角谷杏には、義務がある。それは、嘗て、廃校に成ろうとした母校、県立大洗女子学園を救ってくれた西住みほの願いを聞くという。
角谷杏には、責任がある。それは、生徒会長として、県立大洗女子学園の名誉と誇りを守るという。
「会長、ヤークトパンター及びT26E4は聖グロリアーナ女学院が攻撃を仕掛けても、動きはありません。どうしますか?」
隣で潜望鏡を覗く広報担当の川島桃が、何時も通りに干し芋を齧っている杏を見た。戦車戦ではピンチに陥るとテンパり、砲手を任せるとゼロ距離でも外すと言うダメダメな広報担当ではあるが、それ以外に関して言えば、“有能”の一言に尽きるだろう。まぁ、頭の出来はあまりよろしいとは言えないが、それでも彼女のおかげで生徒会は潤滑に回っている。もし、彼女がいなければ、生徒会も手一杯で、戦車道には参加出来ていないはずだ。
「どーするも、こーするも、私達はあの3両の見張りだよ、かーしま。
下手に攻撃しても、こっちの火力じゃ、あっちを撃破する事は出来ないんだしさ」
「しかし、プラウダや黒森峰の戦車で囲い、我々が履帯を破壊すれば、敵は3両の戦車と総司令官を失う事になりますよ?」
桃の言う事も最もだ。だが、その前に、周囲の戦車を呼び寄せ、攻撃のタイミングを測っていれば、多分、上から砲弾が降り注ぐだろう。なぜなら、この街には相当数の偵察要員が紛れ込んでいるという。事実、カチューシャが乗っていたT-34と護衛が居た場所に砲弾が降り注ぎ、マウスがいた場所に砲弾が降り注いでいる。そのおかげで、T-34は3両失われ、2両が損傷したし、マウスに至っては、動けない所を、護衛に駆けつけたⅥ号共々損傷、マウスは128mm砲をへし折られ、Ⅵ号は履帯を修理する羽目になった。
「とりあえず、西住ちゃんの指示が無い内は下手に動かない方が良い」
「か、会長!?」
二人が話していると、ドライバーである副生徒会長の小山柚子が慌てた様に振り返った。
「どったの~?」
「やぁ、こんにちわ」
「「へ?」」
ガンと音がし、杏と桃が見上げると、メンゲレが相変わらずの笑みで立っていた。俗に言う『うんこ座り』の為に彼女のパンツは丸見えだが、メンゲレは気にした様子もない。
「め、メンゲレ!?何をしに来た!!」
桃が思わず、ヘッツァーから落っこちそうになって、ローデリアに助けられる。
「何って、偵察よ、て・い・さ・つ」
「あっちゃ~バレてた?」
「ぶっちゃけ、さっきまでは気が付かなかったわ。でも、カナリスがトイレとか言ってこの家に入った時に気付いてね」
メンゲレがヘッツァーが横付けしている民家を指差す。ちなみに、上下水道や電気ガスと言ったライフラインが通っていないので、ここにあるのは“便器”だけであり、用を足しても流したり出来無いし、まず、敵陣地のど真ん中でドライバーが用便をしに行くだけで“まとも”じゃないと言えるだろう。
「色々とツッコミどころ満載だけど、取り敢えず、置いておくとして」
杏がメンゲレを見る。
「うん、地図寄越しなさい」
メンゲレが指を鳴らすと、T26E4が2両やって来て砲口を向けた。
「No,と言ったら?」
「90mmを2発、この距離で食らう」
「か、会長!?!?今すぐ渡しましょう!!!」
脇で涙目の桃がヒエェェと叫び出す。いくらカーボンで守られているからといっても、この距離で90mmを喰らえば、本当に貫通してしまうかもしれない。
「どうする?」
「う~ん・・・この地図を渡せば、“私達”は見逃してくれるの?」
杏は手に持っている地図を見遣る。
「勿論だとも。私は、約束を守る女。地図を渡せば“君達”は見逃そう。
ギブ・アンド・テイクって奴よ、知ってるでしょう?」
「勿論」
「なら、よかった。話が分かる人で」
メンゲレが地図に手を伸ばそうとして、杏は地図を
「ん?」
「だが、断る。って奴?
私が好きな事の一つに、
カーシマ!小山!!飛び降りろ!!」
杏が叫ぶと二人は慌てて戦車から飛び降りる。メンゲレも満面の笑みのまま戦車から飛び降りる。それに合わせて、2両のT26E4が90mm砲をぶっ放す。ヘッツァーの側面に大穴を開け、ヘッツァーは高々と空を舞い、民家の屋根を突き破った。
「ポイント183!」
そして、メンゲレが叫ぶとヤークトパンターに飛び乗り、颯爽と去っていった。
『大洗連合ヘッツァー撃破!』
アナウンスが流れた。戦車はもう使えないだろう。砲が外れ、履帯や転輪も千切飛び、燃え上がっている。正直、あの中にいたら多分死んでいただろう。
「悪いね、二人共」
「いえ、あの女に地図を渡すよりかは安い代償だと思います、会長」
「怖かったよぉ~ゆずちゃぁ~ん!!」
柚子が桃を励ましながら、会長に告げる。ヘッツァーが居なくなった為に、メンゲレ達が何処に居るのか再び不明になってしまったが、ここで地図を渡すよりかはマシだっただろう。今回は双方どのぐらいの車両が入っているのか検討すら付かない為、重要になってくるのは作戦である。最初から、分かっていれば、メンゲレ達ユークレインも偵察要員をわざわざ街に送り込んでくる事はない筈だ。何時も通りにT26E4を街に進ませればいいだけなのだから。
暫く、待っていると回収車がやって来る。
「お怪我はありませんか?」
ユークレインの校章が入った繋ぎを着た女子達だ。
「うん、ダイジョブ」
「ヘッツァーは・・・」
回収係の女子達が屋根に突き刺さり、塀をぶっ壊していたヘッツァーを見て困った様に頭を掻いた。
「これ、回収してもスクラップっぽいね?」
「そうだね。ヘッツァー1両っと」
そして、回収係の女子達はヘッツァーの様子を調べ、手元の書類に書き込む。
「後で、ユークレイン社が新しいヘッツァーを購入します。あちらの処分はコチラでするので、どうぞ、サインをお願いします」
女子達がその書類を杏に差し出す。杏はそれを目に通し、破り捨てた。
「悪いけど、あのヘッツァーは処分しないよ」
「はぁ?もう、修理しても使えませんよ?我が社から新品をお贈りしますし、処分の方も我々が無料で行いますので、ご安心「そう言うんじゃないんだよ。あのヘッツァーは、私等の思いを乗せて共に戦ってくれた戦友なんだ。
壊れたから、はいおしまいって訳には行かないのさ。勿論、新車は貰うよ。でも、
「「会長――…」」
杏が言うと、柚子と桃が目尻に涙を一杯溜めて駆け寄った。そう、あのヘッツァーはただのヘッツァーではない。彼女達が乗り、共に大洗の看板を守った戦友なのだ。戦友をそう簡単に見捨てるほど、彼女達は薄情ではない。例え、もう乗って戦う事は無くとも、あのヘッツァーだけはスクラップにはさせない。させるものか。それが、彼女、角谷杏の最後の抵抗でもあった。
「分かりました。では、あちらはこの試合が終わり次第回収しますので、どうぞ乗って下さい」
回収係の女子は意味分からんという顔で、二台を見遣り、無線でヘッツァーを試合後回収し、スクラップにせずに大洗に送る様にと報告した。
ガルパンでは桃ちゃんと秋山殿が好きです
桃ちゃんクズかわいいよ(^p^)prpr