はっと、目が開いた。
私は気がつけば、広い草原の地面に立っていた。立ちながら眠っていたわけでないし、私は一体ここで何をやっていたのだろうか。私の覚えている最後の記憶は、禍々しい古家の目の前だ。少しの間、考えていると何かの映像が脳裏をかすめた。それは、何もないただ真っ白の空間の中で、目の前には人型の黒いシルエットのようなものが、私の目の前に立っていたのだ。それは、何故か私に右手を差し出していた。なんとも信じがたい不思議な光景だろうか。いや、私は既に箒で空を飛んだり、狼に似た化け物に襲われていたり、不思議なことなど十分すぎる程に経験している。今更そのようなことで驚いている暇はない。
ふと、首あたりに何か違和感を覚えた。私は右手で首あたりを触ると、白く細い紐と青色の宝石のような小さな石が、ネックレス状になって私の首に掛かっていた。私はこれに全くの見覚えがなかった。これが、いつどこで、誰にもらったのか、そもそも、このネックレスの存在すら私は知らなかった。
青色の石は一見、綺麗に見えるが、ずっと見続けていると禍々しい、良からぬ雰囲気のようなものを感じた。だが、私はこの石が何よりも美しく感じ、そのまま、青い石のネックレスを首にかけ直した。
それより、今はこの現状をどうにかしなければならない。とりあえず、人を探すべきだ。ここが草原だからといって森の時に襲ってきた化け物がいないとは、必ずしも言い切れない。日が暮れる前に、何としても人里か、博麗神社に戻らなければ。 ほぼ何の情報も無いなかで、私は淡々と、草原を歩きつづけた。
再び歩きはじめてから、まだ5分もたってないが、私は動きを止めて立ち止まった。
目の前に、綺麗な湖が見えた。湖と呼ぶには多少、小さい気もするのだが、水は透明で透き通っており、湖に顔をのぞかせると冷気が顔を刺激した。
このような湖も、私の住んでいた世界にあれば、観光の名所の1つになることは間違いないだろう。
湖に居続けても仕方がないので、私は湖の外周を歩いて先を進むことにした。
周りがだんだん薄暗くなってくると、いよいよ私も焦り始めてきた。
先よりも歩く速度を上げて、建物がないか探し続けた。
少し進むと、目の前の光景によって私は、安心感と歓喜に浸った。目の前には建物があったのだ。それも、とびきり大きな洋館だ。この何も無い場所に1件だけ建っているのは、考えれば不気味な話だが、今の私には関係ない。遭難している人間が、人が住んでいそうな洋館を見つけたのだ。これほど嬉しいことは他にないだろう。人が住んでいなかったとしても、野宿という、危険極まりない行為までに至らずに済む。
私は急ぎ足で、その洋館のすぐそばまで近づいた。
洋館は、茶色の煉瓦の塀で囲まれている。目の前には、大きな黒い鉄格子の両開きする門が見えた。ここが人が出入りする入り口だ。それより、気になっているものが一つある。門の右側の煉瓦の塀にもたれ掛かっている人間がいた。服装は中国で見られるような、緑色のチャイナドレスに小さな金色の模様が見える。赤い髪で、ロングの長い髪、耳元の髪を三つ編みにしている。真ん中に金色の星がついた緑の軍帽を被っていて、壁にもたれていた。
門番にしては不思議な格好に思えるが、魔理沙や霊夢の格好を見ればこの世界では普通のことなのだろう。とりあえず、人がいて助かった。眠っている彼女を起こして事情を説明し、中に入れてもらう許可を得てもらう事にした。
私は門番に近づいたが、彼女はどこか様子が変だった。
「寝てる・・・?」
私は思わず声を漏らした。塀にもたれている門番が、イビキをかきながら眠っているのだ。門番がそのような行為をするなど言語道断だ。雇い主に見つかれば即刻解雇はまず免れないだろう。
彼女の肩をぽんぽんっと優しく叩くが、一向に反応がなかった。次は、先よりも強めに叩いてみたが、それでも反応がなかった。どうしたものか。少し考えた後、多少強引だが、眠る門番の両肩を揺さぶった。それでも反応がなく、揺さぶるのを止めようとした直後だった。
腹部のあたりに声にならぬ程の激痛が私を襲った。咄嗟に、両腕で痛みを感じる腹部を覆ったが、その場で膝をついて苦しみ悶えた。一体何が起こったのかわからなかった。
「ああ・・・っうぁ・・・」
銃弾が身体を貫通する以上かもしれない痛みに何度も咳こみ、口からよだれが垂れる。
「不審者め。私が眠っていたことをいいことに、屋敷の中に入ろうとしたな」
門番は膝をついた私を見下ろしていた。
事情を説明しようと思って、ゆっくりと顔を上げたが、言葉がうまく口から出なかった。だが、透明の波動と言うべきなのか、気と言うべきなのか、とにかく、それが、彼女の右手を覆っていた。私はその右手で腹をえぐられたのだと理解すると、そのままゆっくりと目の前が暗くなった。
「ぅああ・・・!」
柔らかいベッドの上で、私は飛び上がるように上半身を起こし、その反動で腹部が痛み声を漏らした。
思い出せないが、悪夢を見たような気がする。額に汗を浮かべ、目覚めは最悪だった。
腹を抑えながら起き上がると、自分の服装が変わっていることに気付いた。
白色のふんわりとしたフレアスカートの服装だった。いつの間に着替えさせられていたのだろうか。しかし、袴にく比べてこの服装のほうが軽くて動きやすい。スカートは少し長いが気にはならなかった。
首の周りを手で触れると、やはり見覚えのない青色の宝石のような石がかけてあった。見覚えのない石を持ち続けるのも君が悪いが、捨てるのも勿体ない。御守として首にかけておくことにした。
次に周りを見渡すと、少し高めのホテルのような部屋に私は居るようだ。赤色が多く見られる壁に、白色の柔らかいベッド。小さな丸いテーブルと椅子くらいしかなかった。テーブルには私の銃やナイフなどの装備と、顔をバレないようにするためのマスクが置かれてあった。ピエロのような顔に、咲けた口がニヤリ笑っている不気味なマスクだ。このマスクは暗殺の対象となる人物のいる建物に、潜入する際に使用する。頭に固定するタイプの私の愛用マスクだ。
白いスカートを捲り上げて、ベレッタの入ったホルスターを右太ももに巻きつけ、左足太ももにナイフポーチを巻き付けた。袴だと、胸のあたりの襟の中に仮面をしまっていられたがこの服装だと、どうしても仕舞える場所がない。
これはテーブルの上に放置することに決めた。
しかし、いくら時間が経っても誰この部屋のドアをノックするものは現れず、私は次第に待ちきれなくなっていた。きっと、ここはあの洋館の中だ。私は門番に倒された後ここに運ばれてきたのだろう。敵だと判断して私を攻撃した人物を何故助けてくれたのかは不明だ。
まあ何にせよ、今すべきなのはこの洋館の主人に会うことだ。一向に部屋に誰も訪れないがので、開かないと思うがマスクを手に持ち、ドアの傍まで近づいてドアノブに手を伸ばした。
ギィ・・・、と音が鳴る。ドアはいとも簡単に開いてしまった。
ドアを出ると、正面は行き止まりで左右に薄暗い長い廊下が現れた。廊下に沿うように赤色のカーペットが奥に続いていていた。何となく、手に持っているマスクを顔に密着させると、マスクから伸びている黒い紐を頭の後ろの方で固定させた。これで激しく動いてもマスクが顔から離れることはない。マスク越しで視界が見えずらいように思えるかもしれないが、実はそうでもないのだ。目の部分は大きく穴が開いていて、マスクと顔は常に密着しているのでマスクが視界を妨げることはない。あえて問題を挙げるのなら、鼻での呼吸がしづらいことくらいだろう。
マスクを取り付けることに、深い意味は何もないが、今まで、一人で建物の中を探索するのときは大体、暗殺に関係してきたので常にこのマスクを愛用してきた。職業病なのか、私はマスクをしないと落ち着かない。
左右に分かれている長い廊下を私は右に行くことを選択した。これもまた何となくだ。薄暗い廊下を歩き続けても、人っ子一人どころか、何の物音すら聞こえない。この屋敷が広いのは分かるが、それでも、これほど人の姿が見られないものなのか。
廊下にはいくつものドアがあった。そのどれにも鍵が掛かっていて中に入ることができなかった。しかし、薄暗い廊下の右手側に、明らかに一つだけ不自然な両開きの扉が視界に入った。私の身長の2倍以上の天井に届きそうなほどの巨大な金属でてきた頑丈な扉だ。
金属の扉の奥から幼い少女のような声が微かに聞こえた。その声が気になった私は、頑丈な金属の扉に近寄った。両手を両開きの扉に添えると、何となく、扉に圧力をかけた。別に私は扉を開けるつもりで押したわけではなかった。どうせ、鍵が掛かっていると決めつけ開くことはないと思っていたのだ。しかし、その自分の考えとは裏腹に、頑丈な金属の扉は、いとも簡単に、低く鈍い音をたてながらゆっくりと開いたのだ。
ガシャンっと、扉が最大限まで開ききった音をたてた。私の視界に入ったのは、二人が並んで上り下りができる程度の広さの長い地下へ続く階段だった。地下へ続く階段にはしっかりと明かりはついていたが、廊下のものよりも極めて暗く、階段は奥に行くにつれて闇が深くなっていっていた。階段も含め、周りがセメントで作られているせいか扉の中は肌寒く、ものものしい雰囲気が立ち込めていた。
先ほど聞こえた少女のような声。それに、この階段の奥には何があるのか。それらが気になった私は、コツ、コツと足音を響かせ、階段の奥の深い闇の中へ惹かれる様に下りて行った。