも?」
「まぁ、運動部はともかく、吹奏楽や化学部、映画研究部も夏休みは活動するしな」
「そうなのか?裕翔」
「そらそうだろうよ。うちだけがやらない道理は無いし、夜空ならやると思うぞ」
夏休みの部活動予定は、職員室前のホワイトボードに書き込まれている。
この前通りかかった時にそれを見ると、文化部も活動する事が書かれてあった。
隣人部がやらない道理は無い。
「そもそも夏休みはリア充がますます充実する季節だ。我々がリア充になった時、夏の訓練をしておかないと、余りのリア充度に死にかねんぞ」
そう夜空が言うと、理科がそれに呼応する。
「ガラスのコップに熱湯を入れると、割れてしまうのと同じ理屈ですね!」
「あぁ、その通りだ」
「「そりゃ熱膨張だろ……」」
俺と小鷹のツッコミが被る。
「次の活動は来週月曜、夏休みまでに友達が作れなかった原因を各自考えて……」
「は〜〜い」
星奈が手を上げて発言しようとする。
この空気は……
「何だ、肉」
「失敗した原因は、夜空が無能すぎるからだと思いま〜〜す!」
げっ……始まる……
止せばいいのに、星奈もさっきの腹いせか挑発してくる。
「実は私も原因には幾つか心当たりがある、それは肉が余りにも馬鹿すぎる事、肉が余りにもウザ過ぎる事……低能で無能で、存在自体が部にとって、いや世界にとってマイナスにしかならない事だ」
俺と小鷹はそんな言い争いを始めた2人を尻目にとっとと駅の改札まで歩く。
「そっ、そこまで言う⁉︎」
「確かに言い過ぎた……貴様が世界にとってどれだけ有害な物質であるかを完璧に説明するのは不可能なのに、無駄な言葉を重ねてしまった」
……どうでもいいけど、階段のところで言い争い始めんなよ……邪魔だ……
しかも通行人皆見てるぞ……
「あにき……」
「振り返るなよ……」
「先輩……」
「振り返るんじゃない……」
そのまま俺達は階段を登り歩き始める。
「夜空のアホーーーーッ!バカァーーーっ!死ねぇぇぇーーーーっ!」
いつも通り夜空が星奈を言い負かし、星奈が半泣きで走り出す。
デッキの下で階段を通り過ぎ、駅前を通ってデパートの方へと走って行ってしまった。
「ふんっ、毎度毎度しょうがない奴だ……」
夜空がそう言いながら俺達に追いつく。
そりゃお前もだろ……と余計な事を言うとまた長引きそうなので飲み込んだ。
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「夜空」
「ん?」
「この1ヶ月、割と楽しかったぞ、ありがとな」
「ふんっ」
小鷹が夜空に言葉を掛け、照れ隠しの様に夜空が返す。
そういえば、夜空が始めたんだよな、隣人部って……。
夜空からしてみれば、俺はお邪魔だったかもしれないけど……
「俺からも礼を言うよ、皆と出会うきっかけを作ってくれてありがと、夜空」
「ふんっ……別に」
こいつ……テンプレの様にツン返しするんだな……
皆を改札まで送り届ける、俺は自転車だから駐輪場にとんぼ返りだ。
「それじゃ、また来週」
「小鷹〜〜!」
たたた、と走り去ってしまった星奈が息を切らせて戻って来た。
「星奈……?」
「つ、伝え忘れてた事があるの……昨日、パパに話したら、夏休みなら時間取れるから、いつでも会いに来なさいって……何かパパも会いたがってたみたいだったわ」
「そ、そうか。それじゃ、今度行くよ」
……話の内容が見えない。
星奈の父親が小鷹に会いたがっている?何かあるのかな……
「来る時はあたしに言ってね?」
「おう」
「ち、ちょっと待て!」
混乱からいち早く復活した夜空が2人の間に割り込む。
「な、何で小鷹が肉の家に行って、その、ち、父親に挨拶するのだ?」
「ふ〜ん」
「あぁ、俺達が……」
小鷹、と星奈が夜空を遮る。
「それ秘密にしといて?問題あるかもしれないし」
「あぁ、そ、そうか。わかった」
「ひ、秘密だと……⁉︎」
「別に夜空には何の関係も無い事だしね〜、小鷹があたしの家に来ようが、あたしのパパに挨拶しようが、夜空には全然関係の無い事だもんねぇ?」
星奈……さっきの仕返しか……
「じゃ、小鷹、よろしくね」
「あぁ」
そういって星奈は後手を振り、改札を通ってホームへと降りて行ってしまう。
小鷹や理科、幸村もそれに続く。
夜空はと言うと……悔しそうに顔を顰めていた。
はぁ……と溜息をつく。
なるほど……こいつ、星奈と小鷹との距離が自分より近いと気に食わない……って事か。
「因果応報だ、夜空」
「何だと⁉︎この私が間違った事をしたとでもいうのか⁉︎」
「何が原因かは知らねぇが、星奈に食ってかかりすぎ」
「肉の味方をするのか!裕翔は⁉︎」
「味方をするつもりは無い、事実星奈もやり過ぎだと思う事は多々ある。それを差っ引いても、突っ掛かり過ぎだ。今日のやりとりも、通行人ドン引きだったぞ」
「私は肉が部活にどれだけ悪影響を及ぼしているか、正しい事を言ったまでだ」
「俺はそうは思わない、星奈を引き剥がすんじゃなくて、自分が距離を縮める事を考えろ」
ぐっ……と、夜空が言葉に詰まる。
その頬は少しだけ朱に染まっている。
「自分で考えろ、じゃぁな」
余り大声で駅内で話すと、周りの人にも迷惑がかかる。
俺はこの位で切り上げて、駐輪場へ向かった。