もしも隣人部に友達の少ないヲタクが入部したら⁉︎   作:中井 修平

8 / 19
いつもの3倍位長いです。


星奈とプール②

日曜日 遠夜駅西口 5番バスターミナル

 

西口の駐輪場に自転車を止め、バスターミナルまで歩く。

駐輪場の2階から駅前のデッキにそのまま出られるので、通路を歩いてデッキに出る。

デッキから5番ターミナルを見ると、長い金髪に蝶の髪飾り_____既に星奈が来ていた。

 

「早っ!」

 

走って階段を降り、星奈の元へ向かう。

 

「遅いわよ!」

 

「す、すま……ん」

 

星奈はカラフルなワンピースにカーディガンを羽織っていて、いつもの制服とは違う印象だ。

強いて言えば……星奈らしい。

いいとこのお嬢様みたいだ……実際そのままだが。

 

ちなみに俺は普通のTシャツにジーンズだ。

 

星奈とバスに乗り、バスは竜宮ランドに向けて走る。

星奈は暇なのか、バスの窓の外を眺めていた。

 

竜宮ランドは遠夜市の郊外にある通年で遊べる屋内プール施設だ、だいたいバスで45分位で到着する。

 

俺達はプールの切符を買い、改札に通す様に入り口に入る。

 

「じゃあ、出口で待ってて」

 

「ああ、後でな」

 

更衣室に入ると、6月に入ったばかりという事もあってか、かなり空いていた。

ロッカーを1つ借り、プールサイドで使わないものを入れていく。

 

普通の海パンに着替え、プールサイドで使う最低限の物だけ持ってロッカーに鍵をかけた。

更衣室から外に出ると、やはり更衣室同様空いている。

 

暫く外で待っていると、星奈が着替えを終えて出てきた。

 

「お待たせー、裕翔」

 

「お、おう」

 

星奈は薄いピンク色で黄色に縁取られた水着を着て、パーカーを羽織っている。

そして頭にはいつもの髪飾り。

やはり、どうしても星奈の大きな胸に目が行ってしまう。

 

「……何よ」

 

「別に……取り敢えずシャワーだな……行くぞ」

 

そう言って俺と星奈はシャワーへ歩き出す。

なるべく見ないようにしよう……見ても落ち着いていこう……いつもの思うけど、こいつの体は健全な男子高校生には刺激が強い……

 

「あんた、その水着……」

 

星奈が俺の海パンを指差す。

 

「海パンがどうかしたか?」

 

「あんたが使ってたベルトとは、迷彩が違うなと思って」

 

「あぁ、これは海軍の迷彩だよ。陸軍だけじゃなくて、海軍も空軍も独自の迷彩を持ってるんだ」

 

「へぇ〜、詳しいのね」

 

シャワーの手前に濡れないように荷物を置き、シャワーを浴びる。

 

「きゃっ!つめたっ!」

 

星奈は髪飾りを外し、シャワーを浴びて準備をする。

軽く準備運動をし、プールサイドにやって来た。

50mプールにはあまり人がいなく、練習には良い感じだ。

 

「星奈、ゴーグル使うか?」

 

「水中で目くらい開けられるわよ!」

 

「……んじゃ、後で使うか」

 

取り敢えずゴーグルは置いておき、プールに入る。

 

「ん」

 

俺は星奈に手を差し出す。

 

「自分で下りるわ」

 

星奈は梯子を後ろ向きに下りる。

落ち着け高岡裕翔……平常心平常心……。

 

50mプールの水深はだいたい1.2〜1.3m、身長170cmの俺は肩が出るが、俺より背の低い星奈は水中で爪先立ちしている。

 

「んじゃ、言ってた通り水中で目ぇ開けてみて」

 

「いいわよ」

 

はーっ、と息を肺にいっぱい吸い込み、星奈が潜る。

俺も追って潜り水中で目を開けると、水中で星奈が目を開けてウインクとピースをする。

 

俺は水中で目を開けて親指を立てる。

どうやら水に対する恐怖心は無さそうだ。

 

ぷはっ、と2人同時に水面から出て顔を拭う。

 

「オッケーだ、でも水中で目ぇ開けてみてどうだった?対象は鮮明に見えたか?」

 

「ううん、何かピントが合ってなくてボヤけてる感じだったわ。それに若干痛いし、水面に上がってから目を開けるまでに時間がかかる」

 

「そこで鮮明に見えるようにするのがゴーグルだ。目が開けられる開けられないに関わらず、ゴーグルはつけた方がいい」

 

「分かったわ」

 

1度プールサイドのゴーグルを取ってきてゴム紐を後頭部に回し、着ける。

俺は2つ持ってきていた為、一つを星奈に貸した。

 

「髪が絡まるからあんまりしたくないのよねぇ」

 

なるほど……確かに後頭部のゴム紐が絡まるな……

 

「そっか……ごめんな」

 

「なっ……良いのよ」

 

ゴーグルを着けたところで、泳ぎの練習に入る。

 

「星奈は速く泳ぎたい?それとも長距離を泳ぎたい?」

 

「う〜ん……速く、かしらね」

 

「ならクロールだな、取り敢えずバタ足から入ろうか、こんな風に手を伸ばして」

 

星奈は手を真っ直ぐ前に伸ばし、俺は星奈の手を取る。

 

「あんまり顔を水面から出そうとして仰け反ると逆に沈むから、顎が水面に着く位にして」

「それから息を大きく吸って止める、肺が浮き袋代わりになるから足離しても浮くよ」

 

俺は次々と指示するが、星奈は一つ一つを上手く飲み込んでいく。

 

「そしたらバタ足で進んでみて、ただバタバタさせるだけじゃなくて、水を足で蹴り出す感じで」

 

星奈の足が水面を叩き、ゆっくりと体が前進していく。

 

「上手いぞ星奈!」

 

バタバタ……と星奈はある程度まで進むと底に足をつける。

 

「そう?」

 

バタ足で基本が終わると、手を回す動作も入れる。

バタ足、手の動き、息継ぎの仕方等、教えれば教えるだけ、スポンジが水を吸う様に技術を吸収していく。

 

50mのクロールで俺と競争した時は、俺に追いつきそうな程上達していた。

 

「速えなぁ星奈……」

 

星奈が水面から顔を出し、ゴーグルを外しながら言う。

 

「残念、もうちょっとだったのに」

 

「俺はクロールより平泳ぎで長距離を泳ぐ方が得意なんだけどな……」

 

「そう?じゃ、午後は平泳ぎも教わろうかしら。それにしても、泳ぐのって全然簡単じゃない」

 

と言って星奈は俺にギャルゲを貸した時の様に「にひー」と笑う。

 

「っと……そろそろ飯にするか」

 

「そうね、お腹も空いてきたし」

 

壁の時計を見ると、既に12時を回りっているし、星奈の言う通り腹も空いてきた。

 

適当に席を見つけ、星奈を座って待たせる。

焼きそばとオレンジジュース、コーラを注文し、星奈のところへ戻る。

人が並んでいなかったせいか、すぐに買う事が出来た。

 

「おまたせ」

 

「ありがと、思ったより早く泳げる様になったわ。これで何時夏美が表れても大丈夫ね!」

 

「無えよ、絶対」

 

俺は席に着き、焼きそばの蓋を開ける。

やっぱ、こういう所で食べる焼きそばって何故か美味く感じる、夏祭りの焼きそばとか。

 

「……それにしても、何度か来た事はあったが、豪華な施設だよなぁ……」

 

「もうすぐ潰れるっぽいけどね」

 

「それ本当か?初耳だ」

 

確かに、6月初めと言う以上に空いている……いや、ガラガラだった。

 

「後何年持つかって、前に市長がパパに話してたのよ」

 

「理事長か……」

 

そういえば、星奈は理事長の一人娘だ。

理事長の娘、スタイル抜群、成績優秀、スポーツ万能、おまけに美人のお嬢様。これに嫉妬しない女子なんか居ない。

 

「ん……肉……」

 

「ん?何よ?」

 

「あー、焼きそばの肉が……固いのがあった。軟骨かな」

 

「紛らわしい事言わないでよ……!」

 

肉……確か夜空がモン狩り皆でやった時にそう呼んだっけ。

でも肉って……

 

「でもお前、しっかり反応してんじゃん」

 

「あの馬鹿!変なあだ名つけてくれちゃって……」

 

「その割にはあっさり受け入れて無かったか?」

 

すると、さっきまでの表情が一変、照れた様な表情を見せる。

 

「あ……あだ名って初めてだったから……その……ちょっと、嬉しくて……」

 

「あー、まんざらでもないって感じか」

 

「よ、夜空には絶対ナイショだからね!ていうかほら裕翔!食べ終わったなら早く泳ぎに行くわよ!」

 

「ああ、でもちょっと待ってて」

 

俺は残っていた焼きそばをかき込み、コーラで流し込んだ。

 

===========================

 

トイレを済ませ、手を洗う。

 

初めてのあだ名ね……肉ってあだ名か……?

まぁ、俺も中学の親友からは苗字で呼ばれてたし、クラスでは"高裕(たかゆう)"って呼ばれてたけど……

 

トイレを出ると、声が聞こえてくる。

 

「このアマ!」

「てめー!」

「あんた達みたいなモブキャラ風情が、このあたしと対等に口を聞けるとでも思ってんの?」

「このアマ!」

 

……星奈、絡まれてんじゃん……

 

「つーかさっきから何なの⁉︎ホラだのアマだの、ワンパターンな反応ばっか!ボキャブラリー貧困すぎじゃない⁉︎」

「ざけんなよコラ!」

 

星奈は煽るし、DQNは煽り耐性無いし……まったく……

 

「おい見てみろよ、こいつ脚震えてるぞ!」

「うわマジだ」

「なんだビビってたのか」

 

げっ、やばい。

ここから見ても星奈の脚は震えてるように見える。

 

「なっ!何勘違いしてんのよ!震えてるわけないでしょ⁉︎」

 

「星奈」

 

俺は絡まれてる星奈に声をかけると、星奈は俺に反応する。

 

「裕翔!」

 

「ぁあ⁉︎何だテメーは⁉︎」

 

DQN1、背のデカイ刈り上げ。筋肉質。

DQN2、ロン毛、中肉中背。

DQN3、青髪、チビ、金魚の糞っぽい。

 

俺は自慢(じゃない)の"人殺しした事ある様な目つき"でDQN3人集を睨む。

 

「あぁ、俺はそいつのツレだけど」

 

「チッ、男連れかよ……」

 

「なら最初っからそう言えよ……」

 

DQN2とDQN1がそう吐き捨てて踵を返し、離れていく。

 

よしよし……このままどっか行け……

 

「待ちなさいよ!」

 

星奈がDQN3人集を止める、どうやら文句が言い足りないらしい。

俺は「やめろ」という視線を送ったが、頭に血が上った星奈には届かない。

 

「良くもこのあたしを侮辱してくれたわね……!這い蹲って土下座でもするのが筋ってもんでしょうが!出なきゃ可及的速やかに死ぬか⁉︎」

 

「何だとテメェ!」

 

星奈の文句にキレたDQN2が、星奈に殴りかかる。

俺はDQN2の拳を手で止めた。

 

「おいお前、腹が立っても、手を上げるのは人として底辺のゴミ屑だけだぞ」

 

「テメェ!」

 

DQN1も、今度は俺に殴りかかる。

DQN1の拳を止め、2人の拳を腕ごと捻り上げる。

つま先で後ろを向いたDQN2の膝裏を蹴って地面に伏せさせ、DQN1は一緒に捻られている腕の痛みを避けるために膝を突かざるを得なくなった。

 

完全に腹這いになったDQN2の腕に膝を乗せて体重をかけ、DQN1の両腕を抑えて手が出ない様にする。

DQN2が空いている片腕を振り回すが、背中に乗って重心を抑えられている為届かない。

 

「「イデデデデデデデ!」」

 

「お、おいテメェ!」

 

取り残されたDQN3はこの2秒間に実演された事にビビって手を出せない。

やり方は幾つもある、いわゆる近接戦闘術(CQC)

 

「何?やる?俺がこのまま足と手を動かせばこいつらの腕折れるけど……」

 

「くっ……」

 

「すまんな、ここは引いてくれ。彼女には良く言っておくからさぁ……」

 

俺は腕が折れそうで苦痛の声を上げているDQN1と2を離し、解放する。

 

「くそッ……」

 

そう吐き捨てて、DQN達は離れていった。

ふぅ……と息を吐くと、後ろにいた星奈が俺に声をかける。

 

「ご苦労さん裕翔、特別に足を舐めてもいいわよ?全く……身の程を弁えない頭の悪いやつは困るわ」

 

こいつ……此の期に及んでふざけてんのか⁉︎

 

「頭の悪い奴はお前もだバカが!」

 

「な……何よ⁉︎」

 

「なんでわざわざ煽って挑発するんだアホウ、ナンパ目的で近づいてくる奴は何考えてるか分からねぇモンスターだ、それになんで食ってかかる⁉︎」

 

星奈はスタイルも良い美人だから、ナンパの対象になるのは分かるが、下手したら……

 

「な、何なのよ裕翔、せっかくあたしが褒めてあげたのにお説教⁉︎」

 

「当たり前だ!もしアレがもっとタチの悪い奴らだったらどうなると思ってる⁉︎一生心に残る傷を負わされたり、下手すれば殺されるかもしれないんだ!ここは部室じゃない!弁えてないのはお前もだ!」

 

「う、うっさいわね!その時はその時よ!裕翔には関係ないでしょ⁉︎」

 

……俺は怒りで頭の思考回路がショートした。

星奈の肩をぐっと掴む。

 

「今何つった、関係ないっつったか⁉︎関係無い訳あるかバカ!ここで手を出されて連れて行かれたら、俺の寝覚めが悪くて仕方ねぇよ!」

 

「………かっ……関係無く無いって……」

 

星奈が顔を赤くして俯く。

 

「〜〜ぁあ〜もう分かったわよ!今度から気をつければ良いんでしょう⁉︎」

 

「そうだ、気をつけろよ。お前はただでさえ人目を惹くんだから」

 

「……」

 

星奈は俺の手を払い、俺に背を向ける。

 

「き、今日はもう帰る……」

 

「もう良いのか?」

 

「うん……」

 

星奈がそう言ったので、俺ももうここにいる必要は無い。

荷物を纒め、帰る事にした。

 

===========================

 

シャワーを浴びて素早く着替え、星奈を待つ。

10分程待つと、星奈が出てきたのでバス停まで一緒に歩く。

 

「……悪かったな」

 

「何がよ?今更お説教の事?」

 

「そうじゃねぇよ、肩、痕付いただろ」

 

星奈の肩を掴んだ際、思いの外強く掴んでしまった為、若干赤く痕が着いていた。

 

「帰りのバス代は俺が持つ」

 

「……うん……」

 

帰りのバスは何となく離れて座った。

プール同様ガラガラのバスの通路を挟んでそれぞれ窓側に座る。

 

星奈からの視線を感じて振り向くが、星奈は目を逸らしてしまう。

ちょっと……感情的になって言い過ぎたかな……

 

バスは遠夜駅に着くまで無言だった。

 

出発の時と同じ5番ターミナルに到着するバスから降りた俺達は、階段を登りデッキに出る。

 

「……じゃあ、ここで」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

このまままっすぐ歩けばコンコースに入れる。

 

「き、今日はありがとね、その……いろいろと」

 

星奈は立ち止まり、こちらを振り返る。

 

「また行きましょ?波のプールとか遊びたいし」

 

そう言ってニコッと笑い、また行こうと誘ってくる。

俺は笑顔にドキッとしたが、なるべく取り繕う。

 

「あ、あぁ。何時でも言ってくれ」

 

「それじゃ、また明日ね!」

 

そう言うと、星奈はコンコースに走り出す。

 

「機嫌、直ったのかな……」

 

プールで不機嫌にさせてしまったのかと心配だったが、直ったのだったら良かった。

俺は戻り、デッキを左に曲がって2階から駐輪場に戻る通路に入る。

 

よし、家まで5km、自転車漕ぐか……

 

===========================

 

家に帰り、来週から1人暮らしを始める兄と最後の夕食を摂る。

取りながら他愛も無い話をする。

 

「今日はどこ行ったんだ?」

 

「竜宮ランド、部活仲間に泳ぎを教えてた」

 

「男?女?」

 

「女」

 

「何っ⁉︎オナゴとプールだとっ⁉︎」

 

「変な勘繰りすんなよー何もなかったから……DQNに絡まれたけど」

 

「助けたのか?」

 

「当たり前だろ」

 

「そうかー、その子はお前に惚れただろうなぁ……」

 

「変な事言うなよ」

 

笑いながら夕食を食べる。

何でもないこんな時間が、幸せなのかもしれない。

 

===========================

 

何時ものように、飯を食ったらテレビを見て、風呂に入り、歯を磨いて寝る。

ベッドに横になっていると、脳内を今日の星奈の笑顔が浮かんだ。

 

「(何で今日、最後にあんな良い笑顔を……)」

 

そこに、夕食時に兄から言われた一言が重なる。

 

《その子はお前に惚れただろうなぁ……》

自分の顔が赤くなっていくのがわかる。

俺は考える事を止め、素直に睡魔に身を委ねた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。