私は、人を殺すことを生業として生きている。いつものように、私は悪徳の政治家を殺害した。
幾度なく人を殺しては、それの死の瞬間を見てきた。死というのは、非常に呆気なく、簡単なものだ。だが、人の死の瞬間は、人を殺し続ける者にとっては、価値あるもののように思える。
鉄の味がするはずの血は、いつしか甘く感じるようになっていた。
太陽は、地面から約90度の角度に位置し、心地よい微風と共に、博麗神社の庭の草木たちを明るく照らしている。
箒を片手に、黒の大きな魔女を思わせる帽子に、白黒の面白い服装で、ミディアムヘアの金髪少女が、縁側から中へ入ってきた。彼女の名は、霧雨魔理沙。見た目は可愛らしい女の子だが、それとは裏腹に、男口調で強気でボーイッシュな印象が強い。
「・・・ということは、お前は外来人なんだな」
霊夢の神社の居間で、三人がテーブルを囲むように座っている。
互いの自己紹介を終え、自分がここにいる理由を簡単に話した。勿論、自分が殺し屋であることなどは触れずに話した。
「外来人?」
私はもう一度訊きなおした。昔、海外から日本へ訪れた人間のことを渡来人というふうに呼んでいたが、多分、外来人というのは、外の世界から来た人間に指す言葉だろうか。
「ああ。外来人ってのは、お前のように外の世界から幻想郷に迷い込んだ人間を言うんだ」
予想通りの回答だった。魔理沙は、急に何かをひらめいたような動作をすると、勢いのある口調で私に話しかける。
「そうだ!静音。私が、幻想郷を案内してやるよ!」
「ダメよ」
魔理沙の言葉を否定したのは、お茶を、再び湯呑に淹れている霊夢だった。そして彼女は続ける。
「彼女は普通の人間だし、それに左肩に怪我までしてるのよ。危ないに決まっている」
案内するだけで、危険だということの意味がよくわからないが、結界を作り出すことができる霊夢のように、普通でないものが、この幻想郷にはあるということなのだろうか?
「いや、大丈夫だろ。何かあったら私が助けてやれるし。まさか、霊夢は私の腕を信じてねえってのか?」
「そういうことは、私に一度でも勝ってから言ってよね。まあ、彼女がいいなら、いいんじゃないの?」
二人の会話の内容の理解は難しいが、とりあえず、魔理沙は私を案内したがっているようだ。結界を作り出すことができる人間を目にした私は、この世界にとても興味が湧いた。
「あ、えっと、魔理沙さん、よろしくお願いします」
実を言うと、アメリカに長く隠れ住んでいたので、日本語を話すのはかなり久しぶりである。話せないわけではないし、別段、どうということはないが敬語で話す癖はきっと、直ることはないだろう。
「よし、決まりだな。まだ昼間だし、早速行こうぜ」
魔理沙に誘われた私は、彼女と一緒に縁側から外に出た。その時、霊夢が大きな袋包みを外に持ってきた。
「これは・・・?」
私がその袋包みを見つめると、霊夢はゆっくりと結ばれた包みを解いていく。
「あなたが倒れていた時に落ちていた物品と、あなたが着ていた服よ。見る限り、悪趣味だわ」
そこには、綺麗に畳まれた黒色のズボンと、黒色のパーカーのに似た服。その上に、ニコッと笑っているピエロのマスクと、刃の部分以外がすべて黒色の大きめのタクティカルナイフと、黒色のナイフホルダー。太ももに巻きつけるタイプのハンドガンホルスターがあった。ホルスターの中には愛用しているベレッタがあった。
私はこれを見て、霊夢に向かって苦笑するしかなかった。
とりあえず、今着ている和風の袴は結構気に入っているので、上下の服は霊夢に預けることにした。そして、ハンドガンホルスターからベレッタを取り出すと、癖で、無意識に弾倉を取り出し弾数チェックを行った。弾倉の中に入っていた弾は恐らく10発程度。予備弾倉もないからいざと言うときは非常に厳しい。
「静音さん、何しているの?それは何?」
霊夢は、困惑した表情で私の行動を不審がった。
「ああ。いえ、すいません。何でもないです。えと、これは・・・」
自分の世界に入っていた私は、霊夢の言葉で我に帰った。咄嗟に謝ったが、彼女は拳銃を知らないのだろうか?人を殺す道具という風に説明するわけにもいかないので、とりあえず護身用の道具だと曖昧にして回答した。
とりあえず、スカートをあげて、右の太ももに、ハンドガンホルスター。左の太ももにはタクティカルナイフホルダーを着用した。久々の感覚だった。
「準備はいいか?」
魔理沙の言葉に私は、はい、と応えたが、その瞬間、魔理沙は手に持った箒を横に倒して、何と、箒の取っ手部分に跨るのだ。
「えと、何してるんでしょうか?」
その魔理沙の意味不明な行動に、私は困惑の表情とともに、質問をした。
「何って今から幻想郷の案内をするんだよ。ほら、早く箒に乗れって」
「いや、でも箒に乗っても・・・」
私が困惑していると、霊夢は魔理沙の代わりに説明をした。
「ごめんね。静音さん。こいつ、こう見えて、箒で空を飛べるのよ」
「こう見えてってなんだよ、どう見ても魔法使いって感じだろ!?」
驚きで声も出なかった。結界だけでなく、この世界には魔法すらも存在するというのか。私はファンタジーの世界にも迷い込んだようだ。隔離されているとはいえ、同じ陸続きの世界に存在しているとは思えない。
「安全運転でいくからさ、安心して乗ってくれ」
私は恐る恐る、箒に跨って魔理沙の腰に私の腕を巻いて抱き付く。
「じゃあ、行くぜ」
魔理沙の言葉のあと、二人を乗せた真上に高く飛び上がった。本当に、箒で空高く飛び上がったことで驚きと、落ちるかもしれないという不安で、より一層、魔理沙に巻き付けている両腕の力を強めた。
が、その恐怖も、私がふと、下の景色を目にした瞬間消え失せた。真下には、大きな深い緑色の塊が見え、その手前には人里だろうか?家のようなものが固まって集落になっている。
私は、高い位置から見た幻想郷の景色を見て感動したのだ。山の山頂から見下ろす景色に近いだろうが、私は山へ登ったことがないため、こういう景色を目にしたのは今が初めてのことだ。
「どうだ?いい眺めだろ?」
と、魔理沙は笑いながら私に声をかける。
「はい・・・」
全くその通りだった。私は、見たことのない上空からの景色に見惚れながら、比較的彼女よりも小さな声で応えた。
「ちょっと寄り道するか。人里通り越して奥まで行こうぜ」
どういうつもりなのかは知れないが、彼女は人里をよらずに幻想郷を空で回ろうと考えていた。
確かに、向こうが一体どうなっているのか気になるが、私としては人里を
一度、どのような雰囲気な場所なのか知っておきたかった。が、私が意見する前に、彼女は速度を先よりも上げて一直線に空飛ぶ箒を飛ばした。
しかし、魔理沙の取った行動は仇となって私の身に降りかかった。
「・・・まじかよ、おい・・・!」
魔理沙の叫ぶ声が微かに聞こえた。
箒の速度を上げて、人里を通り越した辺りだった。感覚的には、飛び始めて約15分といったところか?それより早いかもしれないが、少しづつ強くなりつつあった風は、急に強さを増して突風となった。不安定な箒の上だ。いつも乗り続ける魔理沙は平気だろうが、私の場合は別だ。その急な突風に私は驚き、体のバランスを崩してしまった。同時に、私は箒と完全に分離してしまった。魔理沙は片手で私を掴もうとして、私はその指し伸ばされた手をつかもうとしたが、一歩及ばなかった。
高度、数百メートルというとんでもない高さから私は、真っ逆さまに幻想郷の森の中へと落ちていく。視界はやがて闇の中に葬り去られた。