「バトル。私は【サファイアドラゴン】でプレイヤーに
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
対峙していた二人の生徒。
男子生徒は衝撃で尻餅をつき、女子生徒はほっと息をつく。
やがてソリッドビジョンが消えると、女子生徒は男子生徒へと近づき、手を差し伸べた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。楽しいデュエルだったよ」
女子生徒の手を借りて立ち上がった男子生徒はそう言って笑う。
名前を聞いていなかったね、と尋ねてきたのに対し、女子生徒は眉を下げて苦笑すると小さく口を開いた。
「私のことは、
******
「はぁ…」
デュエリスト養成専門の学園、デュエルアカデミア。
今までも数多くのプロデュエリストを輩出しており、その実績は折り紙付き。
多くの若者が後に続こうと入学希望者は毎年増加しており、難易度も高くなっているとかいないとか。
ため息をついてデュエルアカデミアの敷地内を歩く女子生徒_______
はずだったのだが。
彼女は今それどころではない悩みを抱えていた。
「また名前を名乗れなかった…」
飛鳥に友人がいないわけではない。
ただでさえデュエルアカデミアには女子生徒が少ないため、その中での交友関係は重要だ。
人見知りせず、そこそこ人と関わる術を身に着けてはいる彼女は普段孤独を感じはしない。
しかし、一つの懸念を感じてはいた。
それが名前である。
先ほどのデュエルにおいても、今までの付き合いにおいても、名前を聞かれて答えたのは苗字のみ。
それ故に、この学園に飛鳥を名で呼ぶ人間はいないのだった。
「おーい、翔!!何してんだ、置いてくぞ!」
「待ってよ、アニキ~」
周囲は互いに名を呼びあう(例外もあるが)仲良さげな生徒たち。
それに混ざって自分も名を呼ばれたいという願望がないわけではない。
しかし、それもまた飛鳥には無理な話である。
この学園には自分なんかより余程優秀な“アスカ”がいるのだから。
自室があるオベリスクブルー女子寮へと足を向けた飛鳥。
近くまで来ると、賑やかで少し高めの女子生徒たちの声がもう耳に入る。
どこの寮の誰が格好いいだとか、今流行りの洋服とか。
内容はありふれたこの年頃の女子なら当たり前の会話。
中にはデュエルのことやカードの会話もあり、この学園の生徒らしい会話も混ざっている。
「……やっぱり、いる」
しかし飛鳥が耳をすませて探っているのはそんな華やかな会話を聞きたいからではない。
ただ一人、彼女の存在の有無を確かめたかっただけだ。
そしてその予感は、確信へと変わる。
「今日のデュエルも素敵でしたわ、明日香さん」
「ありがとう」
「流石ですよね〜あの相手の男子の顔見ました?笑っちゃいましたよ!」
そしてその姿を視界に捉えた。
それが、この学園の"アスカ"だ。
中等部から持ち上がりの彼女はすでに多くの学生に知られている。
高等部入学の生徒でも彼女の名を知らぬ者はいない。
容姿端麗、成績優秀、そしてデュエルの腕も一級品。
そんな明日香の存在は目立つのだ。
それに対して自分はどうか。
見た目も普通、成績も普通。
デュエルも以前いた場所では強いと称されたが、ここではやはり普通の部類だ。
目立つ要素がなく、個性の欠片も見えない。
それが早乙女飛鳥である。
高等部入学の飛鳥も例に漏れず、明日香の存在はすぐに知った。
彼女の周囲には彼女を尊敬し、憧れる生徒が多くいることも。
そして長年の経験から悟る。
この学園においても自分は"アスカ"を名乗ることが出来ないのだと。
初めは僅かな希望を持って、一縷の望みに賭けた。
『初めまして、よろしく』
『よろしく!名前なんていうの?』
『早乙女飛鳥、です』
『え、アスカ…?』
その表情で内心は容易に読めた。
天上院明日香のことを敬意を込めて"明日香さん"と、大抵の女子生徒は呼ぶ。
ならば後から来たこの"アスカ"は何て呼べばいいのかと。
(やっぱり、駄目か)
『早乙女で良いよ、名前同じなのは仕方ないしね』
明らかに安堵した女子生徒を前に、何も思ってなさそうな笑みを浮かべて。
気にしてないように見せかけて、心の中で泣いていた。
飛鳥という己の名が、恨めしいと思う。
そこまでありふれた名前ではないけれど、珍しい名前でもない。
それが、人に覚えてもらえる特徴が何らない自分をそのまま表しているようだった。
だから、この名を好きだと思えたことは一度もない。
はじめまして、卯月極夜と申します。
とうとう書き始めてしまいました。こちらのサイトでは初めての作品です。
【※注意※】
デュエルシーンも書きたいところですが、残念なことに作者はデュエルがあまり得意ではありません。
まず主人公のデッキから考えております故、デュエルシーンがあるのは少し後になると思われます。
十代たちのデッキはアニメやTFを参考にする予定です。
それでは、これからお付き合い頂けると幸いです。