カナリスは馬鹿である。それは、自他共に心底わかっている。だが、カナリスは自分が馬鹿であると言う事を知っている為、ほかの『バカ』よりも
―――馬鹿だなぁ、お前。馬鹿ならお前に勉強なんか教えて貰って無いだろう
と。勿論、笑われた。そして、言われた。
―――やっぱり、
と。別に、嫌な思いはしなかった。彼女は、生まれてこの方、と言っては大げさになるが、少なくとも、彼女が生まれて、小学校高学年に入ってからは、ずっと『馬鹿』と言われ続けていた。最初は、努力もしたし、勉学にも励んできたつもりだ。学習障害でもなければ、自閉症でもない。ただ単に、『頭の出来が悪かった』のだ。だが、神様と言うのは公平らしく、彼女に一つの才能を与えいた。
それは、操縦技術だ。彼女は、他人より乗り物の操縦が上手いのだ。他人には上手く説明できないのだが、『車の感覚がわかる』という感じがするのだ。車は同じ型、同じ生産ラインで組み立てられていても、やはり、『癖』と言うものがある。それは、例えばAという車は右にハンドルを切ると他の車よりも少し硬い、とかBの車は他の車よりもブレーキペダルが気持ち軽いとか。そう言う些細なものだ。
もちろん、それらは整備や調整でどうにもでもなるが、彼女の場合、それが
曰く、『一輪車が乗り方を教えてくれた』との事だ。もちろん、幼い子供にはよくある『妄言』として先生は処理し、親もそう思った。彼女の親は、自動車の修理工だ。しかも、レーシングカーやバイクと言った専門の修理工で、有名なレーシングカーのチームから助っ人を頼まれるほどに優秀だ。
そのため、彼女の家に隣接するガレージには数台のレーシングカーやバイクが常に入っている、環境だった。彼女が学校から帰ると、家にあるガレージに遊びに行き、勝手に修理中の車に乗り込んでは遊んでいた。もちろん、父親には叱られたが、ある日、『この車、心臓が痛がっている』と父親に告げた。その車は、よくわからないが出力が上がらないのと言う訳で、修理に出された車だった。
父親は、最初は相手にしなかったが、あまりにもしつこかった為に、車の心臓であるエンジンを取出し、1から分解したところ、ガソリンを圧縮し、爆発させる場所に小さな傷を発見したのだ。傷を直して、再びエンジンを掛けたところ出力は大幅に上がったという。
それ以来、父親は彼女を車の運転席に乗っけてたりした。しかし、彼女は余り車が好きではなかった。なぜなら、レーシングカーやバイクを見るとS字の道路をわざわざその通りにくねくねと曲がったりするのだから。
それを父親に言うと父親は呆れた顔で『そういうもんだ』と答えた。それでも彼女は『まっすぐ進めば近いじゃん』と思っていた。S字の両脇に建物だったり川だったりすれば、彼女もあきらめる。だが、普通に芝生だ。それ以来、彼女は直進せずにグネグネと曲がる車やバイクが嫌いだった。
そんな、彼女が戦車に出会ったのは中学校の頃だった。実家が実家なので、バーナーの使い方や研磨の仕方等を知っていたため、なら、工業高に行けばいいじゃないという安直な将来設計をしていた彼女を心配に思った親が、ユークレインの中高大一貫の学校に入れたのだ。
入学の際は、父親の名前だけで一発合格し、面接でも父親が『うちの子は車の悪い個所がわかり、そこの修理が出来る。勉強はできないが、あんたの会社で誰よりも腕の立つ修理工なれる』と面接に居合わせた社長に大見得を切り、特別に輪転が一つ割れたⅥ号戦車の悪い個所を言い当てさせたのだ。それ以来、彼女は勉強せずに100%実技クリアーでやってきた。
そして、ユークレインの入学式でユークレインの製造した重戦車たちが現れ、道路があろうが、途中に塀があろうがすべてをぶち壊して前進して行くと言うとんでもない迫力満点な光景を目にした。
それ以来、彼女は戦車が好きになったのだ。S字カーブも直進し、塀があっても直進する。中等部には戦車部がなく、高等部になったらすぐさま戦車部に入った。しかし、その頃の戦車部は戦車の性能テストや装甲の被弾実験ばかりやっている部活で、カナリスの好きな『障害物をぶち壊し、乗り越えて大砲を撃つ』という物とはかけ離れていた。
もちろん、戦車に乗りたいと部長に告げれば、好きな物に乗れと倉庫に眠っている戦車を指さし告げるだけだ。カナリスは言われたとおりに、好きな戦車に乗ったし、乗り倒しまくった。戦車はカナリスが想像しているよりも足回りが弱い。特に重戦車は、ちょっとでも走れば、すぐに点検し、酷い時には10㎞走っただけで転輪にひびが入ってしまう。彼女の視点でいけば、重戦車どもは非常に
その為、入学式で社長がやった無茶は大いに足回りを痛めたと言うのが理解した。しかしながら、その『不思議ちゃん能力』のおかげで、部員の中ではどの部員よりも車両の操縦が上手く、『イニシャルDごっこ』ができる程だったりする。
「なーなー次どこ行くんだぁ?」
そして、カナリスは今、ヤークトパンターを操縦している。T28は非常に繊細な車両だ。その重量をギリギリのパワーで動かしている為に、制限が非常に厳しい。少しでも無理をすれば、すぐにエンジンが焼け付いてしまう。その為、本当は他人にT28を運転席には乗せたくなかった。しかし、彼女の操縦技術を大いに信頼している部長きっての頼みを誰が断れようか?
カナリスは最初渋っていたが、T28の操縦をカナリス自身が教えると言う事で現在、ヤークトパンターの操縦桿を握っている。本隊が攻撃地点に入ったと聞いて、何よりも、T28がエンストを起こさなかった事に非常に安心した。思わず、溜息を吐いてしまう程で、聞いていたらしいミーナがブフッと吹いて、『アンタが心配事とか、世も末ね!!!』と大笑いしていた。
「まぁ待ちなさい。今、2両目のマウスとサンダースにプラウダのISを探しているんだから」
現在、3両は街のど真ん中で停車している。勿論、敵戦車が来ると思われる予測ポイントに砲塔を向けたりしているが、敵がうじゃうじゃと居る陣地で停車しているのは余り心地の良いものではない。
『そんな事言ってて、周囲を囲まれたらどうするんですか!!』
ローデリアの悲鳴にも似た叫びが耳に届く。
「突破こそ、重戦車の花形よぉ!!」
『馬鹿ですか?バカなんですか!?馬鹿ですね!!!』
ローデリアは心配性過ぎるとカナリスは思っている。その内禿るんじゃないかって位に色々と心配している。もちろん、カナリスを含め上級生が楽観視+何とかなるだろう主義なのも原因なのだが、カナリス的には『部長がああいってるんだから、大丈夫』と根拠も糞もない理由で安心しているのだ。
それに、今さら、どうこう言っても仕方ないと言うのが本音だったりする。
『こちら本隊!!敵の戦車部隊が左右に展開してこちらにやって来てます!!どうしましょう!!!』
ローデリアのお説教が始まろうとした瞬間に、本隊から連絡があった。
『数と戦車は?』
『えぇっと、少なくとも、20は居ます!聖グロリアーナのマークをした、えっと・・・』
どうやら、戦車を確認しているらしい。正直、全員戦車についてはなにも知らないために、巷に売っている世界の戦車図鑑的なものを買って来て各戦車長が常備しているのだ。
『チャレンジャー巡航戦車って戦車にクロムウェル巡航戦車って奴です!
チャレンジャーが2両、クロムウェルが18両で左右に居ます!!』
『ロー、チャレンジャーとクロムウェルどっちが脅威?』
『チャレンジャーですよ!!17ポンド積んでます!!』
『よし、チャレンジャーを優先的に撃破しなさい。クロムウェルは他っておいても良いけど、鬱陶しいようなら、適当に間引いて。狙いは、砲撃の阻止にあるわ。
慌てずに、余裕を持って対処しなさい。そう、