もしも隣人部に友達の少ないヲタクが入部したら⁉︎ 作:中井 修平
ある日、俺はいつもの様にソフトケースを背負って鞄を持ち、教室を出る。
このソフトケースの中身も原因の一つなんだろうなぁ……
だが、俺はこれを手放す気は無い。
これは俺の唯一の趣味で、アイデンティティーの1つだからだ。
星奈に声を掛けようとしたが、既に教室には居ない。
帰りの
廊下を歩いていると、既に見慣れた背中が2つ。
「小鷹、夜空」
「あぁ、裕翔か」
「おお、裕翔。今日はそのギター弾いてくれんのか?」
「ギター弾かねぇって……」
雑談しながら礼拝堂へ向かう。
談話室4に着くと、既に星奈がいた。
というか……20インチのデカい液晶テレビとゲーム機が置いてある。
「何持ち込んでんだよ……」
「ヤンキーだけあって無知ね、これはプレイングステイツⅢとテレビジョンという文明の利器よ、電気で動くわ」
違うそうじゃない。
「未開人かよ俺は……」
「俺も持ってるよそれ位……何で部室にそんなモン持ち込んでんだよ……」
「あら、あんた持ってるの?なら話が早いわね。モン狩りみたいなクソゲーより、あたしが友達作りに役立つゲームを持って来てあげたって訳。感謝しなさいクズ共」
「黙れ肉、コーヒーが不味くなる」
夜空は開けた窓枠に腰掛け、何時の間にかコーヒーを飲んでいる。セットは多分私物だ。
「あーっ!あたしが持って来たティーセット勝手に使わないでよ!」
ほら。
夜空が目をそらす。
理事長の娘だけあって、テレビやプレステ、ティーセットを直ぐに準備出来る程金持ちな様だ。
「俺モン狩り売った、PSPも」
「早いな!」
「金は無限にある訳じゃないし、俺にも趣味があるもんで……」
と、星奈がその"役に立つゲーム"を持って来た。
パッケージから明らかにギャルゲーと判るそれは、"きらめきスクールライフ7"というタイトルだった。
「いわゆるギャルゲーって奴か」
「部の活動に相応しいゲームでしょ?」
「確かに、他人と会話する練習になるかもしれないな……」
「7まで出てるって事は、よっぽど反響があるか、シリーズ物で3〜4辺りがクソゲーだったか……」
にしても何でギャルゲーを……
「でもこれって男向けじゃないか?女の子向けでイケメンと仲良くなるのもあるだろ……」
「はぁ?男なんかと仲良くなってどうすんの?」
「さいですか……」
疑問をぶつけた小鷹が星奈に一瞬で黙らせられる、この辺りに男が口喧嘩で女に勝てない原因がある気がする……
星奈はプレステにディスクをセットする。
テレビの前にプレイヤーの星奈、ギャラリーの小鷹、夜空が集まる。
「裕翔は?見ないのか?」
「あぁ〜……えっと、俺はこういうゲームちょっと苦手でな……何か見てるとむず痒くなってくるというか……」
「そうか」
小鷹が俺に声をかけたが、俺は断った。
こういうゲームは見てるこっちが若干気恥ずかしくなってくるから、あまり見ない様にしてる……俺が友達が出来ない原因はここかな……興味の無い事には徹底して無関心なトコ。
夜空が淡白な反応を示し、向こうはゲームをスタートする。
俺はポケットからスマートフォンを取り出し、イヤホンで音楽を聴きながら2ちゃんねるのまとめサイトで情報収集を始める。
その最中にも、音楽の流れるイヤホン越しに星奈達の声が聞こえてくる。
「ちょっ、何よせもぽぬめって⁉︎」
「良い名前じゃないか」
夜空がプレイヤーの名前を勝手に弄って変な名前にしたらしい。
おかげで星奈のプレイヤーはせもぽぬめという名前が付いてしまった。
その後、クラスで初めて"藤林あかり"という女の子に話しかけられるシーンでは。
「「3
「何でだ⁉︎」
星奈と夜空が普通にギャルゲーをしていたらありえない選択肢を選んだ。
その後で夜空と星奈がキャラクターの事を信用出来ないだのビッチだのボロクソ言っている。
俺は情報収集に飽きてきた為、2ちゃんねるから映画に切り替える。
その後、ゲームは進み、俺が映画を観終わって2時間後、星奈のキャラは星奈が目星をつけていたキャラに見事に振られていた。
テレビの前には、orz状態で号泣している星奈と、テレビに背を向けて考える人のポーズで表情を暗くする夜空の姿が出来上がっている。
軽い攻略本になってい説明書を読まずに藤林というキャラに酷い態度を取り続けた結果だ。
めっちゃ感情移入してんな、星奈……
夜空はスッと椅子から立ち上がり、ドアを開ける。
何処かに行こうとする夜空に小鷹が声をかける。
「おい、どこ行く気だお前は?」
「……藤林あかり……ぶち殺す……」
と言って部屋から出て行ってしまった。
俺と小鷹は溜息を吐き、小鷹に夜空を追っかけさせる。
「大丈夫か?星奈?」
「有希子ぉ〜〜〜!」
談話室に星奈の鳴き声が響き渡った。
「後で一緒に有希子攻略しよう?な?」
「……ほんとに……?」
涙目で振り向く星奈。
うわ……泣き顔を絵になるとか……
俺は少しドキッとしたが、背中をさすって泣き止ませる。
「後で一緒にやってやるから、な?」
「うう、わかった……」
取り敢えず、星奈は落ち着いた様だ。
因みに後から聞いた話だが、あの後夜空は金属バットを持ち出して"藤林あかり"に似てる女子生徒を探していて小鷹が必死で止めていたらしい。
===========================
次の日。
何時もの様にソフトケースを背負って鞄を持ち登校していた時。
「裕翔!裕翔!」
星奈の声だ。
周りを見回すと、柱の陰から星奈の手が覗いている。
「?」
その柱に向かうと、箱を突然突き付けられる。
一瞬身構えたが、よく見てみると昨日星奈がプレイしていた"きらスク7"だ。
星奈は「にひ〜」と、めっちゃ良い笑顔でそれを俺に差し出した。
「あんたプレステ3はあるんでしょ?それ貸したげるから、帰ったらすぐやりなさいよね?特に藤林あかりの3年目のイベントなんて、マジ泣けるんだから!」
「昨日ビッチだ何だってボロクソ言ってたじゃんか……」
「あかりの事を悪く言わないで!」
……せなー?ちょっと目がマジになってる、完全にのめり込んでんなこりゃ……
「あ?」
「良い?あかりはね?幼い時に両親を亡くして、1人ぼっちで苦労してきたの。それでも世間を恨むこと無く、周囲に笑顔を振りまいているのよ…!」
どうやら昨日一通りやって全キャラを攻略したらしい。
それで藤林あかりへの考えるが変わった訳か……
「なるほどねぇ……」
「あんたも全員分のエンディングを見るべきだわ!わかった?」
俺に詰め寄る星奈、よく見ると目の下にクマがいる。
……モン狩りの時と同じか……
「ま、気が向いたらやってみるわ」
取り敢えず社交辞令でどうにかしようと思ったが。
「だめ!気が向いたらじゃなくて絶対やる事!これは義務よ⁉︎」
きらスクは全ての国民がプレイすべきゲームよ?これは言うなればそう、人生、かしらね?
と自論を語り始める星奈、すげぇのめり込み様。
外の鐘が鳴り、授業の予鈴になる。
「あ、いけない遅れちゃう!絶対やるのよ!良い⁉︎」
と言って星奈は鞄を取って駆け出す。
「あっ、ちょっと待ってよ星奈!」
隣人部活動記録……星奈が7人の女の子と仲良くなった。
……ただし2次元で。