『部長』
IS-2を目指して突っ走っていた時、観測班の一人から通信が入る。
「何」
『現在、街の西側でサンダースの戦車共を発見しました』
「ふむ。それで?」
『それが、どうにも妙でシャーマンにカバーを掛けて巧妙に偽装をしているんです。しかも、普通のシャーマンよりも
シャーマンよりも背が高い?
「もっと具体的に報告しなさい」
『え、えっと、何か砲塔の上に板状の屋根を乗っけているみたいなんです・・・それが何かはわかりません。ですが、ビルに偽装する為の細工にしては、余りにも小さくて・・・』
「OK、全車停止」
戦車を停止させる。そして、ヤークトパンターの背面に乗せたBMXを下ろす。
「偵察要員は全員、街の入口に集合。全員を回収後、本体に合流して、山の麓に布陣しなさい」
「君はどうするんだい?」
ミラコが少し驚いた顔をして、私を見る。
「バイシクルで戻るわよ。将校斥候してくるわ。ローも付いてきなさい」
「私もですか!?」
「そうよ。パーシングの荷物ラックにBMXが有るでしょうに」
言うと、ローが渋々と言う顔でハッチから出てBMXを下ろした。
「なんか、乗り難いです」
「我慢しなさい。慣れれば、こういう事だって出来るわ」
後輪だけで立って、そのまま一輪車のように漕いで見せる。ミラコ達がおぉと拍手をした。
「そんじゃ、行くわよ。ロー、無線機背負いなさい」
「はいはい、分かりましたよ」
ローが携行無線機を背負って、BMXのペダルとサドルを確かめた。ヤークトパンターの車長をミーナに任せ、部隊を撤収させる。私達もそれを見送ってから、出発。報告があったポイントに自転車を走らせる。
大洗の西住が何を企んでいるか知らんが、我々の重戦車部隊を覆す
「ロー、戦車、特にシャーマンの上に板乗っける事ってある?」
「有りませんよ、大体、デットウエイトになるだけで普通、戦車の上には板なんか・・・」
ローはそこまで言って黙ってしまう。どうやら、何か“あたり”を引いた様だ。
「ヘイ、今あんたが思い付いたその
「え、ええ、シャーマン・カリオぺって奴が、部長の言ってる『板を背負ったシャーマン』ですよ」
変な名前ね。
「そのクソッタレは、どう言う戦車なんだ?」
「普通にM4シャーマンの荷台っつーか、砲塔に“カリオペ”って名前のロケットランチャーを背負わせただけの
まぁ、実際にはいろんな大きさなロケットランチャーを背負ってて、一番有名なのが、カリオペだった訳です。素人が装甲戦闘車両全てを“戦車”って言う感じに、ロケットランチャーを積んだシャーマンを“シャーマン・カリオペ”って言ってる訳です。第二次大戦だと、沖縄戦とかの記録映画で見る事ができますよ」
ローがどうやって勝つよ?と言う感じに笑ってみせる。
「射程は?」
「4.5インチ対地ロケット発射機装備なら、4.2kmはありますよ」
「装弾数は?」
「物によってバラバラですが、60発前後はあると思っていいでしょうね」
最高にくそったれだな。流石、大洗の西住だ!誰も考えなかった装備を持ってきやがる!
「取り敢えず、そのカリオペがどのぐらいあるのかを確かめに行くわよ」
「ええ、そうですね」
自転車を漕いで、目撃地点に向かう。途中で、何両かのクロムウェルとT-34を見付けたが、どっちにしろBMXでは何の攻撃も出来ない訳で、無視した。そして、大体20分ほど、小雨降る富士演習場市街地を走ると、サンダース付属の戦車達が見えて来た。どの戦車も確かに、いつもより更に高くそして、何か板状の物を乗せている。
場所的には、市街地の奥まった場所で、偵察要員が到達するのに最も時間がかかる場所だった。
「なるほどねぇ・・・」
「何が、成る程何ですか?」
「ここって、ちょうど、黒森峰の後ろ側なのよ」
地図を開き、大まかな布陣図を書き込んでみせる。本陣がいた場所がちょうど、黒森峰の真ん前で、そこから左右に聖グロ、プラウダがいる。そして、その後方にサンダースだ。つまり、我々が痺れを切らして、パンツァーカイルを組んで黒森峰の重戦車部隊をぶっ潰しにかかったところを背後に控えていた、シャーマン・カリオペ部隊が包囲して一気に叩くって寸法だったようだ。
「案外、えげつない作戦取ってきますね、西住先輩・・・」
ローがウゲーっと舌を出す。
「世の中にはもっとえげつない作戦する奴も居るんだから、こんなのは可愛いものよ」
「そうでしたね。目の前にいたましたよ」
ムカついたので、減らず口ばかり叩く口を抓ってやった。
「後輩いじめです!」
「五月蝿いわね。一々、一言余分なローが悪いのよ。ミラコと一緒のベッドに放り込むわよ?」
「止めて下さい!私はノンケです!!」
ローが寄るんじゃァないと言わんばかりに私から一歩遠ざかる。
「絶対、放り込んでやるわ。
それで、カリオペは何両ぐらいいる訳?」
「ざっと見て、30両近くはいますね。サンダースが切り札っぽいですね」
「取り敢えず、黒森峰の最後の1両のマウスに注目してる振りして、西住に宣戦布告してくるわ。あんたは戻ってなさい。そんで、構成は、E-100とマウスを前面に出して、後方にT26E4を配置しなさい。多分、向こうは私等に向かって煙幕打ってくるから、その瞬間にT26E4を背後に展開させるわ。ティーガーとパンターは前に向けておいて良いわ」
「分かりました。じゃあ、部長も気をつけて」
「もちろんよ。そんじゃ、私は西住を探してくるわ」
ローと別れ、私はサンダースの敷地から離れる。一応、西住が居る場所の目星はついている。黒森峰の陣地だろう。あそこに居れば、黒森峰の重戦車部隊を頼っているという錯覚を私達に植え付ける事が出来る。そして、現に、私もそれに引っ掛った訳だ。
「ほんじゃ、黒森峰の陣地を散策しますか、えぇ?」
BMXで瓦礫を飛んだり、階段を滑り降りたりしながら街中を散策する。昔のようにレンガ敷だったり、アスファルトだったりすれば、戦車が通った跡が直ぐ分かるのだが、生憎、戦車道をやる国のほとんどの道はコンクリート製だ。なので、私はこうやって足で探す訳である。
「ん~・・・あっちから、エンジン音が聞こえるわね」
マイバッハのHL 120 TRM、V12気筒エンジンの音だ。他にも、コンチネンタルR975-EC2 4ストローク空冷星形9気筒ガソリンエンジンとダ式一〇〇馬力発動機の音が聞こえてくる。多分、近くにM3“リー”と八九式が居るんだろう。
「それ見た事か!」
案の定、路地を二つ進むと、3両の戦車が停車していた。
「ヘイ!西住!!」
そして、助走を付けて大きくジャンプし、Ⅳ号の車体、砲塔へと飛び乗ってみせる。我ながら、天才的操縦技術だわ。
「め、メンゲレさん!?!」
キューポラから上半身を出していた西住が思わず落っこちそうになったので、それを支えてやる。周囲のM3リーや八九式の搭乗員も目を丸くしていた。
「如何にも。私が、メンゲレだ。そろそろ、決着を付けましょう?
私達は、山の麓に陣取ってるからさ。そっちも、部隊整えて正面から、ガチンコの殴り合いしましょうや?えぇ?
ニヤリと笑ってみせると、西住もニッと笑って見せた。
「分かりました。私は、負けません。貴女には負けられません」
「ックッハッハッハ!!待っているぞ、西住!お前は、私を倒さねばならん存在なのだから!」
西住に指を突き付け、それから、Ⅳ号の上から降りる。
「それじゃあ、西住」
そして、BMXを飛ばして陣地に戻る事にした。遠すぎワロタ・・・